アイマス・星井美希・四条貴音・我那覇響「Re:FLAME」全曲ライブレポ プロジェクトフェアリーと961プロ社長は何を夢見たのか?

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2024年8月24日(土)、25日(日)と、ロームシアター京都メインホールにて、星井美希四条貴音我那覇響が出演するライブ「961 PRODUCTION presents 『Re:FLAME』」が開催された(アーカイブ)。

星井、四条、我那覇の3名は芸能事務所「765プロダクション」所属にも関わらず、「961 PRODUCTION presents」と銘打ったライブに出演するのは如何なることか。はたしてこのライブは何が目的で、そして何が起きたのだろうか。

本稿では、現地会場およびxRライブ配信の様子を踏まえて、[Re:MEMBER/MOON]、[Re:SIST/STAR]、[Re:FRAME/SUN]と題する、3つの可能性が示されたライブの様子をレポートする。合わせて、彼女たち3名、そして961プロダクション社長、黒井崇男が夢見るものが何であったか、筆者なりの考察を試みる(本稿で用いるライブ画像は、xR配信のものである)。


961プロ社長 黒井崇男が告げた名、それは「プロジェクトフェアリー」

星井、四条、我那覇は、ゲームなど多方面で展開される「アイドルマスター」に登場するアイドルである。2024年3月に前橋で開催されたライブ「はんげつであえたら」に出演したアイドルと同じ、芸能事務所「765プロダクション」(以下、765プロ)所属のアイドルとして知られている。

そんな3人のライブが、2024年5月28日に開催されることが告知された。

このときに明らかになったのは、出演者と日付、会場だけ。続報を待ち続けた7月2日、765プロとライバル関係にある芸能事務所「961プロダクション」(以下、961プロ)の社長、黒井崇男氏から、突如この3名が出演するライブ「Re:FLAME」が発表された。その際、「かつて捨ててしまった可能性に未来があったならば」「2日限りの夢のような、いや、夢以上のマーベラスな時間になることを約束しよう」という意味深な言葉を述べていた。

「いでよ、プロジェクトフェアリー」という声と共に。

プロジェクトフェアリーとは、黒井崇男氏がアイドルの王者たる存在を目指してスカウトし結成した、961プロのユニットである。しかしユニットの活動期間は長くはなく、現在聞くことができるプロジェクトフェアリーの楽曲は、「オーバーマスター」「KisS」などの数曲と、当時リリースされた各メンバーのソロ曲数曲だけだ。

※プロジェクトフェアリーの活躍は2007年にリリースされたゲーム「アイドルマスター SP」およびその関連作品で描かれている。星井は765プロでデビュー前の状態で961プロにスカウトされている。ゲームではプロジェクトフェアリーの面々は765プロに敗北し、それを許さない黒井氏に961プロを放逐されてしまう。

2024年9月現在の961プロダクション ウェブサイトより。所属アイドルユニットとして「DIAMANT」(ディアマント)、以前の所属アイドルユニットとして「Jupiter」(ジュピター)の紹介はあるが、「プロジェクトフェアリー」の名前はない。

黒井社長は何の目論見があって、星井、四条、我那覇3名のライブを2024年に開催したのか。プロジェクトフェアリーとしての楽曲は少ない中、961プロのライブは成立できるのか。

「Re:FLAME」というライブタイトルの通り、最燃焼は起きるのか。

そのような疑問が解消されることがないまま、ライブ当日を迎えた。


[Re:MEMBER/MOON]

ライブ会場に行くと、舞台上に見えるのは三角トラスで組まれたライブステージと、スクリーンにはそれに奥行きが続くように映し出されるライブステージ。ライブステージの壁面には、本ライブのロゴを象ったモニターも見られる。

このライブステージをxRライブで見ると、ステージの裏には数多くの歯車で組まれた機構があるようだ。そして客席側に配置されるのは巨大な時計盤。どうもこのライブは、時計がキーワードのひとつのようだ。

期待と不安の中ライブの開始を待っていると、オーバーチュアが流れだした。その中で聞こえるのは時計の針の音。そしてモニターに映し出される時計の秒針は反時計回りに動いており、9時6分1秒を指したところで止まった。

ポーズをつけた3人の女性のシルエットがリフターと共にせり上がる。そして、「オーバー マスター」という低い声と共に、ステージ中央に吊るされたモニターに映し出される「9」「6」「1」の文字。この時点で既に観客席からは歓声が沸き起こっていた。

