
ホロライブEN・ユニバーサルミュージック所属のMori Calliopeが、2026年2月6日に「DISASTERPIECE」をリリースした。
メジャーサードアルバムとなる本作は、TVアニメ「ガチアクタ」第2クールオープニング「LET’S JUST CRASH」、同アニメ挿入歌「Rivals and Equals」、Prime Video「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ2025」主題歌「Gold Unbalance feat. 中島健人」、テレビ朝日金曜ナイトドラマ「魔物」のオリジナル・サウンドトラックに収録された「Die For You」など、多くのタイアップ曲を含む全10曲が収録されている。
また「天誅 & Mercy」では10-FEETをフィーチャリングに迎えており、初回限定版には「FLASH BANG feat.PES」「Seeing Stars feat.Lotus Juice」「Sepia feat.TOOBOE」「Die For You feat. ARTMS」と、4組のアーティストとのコラボ楽曲も収録。これらの楽曲は、ARTMSとの楽曲以外はコラボシングルとして以前にリリースされたもので、各ストリーミングサイトで視聴できる。
冒頭からすこしだけ夢のない話を先にしてしまうが、音楽アーティストが音楽アルバムを制作する際には、その時々の事情や状況によって大きく異なることを知っておくべきだろう。
たとえば制作期間を設けず、自由に楽曲を制作し、タイミングを見て楽曲を集めてリリースする場合もあれば、制作期間を決めて集中的に楽曲を作り、その期間に制作した楽曲のみで構成したアルバムをリリースすることもある。
そのなかで、シングルとしてリリースされた曲が5曲であっても8曲であっても、「これはちょっと合わない」と感じればアルバムから外される。一方で、「気にせず全部詰め込んじゃえ!」と詰め込んだ結果、15曲前後を収録し、アルバムとしてリリースされることもある。
音楽アルバムをひとつ取っても、アーティストの制作事情や活動状況、その時々の本人やスタッフの意向が反映されてリリースされる。そしてそのなかには、数十年を経ても時代を超えて愛されるアルバムが生まれるのだ。
実は「DISASTERPIECE」をリリースするまでのあいだに、カリオペは9曲もの楽曲をリリースしていた。2024年10月にリリースされた「FLASH BANG feat.PES」から、スマッシュヒットした「LET’S JUST CRASH」までだ。
「Gold Unbalance feat. 中島健人」やアニメ挿入歌となった「Rivals and Equals」は、ストリーミングサイトで見るとアルバムジャケットをそのまま楽曲ジャケットとして使用しており、ある意味では“先行シングル”的な立ち位置にも見えるだろう。
つまり単純に数えてみると、アルバム前に合計11曲もの楽曲が世に放たれており、そのなかからアルバムへと選ばれたのが、先述した4曲だったというわけだ。音楽需要がCDからストリーミングへと移行して久しいが、こうした流れを見ていると、コラボシングルやタイアップ曲を先行リリースして注目を集め、後にリリースされるアルバムにすべてを収録するという従来のやり方から、より特化した手法へと変化しているのがわかる。
そうなると、「アルバム」という作品形態の意味や位置づけも変わってくる。先行した楽曲から取捨選択して「アルバム」としてまとめ、ひとつの作品としてリリースする。なかにはアルバム作品をリリースせず、シングル曲を継続的に発表していくアーティストもいる。
シングル偏重の時代にあえて「アルバム」を制作・リリースする。手間暇をかけるからこそ、そこにより強い意味を込めたくなるのだ。
二面性どころか多面性を含んだ 「DISASTERPIECE」
赤いイバラのような植物の裏から、ピンクのロングヘアーと黒い服を着たカリオペがこちらを見つめる、そんなジャケットが描かれた「DISASTERPIECE」は、以前までの作品とは比べものにならないほど歪んだサウンドとグルーヴ感を前面に出した、ロック色の強いアルバムになった。
25年9月に開催したデビュー5周年記念ライブ配信で初披露した「Orpheus」でグルーヴィなR&Bで幕を開ける。続く「LET’S JUST CRASH」では、syudouが手掛けた細やかなビートとグルーヴに、歪んだギターサウンドとベースサウンドがブチかまされる。
なによりも素晴らしいのは、カリオペが太い声をふんだんに活かしている点だ。以前から配信や楽曲でその太い声は存在感を発していたが、あざけるように笑い、サビ頭でパワーを込めるようにガツッと声を発する姿は、彼女が“死神”であったことを思い出させてくれる。
続く楽曲は「Gold Unbalance feat. 中島健人」。東山紀之、木村拓哉、松本潤が担っていたテレビや映画シーンの花形に立つアイドル、中島健人はその座を継承する存在として知られている。
ストリーマーやVTuberと親交の深い山田涼介、SixTONESやSnow Man、さらに別事務所TOBEで活動するNumber_iらと並び、その言動や楽曲リリースにも注目が集まる彼と、カリオペがまさかコラボ曲を発表するとは、正直驚かされた。
「アイドル」にプライドを持ってキャリアを築き、最新アルバム「IDOL1ST」では“究極のアイドル”をテーマに掲げる中島健人。一方で、ホロライブの一員としてポップミュージックシーンでオルタナティブな存在となりつつあるVTuber・Mori Calliope。
