にじさんじ所属のバーチャルライバー樋口楓さん初のソロライブツアー「Higuchi Kaede 2024-2025 LIVE Tour “BREAKING”」。昨年11月29日の台北公演から約5か月。4月19日(土)に、J:COMホール八王子で東京公演が開催された。
2021年2月に開催された「Kaede Higuchi Live 2021 “AIM”」以来、約4年ぶり3回目となるリアル会場でのソロライブには、前日に同じ会場でワンマンライブを開催した盟友・月ノ美兎さんら4人のゲストも出演。生バンドの演奏と共に全19曲が披露された約2時間の熱いライブを現地で撮影されたオフィシャル写真と配信(ニコニコ生放送)のスクリーンショットと共にレポートする。
なお、ニコニコ生放送のタイムシフト(アーカイブ)の視聴期限は、2025年5月6日(火)の23時59分までとなっている。
台北から帰国して東京公演開幕!
会場のJ:COMホール八王子は、最大収容人数2021名のホールだが、客席が3階まであり、印象としては後方の席からでも観やすい会場。正面には、VTuberにとってのステージである横長のメインディスプレイが設置され、その上と左右に合計3枚のサブディスプレイがある。前日の月ノさんのワンマンでは、この4枚のディスプレイを活かした映像演出も見どころの一つになっていた。開演予定時間の約5分前、会場内には、樋口さん本人による影ナレが聞こえてくる。今回の公演では声出しが制限されていないことを伝え、「声出しする準備できてますかー」と開演前から会場を盛り上げていく。
ライブのキービジュアルも使ったオープニング映像に続いてスクリーンに映るのは、オレンジ色のトランクを引っ張りながら空港を歩く制服姿の樋口さん。そして、映像が切り替わるのに合わせて、「ただいまー東京」と言いながら、樋口さんがステージに登場。空港で引いていたトランクも持っている。
ドラマ「量産型リコ -最後のプラモ女子の人生組み立て記-」のオープニングテーマ「アイムホーム!」を爽やかに歌う樋口さんの後ろやサブディスプレイには、台北公演の思い出の写真などが流れていく。途中からは、トランクの上に腰かけて、足をブラブラしながら歌う樋口さん。リアル世界では何気ない動きだが、バーチャルライブで観ると、技術の進歩を感じられて少し楽しい。
2曲目の「Feel it now」も爽やかで可愛い楽曲。恋愛ゲームがコンセプトの曲ということで、スクリーンには、キャラクターのセリフのように歌詞が表示され、「文化祭の出し物何見に行こうかな…」「バレンタインのお返しかあ…」など5つの選択肢から次の行動を選ぶイベントも発生。
「メイド喫茶」「ハイブランドのバックがいいなぁ」といった尖り気味の選択肢ばかりが選ばれていき、最後はゲームオーバー。樋口さんは、ステージでへたり込んでしまうというコミカルな演出になっていた。また、この曲の作詞を担当したのは、樋口さんの後輩で、今年3月ににじさんじを卒業した瀬戸美夜子さんなのだが、映像の中には、瀬戸さんらしきシルエットも。最後は、瀬戸さんのトレードマークだったメガネが背景に浮かび、樋口さん自身もメガネを装着。後輩への思いが伝わってくるような演出になっていた。ちなみに、終演後、にじさんじのグウェル・オス・ガールさんが、瀬戸さんから聞いたライブの感想をXでポストしてくれている。
恋愛ゲームがテーマな可愛い曲の後は、曲調もテーマもガラッと変わるどころか対極にある「恋すな」。衣装もパンツルックのアーティスト衣装にチェンジし、会場の天井ではミラーボールが回るなど、演出も一気に派手になっていた。
大好きな「マビノギ」とのコラボ曲も熱唱
4曲目、「野球讃歌」のイントロが聴こえてくると、客席から歓声が上がる。そして、バットを手にした樋口さんは、その声に応えるように、ステージに置かれた踏み台に上がり、「お待たせしましたー。さっそく、声上げてってください!」と煽っていく。
「ワッショイ!」「打ちまくれ」など客席からのコールはタイミングもバッチリだ。台北公演では、客席にサインボールを投げたという樋口さんは、ティーの上に乗せたサインボール客席に向かって打っていく。残念ながら、筆者の座る2階席まで届いたボールはなかったが、リアル会場のあるライブならではの演出だった。途中からは、バットを拡声器に変えて歌う樋口さん。持ち前の力強く「陽」な歌声は、応援歌的楽曲によく似合う。
最初のMCは、そのまま拡声器を使って、町内放送のような音声で話し始めたが、途中からは使用を止めて、ここまでの4曲を振り返っていく。その中で、余談のように語っていたことだが、瀬戸さんと連絡先を交換してないことに少し驚いた。
MC後、最初の曲「MML」は、樋口さんがバーチャルライバーデビュー前からプレーしているMMORPG「マビノギ」とのコラボ曲。ファンタジーRPGにぴったりの疾走感あるメロディーに、樋口さん自身が作詞した言葉を乗せて歌っていく。樋口さんの公式プロフィールには、「好きなものについてもっと知ってほしくて、ライバー活動を始めた」という一文がある。その「好きなもの」とは、おそらく「マビノギ」のこと。台北公演に続き、「マビノギ」愛のこもった曲を大観衆の前で歌えたことは、おそらく、樋口さん自身にとっても、大きな体験なのだろう。