シンバルの音が鳴り、ステージに光が当たると共に激しく踊る星井美希、四条貴音、我那覇響の3人。楽曲「オーバーマスター」は、彼女ら3人が表舞台に出てきたときに披露された曲であり、そして代表曲でもあるハードナンバーだ。

現地映像での、1曲目のオーバーマスター。
顔は表情がわかりやすい形の表現。金色に輝く衣装「ビヨンドザスターズ」や手足の陰影がライブ会場現地の照明と混じると、この身体は生身のものかと見間違えるほどの現実感が出ていた

続いて披露されたのは、「ねえ 消えてしまっても探してくれますか?」という歌詞から始まる「マリオネットの心」。星井の曲として有名なダンサブルな曲を、今回は我那覇と四条がバックダンサーではなく、歌唱者として一緒にパフォーマンスを行った。それぞれのソロパートでは星井とは異なる表現を、サビでは3人の声が重なっての歌唱が堪能でき、まさにユニットライブのよさを感じさせてくれた。

[Re:MEMBER/MOON]ライブ冒頭の無料配信動画

目が逢う瞬間」(めがあうとき)、「I Want」はプロジェクトフェアリーが活動していた時期にリリースされた楽曲。ソロでは失恋を描いた曲を歌うことが多い星井による、戻れない二人を歌った「目が逢う瞬間」は、情念と決意を込めた歌唱、そしてアウトロでのスキャットとキレのあるダンスでも魅せ、星井の形で曲の世界観を表現していた。

インモラルな恋愛感情を歌ったミステリアスナンバー「I Want」は、聞く人が平伏せてしまうような四条の声と笑顔で拳を上げる我那覇が印象的。そんな中、時折顔を合わせたふたりが楽しそうにしているのが見れたのもライブのよさを味わえた。

激しい曲が4連続で披露された後、我那覇と四条の「961PRODUCTION PRESENTS Re:FLAME Re:MEMBER/MOON 開演だぞ/です」の声でMCパートに。観客とともに「美希ー」という声で呼び込むと、自分のパフォーマンスの後に息を整えていた(昼寝をしていたと疑われた?)星井が「あふぅ」という欠伸と共にステージに戻ってきた。

「圧倒的な力でみんなをねじ伏せて、二度と目を離せないくらい夢中にさせるからね」という我那覇の挨拶に、観客たちはデビュー時の彼女の発言を思い出し、歓声をあげていた。星井も「ふたりに負けない、いっっちばん輝くミキをお届けするから、よろしくなの」とファンに対するアピール競争を提案すると、四条も微笑みながら「私も参加させていただきましょう」と参戦。仲のよいユニットメンバーであると同時にライバルでもあるという3人の関係性が垣間見せていた。

ハードなナンバーで押してきた先程のパートとは一点、「きゅんっ!ヴァンパイアガール」では甘く、そして聞く者見る者を惑わせ釘付けにしてしまう声と振りで客席を骨抜きに。

続くソロ曲パートでも、草食系な彼に積極的になってほしいと歌う「ショッキングな彼」でも星井はとびきりの肉食系の笑顔で見るものを誘う。

一方で我那覇は「TRIAL DANCE」を披露。ダンスアピールの強い我那覇はリズムを取りながら時にステージを歩き回り、時に配信カメラにアピールを行い、情熱を見せてくれた。

四条は「風花」を歌唱。雪が舞うステージの中、優雅に、決意をもって歌い上げる。

MCパートで各人がソロ曲のパフォーマンスを褒め合い、ファンへのお礼を述べた後に「ミキたちの本当のカッコよさ、見せてあげるの!」とポーズを決めたところで始まったのは、本ライブのために制作された新曲「FlaME」。詞としては961プロらしい、欲しいものはつかみ取るという強い女性を描いたものだが、今の時代にリリースされる楽曲らしく、K-POPのテイストがあり、それでいてインドテイストもある、攻めた曲だ。

後のMCパートでは、この曲をパフォーマンスするにあたり、「全員が負けたくないライバル」という意気込みで挑み、そして一つになれたと我那覇は語っており、この新曲に対する意気込みが感じられた。

続くソロパートでも力強さの表現は続く。星井の「Nostalgia」は過去の弱かった自分を見つめた上で前に進もうとする曲。

我那覇の「DREAM」も夢を掴むのならば傷ついても前に進め、戦い続けろと自分を叱咤する曲だ。

一転して、四条の「ふたつの月」は前2曲に比べてスローテンポなバラードであり、あわせて気高く舞う姿に、永遠に寄りそう夢を見る。四条は故郷と育った古都(京都)を想い歌ったそうだ。

