にじさんじ・不破湊「Cheers with you」ライブレポート 多彩な”不破湊”のペルソナで初ライブ勢も魅了

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2024年12月8日に武蔵の森総合スポーツプラザにて、にじさんじ・不破湊が自身初のソロライブ「Cheers with you」を開催した(配信チケット)。

2020年1月にデビューして以来、ゲーム配信を中心に軽快なトークで多くのファンを生み出してきた不破。今年9月にはYouTubeチャンネル登録者数100万人を突破し、現在では男性VTubeのなかでもトップランカーとして邁進している最中にある。

にじさんじに所属するメンバー4人で結成されたユニット「ROF-MAO」の一員としてもさまざまなジャンルにトライしている不破だが、その中でも常に目配せしてきたのが音楽にまつわる活動だ。ROF-MAOのみならず、にじさんじ所属のメンバーに声をかけてバンド企画を立ち上げるなど、何度となく音楽や歌へのこだわりを見せてきた。

そんな彼だからこそ、「どのような音楽活動をするのか?」という話題は長らく注目を集めていたし、今年に入ってからのソロEP「Persona」の発売やライブ「Cheers with you」の開催は、そんなファンの期待に応えたはずだ。

かくして不破湊は「Cheers with you」でどのようなライブを見せたのか? 早速、レポートしてみようと思う。


さまざまな表情で観客を魅了し続ける”The 不破湊ショー”

午後6時より少し前、ライブ前の注意喚起と会場アナウンスが始まる。担当するのは不破湊。配信をよく見ているリスナーなら、ユーモアあふれる彼らしいアナウンスがあると想像していたところだが、そんな予想とは裏腹に不破は静かに読み上げていく。この時点で、この日のムードがどのようなものかが察せたファンはいたかもしれない。

ライブが始まって視界に入ってきたのは、薄い紫色と柄模様が入った壁に自身の自画像を飾りつけ、大きなソファーとレッドカーペットも備わった部屋。まさしくホストクラブを彷彿とさせる。

紫のライトとレーザーが会場を照らす中、不破とおなじデザインのスーツでビシッと着飾ったバンド隊やダンサー陣、そして不破湊がザッとステージに現れ、この日最初の楽曲「ディストーションと抱擁」を披露された。

「お待たせしました! みなさま! ついに! オレの! 不破湊の! ワンマンライブ! 全力で声出していってください!」

紙吹雪がブワッと舞うなど豪華なステージ演出でスタートする中、不破は開口一番、高らかにこう叫ぶ。前のめりな気持ちを隠さないシャウトは、会場の観客を掴もうと力強く響いた。

彼はこの日のライブ、バーチャル空間で演出されたステージをクラブ「Persona」と名付けて話をしていた。ご存じの方は多いと思うが、「ペルソナ」とは心理学や社会学の用語として一般的に広まった言葉であり、自分自身の外的な側面/社会生活の中で他人に見せている自己の側面、というような意味合いになる。

意識的または無意識的に振る舞っている言動を通して、社会のなかで生きていくうちに他人に受け取られる性格や個性のことを「ペルソナ」と呼ぶことが多い。

対人関係や環境の変化によってペルソナは変わり、さまざまなペルソナを持つようになる。最近では作家・平野啓一郎が「分人化」とよんでいたが、人間は単一かつの考え・思考に基づいているわけではなく、多様・多彩・幅広いペルソナを持っているわけだ。

そういった意味合いを持つ言葉をライブタイトルにしているということはつまり、「不破湊という存在がもっているあらゆる側面を見せよう」というメッセージでもある。実際、この日のライブでは彼のいくつもの表情が見られた。

2曲目「ミラージュ」や8曲目「ド屑」といった楽曲では、普段の配信では聞けないような甘く低めの声色を披露し、スローなビートとグルーヴに合わせてメロウに歌い上げていく。

「フライデーナイト」「ド屑」「愛して愛して愛して」というミドルテンポかつクールな楽曲を披露していく流れは、この日のライブでも最初の盛り上がりともいえよう。男女恋愛のシチュエーションや心模様を歌った3曲は、「バーチャルホスト」というバックグラウンドとイメージに紐づけられる。

