「ロックンロールをやりに来ました、JOHNNY HENRYです」
胸元を開けたシャツにベルボトム、革ジャンを羽織ってサングラスという時代錯誤なスタイルで登場したYAMADAがぶっきらぼうにそう言った瞬間、「池袋 手刀(チョップ)」のいびつな長方形のフロアは一瞬にして沸き立った。最初のギターリフ、ドラム、ベースライン。それらを浴びて、ここに来てよかったと思いながらビールを流し込んだ。
2024年1月20日。この日の東京は雪の予報もあったが、なんとか雨で持ちこたえた。 JOHNNY HENRYのライブはリアルライブとしては初めてだったが、VR音楽カルチャーや、VRからリアルへといった文脈を抜きにして、ライブとして純粋に楽しかったことが嬉しくなった。
2月2日(金)にはライブのアーカイブ動画の同時視聴も行われるので、現地や配信で見られなかったという方はぜひこのタイミングで観て欲しい。この記事を読んで興味を持ってもらえれば幸いだ。
現地参加や配信で観た方はあの日の興奮を振り返り、予定が合わなくて見られなかった方は「こんなに楽しいライブなら行けばよかった!」と次回のライブを期待して欲しい。本当に楽しくて、ビールが美味しいライブだった。
●JOHNNY HENRY 4th Anniversary “Real” LIVE 「Nobody But You」アーカイブ
・視聴期限:2024年2月3日(土) 23:59 まで
・料金:2500円
・URL:https://twitcasting.tv/ikebukuro_chop/shopcart/261667
VRで生まれたロックバンド「JOHNNY HENRY」
VR音楽シーンに親しんでいる方からすれば「ジョニヘ」と言えば説明不要だが、ジョニヘことJOHNNY HENRYはVRChatを主な活躍の場とするロックバンドだ。
Meta QuestなどのVR機器を用いて参加するソーシャルVR上で音楽活動をするバンドやユニットは年々増えており、VR系の音楽イベントでは必ずと言ってもいいほど名前が上がるAMOKAやmemexなどのユニットや、サンリオVfesのパーティクルライブでその名をとどろかせたキヌなど、音楽性は様々だ。
中でもJOHNNY HENRYはストレートなロックをやるバンドであり、そのストレートさはThe Rolling StonesやThe Sonicsといった60年代のUK・USのバンドや、The StrokesやArctic Monkeysなどの2000年台になって流行ったガレージロック・リバイバル、日本のロックシーンでいうとルースターズのようなかっこよさと、ギターウルフ、ザ・50回転ズあたりのややもするとダサさすら感じるロックへの愛に満ちたシンプルにかっこいい音への憧れを感じ、古いロックが好きな方は懐かしさを覚えるだろう。
「VRのバンドって言われてもよくわからない……」と食わず嫌いをせずに一度聞いて欲しいと思う。
JOHNNY HENRYをリアルに呼んだ「貝と蜃気楼」との2マン
4周年記念企画リアルライブとして池袋 手刀で行われたこのライブは、「貝と蜃気楼」との2マン形式で行われた。
この貝と蜃気楼も、一筋縄ではいかない面白いバンドだ。轟音や歪みが心地良い、ヘヴィでオルタナティブなサウンドに乗せ、スクリーンに投影されたアバターの姿で歌う切迫感あふれるボーカルというミックス具合は現代のポップカルチャーそのものを感じさせる。
JOHNNY HENRYがこの特別なライブに貝と蜃気楼を対バンの相手に呼んだ理由は、2022年12月に彼らが初めてリアルの場に呼んでくれたからだという。このことを貝と蜃気楼のボーカル・小宵はMCで「ジョニヘめっちゃ曲かっこいいじゃん! って誘ってみたら意外と大事だったみたい」と語る。その流れでJOHNNY HENRYの名曲「Emotion」をカバーすると一気に歓声が上がった。
VRChatで結成・活動してきたJOHNNY HENRYを始めてリアルの場に呼び、そして4周年記念ライブの2マンの相手として呼ばれた貝と蜃気楼がEmotionのカバーを披露する様子はついつい、小宵がMCで語ったように「今では心強い戦友」という心情が伝わってきて、エモさを感じずにはいられなかった。
「ロックンロールをやりに来ました、JOHNNY HENRYです」
転換を挟んでJOHNNY HENRYが出てくると、フロアは一瞬で湧き上がった。普段のVRChat上でのライブイベントでは大いに盛り上がるので、現実のライブハウスではどうなんだろう? と思っていたが、一曲目の「no money no future」のゴキゲンなロックで一気にボルテージは最高潮になってしまった。
曲の終わりの一言「それではご覧ください、世にも珍しいエビの脱皮ショーです」を合図にドラムのYuki Hataがアバター通りのエビの被り物を脱ぐと、「この坂を」「Emotion」を続けざまに演奏。細かな指の動きや、リズムに乗る仕草といったバンドにとって当たり前の動きを楽しんでいるかのようにも見えた。
「貝と蜃気楼すげえよ、ジョニヘ全然音足りねえよ。大丈夫みんな? 音小っちぇえよとか思ってない?」「小せえよ」「うるせえな!」と客席とのコミュニケーションを交わし、「明けない夜」「Rainy Sunday」とブルージーでしっとりとした2曲と、ドリーミーなサウンドと激しい感情が行き来するバラード「ジュブナイル」が続くと、ステージが一気に明るくなりYAMADAが客席に語りかける。