MCパートにて、「運命に導かれて立てた、このステージ」「運命に導かれたら、また一緒にライブができるのかな」「いろんな過去があって、今がある」「でも、今の自分でいること。これが運命だから」と口にする3人。

その後に披露されたのは奇跡を奏でる愛のハードナンバー「Fate of the World」。禁忌を犯し闇から覚醒めたアナタとアタシを待っていたのは破滅。

獄炎が舞い鎖で縛られた混沌を描いたステージをバックに、それに負けない火力でパフォーマンスをする3人が願う運命は叶うのか。

「Re:MEMBER/MOON」アンコールナンバーは「KisS」。この曲はプロジェクトフェアリーのデビュー曲「オーバーマスター」のカップリング曲でもある。配信では、唇にフォーカスしたり、腰から上がるように、掲げた手から胸元に下がるように動いたりするなど、カメラワークでも艶っぽさが表現されていた。

ライブ終わりにはエンドクレジットが流れ、最後に表示された「Produced by Takao Kuroi」の文字に、会場では大きな拍手が沸き起こっていた。


[Re:SIST/STAR]

翌日の昼公演のサブタイトルは[Re:SIST/STAR]。Re:SIST…RESISTとは抵抗を意味する。

前日の[Re:MEMBER/MOON]と同じように逆時計周りの時計が9時6分1秒を差した後、リフターに乗ってせり上がる3人のシルエット……いや、ポーズが違うぞ。そして高い音で響く「インセインゲーム」の声。

1曲目に披露された「インセインゲーム」は「オーバーマスター」と同じ作詞・作曲家陣で作られた、いわばアンサーソングに当たる楽曲。「オーバーマスター」で使われたメロディーを織り込みつつ、クールでセクシーに、Dangerousを超えた狂気に、そして脆さも含んだ曲だ。

四条が「私たちの代表曲」と紹介したこの曲のパフォーマンスを筆者は初めてステージで見たのだが、息を合わせたフォーメーションによるアピールで、激しさではなく妖しさで誘う彼女らに1曲目から骨抜きにされてしまった。

2曲目は「Fate of the World」。これは昨日も歌われたが、1曲目の「インセインゲーム」で惑わされてしまった身としては、この歌で歌われる禁忌も抵抗なく受け入れてしまいそうであった。

[Re:SIST/STAR]ライブ冒頭の無料配信動画

3曲目は星井と我那覇が歌う「inferno」。4曲目は四条のソロ曲「炎ノ鳥」(ひのとり)。「inferno」は全てを燃え尽くすような愛を、情念を込めて歌い上げる。

「炎ノ鳥」は永遠を続くことを祈る愛をたおやかに舞い歌われた。この2曲、いや「Fate of the World」を含めた3曲に共通するのは、ステージ全体を使った炎が燃え上がる表現だ。

これだけ様々な強い愛を歌い盛り上げた後であっても、MCパートでは彼女たちは普段通りに話をする。

雰囲気は違うものの髪の長い3人が踊ると、その髪の揺らめきも炎みたいだと言われたそう。ここで、星井は「髪の短い女の子って、どう思う?」という質問を投げかけ、観客を沸かした。そして「どんなミキたちも見逃しちゃダメだよ」というMCの後は再び歌唱パートに。

3人が歌う「マリオネットの心」に続いて披露されたのは、星井のデビュー時にリリースされた「relations」。自分のものにならなくても相手のそばにいるだけでいいと、大人びた女性の恋愛を歌った歌だが、まだ若い星井が歌唱すると、大人になり切れてない、大人の恋愛に憧れる少女っぽさが出ていて、この楽曲の幅広さを実感することができた。

四条が歌う「フタリの記憶」は、[Re:MEMBER/MOON]で歌われた「目が逢う瞬間「I Want」と同様、プロジェクトフェアリーが活動していた時期にリリースされた楽曲。燃えるような情熱的な歌が続く本公演で、別れの刻の切なさを歌ったミドルナンバーを静かに、それでいて感情を込めて歌い尽くす姿に、四条の別の魅力が味わえた。

そして昨日も披露された「KisS」では再び妖艶な3人の姿が堪能できた後はMCコーナー。ライブ開催地である京都について、特に京都で育った四条が紹介。毎年8月16日にお盆に精霊を送る五山送り火の話から、リハーサル中に妖しい黒い影を見た話になり、悪霊だと我那覇が慌てる場面も。