6曲目の「アンサーソング」は、これぞ樋口楓といった雰囲気の王道ロック。スポットライトとレーザー光を主体にしたステージ演出は、派手だがシンプルにまとめており、リアルアーティストのロックバンドのライブのようだ。中盤のギターソロも、会場をさらに熱くする。
一度、暗転したステージが明るくなると、ステージには、にじさんじENのエナー・アールウェットさんが立っている。本日、最初のゲストの登場だ。そして、ステージ下手から樋口さんが登場。桜の並木を背景にした二人が歌うのは、フジファブリックの「桜の季節」。豪奢な羽も生えている青い鳥のエナーさんと、制服姿の樋口さん。世界観の異なる二人が並ぶこと自体、VTuber界ではまったく珍しいことではないのだが、二人の視線の合わせ方や距離感が不思議な空気感を醸し出している。
また、エナーさんの歌をライブで聴くのは初めてだったのだが、奇麗な音でありながら、どっしりとした重みや芯もある歌声。樋口さんとのハーモニーも含めて、非常に魅力的だった。ステージ上手に退場する樋口さんを見送り、ステージに残ったエナーさんの朗読が始まる。日本語でのトークも得意なマルチリンガルだけに、歌も朗読も発音が完璧。内容は、エナーさんのような人間ではない存在の視点で、学生の女の子との邂逅を語ったものだった。
暗転を挟んで舞台は地下鉄の車内に変わり、長い椅子の端では、2人目のゲスト周央サンゴさんが座って読書中。千代田線の二重橋前駅に電車が止まると、同じ車両に樋口さんが歩いて来て、椅子の反対端に座り歌い始める。8曲目は、くるりの「東京」だ。視線を合わせることもなく、偶然、同じ電車に座った見知らぬ乗客同士といった距離感で歌い続ける二人。ユニット「七次元生徒会」でも共に活動して仲が良い二人だけに、この光景も少し不思議に見える。
音圧と存在感の強い樋口さんの歌声と、変幻自在の声色を持つ周央さんによるロックバラードのデュエットは、静かなのに表情豊かだ。電車が下北沢駅に到着して樋口さんが去った後、立ち上がって朗読を始める周防さん。内容は、星空を失った東京が舞台の近未来SF的な世界観も感じるショートショートだった。
ゲストと共ににじさんじの春曲も披露
舞台は、漫画の背景のように線画で描かれた路地裏に変わり、樋口さんが登場。藤井フミヤさんと上戸彩さんの「下北以上 原宿未満」を歌い始めると、上手から3人目のゲスト文野環さんが現われて歌声を重ねていく。歌詞が吹き出し風に表示される前で、まるでミュージカルのように何かを話すような演技をしたり、見つめ合って一緒に体を揺らしたりしながら歌う二人。
破天荒な言動と可愛さのアンバランスぶりが魅力の文野さんに合わせているのか、樋口さんの歌い方も可愛さ全振りだ。樋口さんが去った後は、朗読というよりも動きの芝居も含めた一人芝居を披露する文野さん。「お上りさん」の女の子に東京の街を案内する姿も可愛い。
最後のゲストは、同期の月ノ美兎さん。高層ビルの屋上らしき場所で並んで立ち、歌うのはSUPER BEAVERの「東京」。サビでは、ステージ中央でお互いに向き合い、見つめ合いながら歌っていく。
デビュー以来、多くのステージに共に立ってきた「かえみと」だが、こういう並びでのツーショットは、初めて観たような気がする。二人で同じ星を見た後、樋口さんは退場。月ノさんは、星への思いを綴った物語を朗読した。
4人のゲストと共に「東京」や「上京」をテーマにした曲を歌い終えた後の11曲目。樋口さんがソロで、saucy dogの「東京」をカバー。この日、3曲目の「東京」だ。夜空になったステージには、流れ星が降り注ぎ、その中央ではスタンドマイクの前にスッと立った樋口さんが、東京で生きる人の成長や変化に対する思いの込められた曲を歌い上げていく。
12曲目は、久しぶりのオリジナル曲「mimi」。「東京」や「上京」との関連は無さそうだが、最後に歌った「東京」とは、曲調も含めて何か繋がるものを感じる。ラストは、夜空の下、奇麗な雪が降り注ぎ、幻想的なステージになっていた。
13曲目は、樋口さんがデビュー初期から大切にしてきたファンメイド曲のメドレー。私服衣装に着替えた樋口さんが、「放課後Memory」「東京アセンション」「夕暮れリフレイン」「フィクションなんて言わせない」「楓色の日々、染まる季節」の5曲を続けて披露した。VTuber界のトップを走る企業に所属し、メジャーレーベル契約アーティストでもある樋口さんが、VTuber黎明期に発生した独特の文化をまだ大事にしていることが嬉しい。夕焼けに照らされ、過去の活動映像のコラージュが流れる前で「楓色の日々、染まる季節」を歌う姿は、まるでライブのフィナーレのようだった。
