年の瀬の夜に煌々と灯った明透という光 1stワンマンライブ「RAY」レポート

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KAMITSUBAKI STUDIO・SINSEKAI STUDIO所属のバーチャルシンガー・明透(あす)が、2024年12月28日にヒューリックホール東京にて1stワンマンライブ「RAY」を開催した(アーカイブ)。

2021年8月末にデビューしてから約3年と半年。ようやくこぎつけた念願のソロライブは、”初めてのソロライブ”という言葉が不釣り合いに感じられるほどに充実したパフォーマンスであった。

KAMITSUBAKI STUDIOのファンやスタッフにとっても、音楽ライブや舞台公演などがとめどなく続いた2024年を締めくくる現場ということもあり、節目となる一夜であったことは間違いないだろう。

2024年最後を締めくくる公演がどのようなものだったか、さっそく見ていこう。


距離が近いステージに興奮

18時に開演したこの日のライブ。宇宙・銀河を思わせる星々、そのなかに浮かび上がる明透、以前までの黒を基調にした衣装から白を基調にした衣装へとスッと変化し、閉じていた目を開けて薄緑の瞳がこちらを眼差す……そんなオープニングムービーから、ライブへと導入していった。

最初の1曲目「Spiral」でスタートをきったわけだが、先程のムービー、壇上に上がったバンド隊の面々、そしてスクリーンに登場した明透と次々と姿を現し、改めて感じられることがあった。この日の会場となったヒューリックホール東京、そもそも客席とステージとの距離感が非常に近いのだ!

もしも配信ライブを見れる方がいれば確認してほしいが、そもそも最前付近で楽しむ観客の顔が配信でもバッチリ分かるほどの近さであり、ステージと最前の観客との距離は3mもあったかどうか。KAMITSUBAKI STUDIOの音楽ライブは、ここ最近では大きい会場を使うことが多かったため、この近い距離感に驚いた観客はかなりいたのではないかと思う。

艷やかなキーボードが印象的にリードするなか、終盤に明透がクルンと1回転すると、以前から着ていた黒い衣装から白を基調にした新衣装へと変身するようにチェンジ。差し色となっているオレンジ色部分が光っており、白色の部分がすこし銀色っぽく見えたりと、どことなく近未来SFな衣装を感じさせてくれるデザインなのが面白い。

続けざまに「Shiny」「スロウリー」と歌っていく。音の厚みあるシティポップな前者、裏ノリのグルーヴが強いソウルライクな後者、明透はダンスや振り付けをこなしながら歌っていく。

「どうも! 空透です! どうしようもう……みんな元気ぃ!?」

初のソロライブ、最初のMCということでドギマギとしていただろう。声の調子は普通通りだが、明らかに会話のテンポがぎこちなく、どことなく焦っている様子が見えて初々しさを感じられた。

MCを続ける明透だが、昂ぶるテンションが抑えられないようで、体を動かしながら観客と言葉を交わしていく。笑顔を見せる彼女は次の曲へと移っていったが、ここからが圧巻であった。

「ライトイヤーズ」「モノローグ」「ピアス」「インパーフェクト」「オレンジ」「illumia」「HEAVEN IS GONE」と怒涛の7曲連続、MCを挟むことなくパフォーマンスしていったのだ。

明透の楽曲は、ハウスミュージックとR&Bをうまくかけあわせた楽曲が多く、シンセポップやシティポップ色の強いサウンドとなりやすい。生バンドを起用したことで原曲よりも厚みのある音が構築され、細部やディティールの部分もよりハッキリと色づいて聞こえる。

たとえば「ライトイヤーズ」は、エコーとなって響くギターサウンドがセンチメンタルさを誘いつつ、ベース&ドラムスがぐいぐいと進んでいく。


「いつも止まないこの響きがある

壊れないものを望んでる訳じゃない

この夜のせいにして」


この歌詞が表現しているイメージをそのまま、この日のライブで表現しているかのようだった。

「ピアス」ではハイハットのオープン&クローズを使ったダンサブルなビートに明透のボーカルが躍動する。自然と観客からハイッ!ハイッ!と歓声が上がり、曲中でメンバー紹介、そこから勢いを溜めるようにアンサンブルを抑え、ラストのサビへと突入すると一気に盛り上がっていった。

「オレンジ」では鍵盤のフレーズとエレクトロ系なエフェクトを挟みながらパワフルなバンドアンサンブルがグイグイとひっぱり、「illumia」ではファンキーなベースラインにダンサブルなビートが絡み、オレンジや黄色の照明がよりダイナミックなサウンドに色を添える。