そんな我那覇が舞台下からせり上がって登場し披露したのは「Rebellion」。反逆を意味するタイトルのこの楽曲を情熱的に歌いこなす彼女は、先に慌てた別人のようなパフォーマンスを見せてくれた。

我那覇のイメージカラーである浅葱色のコンサートライトを振っていた観客が、2番の「目覚めゆく真実の赤」という歌詞の部分で一斉に赤色のコンサートライトに切り替え、舞台照明とあわせて会場中が真っ赤に染まるという、この楽曲恒例の景色が今回も見ることができた。

現地映像より、「Rebellion」 の「目覚めゆく真実の赤」に合わせてステージも客席も真っ赤に染まる様子

続いて四条が歌うのはロックナンバー、「聖炎の女神」。スクリーンで炎の映像が流れるだけでなく、サビではステージを囲むように設置されたパイロから炎が出続ける中、熱くなるも自分を持って歌いきった彼女は、後のMCにて星井に「本当の女神様みたいだったの」と評されていた。

星井が歌うのは「Marionetteは眠らない」。先の「マリオネットの心」に続いてマリオネットの名が付く歌だが、こちらは星井が一人で、時にリズムにあわせて跳ね、時にステージを歩きながら挑発的に歌いこなしていた。

赤色が印象的な前2曲とは違ってスタイリッシュな照明演出が見られたが、「ミラーボールはいらない」という歌詞のところでステージを照らしていたミラーボールの灯りが消えたのは芸が細かかった。

新曲「FlaME」の後、MCパートでこれまでの楽曲を振り返り、さらにこれからも突き進むぞという宣言がされた後に、本編最後に披露されたのはハイスピードロックナンバー、「僕たちのResistance」。仲間を信じ、あきらめずに何度でも立ち上がり、見えない未来へ進むという強い意志が、3人そろっての楽曲パフォーマンスからも見ることができた。

アンコールの声に応えて再度登場する3人。楽しかったライブであったと振り返りつつ「でも、なんだか初めてじゃない気がするの」と発言する星井。その発言には疑問を感じたが、「皆様の暖かい声援が心に響いて参りました。きっと私たちのことを一番と思い名前を呼んでくださる皆様の気持ちが深く伝わっているのでしょう」「自分、みんなに一番だと思ってもらえるように、これからも頑張るぞ」と四条と我那覇が続け、アンコールナンバー「1st Call」が歌われた。

ハードなナンバーの歌いあげる中、3人ユニットとしてのフォーメーションがばっちり決まっていると同時に、星井がカメラに向かって蹴り上げるなど各人のアピールもきちんとある。

この歌は、あなたの一番でいたい、その声に応えるからと歌うという、恋愛の歌でもあり、あるいはステージに立つ者の矜持としても読み取れるような楽曲だ。王者とはただ孤高であるのではなく、相手に求められる声と、声をあげてもらうために最高を更新し続ける努力が必要である、そんな気概も感じられた。

エンドクレジットの最後に「Produced by Takao Kuroi」と表示され、会場の客電が点灯したのち、今回は客席から「黒井!黒井!」という961コールが自然と生まれていた。


[Re:FRAME/SUN]

公演2日目夜公演、つまり今回の最終公演のサブタイトルは[Re:FRAME/SUN] 。Re:FRAME……REFRAMEは再定義する、考え方を変えるといった意味だ。

オーバーチュアではこれまでと同じようにと同じように時計が9時6分1秒を指し示した。しかし、前回までは時計が逆時計回りで動いていたのに対し、今回は時計回りで動いていた。これは何を意味しているのだろうか。

そして、会場に響く「オーバーマスター」の声。これも[Re:MEMBER/MOON]とは違う。そう、これは「オーバーマスター」でもリアレンジバージョン、「オーバーマスター ‒Rio Hamamoto Rearrange‒」だ。

それぞれの歌唱パートが変わっているほか、時折ボイスに加工が入ったりノイズがはいったり、曲自体も低音が響く感じになっている。

照明も[Re:MEMBER/MOON]の「オーバーマスター」から変更あり。赤紫色が多くなり妖しい雰囲気に。歌唱中にスクリーンに映し出される時計も、逆時計回りが時計回りに、しかも速度が速くなっていた。

