
VketRealといえば、メタバースのイベント「バーチャルマーケット」(Vket)から派生したリアルイベントのこと。今夏は7月25、26日に東京・ベルサール秋葉原にて7回目の「VketReal 2026 Summer」を実施しました。
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VketRealの始まりは、2023年夏に秋葉原で開催された「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」です(ニュース記事)。VRChatを中心に活動するクリエイターやコミュニティが現実の街に飛び出し、企業による展示やXRを使った体験、周辺店舗との連携などが展開されました。
同年冬には、会場を渋谷・原宿に移した「バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ」を開催。その後も大阪や池袋などへ場所を広げ、現実の街とバーチャル文化を結び付ける方法を模索してきました。
一方で、現実空間ならではの課題も目立っていきます。
回を重ねるたびに見えてきた現実空間の難しさ
特に大きかったのが、入場時の待機列と会場内における来場者の滞留です。限られた広さの会場に、できるだけ多くのクリエイターブースを設けようとすれば、通路に使える面積は減ります。
そこへ、グッズを購入するために列へ並ぶ人、会場内を移動したい人、クリエイターやフレンドと会話したい人の流れが重なります。満員電車のなかのようにほとんど身動きが取れない時間が続くこともありました。
VRChat内のワールドであれば、混雑時にはインスタンスを分け、同じ空間を複数用意できます。現実の会場はそうはいきません。使用できる床面積も、出入口の数も決まっています。そこへ消防、空調、電源、通信、搬入、在庫、安全管理といった条件も加わります。
「人が多すぎるなら、もっと広い会場を借りればいい」という声もあります。とはいえ、交通の便がよい都心部で、周囲に休憩できる飲食店が多く、十分な通信・電源設備を用意できる大型会場は限られます。

バーチャル空間で大規模イベントを作ってきたHIKKYにとって、現実のイベント運営は異なる難しさを持つ挑戦でした。そして2026年夏、これまで指摘されてきた待機列と会場内の滞留に、大きな変化が現れます。その点について、HIKKY CEO 舟越靖(ふなこしやすし)氏に取材をしました。
渋滞していた空間から、会話が生まれる会場へ

「理想通りとはいきませんが、かなりうまくいきました。点数を付けるなら80点以上です。今回は『快適さ』と『熱を持ったコミュニケーション』の両立を意識しました」(舟越氏)
VketReal 2026 Summerについて、HIKKYの舟越靖CEOはこう総括します。重点的に取り組んだのは、入場時の待機列と会場内の滞留の解消です。
入場にはWeb整理券を採用し、ファストパスと時間指定パスも用意しました。来場する時間を分散させ、朝から長い列ができる状況を抑えるためです。
会場内では余分な設置物を減らし、ブース同士の間隔を広げました。人気ブースの前に列ができることを前提に、出展内容も考慮して配置を決めています。有料のパラリアルクリエイターエリアにはベルサール秋葉原の2階ホールを使い、通路と待機列のための空間を確保しました。
「前回は会場側も出展者も、列をさばくことに必死にならざるを得ませんでした。今回は単に通路を広げるだけでなく、ブースの内容を見ながら配置も変えています。コミュニケーションを取りやすくすることも意識しました」(舟越氏)
空間に余裕が生まれたことで、来場者は商品を購入した後も、その場でクリエイターと話せるようになりました。筆者が会場を歩いた際にも、販売を終えた来場者がすぐに立ち去らず、クリエイターやフレンドと会話する姿が各所で見られます。
「参加した来場者を中心に、100人くらいに直接感想をきいたところ、『買いやすかった』『人気イベントにしては、かなりスムーズだった』と言っていただけました」(舟越氏)
人が密集していることと、イベントに熱気があることは同じではありません。VketRealに必要なのは、身動きが取れないほどの混雑ではなく、バーチャルで生まれた関係を現実でも確かめられる余白です。
一方、整理券のシステムを知らずに、会場入口で初めて取得した人もいました。
「DiscordやX、チケットページなどには掲載しましたが、来場してから新しいシステムであることを知った方もいました。こういった情報を、事前にどう届けるかは次の課題です」(舟越氏)
待機列と滞留を完全に解決したわけではありません。それでも、人が多くても歩けることと、交流を楽しめることを両立した点に、今回の改善の意味があります。
VketRealを支える「即売会」と「オフ会」の需要
ところで、VketRealの来場者は何を求めているのでしょうか。少なくとも筆者が会場で見た範囲では、その中心にあるのはクリエイターが作ったグッズの入手と、VRChatで知り合った人たちとのコミュニケーションです。