直近2曲でのダイナミックなパフォーマンスから一気に音数が減り、それぞれの楽器隊の音が組み合う様がよく分かる「HEAVEN IS GONE」へ。なにより、この7曲すべてで空透は何がしかのダンスや振り付けを見せながらボーカルもしっかりとこなしており、特にこの「HEAVEN IS GONE」ではボーカルやダンスがより大仰しく、コケティッシュなムードすら漂わせるほど。クールな佇まいで観客を魅了してくれた。


「かわいい!」の声に「電気消してほしいくらい恥ずかしい……」

7曲連続での披露を終え、暗転していた会場が照明でファッと明るくなる。すこし体を屈ませながら笑顔を見せる明透。「かわいい!」「最高!」という観客の声が飛び交う中、

「………えへへ……元気ぃ?」

話しをどう切り出そうか迷いつつ、照れた姿を見せる。いきなり7曲連続での披露ということで疲れていた部分はもちろんあっただろうが、なんと初々しき表情だろう。パフォーマンスのクールさとは裏腹のキュートさにやられたファンが多そうだ。筆者はこのタイミングで気づいたが、彼女は緊張もあってか体を止めることなくソワソワと動かしながらMCをしている。

「なんかサラッとやったけど、あたし何曲も連続でやったからね!? すごくない!?」

そう意気揚々と話す明透。そのまま新曲「0g」を披露した。重心の低い8ビートを軸にしたミドルテンポ、ワウペダルを多用したギターサウンドでファンキーさも感じられるポップス。ライブではこのように響いているが、音源ではよりシンセやギターサウンドに比重が多くなってムーディな曲になるのだろうか?「たばこの匂いと 窮屈なワンルーム 重たい腕から抜け出す」という日常的な情景を捉えた歌詞を、伸びやかなボーカルで表現していく。

「エンゼルフィッシュ」「ブルーナイトダーリン」では、鍵盤とベースの柔らかな音色とメロウなフレーズで、ゆるくチルいムードへと連れて行く。明透は青と青緑の照明に照らされ、小柄な体躯をいかして愛らしいダンスで会場をくぎづけにしてくれた。

そのムードから引き継がれた「アンダーブーケ」では、ギターの音色がセンチメンタルかつ印象的に響く。序盤はダンスや振り付けは最小限に、サイドステップを踏みながら柔らかな声色を合わせ、徐々にヒートアップしていくバンドアンサンブルに合わせて熱をこめて歌っていく。

明透はデビューから様々な配信ライブをこなし、現地ライブでも少ない時間ながら数曲ほどのパフォーマンスを見せてきた。KAMITSUBAKIファンからみて、彼女のパフォーマンスの良さは知るところではある。とはいえライブパフォーマンスをする彼女、今日が初めてのソロライブとは思えないほどである。

「新曲の『0g』どうでしたか?『エンゼルフィッシュ』『ブルーナイトダーリン』を歌ってて、同じく大きく口を開けて歌ってくれてるひといたよね?見えてるよ!一緒に歌ってくれると嬉しい」

ライブでは初お披露目となった「エンゼルフィッシュ」「ブルーナイトダーリン」や新衣装について、観客にむけて語る明透、観客から「かわいい!」という声が矢継ぎ早に飛び交うと、照れる表情を見せる。

「こんなさぁ、みんなからかわいい! かわいい! って言われるときってさ、みんなどうやって立ってるの? え……電気消してほしいくらい恥ずかしいんですけど……!」(左右に体を揺らしながら)

「曲について話したいので『ブルーナイトダーリン』は……ってかあたしってさっきからそうだけどめっちゃ動くやん? そろそろジッとしてようかなって思ってたんだけど、『ブルーナイトダーリン』はスキップしたくなるような歌で。それがやりたくて、歌いながらスキップしてました。」

「これ以上動かないようにしながら、後半も歌っていきますね。(もっと踊って!という歓声)もっと動いて!? じゃあみんなも踊ってね?(笑) でもここからはしっとりと歌っていきますね。」

愛らしく話をする明透。つづいて披露したのは「アンメルト・アンブレラ」だ。ラップフロウを踏まえたボーカルからはいり、感傷さをひきたてるバンドサウンドにあわせてウィスパー気味な声に、そこからサビに入ると芯が入った歌声と、微妙に”声の表情”を変えていく。

「dazzling」ではアコースティックギターと明透のボーカルが引っ張っていく展開に。ここまでライブのなかでスロー&メロウな楽曲は何曲か披露されていたが、それでもアコースティックギターの響きは新鮮に響く。ふだんのビジュアルでは凛とした顔立ちをしている明透、そんなイメージにバッチリとハマったパフォーマンスだった。