2曲目ではいきなり本公演オリジナル楽曲の「FlaME」が投入され、序盤から客席のテンションはクライマックスに。

[Re:FRAME/SUN]ライブ冒頭の無料配信動画

3曲目はどんなハイテンションの曲が来るのかと身構えていたら、前公演でも歌唱があった「relations」のイントロが流れる。しかしここで四条から「今宵はメドレーをお送りします」との案内が!ここでも変化を加えてきたということだ。メドレーらしくサビの歌唱が終わって流れたのは、961プロの楽曲らしからぬ爽やかな曲調のテクノポップ「キミはメロディ」。そして「THE IDOLM@STER 2nd-mix」へとメドレーは続いた。

4曲目は我那覇のソロ曲「Pon De Beach」。南国バカンスをイメージしたこの楽曲もまた961プロプレゼンツのライブで披露されるとは思わなかったが、「声だして盛り上がっていこう!」と飛び切りの笑顔で沖縄出身の我那覇は客席に呼びかけると、ステージ中を駆け回り、クラップやコール&レスポンスで客席と一緒に盛り上がっていた。

歌詞に合わせて照明は青空から夕焼け、夜空を、スクリーンはヤシの木や水中、花火と変化してお祭り気分を盛り上げる。

間奏中の「おーおーおー」というコール&レスポンスタイムでは星井と四条も参加。リズムにノリながらステージを動き回り、時に背中を合わせて踊るなど、客席だけでなくステージ上の彼女らも楽しみながらパフォーマンスをしていた。

MCパートでは、星井の「ミキのことはミキって呼んでほしいな」という発言に応えて客席から「みきー」と声があがると、四条からも「私も名前を呼んでいただいてもよろしいでしょうか」というリクエストがあり、「たかねー」コールがあがる。さらに一度舞台から下がっていた我那覇に対して皆で「ひびきー」と呼びかけた。

MC中のものも含め観客とのコール&レスポンスに対し、四条も気持ちが高ぶり、我那覇は「みんなで一緒にライブを作ってるって感じがして、すっごく楽しかったぞ」と述べ、演者も楽しんでいる様子が見られた。

会場を妖しい雰囲気に一転させる「KisS」の披露の後は、我那覇のソロ曲「Next Life」が披露された。「あなたの遺伝子が呼んでる」というセリフではじまるこのサイケデリックトランスは、歌唱曲としては長いイントロ・間奏・アウトロで度肝を抜かれたという印象の一曲。ダンスが得意な我那覇にとってはこの部分もアピールポイントであり、キレキレの動きを魅せることで観客の目を釘付けにしていた。

続いて星井・四条が2人で披露したのは「edeN」。後戻りできない2人が、人だけの愛を誓うという切ない感情が駆け巡るグルーヴィーなハードチューンを、それぞれの必死さの表現で描いていく。

この後は、各回で披露されている「Fate of the World」、そして、[Re:SIST/STAR]のアンコール曲であった「1st Call」と続く。

しかし「Next Life」「edeN」と力強く歌唱される愛の歌が並んで披露されると、「Next Life」であなたの遺伝子に呼ばれ再会できた2人が「edeN」に逃げ込んだ末に待つ「Fate」は破滅なのか福音なのか、そしてまた繰り返した時に再びあなたに一番と呼んでもらえるのか、というループの物語を頭の中で組み立てたくもなってしまう。

続くMCパートでは、「1st Call」が「961プロダクションのDIAMANTというユニットの曲」であると我那覇が紹介。その後に「edeN」でもあった「I love you」のライブ開催地の京都や沖縄ではどのように表現するか、京都で育った四条や沖縄出身の我那覇が挑戦。言うほうも言われたほうも赤面してしまい、ハードなナンバーが続いた後の緊張を緩和してくれた。
ライブパートに戻り、四条の「風花」、我那覇の「DREAM」に続いてたのは、星井の「Day of the future」。未知なるも新しい未来への希望を歌うハイテンポのナンバーを、星井は光が溢れる舞台で満面の笑顔で歌い上げた。

最後の楽曲の前のMCで、星井は「このライブを何度も繰り返す夢」を見ると語りだす。そのことに対し楽しさを感じつつ足りないものを感じていたが、それが「全部のミキが素敵なんだよと言ってくるミキ」であることに気づいたと言う。四条も、ここに至るまで決して簡単な道のりではなかったが、これからも私たちの夢は未来へ続く、と述べる。そして星井も四条も、これからもファンが一緒にいてくれることを望んだ。