鍵盤の音色とシャッフルやスウィングなグルーヴで合わせていくサウンドは、ホストクラブという少々気品のあるイメージにもピッタリ。ファルセット、シャウト、ラップ&フロウと曲ごとによって披露しつつ、ステージを悠々と歩きながら余裕綽々といった態度で歌っていく姿は、大人びたヴォーカリストのようですらある。

その3曲からバンドメンバーを紹介する流れを挟んで披露したのは、L’Arc~en~Ciel「HONEY」。ギターを下げて登場した不破がイントロからギター演奏と歌唱し、サビに入った瞬間にバンド隊が入っていく。この流れは本家・L’Arc~en~Cielのライブアレンジと同じだ。

続けて披露したのはクリープハイプの「栞」で、ギターを掻き鳴らしながら直情的なラブソングを、歌っていく。かつて「バンドをしていたこと」もあると語っていた不破のロックバンドキッズな一面が垣間見えたモーメントであった。

そこからはダンサーを紹介する流れを挟んで、今度は6人とともに「黄昏ラビリンス」「Same as you are」とダンス曲を続けて披露していく。ステージでは軽やかな振り付けやステップを見せていたが、ROF-MAOでのライブパフォーマンスと練習がこういったところにも反映されているように感じた。

「いやぁ……実は次が最後の曲です!」と彼が宣言すると、会場から「えーっ!?」と大きな声が上がる。耳をふさぎ、目を大きく開けておどける不破、笑いが起きるライブ会場。ムードが最高潮に高まったところで披露された本編ラストの曲は「一旦ステイTONIGHT」だ。

不破の楽曲の中でももっともコミカルな1曲によって、一気に”おちゃらけた”ムードで会場のムードを変えていく。

ライブ初披露であるはずなのに会場は合いの手やコールでバッチリとこたえ、パラパラのようなダンスを踊りながらシャンパンタワーを建て……ハッピー&ゴージャスなムードで本編を終えたのだった。

アンコールの大合唱が起こるなか、不破湊の配信オープニングテーマとなっている「LOVEドッきゅん」がバンド編成とダンサーによって披露された。そして不破本人はトロッコと透過式モニターをつかって会場をぐるりと一周していた。

「一昨日・昨日とライブがあったけども、みんなトロッコ乗ってたんですよね。そしたら配信してると『不破っちもとロックに乗るのかな?』『さんばかはトロッコに乗ってたよ』ってコメントが流れてきてさ、なんと答えようか困っちゃったよね!」

あっけらかんと答える不破の口ぶりに会場が笑いに包まれる。「もっとみんな感情を解放しよう!」「なんて呼んでもらっても構わない!」と会場に何度も呼びかけていたこともあり、会場から「不破」だけでなく「ふわっち」「みなと」といった声がいくつもあがるようになっていた。

そしてこの日リリースが発表されたsyudou作曲の新曲「シャンパンナイトフィーバー」、文字通りにこの日の最後を飾った「ラストソング」を、パワフルで力強い歌声で会場に響かせたのだった。

ウェットでしっとりと、ロックキッズな一面を、軽快なダンスとステップを、配信で見せるようなコミカルさを、そして最後にはグイッと引っ張っていくような強かさをと、自身の「ペルソナ」をうまくこの日のライブでパッケージングしてみせた一夜だった。

これは三枝明那のライブでも同様だと思うが、ファンの中にはこういったライブイベントに足を運ぶこと・参加すること自体が初めての方も多かったはず。そういった人たちの心をしっかりと揺さぶろうと何度も語りかけていたわけで、盛り上がりや熱狂を生めるかどうか?というのもかなり重要視していたようにも見えた。

この日の途中で彼は「2回目のソロライブ」という言葉を口にして会場から大きな反応をもらっていたが、その続きはどういったものになるだろう? 彼の音楽活動に注目だ。

●セットリスト
1.ディストーションと抱擁
2.ミラージュ
3.Violet!?
4.Mr.Sweetest
5.Rapport
6.ロウワー
7.フライデーナイト
8.ド屑
9.愛して愛して愛して
10.HONEY
11.栞
12.人マニア
13.エンデバー
14.Same as you are
15.黄昏ラビリンス
16.4Count
17.一旦 ステイ TONIGHT

*アンコール
18.LOVE ドッきゅん
19.シャンパンナイトフィーバー
20.ラストソング

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(TEXT by 草野虹

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