
ハンコやスタンプ台などで知られるシヤチハタが、「音」を使った新たな「しるし」を広げようとしている。
シヤチハタの「音のしるし」は、音に情報を埋め込み、その音を受け取ったデバイスなどを連動させる技術だ。人間の耳にはまったく聞こえず、音の聞こえ方にも影響がないため、曲の中に情報を埋め込み、ライブ中に専用ペンライトやアクリルスタンドの光を制御することも可能。楽曲に合わせて、光のオンオフや色もコントロールできる。制御のための情報は、「音のしるし」になっているため、生のライブ会場だけでなく、オンライン配信や配信のアーカイブでも利用できることが大きな特徴だ。
10月20日(火)からは、「音のしるし」をより多くのVTuberとリスナーに体験してもらうことを目指したクラウドファンディングもスタート。リターン品には、企画へ参加した26名のVTuberの「音のしるし」を使った推し活グッズなどが用意されている。
*クラウドファンディングページはこちら → https://camp-fire.jp/projects/view/977983
この記事では、「音のしるし」プロジェクトを担当するシヤチハタ株式会社新規事業推進部の平鍋沙也伽さんと三輪悠嗣さんにインタビュー。ハンコの会社がなぜ「音」の事業に取り組んでいるのか、そして、なぜVTuber、特に個人で活動するVTuberやそのリスナーへ「音のしるし」を届けたいと考えているのかなど、プロジェクトの舞台裏を聞いた。
強みを活かせる場所を探してVTuberに辿り着いた
──お二人は「音のしるし」のプロジェクトで、どのような仕事を担当しているのですか?
平鍋 私たちは新規事業開発推進部という部署にいるのですが、扱うのが「新規事業」なので基本的には何でもやっていて。今は営業がメインの段階で、新しい販売先を探したり、開発元との調整をしたりしています。今回のクラウドファンディングに関しては、私がメインで担当していて。プロジェクトページを作るところから、今回のような取材の企画、参加してくださるVTuberの皆さんとのやり取り、返礼品の手配などもやっています。
──新規事業だから、「自分は広報」「自分は営業」というように役割が完全に分かれているわけではないのですね。
平鍋 そうですね。基本、立ち上げから広報、実績作りまで、いろいろなことをすべてやるのが私たちの部署です。
三輪 僕も何でもやっています(笑)。
──シヤチハタと言えば、ハンコのイメージですが、「音のしるし」とは、どのようなプロジェクトなのでしょうか?
平鍋 たしかに、シヤチハタはハンコの会社と思われがちですが、近年は、電子印鑑なども含めて「しるし」の価値を提供する会社として歩んできました。そこで、長年、音の技術を研究してきた企業さんとタッグを組んで、「目に見えないしるし」の技術として取り組み始めたのが「音のしるし」です。
最初はエンタメではなく、AIで生成された音声や、元の音声から改変された音声を検出するような偽・誤情報対策の技術開発を進めていました。それは今も開発を続けていますが、今年に入ってから「この技術はエンタメにも使えるよね」という話になり、そちらへの展開も検討するようになったんです。
三輪 しっかりと方向を決めてからは、まだ半年も経っていないですね。4カ月くらいです。
──エンタメに舵を切ってからすぐに、VTuberとそのリスナーを対象にしていく方針が決まったのですか?
三輪 いいえ。そこに至るまでは、とにかく手探りでした。スポーツチームに行ったり、イベント会社に行ったり、本屋さんに行ってみたり、本当にいろいろなところに行ってお話をしました。
──そこまで幅広く可能性を探った中、最終的に「VTuberでいこう」と決めた最大の理由は何だったのでしょうか?
平鍋 これはもう、配信連動ですよね。
三輪 そうですね。「音のしるし」の一番の強みは、生配信だけではなく、アーカイブ配信にも連動させられるところです。その強みを活かせる場所はどこなのかと考えて、YouTubeなどのプラットフォームを見た時、今、ネットアイドル的な立ち位置で活動している方が多いVTuberに辿り着きました。
──お二人は、元々、VTuberの配信などをよく観ていたのですか?
三輪 僕は、けっこう観ていました。
平鍋 私は、YouTubeは観ていましたが、VTuberにはあまり触れたことがなくて。この事業をきっかけに、だんだんハマっている最中です。
──では、VTuberという文化のどんなところに魅力を感じますか?
