「VRChat」といえば、VRゴーグルやコントローラーを装着し、自分の好きなアバターの姿になりきってオンラインで交流できるソーシャルVRだ。同サービスのファンは日本でも多く、「Kawaii」発祥の国らしくかわいいアバターをまとって会話を楽しんでいる人も目立つ。
そんなかわいいアバターをせっかく使うなら、衣装にもこだわって個性を出したいところ。今回取り上げる「ColorfulMagic」(カラフルマジック)は日本のVRChatユーザーのニーズを受けて日本人クリエイターたちが立ち上げたプロジェクトだ。7月23日に衣装6セットの販売をスタートして、試着できるVRChatのワールドを公開した。
20人以上のメンバーが力を合わせて実現したという本企画について、先行体験会のレポートも交えて魅力を深掘りしていこう。
VRChatで立ち上がったバーチャルアパレル業界
まずは、前提となるアバターの現状について簡単に説明しておきたい。
VRChatでアバターを使うためには、3Dモデリングツールで体を作り、統合型のソフト開発環境「Unity」で形式を整えてからアップロードする必要があるのだが、PCやクリエイター向けツールに慣れてない人にとってはやはりハードルが高い。「VRoid Studio」や「Vカツ」などの3Dアバターを作るツールも出てきているものの、直接VRChatにはアバターを持っていくことができずに変換が必要だ。
そこで一番手っ取り早いのが、完成したアバターを買って使うという手段になる。ピクシブが提供する創作物のマーケット「BOOTH」の「素材データ」内にある「3Dモデル」のサブカテゴリーには、秀逸なオリジナル3Dモデルが数多く販売されており、数千円程度で購入可能だ。
さらに注目したいのが、アバターを装飾するための3Dモデルも存在するという点。服や帽子、靴、小物、アクセサリー、髪型などジャンルも多岐にわたっており、いわばアバターを中心に「バーチャルアパレル業界」が立ち上がろうとしている。
ただ、ここにもハードルがあって、各クリエイターが個別にデザインした衣装なので、Unity上で組み合わせてみると合わないということも往々にしてある。より手軽にコーディネートできて、個性を出せる衣装がどこかにないものか──。
そんな背景を受けて「なければ自分たちで作ってしまおう」と始まったのが、この「ColorfulMagic」になる。「キッシュ」「幽狐族のお姉様」「ミーシェ」という3つの人気アバターに向けて調整した6セットの衣装を発売した。
各衣装はアウター、インナー、ボトムスに分かれており、それぞれ交換して組み合わせることを前提としている。価格はセットで1500円、各パーツは600円と、リアルのユ○クロ以上にリーズナブルというのも嬉しい。しかも8月21日まではセットが1200円、各パーツが500円というセール価格!
そして、なんと言っても買う前に試着できるというのがポイントが高い。アバターの姿でVRChatに用意した「ColorfulMagic Clothing Room」ワールドに入ると、現実のアパレルショップのように服が並んでおり、手でピックアップして鏡を見ながら試着を楽しめる。もちろん前述の3種類以外のアバターでも試着可能。買ってダウンロードして身につけてみたら「うーん、なんか違うかも……」というミスマッチを極力防げるわけだ。
色々とユーザーの心を「わかっている」内容で、この時点でも期待大と言えるだろう。聞くだけで色々とワクワクしませんか?
かわいい体 × かわいい衣装 =絶対テンション上がるマン
実際、先行体験回で試着してみた感想はというと、「テンション爆上がり」という一言にまとめられるだろう。特に知り合いと複数人で訪れると、楽しいことこの上ない。
流れを簡単に説明すると、まず「ColorfulMagic Clothing Room」のワールドでは6人までが試着可能。試着を選んだユーザーは、服の前まで歩いていき、トリガーを引くとボタンが現れて選択して自分のアバターの上に「重ね着」できる。その際、下着のような素体に近い姿でいけば、最終的な見た目がわかりやすい。
前述した「キッシュ」「幽狐族のお姉様」「ミーシェ」以外のアバターでは、内側の服がはみ出してしまうことも往々にしてあるのだが、そこも考えられていて、頭の横に手を持っていってトリガーを引くと専用メニューが現れ、服を上下と前後に動かしてだいたいの位置を合わせられる。
ディスプレイされた服の上にあるカラフルなボールでトリガーを引けば、色を変更することも可能だ。髪の毛や肌の色などアバターのこだわりに合わせて、服の色も合わせられるという配慮が嬉しい。各6種類あるアウター、インナー、ボトムスももちろん組み替え自由で、自分の好みを追求するだけでも無限に遊べてしまう。