「みんな、今日のライブのタイトルNobody But Youって言うんだけど、それの意味わかる人いますか? 君しかいないって意味です! つまり、Only You!」
「どうか分かってください、バーチャルとかリアルとかブルースとかロックとか関係なく、面白いことをやり続ける僕らのことを!」熱いMCを挟んで「Only You」が始まると、合いの手でマイクを客席に向けポップなサウンドとともにフロア全体が盛り上がる。
「リアルでのライブをやってもいいじゃんって思ってた派だったけど中々実現しなかった。そんな枷をやすやすと飛び越えて呼んでくれたのが貝と蜃気楼だった」と語ると、貝と蜃気楼の「失楽園」のカバーが始まる。JOHNNY HENRYらしからぬヘヴィなビートが飛び出し、こうしたサプライズはまさにリアルライブで楽しくなる。
「JOHNNY HENRYはこのままあんまり変わらん感じでやっていくと思うけど、良い曲作るし、どんどん頑張るから、せめて良かったなあとか、応援してくれると嬉しく思います。ありがとう、JOHNNY HENRYでした……あ! 言うの完全に忘れてた、リーチャ隊長ありがとう来てくれて」と、ライブハウス後方の物販スペースでサイン会をしているリーチャ隊長に感謝を述べると、ラスト4曲のブロックに突入。「Lost My Love」「Don’t wanna Die」「スーパースター」ではストレートなロックンロールサウンドや自由なブルースハープが飛び出し、JOHNNY HENRYらしいハッピーな演奏で客席と一体になる。「最後の一曲やります」と言って「Paint it Blue」の演奏が始まると、軽快で疾走感のあるギターに乗せてあっという間に4曲が続いていき、あっという間に去っていった。
そして、アンコールを求める手拍子と声と共に、腰を低くして戻ってきた彼らはすぐさま人気曲「愛にすべてを」の演奏を始め、10曲以上やっているとは思えないパワフルなパフォーマンスを見せた。さらに「ここで終わりと言いたいところだが、もう一曲おまけだ!」と、「最終電車」でライブを締めくくる。最後の一曲にふさわしいメランコリックで疾走感あふれる曲だった。
「みんな気を付けて帰れよ、絶対死ぬなよ、俺より先に死ぬなよ。ありがとう」と言って去っていく彼らを見ていると、VRのバンドということをすっかり忘れてしまい、日頃行くライブと同じように楽しいライブだったなあと満足している自分がいた。
リアルライブならではの熱気
リアルだからこその良いところして、やはり会場にいる人びとの熱気がある。
目の前で見かけてびっくりして思わず写真を撮らせてもらったのだが、JOHNNY HENRYのファンの方が日頃使っているというリュックに油性マジックでサインを求めており驚いた。本当に大好きなのだろう。
また、MCで「リーチャ隊長ありがとう」という声があった通り、リーチャ隊長がなぜかサイン会をやっていたので、筆者も記念にサインしてもらった。JOHNNY HENRYのイラストは描くたびにもらわれていくため、ライブ後に話しかけた時点で二回描いてると言っていた。
こうしたリアルな場での交流があると純粋な楽しさを感じるが、フィジカルな制限を超えて表現できたり交流できたりするところがVRの大きな利点であるにも関わらず、結局リアルに集約されていくことに対して懐疑的な意見があるのも、VR発のカルチャーを愛するフォロワーにとっては「大好きな世界観が失われてしまうかもしれない」という危機感に繋がるので当然の反応だと思う。
(念のため書いておくと、今回のライブで見聞きした反応ではない)
しかし、音楽がさまざまなカルチャーと結びついて時代と共に移り変わっていったことを思うと、VRから始まったものがVRではない場所に行ったり、どちらにも存在する曖昧さなどはカルチャーの醸成には欠かせない通過点に思える。
そんな中で「リアルでのライブをやってもいいじゃんって思ってた」「バーチャルとかリアルとかブルースとかロックとか関係なく、面白いことをやり続ける」といった本心を堂々と言って実行しているJOHNNY HENRYはかっこいいと思ったし、VRChatがあったからこそ彼らが出会ってバンドをやっている事実に変わりはない。今後はそうした境界はさらに曖昧になっていくだろうし、まだまだ未来が定まっていない、カルチャーが作られつつあるVR音楽シーンという場所やJOHNNY HENRYをもっともっと見ていたいと思わせるライブだった。
ライブのセットリスト
●貝と蜃気楼
1.陽炎
2.失楽園
3.Emotion (JOHNNY HENRY)
4.渡鴉
5.鉄と胎生
6.空になれ
7.落日
●JOHNNY HENRY
1.no money no future
2.この坂を
3.Emotion
4.明けない夜
5.Rainy Sunday
6.ジュブナイル
7.Only You
8.失楽園 (貝と蜃気楼)
9.Lost My Love
10.Don’t wanna Die
11.スーパースター
12.Paint it Blue
Encore
13.愛に全てを
14.最終電車
(TEXT by ササニシキ)
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