平鍋 VTuberって、すごく身近だし、等身大だなと思いました。大手の方もいますけど、個人で活動している方もたくさんいて、生活がちょっと見えるようなところも面白いです。それに、バーチャルだけど、生っぽさや温かさも感じることが不思議だし、そこも含めて近さを感じるということでも、今までになかったエンタメだと思っています。
三輪 僕はライブ配信中のコメントでのやり取りです。普通のアイドルとかXでのコメントだと、自分のコメントに反応してもらえる機会って、なかなかないと思うんです。でも、VTuberの場合は、視聴している人の数にもよりますが、ライブ配信の中でコメントを拾ってもらえる機会がけっこうある。そこで「つながっている」「見てもらっている」という感覚があることは、すごく新しいと感じました。
個人勢の方々にも「音のしるし」の新たな体験を届けたい
──お二人が初めて「音のしるし」を体験した時の感想を教えてください。
平鍋 まさに新時代の技術という感じでした。音に情報が埋め込まれているのに、元の音源との違いが分からない。目に見えないし、耳にも聞こえないけれど、確かに情報が入っている。不思議な技術だなと驚きました。
三輪 僕は途中からこの事業に参加したので、僕の中では最初から「音のしるし=ペンライト」なんです。普通のアーティストのライブでも、無線制御されたペンライトは、前からありますよね。だから、最初に見た時は、そういったライブのペンライトと同じものだと思ったんです。でも、無線制御のペンライトって一般的には、Wi-FiやBluetoothなどを使って制御するものだと知って、「じゃあ、これは実はすごい技術なんじゃないか?」と改めてすごさに気づきました。
──「音のしるし」は、人の耳に聞こえない高さの音を出して、その音で制御しているわけではないんですよね?
平鍋 人の耳に聞こえる帯域の中に、聞こえないように情報を埋め込む「音響透かし」という技術を使っています。高い周波数帯を使う方式だと、配信時のデータ圧縮などで、その帯域がカットされて信号が乗らなくなることがあるんです。でも、「音のしるし」では配信にも乗る帯域へ情報を埋め込めるので、配信でも精度高く連動できます。そこが独自の強みですね。
──今回のクラウドファンディングには、26名のVTuberが参加し、それぞれのリスナー向けの支援コースが設定されているそうですね。参加するVTuberは、どのようにして選ばれたのですか?
平鍋 Xで募集して、オンライン説明会を何度も開催しました。皆さん、その説明会に参加して、企画の内容などを知った上で賛同してくださった方々です。
──個人勢の方が多いのですか?
平鍋 事務所に所属している方もいらっしゃいますが、基本的には個人で活動されている方が多いです。
三輪 クラウドファンディングを企画する以前から、「音のしるし」では、個人で活動している方を主なターゲットとして考えていました。
──個人勢のVTuberを主なターゲットにしている理由を教えてください。
平鍋 このプロジェクトが始まってから、いろいろなVTuberさんとお話しさせていただきましたが、個人で活動されている方の中には、兼業の方も多いんです。そういう方々は、兼業でやるくらい本当にVTuberが好きなんだってことをすごく感じて。
──たしかに、一つの仕事をするだけでも大変なのに、VTuber活動も頑張れるのは、好きだからこそでしょうね。
平鍋 最初は軽い趣味のような感覚で始めたという方もいらっしゃいますが、始めると、どんどん好きになっていくみたいで。皆さん、VTuber活動に対する思い入れもすごく強いんです。
──そうやって頑張っている個人勢の方々にも、「音のしるし」の新たな体験を届けたいのですね。
三輪 ただ、VTuberさんに「音のしるし」の話をすると、皆さん、最初のリアクションはものすごく良いんです。でも、説明を続けていくと、価格的に厳しくて、使いたいけど使えない方という結果になることがすごく多くて。そこの壁を個人の方でも突破できるようになれば、VTuber業界全体に何か新しいことを起こせるんじゃないか。そう思って、個人の方を中心に考えるようになりました。
──たしかに、活動の規模が小さいほど、新しい挑戦をする金銭的なハードルは高くなりがちです。では、クラウドファンディングは、個人勢の方々がもっと気軽に「音のしるし」を体験できる方法の一つとして企画したわけですね。
三輪 それに、個人の方が「音のしるし」の応援グッズを導入する時には金銭面だけでなく、在庫のリスクもあります。クラウドファンディングであれば、支援していただいた数に合わせて用意できるので、在庫リスクがありません。あと、今回参加してくださるVTuberさんの中には、「こういった企画自体に参加した経験がなかなかないので、すごく嬉しいです」と言ってくださった方もいらっしゃいました。VTuberさんとリスナーの皆さんに、期間限定のコラボ企画として楽しんでもらうこともクラウドファンディングの一つの狙いです。
──クラウドファンディングというと、「目標金額を達成して何かを実現する」というイメージも強いですが、今回はそういう方向性とは少し違うということですね。
平鍋 そうですね。今回の場合は、各VTuberさんのプランに申し込んでいただいたら、「音のしるし」を使ったペンライトやアクリルスタンドなどの推し活グッズが届くということがメインです。クラウドファンディングのプロジェクトページでは、どうしても支援金額が先行して見えると思うんですけど、シヤチハタとしては、金額よりも「何人が『音のしるし』のペンライトなどを手にしたか」ということの方を重要視しています。
──大切なのは、まず「音のしるし」を実際に体験する人を増やすこと。そして、その体験がVTuberとリスナーの間で広がることで、次の展開へつなげたいということですね。
平鍋 「音のしるし」をまず知ってもらって、触れてもらいたいというのが目的です。資金集めという意味ももちろんありますが、シヤチハタとしてもVTuberさんやリスナーの皆さんにとっても、一緒に盛り上がれる企画になればと思っています。
「音のしるし」でライブ配信がより特別な体験になる
──今回のクラウドファンディングのリターン品として用意されている「音のしるし」のペンライトやアクリルスタンドは、曲に合わせて、どのタイミングでどんな風に光らせるかという演出も込みで制御できるようになっているそうですね、
平鍋 はい。どのタイミングで何色に光らせて、どう点滅させるのかといった演出指示をVTuberさん自身で作っています。そのことで、ライブ配信がより特別な体験になると思っています。
──VTuberからはリスナーの姿が見えないオンラインライブでも、「今、この曲に合わせて、みんなが同じ色のペンライトを振っている」と想像できるわけですね。
三輪 そうですね。VTuberの皆さんには、自分のオリジナル楽曲に合わせて、自分のリスナーが持つペンライトやアクリルスタンドを反応させられるということに、特に魅力を感じてもらっています。
──「音のしるし」によって、VTuberファンの推し活などが、どんな風に変わって欲しいと考えていますか?
