王子様は、後ろの席にも会いに来る すとぷり10周年ライブで見たファンとの距離

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© STPR Inc.

最初に筆者の立場をお伝えしておくと、ネット発のエンターテインメントに詳しいわけではありません。すとぷりについても、これまでの活動や楽曲を十分に知っているとはいえません。そんな55歳の筆者が訪れたのは、2026年8月19日、国立代々木競技場第一体育館で行われた「すとろべりーめもりー Vol.10th anniversary ~すとぷり ARENA TOUR~」。2026年6月から8月にかけて愛知、大阪、福岡、東京を巡り、全13公演で延べ約15万人を動員したツアーの東京会場です。

会場を見渡すと、小学生くらいに見える子どもから成人まで、幅広い年齢層のファンが集まっています。お父さんやお母さんと思われる大人と一緒に来ている子ども多く見かけました。付き添いなのか、親子そろって応援しているのかまではわかりませんが、客席には世代の幅がありましたし、後者だとしたらすとぷりは幅広い年齢のファンに支えられている存在なんだな、という印象が。

そんなファンの方々にとって、すとぷりはどんな存在なのでしょうか。歌やダンスだけでなく、曲間のやり取りや客席への応え方にも、手がかりがありました。


王子様の登場前から、客席には暖かい笑いがあった

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すとぷりは、ニコニコ動画やYouTube、ツイキャスなどで「歌ってみた」やゲーム実況、配信に取り組んでいたメンバーが集まり、2016年に結成されたグループです。ネットでの活動を出発点に、音楽やライブへと表現の場を広げ、2023年にはNHK紅白歌合戦に出場。2024年にはアニメ映画も公開され、そして2026年6月4日、結成10周年を迎えました。

ネットからリアルのステージへ。そして、すとぷりファミリー全体では東京ドームでのフェスを成功させるに至った10年選手ならではの技術は、開演前から感じられました。

注意事項を伝える影ナレーションにも掛け合いがあり、やり取りが進むにつれて、だんだんコントのようになっていく。緊張に包まれている客席をクスクスと笑わせながら、公演を楽しむ気持ちを作っていきます。

冒頭の映像では、メンバーが王子様になるまでの物語が描かれます。そして、ゴンドラに乗ってメンバーが登場。映像で見ていた物語が、目の前のステージにつながった瞬間。客席から大きな声がステージに送られます。彼らの、自分たちの王子様の登場を待ち望んでいたファンのボルテージがMAXに。

メンバー同士で仲のよさを見せたり、コミカルなやり取りも重ね、時には衣装をチラッとめくったりして、その都度客席がピークを迎えます。YouTubeやTikTokで交わされるようなコミュニケーションを、大きな会場で一緒に楽しんでいるようにも感じられました。

憧れの存在でありながら、笑い合える親しさもあるんですね。すとぷりとファンとの距離感は。


55歳の耳に、どこか懐かしく響いた曲

音楽で意外だったのは、初めて聴く曲にも懐かしさを覚えたことでした。

筆者には、1980年代の歌謡曲や1990年代のJ-POPを思わせるメロディー、コード進行が随所に感じられました。最近耳にする、速いテンポに言葉を詰め込むタイプの曲と比べると、ゆったりとサイリウムが振れる場面が多い。リズムに身を預けながら歌を聴ける感覚ともいえます。

曲を詳しく知らない筆者でもビートを刻んで乗れる。客席にいた親世代の方々にも、なじみやすく感じる曲があったかもしれません。ファンの家族にも聴いてもらうことを意識しているのだろうか。そんな考えも浮かびます。制作側の狙いは確認できていませんが、少なくとも筆者には、年代を超えた人々が同じ会場で楽しめる理由が、楽曲側にもあると感じました。


歌詞が、ファンへのラブレターに聞こえる

もうひとつ耳に残ったのが、歌の言葉が客席に向かって届く感覚です。

王子としての目線を描いているはずの歌が、目の前で応援するファンへの言葉に聞こえてくる。ライブを通して聴くと、ファンに宛てたラブレターのように感じる場面がありました。