そんな2人のコラボ曲は、爆発力のあるロックソング。サビまでのAメロ、Bメロで溜めた勢いをサビで一気に爆発させる構成で、一気に解放されていく心地よさがある。
「舐めんじゃねーよ 小さな勇気ひとつありゃ十分」という歌詞は自身の心を蹴り上げ、「始めたのならやり切る覚悟を」「志は消えない 2人のやれるさ」という詞は、アイドルとVTuberを背負う2人の覚悟を体現している。
だからこそ冒頭3曲でガッツリ心を掴んだあと、続く「Die For You」はダークなR&B。複数のボーカルを重ねた独特の音像が耳を引く。先ほどまでシャウトしていたカリオペが、この曲では囁くようなウィスパーボイスをいくつも重ねる。
We fall, we break, we drown in fire
Lost inside in this dark desire
No love, no faith, just you and I
Dancing until the end of time
地獄の底まで一緒に堕ちていこう……と手招くような妖艶さ。作曲は、「SINDERELLA」「JIGOKU 6」を手掛けた辻村有記によるものだ。
5曲目は10-FEETとのコラボ曲「天誅&Mercy」。ライブやフェスで突発的にコラボを見せたり、楽曲としてコラボレーション・アルバムを発表してきた10-FEETだが、VTuberとのコラボは彼女がもちろん初めてだ。
枯れたギターサウンドから力を入れていくように展開し、サビに入ってダンスビートでぐっと盛り上がり、最終盤ではまた一変してパンキッシュなサウンドで締める。二度も三度も変幻しながら、最後にはストレートアヘッドに突っ切っていくさまは、カリオペと10-FEET双方に通じるものがある。
天に代わって罰を与える“天誅”と、慈悲や情けといった“Mercy”。一見すると対立するように見えるが、それが実はつながっていることを、この曲で示している。
複雑でグニャリと混ざり合った混沌。そこから立ち昇る感情は、ときに穏やかで、ときに殺気立つ。「Rivals and Equals」は、それを鋭く重く、激情をもって表現している。
TVアニメ「ガチアクタ」第18話の挿入歌となった楽曲だが、荒々しく低い音のギターリフからシャウトするカリオペは、サビに入るとクリーンな歌声で歌い上げる。
作曲はギタリストのPABLO。Pay money To my Painのギタリストにして、多数のサポートを通じメタルミュージックの荒々しさを伝道してきた人物だ。
ちなみにMVでは、Shiggy Jr.の元ドラマーでメタルバンド・knosisのサポートも務めるKazma Moroishiがドラム、HYDEのサポートを務めたOSCARがベース、そしてPABLOと共に作曲したG4CH4がDJとしてそれぞれ参加している。
筆者は「ガチアクタ」のアニメを見ていなかったので、この曲はアルバムを通じて初めて聴いたのだが、率直に「あまりにもメタルすぎない?」と感じた。
たとえば近年のメタルコアバンド──Knocked Loose、Architects、女性ボーカルならSpiritbox、さらにはBABYMETALといった面々の楽曲と比べても、ほとんど遜色ない圧倒的なパワフルさと荒々しさをもっている。
前半までの流れと、この「Rivals and Equals」のインパクトを合わせて考えると、これまでとは比較にならないほどロック色を強めたアルバムだと言っていい。
アルバムタイトル「DISASTERPIECE」は、「DISASTER=失敗作」と「MASTERPIECE=傑作」という正反対の言葉を組み合わせた造語だという。本作で見せる二面性(いや、多面性と言ってもいいだろう)は、元来カリオペ自身が備えていたパーソナリティといっても過言ではない。
パワフルな歌声とラップスキルを兼ね備えたボーカリスト、さまざまなジャンルのアーティストとコラボする行動力とつながり、死神らしいビジュアルでありながら優しくリスナーと交流する姿。越境するようにさまざまな手法・考えをとりいれ、それらがグチャリと混ざり合ったMori Calliope。この混沌とした個性と存在感を、今作で表現しようとしたのだろう。
となると、「FLASH BANG feat.PES」や「Seeing Stars feat.Lotus Juice」といったヒップホップ色の強い楽曲も入れても良かったんじゃないかとも思うが、今作で思いきりロックの方向に振り切ることで、より鮮烈な印象を残そうとしたのだろう。
ダークで、妖しく、禍々しく、鬼気迫るオーラをまとい、飽くなき上昇志向と開拓者精神でシーンを走り抜ける──ハイバイタリティなエンジンを積んだ死神による快作である。
最後にひとつ。これはフェス3日目のパフォーマンスをみた感想だが、最後の最後にイングウェイ・マルムスティーンのようなポージングで終えたのは、すこし笑ってしまった。
アニソン好き、ボカロもしっかり聴いている、おまけにエミネムから影響を受けてラップは速射砲のようで、今作のようなハードなメタルも作風に取り込み表現してしまえる。いつかなにかの機会で、彼女の音楽遍歴やその嗜好性をじっくりと聞いてみたいところだ。
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(TEXT by 草野虹)
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