NSGグループ
NSGグループの新潟医療福祉大学健康スポーツ学科・越智元太講師、新潟医療福祉大学診療放射線学科・大野健講師、筑波大学体育系の桑水隆多助教らの研究グループは、仮想現実環境 (VR) と自転車運動の組み合わせが、自転車運動のみの場合よりも実行機能と気分を高めることと、運動時の気分の高まりが実行機能向上効果と関係することを明らかにしました。
この研究は、2024年10月15日付けで、身体活動とメンタルヘルスに関する国際専門誌である「Mental Health and Physical Activity 」に掲載されました。
■研究概要
仮想現実環境(VR)を活用した運動は、気分を向上させる効果があることから運動習慣化の一因として注目されていますが、その脳機能への影響はまだ明らかではありません。そこで今回、VR運動がワーキングメモリという重要な実行機能にどのように影響を与えるか、さらにその神経メカニズムを解明することを目的としました。
本研究では、23名の健康な大学生がVR環境での運動に参加し、心理・認知的評価、さらに機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて評価を行いました。その結果、10分間のVR運動セッションは、運動や休息のみの場合よりも活気気分を向上させ、さらにワーキングメモリ課題(3-back課題)のパフォーマンスを改善することが確認されました。また、VR運動によって向上した活気気分は、3-back課題のパフォーマンス向上と関連していることが示されました。ただし、パフォーマンスの向上に寄与する特定の脳領域は特定できませんでした。VR運動が前向きな気分を高めることで、ワーキングメモリ機能を向上させる最適な運動プログラムとなり得ます。
◆研究のポイント
・VRと運動の組み合わせは気分を向上させますが、実行機能に与える影響はこれまで不明でした。
・本研究から、VRと運動の組み合わせは気分と実行機能をともに高めることが明らかとなりました。
・さらに、VR運動時の活気気分の向上が高いほど、実行機能が高まる関係性が示されました。
・実行機能を向上させる運動プログラムに、運動時の気分への影響が重要であり、VRは気分を効果的に高めることで実行機能を向上させる新たな運動プログラムとなることが示唆されました。
◆研究の方法と結果
本研究では、健常成人23名を対象に、VRと運動の組み合わせ (図1A) が実行機能と気分に与える影響を検証し、それを運動単独、安静条件と比較しました。10分間の安静、自転車運動、VRと自転車運動をすべての研究対象者に課し、その前後に心理尺度、N-Back課題 (実行機能指標; 図1B) の測定を行いました。N-Back課題は、0-、1-、3-Backの3つの難易度で構成され、磁気共鳴画像診断装置 (MRI) の中で脳活動を観察しながら測定されました。その結果、VR自転車運動条件では、その他の条件と比べ、前向きな気分(活気・イキイキした)がより高まりました。難易度の低い0-、1-Back課題では条件間の差は見られませんでしたが、最も難易度の高い3-Back課題において、VR自転車運動条件ではその他の条件と比べ、運動後に有意な課題成績の向上が見られました (図2)。さらに、活気気分の増加とともに実行機能が増加していたことがわかりました。今回、fMRIを用いた解析ではこのVR自転車運動による実行機能や気分の向上の神経メカニズムを特定するには至りませんでしたが、運動による実行機能向上に活気気分の高まりが重要であり、VRはそれを可能にする環境要因となることが示唆されました。
(A) 自転車を漕ぐと周りの景色も移動し、仮想空間を移動しているように感じる。
(B) N-Back課題の例。(a)(b)(c)(d)の順番で1枚ずつ提示され、N個前の図形の色と今提示されている図形の色が同じか判断させる。この例において、3-Back試行時には、(d)が提示された時、三つ前の(a)と同じ色なので、ボタンを押すよう指示する。
実行機能指標である3-Back課題の運動・安静前後の反応時間の変化。反応時間が短いほど高い実行機能を示す。VR運動条件では、安静・運動条件と比べ、運動前後で反応時間が有意に短縮し、実行機能が向上した。
◆研究助成
本研究は文部科学省・日本学術振興会科学研究補助金(JP22K17739、JP23K14904、JP19H01090、JP20K20621、JP21H03310)、新潟医療福祉大学共同利用共同研究費による助成を受けて行われました。
◆原論文情報
論文名:Exercising with virtual reality is potentially better for the working memory and positive mood than cycling alone
著者:*§越智元太1,5、*大野健2、桑水隆多3、山代幸哉1,5、藤本知臣1,5、五十嵐小雪1,5、児玉直樹2、大西秀明4、佐藤大輔1,5
1)新潟医療福祉大学健康科学部、2)新潟医療福祉大学医療技術学部、3)筑波大学体育系、4)新潟医療福祉大学リハビリテーション学部、5)新潟医療福祉大学運動機能医科学研究所 (*:筆頭著者、§:責任著者)
掲載誌:Mental Health and Physical Activity
DOI:https://doi.org/10.1016/j.mhpa.2024.100641
◆研究に関する問い合わせ先
新潟医療福祉大学 健康科学部 健康スポーツ学科 越智 元太(おち げんた)
Tel: 025-257-4595 E-mail: [email protected]
ホームページ: https://ochi-lab.wraptas.site/
新潟医療福祉大学 医療技術学部 診療放射線学科 大野 健(おおの けん)
Tel: 025-257-4708 E-mail: [email protected]
【新潟医療福祉大学】 https://www.nuhw.ac.jp/
全国でも数少ない、看護・医療・リハビリ・栄養・スポーツ・福祉・医療ITを学ぶ6学部15学科の医療系総合大学です。この医療系総合大学というメリットを最大限に活かし、本学では、医療の現場で必要とされている「チーム医療」を実践的に学ぶことができます。また、全学を挙げた組織的な資格取得支援体制と就職支援体制を構築し、全国トップクラスの国家試験合格率や高い就職実績を実現しています。さらに、スポーツ系学科を有する本学ならではの環境を活かし、「スポーツ」×「医療」「リハビリ」「栄養」など、スポーツと融合した学びを展開しています。
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