こうしたファンとの関係は、結成10周年記念曲「シンデレラへ。」の制作意図にも表れています。HoneyWorksが書き下ろしたこの曲は、リスナーをシンデレラに重ね、愛と感謝を込めた曲として紹介されていますから。

そして会場では、メンバーの言葉やこれまでの歩みを振り返る映像から、自分たちを輝かせてくれたのは応援してきたファンのみんなだ、という思いを感じました。ファンが王子様を見つめている。その王子様も、自分を見つけて応援してくれた相手に思いを返している。そんな美しい関係に見えたのです。

またメンバーの歩みを振り返る映像や、ステージで見せる関係性からは、ひとりではできないことも、仲間がいれば実現できる、というメッセージを受け取りました。仲のよさを見せる仕草も、カジュアル系な衣装を身にまとっての仲良しな掛け合いも、筆者には学園ものの少女漫画にある日常系のやさしさがあると感じたんですね。

メンバーの一人ひとりの魅力に加えて、一緒にいることで生まれる楽しさや心強さがある。そして、その輪はファンにも開かれている。積み重ねてきた時間を知らない自分にも、応援する人たちがこの物語の大切な登場人物なのだということは伝わってきました。


後ろの席にやってくる王子様たち

曲によってメンバーはトロッコで会場を移動し、後方の客席にも近づいていきます。ステージの正面だけを向いて歌うのではなく、会場のさまざまな場所に移動して応えていく。

すとぷりは、誰も置いていかないようにしているのだろうか。そう感じたのは、少しでも王子様に気持ちを届けたいと思ったのか、トロッコで近寄ってきてくれたメンバーに声を上げていったから。今までは今までステージに夢中で声を上げていなかった若いファンが、です。

メンバーが呼びかけ、近づき、客席が応え、その反応をまたメンバーが受け取る。会場全体が一体となるコール&レスポンスではない形で、演者とファンの気持ちが1つになる。この演出は、うまい。


個人勢VTuberやVRChatの演者にも、学べることがある

すとぷりは一般の場では「2.5次元アイドル」と紹介されています。イラストのキャラクターとして活動する一方、ライブでは顔を見せ、実際に歌い、踊る。

歌ってみた、ゲーム実況、トーク、アニメ、そしてライブ。さまざまな活動を見ていると、ファンのみんなに楽しんでもらえることなら何でもやるという姿勢が見えます。それが画面の中と現実のステージをまたぐ、現在の形につながっているように思えます。

またメンバーの顔を見ることができるというのは、ライブだけで味わえる特別な体験です。そして実際に会場にいると自分たちの歓声に、目の前のメンバーが応える。投げキッスひとつで周囲の空気が変わる。あの夜、あの場所で同じ時間を過ごしたという特別な思い出もプレゼントされたようにも感じます。

すとぷりを詳しく知らない自分にも、何を楽しめばいいのかが伝わってきた。これもまた、誰も置いていかないようにしているのだろうかと感じたポイントの1つ。王子様の物語があり、長く応援する人への感謝を届けながら、初めて接する人にも歓声の輪に入れる余地を用意している。その伝え方が、うまい。

メンバー全員がそれぞれのチャンネルで、毎日のように動画を出してファンに自分たちを届けている。また仲間と一緒に見せることで、ひとりでは作れないコンテンツも生まれる。そこで触れた楽しさがライブに続いていく。ファンを巻き込んで一緒に楽しんでいく方法論が、うまい。

すとぷりという先輩方の仕草と日常とハレのステージには、応援してくれる人々ともっと出会いたいと考えている、個人勢VTuberやVRChatの演者にも参考になるポイントがあったように感じます。

そしてやり取りを見ているうちに、王子様であることはビジュアルやトークだけでは伝わらないのだと感じました。日々、楽しさを届け、会いに来た人に応える。その積み重ねの先に、あの強烈な歓声があるのでしょう。


(TEXT by 武者良太
 
●関連リンク
すとろべりーめもりー Vol.10th anniversary ~すとぷり ARENA TOUR~
すとぷり(公式サイト)
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