有料エリアであるパラリアルクリエイターエリアには、VRChat向けアバターやコミュニティを題材にしたアクリルスタンド、ステッカー、衣類、ぬいぐるみ、同人誌などが並びますし、好きなアバターや衣装を作ったクリエイター本人と話すことも、大きな目的になっています。VRChat内では以前から知っていても、現実では初めて会うということも珍しくありません。
来場者同士の交流も活発です。アバターの姿を印刷した名札やグッズを身に着け、それを手掛かりに相手を見つけます。現実の顔や服装を知らなくても、アバターを介せばVRChat上の関係をそのまま持ち出せます。「現実では初めまして」という言葉が似合うシーンも、何度となく見かけました。

「バーチャルの世界でつながっている人同士が、リアルで会う。それは一つの答えだと思います。その価値は、もうみなさんが確実に感じてくれていると思います」(舟越氏)
来場者の需要だけを考えるなら、クリエイターブースを増やし、VRChat関連の即売会とオフ会に特化する方法もあります。実際、有料エリアの熱気を見る限り、その形でもイベントは成立するでしょう。
しかし、HIKKYは無料エリアに企業ブースやXR体験を設け、現実とバーチャルをつなぐ展示を続けています。なぜ、すでに需要が見えている「VRChatの即売会」だけに絞らないのでしょうか。
バーチャルの姿のまま、現実へ出ていく

「ただVRChatのイベントをやるだけでは、少し違うと思っています。それはVRChat自身がやるべきことだと思っていますし、同人即売会も、同人即売会の運営に長けた企業に開催してほしい。HIKKYは、バーチャルの価値が現実へ広がっていくところを追求したいんです」(舟越氏)
現在のVketReal、およびバーチャルマーケットを支えているのは、VRChatで育ったクリエイターとユーザーです。その土台があるからこそ、HIKKYはさらに外側へVRChatの文化を広げようとしています。
また舟越氏が目指しているのは、バーチャルで活動する人が、現実に出た瞬間に別の存在へ戻らなくてもいい環境です。
「バーチャルの姿のままの自分と、リアルの場所で会う。その出会いをつなぐ仕組みは、まだ十分に実現できていないと思っています」(舟越氏)
現実の姿を見せたくない人もいれば、アバターの方が自分自身に近いと感じる人もいます。遠方に住んでいる、身体的な理由で移動が難しいなど、現地へ来られない事情を持つ人もいます。
そうした人がアバターのまま現実側の会場へ参加し、現地の来場者と会話し、一緒に体験できる。逆に、現実の会場からバーチャル側の住人と出会える。舟越氏は、それをVketRealが目指す姿の一つとして挙げます。
「VRChatの中で会うのと同じくらいの感覚で、バーチャルとリアルを隔てることなく会えるようになったら、すごくロマンがあります。それを僕らで実現していきたいんです」(舟越氏)
この考え方は、HIKKYが以前から掲げてきた「パラリアル」につながります。
2019年にHIKKYが示したパラリアルは、現実とバーチャルを行き来しながら生活するという構想でした。2022年には、実在する都市をメタバース上で解釈し直し、5年以内に世界100都市をメタバース化する「パラリアルワールドプロジェクト」へ発展します。
しかし世界100都市の常設メタバース化という計画は、コロナ禍が一段落して、多くの人が現実の街やイベントへ戻ったことから、筆者の目からは一回休みのマスに停まったという印象があります。
一方で、「現実とバーチャルを行き来する」というHIKKYが持ち続けている思想は消えていません。VketRealでは方向を反転させ、アバターやクリエイター、コミュニティを現実の街へ持ち出しています。
企業ブースは「パラリアル」の実験場
今回のVketReal 2026 Summerは、2階の有料エリアにパラリアルクリエイターエリア、1階の無料エリアに企業ブースやHIKKYによるXR体験コンテンツが配置されました。両フロアの雰囲気は大きく異なります。
舟越氏は、本来であれば両者を同じ空間へ混在させたいと話します。

