いま、「ソーシャルVR」が盛り上がりを見せつつある。ソーシャルVRとは、ユーザー同士がバーチャル空間上でコミュニケーションできるサービスのことだ。アバターの姿をまとったユーザーが、3Dゲームのような仮想の空間に入り込み、その中で会話をしたり、飲み会のようなイベントをしたり、一緒にゲームをプレイしたりする、新しいコミュニケーションのかたちと言える。
バーチャル空間を介したSNSという意味で「VRSNS」と呼ばれることや、現実社会とは違うまた別の社会、世界が生れているということを強調する「メタバース」と呼ばれることもある。
昨年から今年にかけての年末年始には、世界最大のソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」の同時接続者数が4万人を超える現象も起こった。現在ソーシャルVRは、新たなコミュニケーションの場として、世界的なブームとなりつつあるのだ。
これまで、ソーシャルVRを楽しむには高スペックなゲーミングPCとVRゴーグルが必要で、導入のハードルが高いと思われてきた。しかし近年、「Oculus Quest 2」をはじめとする低価格な一体型ゴーグルの登場で、ハードルは大きく下がった。また、実はVR機材がなくともデスクトップPCのみでも遊ぶことができ、雰囲気を掴むために試しにプレイすることもできる。
今回は、ソーシャルVRの世界について知りたい人に向けて、主要な5つのプラットフォームをピックアップして紹介する。いずれも日本人コミュニティーが形成されるほどの人気ぶりだ。
各プラットフォームの説明に加えて、「ユーザーの声」としてそのプラットフォームで活動しているユーザーのコメントを掲載している。日々ソーシャルVRを利用している人たちの声から、その雰囲気を感じてほしい。
ソーシャルVRの代名詞「VRChat」
米国VRChat社が運営するソーシャルVRプラットフォーム。Microsoft Windows(デスクトップ、PC VR)および「Oculus Qeust 2」など一体型ゴーグルを含むOculusシリーズに対応している。ソーシャルVRプラットフォームの中では最もユーザー人口が多く、ユーザー発のイベント・ワールドなども豊富だ。
以下に、世界最古の個人系VTuberで、「VRChat」をはじめさまざまなソーシャルVRを利用し、その中から配信もしているバーチャル美少女ねむさんからのコメントを紹介する。
●「ユーザーの声」バーチャル美少女ねむ(VTuber)
毎日潜ってます(笑)。数あるソーシャルVRの中でも、VRChatがすさまじいのはユーザーの多さ! いつでも世界中から数万人が自由なアバターの姿で「生活」していて、まるでアニメの世界に入ったみたい。ログインするたびに出会いがあって、飽きるということがありません!
飲み会、音楽ライブ、専門技術集会、展示会と常にイベントやってます。自由に使えるアバターもあるので、初心者はまず「[JP] Tutorial World」に行くと、親切な日本人ユーザーが使い方教えてくれて、きっと友達もできるはず! 私のようにバーチャルYouTuberも普通にその辺うろうろしてるので、見かけたら気軽に話しかけてみてね!
スマホにも対応する国産バーチャルSNS「cluster」
クラスター株式会社が運営する日本発のバーチャルSNS。最大の特徴として、アプリ経由でスマートフォンから利用可能な点が挙げられる。PCおよびSteamVR対応VRゴーグルも利用可能。「大加速祭」をはじめとするイベントや、「バーチャル渋谷」などの行政公認ワールドがあるほか、ユーザーによるコンテンツも多い。
以下に、御楠ルナさんとともに「cluster」内のバー「Angel Kiss」を運営している草羽エルさんからのコメントを紹介する。
●「ユーザーの声」草羽エル(Bar Angel Kiss)
「cluster」はスマートフォンやPC、VR機器から入れるバーチャルSNSです。ワールド機能ではユーザーが制作したワールドで現在25人まで双方向のコミュニケーションが可能。イベント機能ではYouTube Liveなどのように一方通行のコミュニケーションが可能です。
「作る・楽しむ・繋がる」をキャッチコピーに掲げたcluster公式イベント「大加速祭2021」ではユーザーが一丸となって盛り上がりました。以降「大クソ速祭」や「Cluster新聞部」など、大規模なユーザーの集団が一丸となってコンテンツを作る文化が芽生えています。私、草羽エルも「#えんかれ-College Angel Kiss」を設立するなど、より良い場づくりを工夫して参ります。
配信者フレンドリーな「バーチャルキャスト」
ドワンゴの関連会社である株式会社バーチャルキャストが運営する日本発のVRライブ・コミュニケーションサービス。ニコニコ動画やYouTubeと連携した配信が容易にできる点や、コメント連携機能で空中からコメントやギフトが降ってくるシステムなど、配信者向けの機能が充実している。最近では、「MIKU LAND β」などをはじめとする公式イベントや、「ルーム機能」拡充による配信以外の利用促進など、ソーシャルな機能を充実させる動きが活発だ(関連記事)。
以下に、2018年からほぼ毎日バーチャルキャストを利用した配信「Razoo Cafe」を実施しているVTuberのRazooさんからのコメントを紹介する。
●「ユーザーの声」Razoo(配信者、「Razoo Cafe」)
ボクが思うバーチャルキャストの魅力はズバリ「配信を通じてのコミュニケーション」だと思います。
バーチャルキャストで特に魅力を感じるのは「凸(とつ)に来たユーザー同士の交流の広がり」です。
凸とは配信を行うスタジオという空間を自由に出入りする機能で、配信中のスタジオに入室して配信者と雑談や企画に参加できます。配信を見ながらその場の雰囲気や話題を確認できるので、途中からでも参加しやすいところが最大の利点です。配信者同士がお互いの配信を視聴することが多いので、以前凸先で知り合った人が配信を始めたから見たり凸に行くということもあります。
このように凸をしたり視聴することでユーザー同士の交流が深まっていくのがバーチャルキャストの特徴だと思います。ちなみに配信されてない公式スタジオも用意されてるので、配信には出たくないという人でも楽しめます。もし興味を持っていただけたらぜひ「バーチャルキャスト」で検索してみてください!!