そのままクリスマスにあわせてリリースされた最新曲「Winter Sparkler」へ。よりスローに、穏やかに、あたたかな空気を灯らせるかバラードの質感をしっかりと発揮していた。クリスマスに合わせたムーディさを一番に感じさせてくれる1曲だが、オールディーズなクリスマスヒットソングの毛色は少々ほど。ドラムや打ち込み音から感じられるビートアプローチからは2024年の音楽のフィーリングが十全に感じられ、なにより明透の音楽として宿っているのは素晴らしい。

「3曲ともライブで歌うのは初めてでしたが、いかがでしたか?最高だったよね?これまで何度かみんなが目の前にいるステージを歌ってきたけど、これからはもうちょっと沢山、みんなの前で歌っていけたら良いなと思っています。」

「Raise your hand if you coming from oversea?」

海外からやってきた観客は?と英語で語りかけると、まばらながら手を挙げる観客たちが。台湾などからやってきただろう彼らにむけて感謝の言葉を述べた。

本編ラストに披露したのは「ソラゴト」だ。アルバム「ASU」の中でも最後を締めるこの曲は、彼女のディスコグラフィにおいて、過去の思い出を振り返ってしまうほどのノスタルジアを表現するスローナンバーとして輝いている。ギターのアルペジオと明透のクールな声色、そこにバンド隊がぐっと音を広げていけば、この日のライブでもその壮大なる世界観となって会場いっぱいに広がっていった。


触れられないけど、触れている」

本編が終わると、すぐにアンコールの声が湧き上がる。ステージに戻ってきた明透が歌うのは「リンカーネーション」。ドラムやベースは最小限の演奏にとどめ、鍵盤の音色と彼女のボーカルがぐんと前に出る。鍵盤と声が絡み合い、しっとりとしたムードをうみだしていた。

「”触れられないけど触れている”この言葉は活動当初から時々口にしていた言葉です。今日このひとときを経て、この言葉がまたひとつ更新されました。触れられないからこそ触れているんだと、純粋無垢で、静かで、だけどじんわり温かい。だれにも縛られない、だれにも縛れない。とっても崇高でだれにも汚せない。そんな美しい気持ち。美しい気持ちをもって直接触れられないからこそ、触れることができるものがあるんだって」

「今年1年、わたしは”光”をテーマにして活動してきました。”光”はわたしにとって、ひたすら眩しい全力な陽キャ! という側面だけじゃありません。どこかの砂漠やゴツゴツした岩続きの場所にいて、空がどんより灰色。そんな空間のなかで、ぼんやりと丸い形をして、静かに温かく、じっと存在する。そんなイメージのものだったりするんです」

「物事にはさまざまな側面がありますが、わたしはこれからも”光”というものいろんな側面と楽しく生きながら、みなさんと分かち合って、ひとつの”光”のなかで生きていたいです。」


そう語って、この日最後となる新曲「Aster」を歌い始める。幻想的なイントロから明透のクリーンな声色へと繋がり、バンド隊が徐々に盛り上がっていく流れは、ドラマティックかつ壮大。配信ライブでは空に流星が流れていく表現がなされ、自身の感覚を銀河や宇宙へと繋げていくかのようなスケールの大きさ・広さを感じさせてくれた。

さきほど「ソラゴト」のときに書いたことに加えるならば、彼女のディスコグラフィでこういった”壮大さ”を感じさせる楽曲は2曲目になるのだろう。圧巻の世界観を示したところで、この日のライブは無事に終幕を迎えたのだった。

安定したボーカルとダンス、とめどなく歌い踊り続ける体力と集中力、そんな彼女のパフォーマンスを十全に引き出したステージ演出。これがファーストソロライブなのか?と疑ってしまうほどに、ほぼ非の打ち所のないライブパフォーマンスを見せてくれた。パフォーマンス中のクールな姿とMC中の愛らしさ、このギャップも今後明透の魅力となって形作られていけば良いと感じた。

そして告知ムービーのなかで、明透が所属していたAlbemuthの新展開を予感させるムービーが流れ、会場が騒然となった。年の終わりであっても安心させることなく、ファンをワクワクさせたいという気持ちのこもったKAMITSUBAKI STUDIOらしさあるエンディングであった。


●セットリスト
1.Spiral
2.Shiny
3.スロウリー
4.ライトイヤーズ
5.モノローグ
6.ピアス
7.インパーフェクト
8.オレンジ
9.illumina
10.HEAVEN IS GONE
11.0g
12.エンゼルフィッシュ
13.ブルーナイトダーリン
14.アンダーブーケ
15.アンメルト・アンブレラ
16.Dazzling
17.Winter Sparkler
18.ソラゴト
19.リンカーネイション
20.Aster

(TEXT by 草野虹) 
 
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