「今回は1階と2階に分かれましたが、本当は同じフロアで一体にしたいんです。ゲームショウでも会場が離れると雰囲気が変わりますよね。距離ができると、どうしても一体感が薄れてしまいます」(舟越氏)
舟越氏によれば、企業ブースはVketRealを維持するための広告枠にとどまるものではなく、アバターの姿で現実側の人と会話する、バーチャル側から現実の機器を動かす、現実の人とVRの住人が一緒に遊ぶといった、HIKKYが掲げるパラリアルを実際に試す場所でもあるといいます。
そのため、VketRealでは一般的な即売会以上に通信環境と電源容量が重要になります。現実会場とVRChatなどのソーシャルVRプラットフォームを常時接続し、映像や音声、操作情報を安定して送る必要があります。しかも、いくつものブースで。
「せっかくバーチャルを扱っているので、出展者にはバーチャルとリアルを混在させたコンテンツも出してほしい。そのためにはネットワークが絶対に必要です。でもVRの通信は重く、eスポーツより厳しい場合もあります」(舟越氏)
HIKKYは開催を重ねる中で、通信設備を会場へ持ち込み、短時間で展開・撤収できる仕組みを整えてきました。舟越氏によれば、専門事業者へ依頼する場合と比べ、費用を大幅に抑えられるようになったといいます。
「工夫を続けたことで、少なくとも半分以下のコストで構築できるようになりました。こうした環境を作っていくのも、HIKKYの役目だと思っています」(舟越氏)
会場、通信、電源、空調、安全管理。現実とバーチャルをつなぐイベントには、来場者から見えない設備と運営が欠かせません。クリエイターが交流し、作品を販売できる場所を継続するためにも、この基盤を毎回作り直すだけではなく、再利用できる形へ変えていく必要があります。
HIKKYは、このノウハウを自社イベントだけに閉じるつもりはないといいます。地域のVketRealや、他分野の同人イベントに対しても、整理券システムや通信環境の知見を提供することを検討しています。
クリエイターの即売会と企業の展示を並べるだけではパラリアルになりません。両者を混ぜながら、来場者にとって楽しい体験としてまとめられるか。VketRealは、その大きな実験場でもあるのでしょう。
会場ではなく、街全体をVketRealにする
また舟越氏は、VketRealを会場の外へ広げることも考えています。
「開催している期間は、このあたり全部がVketRealになったらいいな、と思っています。会場が少しずつ離れていても、街全体が同じ雰囲気になれば、一つのイベントとしてつながるんじゃないかと模索しています。渋谷と原宿で開催(バーチャルマーケット2023リアルinシブハラ)した時は、普段なら原宿への用事がない人も、街を歩いてくれました。あれを実際にやっていなかったら、今の構想は出てこなかったと思います」(舟越氏)