平鍋 その体験自体が変わるというか。「音のしるし」は、配信を「見る」ものから、「参加する」ものに変えられる技術だと思っているので。VTubeさんにとってもリスナーの皆さんにとっても、今まで体験したことがなかった、感じたことなかった感情みたいなのを新しく作れたら良いなと思っていますね。
三輪 今年の2月に実施した(VR音楽ユニットの)YSSさんとのコラボでは、スマホペンライトを販売したんです。それは、スマホに限らずWebブラウザなら使えるものだったので、あるリスナーの方が「自宅をライブ会場にする」と言って部屋にある4つか5つくらいのディスプレイでスマホペンライトのサイトにアクセスして。楽曲に合わせて部屋中を光らせていて。
──ペンライトというより、部屋全体のライトアップですね(笑)。
三輪 そうなんです。(笑)。その時の「自宅をライブ会場にする」という言葉が、すごく印象に残っていて。今回のリターン品の応援グッズは、ペンライトとアクリルスタンドですが、この先もさらに新しいことをやっていければ、新しい推し活にも繋がるのかなと思っています。
──今回のクラウドファンディングは、当然、参加しているVTuberのリスナーに興味を持って欲しいと思うのですが。その他、どのような人たちにも知ってもらいたいですか?
平鍋 VTuberが好きな方ももちろんですが、これまでVTuberとは縁のなかったシヤチハタがやっているちょっと変わり種な企画ということで(笑)。同じように、今まであまり VTuberに触れてこなかった方々にも注目していただいて、VTuberそのものを好きになってくれるとか。そういう流れも作れたら、すごく嬉しいなと思います。
三輪 先ほど、仰ったとおり、もちろん一番は、参加しているVTuberさんを推しているリスナーさんです。でも、今回は26人のVTuberさんが参加していますので。このクラウドファンディングをきっかけに、いつも応援しているVTuberさんだけではなく、他のVTuberさんも観に行ってもらえたりしたら嬉しいですね。あとは、「音のしるし」の企画をXで見たけど、よく分からないし、ちょっと不安で今回は参加しなかったVTuberさんもいるとは思うんです(笑)。そういう方にも、このクラウドファンディングがどうなっていくのかを見届けて欲しいと思っています。
──今回参加したVTuberやリスナーの反応を見て、「次は自分もやってみたい」というVTuberが出てくれば、さらに「音のしるし」の輪が広がっていくわけですね。
三輪 ぜひ、そうなって欲しいです。
──最後に、この記事を読んでいる皆さんへメッセージをお願いします。
平鍋 「音のしるし」は、音とグッズがつながって、VTuberさんとリスナーさんが新しい体験を作り、より楽しく、より近しいものになっていくところが醍醐味だと思っています。まだまだ始まったばかりの事業なので、正直、私たちもドキドキはしているのですが(笑)。皆さんも一緒に、この土壌を育てていっていただけると嬉しいです。
三輪 シヤチハタと VTuberって、世間から見たら「なんで?」みたいな掛け合わせだと思うんです。でも、だからこそ、ちょっとでもクラウドファンディングのサイトなどを見に来ていただきたいという思いがあります。そして、この「音のしるし」の事業は、まだ始まったばかりではありますが、僕たちは、これからどんどん大きくしていこうと思っていて。今は本当に僕の頭の中だけの希望ですが、将来的にはシヤチハタ主催の「音のしるしライブ」などもやりたいんです。だから、支援していただけるかどうかにかかわらず、「音のしるし」というワードだけでも、多くの人に覚えていただきたいなと思っています。
●関連リンク
・音のしるし(クラウドファンディングページ)
・音のしるし(Xアカウント)
・シヤチハタ株式会社(公式サイト)