と、ここまでのしんみりとした空気を変えるべく、元気よく我那覇が登場。「自分、今日のライブが一番楽しかったし、これからのライブも全部一番楽しくなるって思うぞ」と、過去も未来も最高で最強であり、何があっても「なんくるないさー」の精神で吹き飛ばすと宣言。そして会場の皆で「なんくるないさー」コールを行った。

そんなやりとりの後に3人によって披露されたのは、宇宙サイズの歌詞に見ているこちらも身体を動かしたくなるテクノポップ、「ダンス・ダンス・ダンス」。

間奏で3人がそれぞれのやり方で身体を揺らしたのち、「3 2 1 ダンス!」の声で配信画面に映し出されたのは、7時6分5秒を示した時計。

そして、この先もずっと踊ろうという、今の彼女たち3人の願いを代弁するような歌詞で終わった。

アンコールでは、あらためて3人が登場。四条は本ライブについて、「夢のような時間を過ごさせていただきました」と述べた。そして、星井が「これからの未来って何色なんだろね」と問いかけると、四条は「どのような形であれ私たちらしく進むだけです」と応えた。我那覇が「みんなこれからも自分たちについてくるんだぞー」と観客に対し再会を熱望すると、四条と星井も同じように願望した。

そんな、様々な色の未来を待ちわびる彼女たちが最後に歌ったのは、3人が選曲したという「Colorful Days (12 Colors)」。「自由な色で絵を描いてみよう」と、失敗を恐れずに未来への挑戦を後押してくれる激励ソングだ。

歌の最後で12種の色の名前を挙げて、「みんなきれいだね とてもきれいだね」と、どのような未来も肯定する星井美希、四条貴音、我那覇響の3人との次なる再会を期待して、本ライブは幕を閉じた。

ライブ後に会場に響く961コールが、出演者やライブ関係者への感謝と、ライブが終わってほしくないという気持ちを代弁しているようであった。


彼女らが、黒井氏が、そして我々が見る未来の色は?

MCパート、特に[Re:FRAME/SUN] で語られたように、彼女たちは過去も未来も、どのような自分であっても己を信じ、そしてファンと共に歩むことを望んだ。

では、961プロダクション社長、黒井崇男氏は何を望んで本ライブをプロデュースしたのか。765プロの楽曲が含まれる楽曲を許容したのか。そもそも、本ライブでパフォーマンスをした彼女は何者なのか。このことについては明確にされておらず、ライブを観るものによって見解が分かれる点である(そしてこのライブをどのように考察・解釈するかは、「はんげつであえたら」と同様、観たもの次第だということがライブ製作陣から言われている)。

そこで本稿では、筆者の「考察」を以下に述べさせていただく。

まず、彼女は何者であるかについて。

黒井氏によるライブの告知では「いでよ、プロジェクトフェアリー」と述べていたが、実は今回のライブ中に彼女たちは、自分らが「プロジェクトフェアリー」であるとは一度も名乗っていなかった。(四条が「妖精の輝きを見せましょう」と発言したことはあり、また「妖精ふっかつ」といった言葉が埋め込まれた楽曲もあったが)
また、ライブタイトルを告げるときに「961PRODUCTION PRESENTS」とは言っていたが、961プロ所属とは一言も発していない。同時に765プロ所属とも言っていない。

彼女らは見るものによって変わる、2日限りの夢のような存在だったのか。

続いてセットリストについて。ライブで出演者がほかの者の歌をカバーすることは普通のことではあるが、黒井氏が格下に見ている765プロダクションの歌をそのまま使うとは思えない。

しかし、本稿のライブ紹介パートにて「プロジェクトフェアリーが活動していた時期にリリースされた楽曲」と書いた「目が逢う瞬間」「I Want」「フタリの記憶」は、実はプロジェクトフェアリーの面々が戦った、ライバルである765プロ所属アイドルのソロ楽曲なのである。

初日公演[Re:MEMBER/MOON]で 「目が逢う瞬間」 を聞いたとき、このライブはプロジェクトフェアリーが765プロを打ち破り、その楽曲を奪った世界なのかと筆者は思ってしまった。

初日の公演、[Re:MEMBER/MOON]では、プロジェクトフェアリーが活躍した時の楽曲が、歌唱者の所属事務所を問わず披露された。これは「Re:MEMBER」=「Remember」、 つまり、プロジェクトフェアリーを思い出させ、さらにそこから彼女たちが961プロで活躍する世界を表現したのだろうか。
これは、時計をイメージしたステージセットがオープニングで逆回転し、9時6分1秒を指し示すという演出にも符合すると思われる。