VketReal 2026 Summerでは、コラボ店舗は前回の14店舗から29店舗に増えました。メイン会場から周辺店舗へ来場者を誘導することで、会場内の滞留を減らし、夏の暑さや突然の雨を避けながら休める場所を増やす狙いがあるといいます。
一方、来場者からは、公式の音楽ライブやステージなど、大勢で同じ時間を共有できる企画を求める声もあります。過去にはステージを設けていましたが、限られた会場内へ人が集中するため、今回は見送りました。
「ステージを用意すると、本当に場所がなくなってしまいます。ただ、公式の場所で、みんなが一体感を得られる企画を求める強い声があることは理解しています」(舟越氏)
舟越氏は、中長期的にはVketRealをフェスのような形へ発展させたいと話します。VRChatで活動する音楽コミュニティと協力してライブを開く、既存の音楽イベントと併催する、XR技術を使って現地とバーチャルの参加者をつなぐといった構想です。
「学園祭や街のお祭りのように、どこへ行っても同じ空気が流れている時がありますよね。街や地域の取り組みとも一緒にできれば、VketRealでも作れるのではないかと思っています」(舟越氏)
ひとつの建物へ来場者を詰め込むのではなく、店舗やライブ会場、街路へ体験を分散させる。それぞれの場所を、アバターやグッズ、共通の体験でつなぐ。これは、現実の都市にバーチャル文化を重ねる、新しいパラリアル都市の形ともいえます。
「VketRealで生活できる」クリエイターが現れた
VketRealを続ける中で、舟越氏が特に重視している変化があります。クリエイターが現実空間で作品を販売し、収入を得られるようになった事実です。
「一部ですが、『VketRealで食えるようになった』というクリエイターさんが現れました。もともとVRChatやBOOTHで販売して、お小遣い程度の収入を得ていたクリエイターさんが、VketRealでは生活の基盤となるくらいまとまった金額を稼げるようになったそうです」(舟越氏)
ただし、該当するクリエイターの具体的な人数や収入額は明らかにされていません。
バーチャルマーケットの初期にも、同じような変化がありました。当初は趣味として3Dモデルや衣装を販売していたクリエイターの中から、やがてバーチャル向けの制作を仕事にする人が生まれました。
VketRealでは、その流れが現実側へ広がっています。リアルグッズが新しい収入源になってきているのです。
「今の生き様を、バーチャルを軸とした仕事にしたい、生きる糧にしたいと思っているクリエイターさんは多いんです。この現象を止めてはいけないし、もっと加速させたいんです」(舟越氏)
一方、年に数回の即売会だけで、安定した仕事を作ることは難しいでしょう。出展できるブース数にも限りがあり、会場へ大量の在庫を持ち込む負担もありますから。
その点において、HIKKYは商品の事前予約や決済を検討しています。来場前に商品を確保し、会場では受け取るだけにできれば、出展者の在庫リスクと購入待ちの列を減らせます。
また中長期的には、VketReal以外にも現実との接点を増やす考えもあります。デパートなどの商業施設での催事や、異なる業界との共同企画など、クリエイターが作品を届けられる場所はまだまだ作れます。
「同人即売会へ毎回出展するだけでは、VketRealとしてはもったいないと感じています。イベントから派生するのか、常設になるのかはまだ分かりませんが、別の手段が必要です。それが、やりたいことであり、やるべきことだと思っています」(舟越氏)
バーチャルで生まれた創作を、現実でも仕事にできるようにする。VketRealは交流の場であると同時に、クリエイターの活動領域を広げる入口にもなろうとしています。
次回以降のVketRealでやりたいこと、教えてほしい

来場者の強い需要は、VRChat関連のグッズとオフ会にあります。そこへ集中すれば、VketRealは「VRChatの即売会」として、より分かりやすいイベントになるでしょう。
それでもHIKKYは企業展示やXR体験を組み込み、周辺店舗と連携し、バーチャル側の参加者と現地をつなごうとしています。目指しているのは、VRChatユーザーだけが集まる会場ではなく、アバターやバーチャル文化が現実の街へ広がっていく場所だからです。
そして舟越氏は、今後のVketRealを作るために、参加者からの声を求めています。
「アンケートはどしどし送ってください。『コスプレができる環境をもう一度整えてほしい』『ライブをやりたい』など、VketRealで実現してほしいこと、その熱い思いを僕らに教えてください」
VRChatのコミュニティが求める即売会とオフ会の価値を損なわず、企業、街、異なるバーチャル文化をどう混ぜるのか。さらに、クリエイターが継続的に収入を得られる仕組みへ発展させられるのか。
「快適さと熱を持ったコミュニケーション」を両立できたとHIKKYは見ています。だとすれば、VketRealは今、行列の先にある「何を実現するイベントなのか」という本題に向き合う段階へ入ったといえそうです。
(TEXT by 武者良太)
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