・バーチャルキャスト公式サイト
・バーチャルキャスト(Steam)
・バーチャルキャスト(Oculus Store)
VR開発から顔トラまで何でもできる「Neos VR」
欧州Solirax社が提供するメタバースプラットフォーム。「メタバース」を標榜していることもあり、ゲーム内通貨「KFC」や、仮想通貨「NFC」の実装など経済圏を意識した設計になっている。また、「Neos VR」ではワールドの制作やアバターのセットアップ、ツール、システムの開発などをVR空間上で複数人数と協力して行えるため、技術系に強いユーザーが比較的多い。11点トラッキングやHTC VIVEの「Facial Tracker」に対応するなど、VR空間をフルに活用した近未来的体験ができる点が特徴だ。
以下に、「Neos VR」公認チーム「Neos East Japan」のメンバーで、毎週火曜22:00~「初心者案内デー」を主催、12日HTC NIPPONが実施する「VIVECON JAPAN2021」においても登壇予定のオレンジさんよりいただいたコメントを紹介する。
●「ユーザーの声」オレンジ(Neos East Japan)
「Neos VR」はもう一つの現実「メタバース」です。
特徴はすべてのものがリアルタイムに同期されていることです。
描いた絵について話したり、贈り物を渡したり、一緒に何かを組み立てたりという体験を、現実で相手が隣りにいるかのような感覚で行えます。現実的な感覚をVR特有の機能性で拡張することで、クリエイターはより創造性を発揮できるようになり、消費者はより効率的にコンテンツを楽しめます。
Webが私たちの生活に必要不可欠なものとなったように、メタバースが身近な存在になる日もそう遠くないでしょう。「Neos VR」はSteamにて無料で入手できますし、日本語対応に加えデスクトップモードも刷新されたので是非試してみてください。
大人数で遊べるゲームが多数 「Rec Room」
米Against Gravity社が提供するソーシャルVRプラットフォーム。SteamVR、Oculus Qeust2のほか、PS VRやiOSにも対応しており、KidsModeなどもあることから日本ユーザー、海外ユーザー問わず他プラットフォームに比べ平均年齢は低めの傾向にある。最大の特徴は、パーティーゲーム系のワールドが充実していることで、「パーティー機能」を利用したグループ戦など幅広いゲームを楽しめる。
以下に、「Rec Room」内の日本人コミュニティ「Rec Room Japan」を運営し、各種イベントの運営などもしているKさんよりコメントをいただいたので、そちらを紹介する。
●「ユーザーの声」上海ゲーム部&RecroomJapan
こんにちは、上海ゲーム部のKと申します。
「Rec Room」は、運営企業が世界観にかなり意志入れをしている部分が特徴です。舞台は、1987年、オブジェクトは液晶画面ではなくブラウン管、タッチパネルではなくトグルスイッチなど、ゲームも実はよく見ると学園祭の出し物という設定になっています。
また、世界観だけでなく規模的にも「Rec Room」はメタバースセクターの中で最もマネタイズに成功した仮想世界でもあります。資金調達が非常にスムーズに進んでいるので今年は1億円を投じてクリエイターにゲーム内通貨をUSドルに換金するサービスも始まりました。かつての「Second Life」の様な取り組みですね。今後恐らくこの世界で稼いだお金だけでリアル生活が送れるプレイヤーが生まれる事でしょう。
昨今は日本人プレイヤーも増え、遊ぶ相手がなかなかいないという環境も改善されています。VRプラットフォームからだけじゃなく、iPhoneやPS4からもアクセスできるので、是非こちらの世界にも遊びに来てくださいね。それではまた!
・Rec Room公式サイト
・Rec Room(Steam)
・Rec Room(Oculus Store)
・Rec Room(PS Store)
手始めとしてのお勧めこれ! 王道「VRChat」
以上、主要なソーシャルVRプラットフォームを紹介してきた。それぞれに異なる面白さがあるので、自分の好みに合うプラットフォームを探すのもひとつの楽しみだ。どれから試せばいいかわからないという人には、「VRChat」をお勧めしたい。理由は、日本人のユーザーが多く、ワールド(ゲームでいう「ステージ」のようなもの)の種類も豊富だからだ。
VRゴーグルがなくてもPCからのログインも可能であり、そうした「デスクトップ勢」と呼ばれるユーザーも多い。また、「無言勢」として声を発さずに身振り手振りなどのジェスチャー筆談でコミュニケーションをとるユーザーもいる。
日本人ユーザーは比較的「CONNECTED STATION」「JP hub」「JP Tutorial」「ポピー横丁」といった特定のワールドに偏る傾向が見られるため、始めたてのユーザーはまずそうした日本人の多いワールドを訪れてみるといいだろう。
(TEXT by アシュトン)