そして元のアバターがかわいいと、「コレもいいなぁ」「あの組み合わせもいいなぁ」と、服によって自分のかわいさがマシマシになることを実感できて、色々試したくなる。画面の向こうのゲームでキャラクターの衣装を着替えさせるのとは感覚が異なり、自分の体となっているアバターで試せるからこそこのよさだ。リアルでは服にまったく興味がない筆者だが、バーチャルの体になって初めて「服を買うって、こんなにも楽しい体験だったのか」と発見できた。
さらに単純に試着できるだけでなく、「映え」る仕掛け、要するに撮影スポットも用意している。
一番気になったのは、壁に貼られた雑誌の表紙の前に立ってポーズをとって撮影すると、その壁の反対側にあるカゴの雑誌の表紙に写真があしらわれるというスポットだ。雑誌自体は持ち帰れないが、試着した服でトップモデルになった気分を味わえる。
試着室に入って正面にある6体の巨大マネキンも、一緒に写真をとるのにぴったり。入って右側にある、ピンク/イエロー/グリーン/ブルーのペンキのバケツをひっくり返したオブジェも、同じアバター同士で色だけ変えた同じ服を着て並んで撮るなど、アイデア次第で生かせるはず。
何より、「あれもいいねー」「これとかどう?」といった具合に話しながら複数人でわいわい試着できることが、バーチャルの体験として素晴らしく、「リア充」ならぬ「バチャ充」してると感じた。
正確に言えば、VRChat初心者の筆者は「ぼっち」で訪れたため、「だから、この話はここでお終いなんだ……」という感じだったのだが、体験会に参加していた他の方々が気持ちを昂らせながらとても楽しそうに会話していたのが印象に残っている。
リアルにおける女の子同士のショッピング体験にも近いのだろうか? 非現実なアトラクションやゲームがあるわけではなく、試着をきっかけにコミュニケーションしてるだけでもこれだけ盛り上がれるんだと、ソーシャルVRが大いに人生を豊かにしてくれる可能性を大いに感じた。「ColorfulMagic Clothing Room」のワールドには、複数人を一度に写せる大きな鏡もあるので、ぜひフレンドとともに訪れてほしい。
「アバター改変初心者に楽しんでほしい」
参加クリエイターそれぞれのこだわりが伝わってくるのもアツいところだ。先行体験会では、制作チームに簡単にお話を聞けた。
服のデザインを担当したしあさん、はいえろさん、ぷもさんの話で印象に残っているのは、あえて奇抜なデザインを選ばなかったということ。VRChatアバター用の小物というとファンタジーだったり、セクシーよりだったりと、ゴリゴリの「晴れ着」的なものが目立ちがちだが、普段から着ることを意識してリアルの服に寄せたという。
それでいて現実の世界で流行しているものではなくVRChatならではのかわいさを、リアルにありそうなんだけど二次元的という立ち位置を目指した。
細部にもこだわっており、アウター、インナー、ボトムスの各6種類を着回ししたときに形で喧嘩しないように調整したうえで、人気3アバターのモデルに合うように落とし込んでいった。試着の際に変更できる色にもこだわっている。
試着室のワールドを担当したkelupuさんによれば、ショッピングモールをイメージして、ガラス張りの天井、木目の床、コンクリートの壁をあしらったとのこと。バケツのフォトスポットは、「ColorfulMagic」というプロジェクト名からカラフルなイメージを出すために置かれている。
そんなワールドに仕込まれたギミックは、キャンディさんが担当。高速に着替えられる環境を作って、女子高生がわちゃわちゃショッピングしているような体験を再現したいというゴールに向けて開発を進めた。特に苦労したのはデータの同期周りで、ほかの人と同じものを見せることに苦労した。また、すでに存在する別の試着ワールドよりもさらに上の体験を実現するために、色変えなどのシステムも盛り込んだ。
プロジェクトを立ち上げたRocksuchさんは、事の発端について「今年2月ぐらいにアバターを着せ替えたくてBOOTHをのぞいていた際、メイドやバニーなどの個性的な服はあったが、普段着系が少ないと感じた。じゃあモデリングできる方にお願いしようと思ったときに、ただ衣装をつくるだけじゃなくて、試着やプロモーションも含めた事例を試してみたかった」と語る。
根底にあるのは、「アバター改変初心者に楽しんでほしい」という想いだ。「自分の色が出せるカラフルな衣装があって、技術力がそんなになくても魔法的に着替えて楽しめる。『ColorfulMagic』は、カジュアル衣装の普及と、衣装モデルのプロモーション提案を含む、一連の動きの総称なんです」
ソーシャルVRのいいところは、性別も国籍も人間かすらも関係なくなりたい自分の姿になれて、どの場所にいても気の合う仲間とオンラインで集まれるという点。そして会っているのに密にならないので、アフターコロナの「新しい生活様式」にもぴったりだ。
今までアバターに無関心だった人も、ぜひVRシステムとVRChatを導入し、かわいいアバターを「ColorfulMagic」の衣装で着飾って交流して、人生を豊かにしてみてはいかがだろう。
(TEXT by Minoru Hirota)