続く2日目昼公演の[Re:SIST/STAR]では、現在の我々がよく知る、自前の劇場を持つまで成長した765プロの楽曲も披露された。あるいは、プロジェクトフェアリーが世に出る前の765プロの楽曲もあった。最初に歌われた「インセインゲーム」は、言ってしまえば765プロの事務員の妄想によって生まれた曲であり、MCで四条が言った「私たちの定番曲」であったという事実には我々はこれまで触れたことはいない。

この回のセットリストに抵抗・反抗を意味する「Re:SIST」=「Resist」を当てはめてみるならば、ハードなナンバーで危うさを見せつけるという961プロの方針は保ちつつも、「プロジェクトフェアリーはこの時代にしか存在し得ない」という時の流れ、あるいは常識への抵抗である、という解釈ができるかもしれない。

さらにひとつのキーになるのは、アンコールで歌唱された「1st Call」である。「一番でいたい」というの気持ちは王者に必要なことであるが、「あなたに一番に呼ばれる相手でいたい」というのは、それが愛する人なのかファンなのか、あるいはユニットメンバーなのかは問わず、相手に対する気持ち無しでは成立しない、孤高ではできないことである。
[Re:SIST]が意味するのは、黒井氏が[Re:MEMBER]に出演した3人に与えた王者感からの抵抗も含まれるのかもしれない。

そして最終公演である[Re:FRAME/SUN]。再定義する、考え方を変えるといった意味を持つ 「Re:FRAME」= 「Reframe」という名を持つライブで、彼女らとそれを取り巻く世界にどんな大変革が起こるのかと筆者は身構えていた。

いざライブが始まってみると、時計は正の方向に動き、我那覇たちは「Pon De Beach」「ダンス・ダンス・ダンス」で孤高の強さを見せつける事よりも観客と一緒に盛り上がることを選んだ。これは、[Re:SIST/MOON]で経験したことが影響しているのではないだろうか。

ライブ会場に設置された巨大な時計は、冒頭の「9時6分5秒」表示から巻き戻るのではなく未来へと進み、最終ナンバー「ダンス・ダンス・ダンス」では「7時6分5秒」に至った。これは、3つのライブで星井・四条・我那覇の3名が魅せてくれた「夢のような」(あるいは「夢以上のマーベラスな」)時間は終わりを告げ、我々が知る765プロの3名がいる世界に戻ることを指していたのか。

そして、アンコールでは「Colorful Days」が披露された。この曲はプロジェクトフェアリーのデビュー曲である「オーバーマスター」と同時にリリースされた、765プロの楽曲である。しかも王者のみが存在を許される961プロらしく攻めた詞と曲の「オーバーマスター」とは違い、どんな色の個性であっても「みんなきれいだね とてもきれいだね 」と歌う。しかも、この曲をアンコールナンバーとして選んだのは星井・四条・我那覇の3人ということだ。

曲の終盤で「ホワイト イエロー」から「パープル ブラック」と様々な色の名前を歌い上げるのだが、この色というのは、765プロ所属アイドルそれぞれのイメージカラーなのである。しかも、今回歌唱された12 Colorsバージョンでは、元々は765プロ所属であった星井の色・フレッシュグリーン(黄緑)だけでなく、四条の色・カーマイン(臙脂)や我那覇の色・ライトブルー(浅葱色)も含まれている。

星井たちがこの曲をアンコールナンバーと決めたことに対し、本ライブのプロデューサーである黒井崇男氏はどういう意図で許可を出したのだろうか。

765プロに歩み寄る一歩なのか。プロジェクトフェアリーがいた時よりもアイドルの自主性を尊重するようになったのか。それともすべての色を混ぜると黒になるということから、いかなる経験も961プロのための通過点に過ぎないとになると大きく構えているのか(「FlaME」にも「何色も飲み込んでいく」という歌詞がある)。

このようなセットリストや演出も含めて、どうしてこのライブが開催されたのか、このことは黒井氏が語らない限り分からない。今回の3つの夢のようなライブは、夢の「ような」ではなく、夢だったのかもしれない。

しかし、[Re:MEMBER/MOON] [Re:SIST/STAR] [Re:FRAME/SUN] という3つの異なる夢を通じて、星井・四条・我那覇、そして彼女らの活躍を待ち望む我々は過去にはなかった経験をし、そして新たな夢を望むようになった。これが、黒井氏がいう「夢以上のマーベラスな時間」であったのだろうか。