2回目のMCでもここまでの曲を振り返っていくが、途中で一旦、舞台袖に下がってアーティスト衣装にお着替え。ゲストの4人をステージに呼び込むと、一緒にゲストパートを振り返っていく。特に大きな笑いが起きたのは、今回が初めてのリアル会場でのライブ出演となった文野さん。「みんな私のこと知ってる?」と問いかけられた観客が、笑い声や大きな拍手で答えると、「私、有名人だ」とボソリ。樋口さんからダンス練習の話を振られ「いっぱい練習したの」と答えて「可愛かったー」と歓声が上がると「フン、ありがと」と文野さんらしい反応を見せる。
MCの後は、5人で春をテーマにしたにじさんじの全体曲「Budding!」を披露。桜などの春らしい映像と共に、全体曲らしい爽やかな盛り上がりを見せる。そして、観客も一緒に記念撮影した後は、ゲストパート最後の曲。右手に持ったタオルを回しながら、樋口さんがフィーチャリングアーティストとして参加した熊田茜音さんの「Take My Chance」を5人で披露した。最後は、ゲストが一人ずつライブの感想を語り、ゲストパートは終了。文野さんの語った「私のソロコンサートにでろーんさん呼ぶから、みんなスケジュール空けといてね」という夢は、ぜひ実現して欲しい。
新たなアニメタイアップも発表!
ゲストが全員退場した後の16曲目は、2ndアルバム「GAME GIRL」のリード曲「Reset and…」。2023年の9月から11月にかけて、声帯結節の手術で配信活動を休止した際、感じた気持ちを描いた曲で、「何者でもないワタシへ 真っ逆さま」などネガティブな歌詞もあるが、最終的には前へ進んで行くというリスタートの歌。樋口さんの歌声やステージングにも勢いがあり、ステージ演出もその印象を後押ししている。
ライブ本編最後の17曲目は、近年の樋口さんの代表曲という印象も強い「キュンリアス」。アニメ「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」のオープニング主題歌だ。「これがラストの曲」と言いながら、高揚感あるメロディーに乗せたパワフルなボーカルで会場をますます盛り上げていく。観客ももちろん知っていることではあるが、「ありがとうございました! また、3分後とかかなー」とアンコールを予告しながら退場するところも樋口さんらしい。
予告通りに約3分後、ライブTシャツに着替えた樋口さんが登場。アンコールの1曲目は、冠ラジオ番組のタイトルを冠した曲「こんな良い時間に何してんねん!」。ゲーマーの心境を全編関西弁で描いた曲は、「よっしゃ、アンコールはじめんで」とライブアレンジのセリフからスタート。曲調もコロコロと切り替わる楽曲で、コールやダンスなどでファンも一緒になって楽しんでいる。
最後のMCでは、ライブグッズや樋口楓LINEスタンプ第2弾などを紹介した後、7月から放送の「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」第2期でもオープニング主題歌を担当することが発表された。曲名は「CALLING✝」で、少しだけ音源も流れたが、非常に勢いがあり、第1期の「キュンリアス」とはまた異なる方向性のオープニングになりそうだ。
ゲストパートの朗読でも題材にしていた星への思いを語る樋口さん。「長々と話しちゃったんだけど、要は、みんなが変わらず応援してくれてありがとう、ということです」と締めくくると、客席からも「ありがとう」という声が返ってくる。そして、自分で輝く星もあれば、他の星の光で輝く星もあるという話に繋げるように、「アタシがもし、自分で光れへん星やったら、みんながめっちゃまぶしいってことやからね。本当に、みんなの方が輝いてんねんから」とエールを送った。
最後の曲は、2020年3月にリリースしたメジャー1stシングル「MARBLE」。いつの間にかリリースから5年が過ぎていることに驚くが、今も変わらない爽やかな熱さと少しやんちゃな勢いのある樋口さんのパフォーマンスを観ていると、今からでも何かのオープニングテーマに選ばれないかなと思ってしまう。
最後は、「またねー」「ありがとうございました」と、全方位に手を振りながら終幕。2公演だけの開催ではあるが、国境も跨いだ初めてのライブツアーが終了した。
2019年1月の「Kaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”」から約6年。飛躍的な技術の進化によりバーチャルライブのステージで可能なことは、当時の何倍も増えたが、樋口さんのライブでの一番の魅力は良い意味で変わらない。「にじさんじ WORLD TOUR 2025
Singin’ in the Rainbow!」の折り返しとなる8月の神戸公演でも、聴く人の手を引き、背中を押すような熱量と勢いを持った歌声が聴けることが楽しみだ。
(C)ANYCOLOR, Inc.
(TEXT by Daisuke Marumoto)
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