新たな夢を望むようになった3人に、我々は再び出会うことができるのだろうか。そのための鍵は2つあると筆者は考えている。

ひとつは、今回のライブのために作られた新曲「FlaME」。3人でこの曲を歌うとき、歌の冒頭は明瞭には歌われていないが “Project Fairy in your Heart” という歌詞になっている(ソロ歌唱では別の歌詞になっている)。これを信じるならば、我々が望むならば3人は集まり、プロジェクトフェアリー、あるいはプロジェクトフェアリーから進化した彼女たちが、新たなパフォーマンスを見せてくれるはずだ。

もうひとつは、ライブが終わった後の我々の行動だ。エンドクレジットの最後で「Produced by Takao Kuroi」の文字を見て、そして961プロのロゴを見た後、客席からは自然と「黒井!黒井!」というコールが沸き上がった。このライブがもし夢だとしても、我々が黒井社長を賞賛したことは現実である。

希望する色の未来があるならば、我々は見たい夢を現実にしていこうではないか、これが筆者がこのライブで得たもののひとつである。

なお、本公演のxRライブは2024年9月23日(月・祝) 23:59まで有料アーカイブ配信されている。彼女たちの夢を見てみたい方は、覗いてみてはいかがだろうか。

(2024/9/21追記)
9/21 9:06に黒井社長からの「御礼メッセージ」として、Xにて以下の投稿がなされた。

「諸君の胸の底から燃え上がる漆黒の炎、そして我が961プロダクションを褒め称え陶酔する姿、しかと見届けさせてもらった」と我々の想いは黒井社長にしかと伝わっていた模様。来場・視聴に対し「真にありがとうございます」と感謝の挨拶したのち、「しかし、中にはまだまだ燃え足りないと思っている者もいるだろう」と「961 PRODUCTION presents 『Re:FLAME』 追加公演」が2025年2月1日に開催されることを発表。

各回のサブタイトルは「Re:FRAIN/DAWN」「Re:FLAME/DUSK」になる模様。DAWN=夜明けとDUSK=夕暮れ、夢から醒めた星井・四条・我那覇の3名が、あらためてどのような夢を見るのか、見せてくれるのか。改めてその姿を見届けたい。


[Re:MEMBER/MOON] セットリスト

1 オーバーマスター (星井、四条、我那覇)
2 マリオネットの心 (星井、四条、我那覇)
3 目が逢う瞬間 (星井)
4 I Want (四条、我那覇)
5 きゅんっ!ヴァンパイアガール (星井、四条、我那覇)
6 ショッキングな彼 (星井)
7 TRIAL DANCE (我那覇)
8 風花 (四条)
9 FlaME (星井、四条、我那覇)
10 Nostalgia (星井)
11 DREAM (我那覇)
12 ふたつの月 (四条)
13 Fate of the World (星井、四条、我那覇)
en KisS (星井、四条、我那覇)

[Re:SIST/STAR] セットリスト

1 インセインゲーム (星井、四条、我那覇)
2 Fate of the World (星井、四条、我那覇)
3 inferno (星井、我那覇)
4 炎ノ鳥 (四条)
5 マリオネットの心 (星井、四条、我那覇)
6 relations (星井)
7 フタリの記憶 (四条)
8 KisS (星井、四条、我那覇)
9 Rebellion (我那覇)
10 聖炎の女神 (四条)
11 Marionetteは眠らない (星井)
12 FlaME (星井、四条、我那覇)
13 僕たちのResistance (星井、四条、我那覇)
en 1st Call (星井、四条、我那覇)

[Re:FRAME/SUN] セットリスト

1 オーバーマスター ‒Rio Hamamoto Rearrange‒ (星井、四条、我那覇)
2 FlaME (星井、四条、我那覇)
3 キミはrelations-mix MEDLEY (星井、四条、我那覇)
4 Pon De Beach (我那覇)
5 KisS (星井、四条、我那覇)
6 Next Life (我那覇)
7 edeN (星井、四条)
8 Fate of the World (星井、四条、我那覇)
9 1st Call (星井、四条、我那覇)
10 風花 (四条)
11 DREAM (我那覇)
12 Day of the future (星井)
13 ダンス・ダンス・ダンス (星井、四条、我那覇)
en Colorful Days (12 Colors) (星井、四条、我那覇)

©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.

(TEXT by tabata hideki) 
 
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