「PS4 Proはいいぞ」やVR化したい旧作など、SIE吉田修平氏が語るPlayStation VR発売後の今
PlayStation VRの伝道師といえば、みんな大好き吉田修平さんということで異論はないでしょう。今回はPANORAのためにわざわざ貴重な時間を割いてインタビューの時間を確保してくれた。もちろんVRに特化した媒体であるPANORAなので、メインは当然VRの話題に。他社のゲーム媒体とは一味違った切り口でのインタビューになった……はずだ。まずは改めて吉田さんのプロフィールから。
吉田修平
ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド スタジオ プレジデント。旧ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)設立時からの参加メンバーで、90年代はSCEJのゲームプロデューサーとして「クラッシュ・バンディクー」シリーズ、「サルゲッチュ」シリーズなどをプロデュース。2000年4月よりSCEA VP、2007年2月からSCEワールドワイド・スタジオ(WWS) USスタジオSVP。「ラチェット&クランク」シリーズ、「ゴッド・オブ・ウォー」シリーズ、「アンチャーテッド」シリーズなどに携わる。2008年5月よりSCE(現SIE)の全タイトルを統括する現職に。ゲームソフトウェアだけでなく、PlayStation VR、PlayStation Moveの開発にも携わる。SIE社内では「お菓子おじさん」、あるいは「VRおじさん」。近年はニュース番組に一般人扱いで登場し「50代男性」としても有名。
2000年4月~ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカVP、2007年2月からSCEワールドワイド・スタジオ USスタジオSVPです。SCE WWS プレジデントは2008年5月からとなります(本年4月よりSCE→SIE)。
基調講演で巻き起こった「Yoshida!」コール
──まずは今回の基調講演「PlayStation Showcase」ではまさかの「吉田コール」が巻き起こってびっくりしました(笑)。吉田さんに限らず、SIEのエグゼクティブってアメリカのゲーマーにすごい人気なんですけれども、その点はどう思われますか?
PlayStation Experience 2016 PlayStation Showcase
吉田 どうなんでしょうねぇ。日本の方には、前から半分冗談で「私、海外ではすごく人気なんですよ」って言っているんですが。2000年からアメリカにいて、2008年まで現地のスタジオの仕事をしていて、いろいろなメディアで会社を代表してしゃべったり、インタビューを受けたりという機会があったので、ユーザーの方々に親しみを感じてもらっているのだと思います。私自身もゲームをやるので、そういうところも影響しているのかもしれません。
──それでは改めて。PlayStation VRの発売を迎えて、日本とワールドワイドでの反応はいかがでしたか?
吉田 日本でVRが注目されてきたのは今年に入ってからですよね。去年の終わりには欧米やアジアはかなりいい感じで盛り上がっていた一方で、日本ではVR好きな人が中心だった。その雰囲気が、今年に入ってから急に変わりましたね。
ゲーム関連だけでなく他の業界の企業にも注目されて、「どうしてもつくりたい、やりたい」という人だけでなく、ビジネスとして取り組みますという姿勢の会社も一気に増えています。そういうこともあってか、日本市場におけるPlayStation VRの在庫はあっという間になくなってしまいました。それにはいい意味で驚きましたね。内容に関しては非常に好評をいただいていると思います。それは全世界変わらずです。
──アメリカでは一時期出荷が集中してて、「Amazon.comでも買えるよ、日本発送できるよ(笑)」ということもありました。現在、出荷のバランスについてはどうなんでしょうか。
吉田 そうですね、やはり売れ行きや需要などを見ながら調整はしていると思うんですけれども、基本的には欧米も売り切れている状態なので、世界各地から「もっと欲しい」と言われてますね。
──供給スピードはこれ以上上がらないんですか?
吉田 急には難しいですが、少しずついろいろな部品や製造ラインを強化しています。
──今回の取材では、アメリカのショップも見てきました。日本ではダウンロード販売が主流で、現在パッケージのタイトルが3本(*1)ですが、こちらでは「Battlezone」や「バットマン:アーカムVR」などのソフトがパッケージとして売しておりました。需要はあるのですか?
吉田 不思議な話ですけれども、パッケージが好きなのは日本の方々ですよね。ただ、アメリカでは大手の流通のお店さんが非常に強くて、やはりそういうお店で買われる方は相変わらず多いですし、流通の方とのビジネスを強化する意味でもパッケージのタイトルを多く出せているというのはお互いにとっていいことだと思います。ですからフルプライス(*2)だけではなくて、少し抑えた30、40ドルといったタイトルも含めて、多くがディスクで出てます。
──「バットマン:アーカムVR」も20ドルで出てますね。
吉田 SIEの「Until Dawn: Rush of Blood」も安価でディスクが出ています。
──PlayStation4 Proが発売されましたが、4KTVを持っていない、けどPS VRはある、といったユーザーさんも買う機会が増えたというのはあるのでしょうか。
吉田 そうですね。多くのタイトルがPS4 Proに対応してくれました。タイトルが対応しないと何も変わらないのですが、PS4 Proで動かすとレンダリングの解像度を上げたり、リアルタイムのエフェクトを追加したりといった手を加えることで、綺麗になるというタイトルが多いですね。SIEのタイトルもほとんどのものがPS4 Proだとグラフィックがよくなっています。それに気づいた方々が口コミで「PS4 Proはいいぞ」と話してくださっているのが伝わっていると思います。4KTVを持っていなくても、PS VRなどでPS4 Proのよさが楽しめますので、それは広まってよかったな、と思います。
──今はPS4 Proへの対応は必須になったんですか?
吉田 基本的には対応してくださいとお伝えしています。ただ、タイトルの発売時期によって対応の仕方は相談していますので、徐々に対応することが基本になっています。すでに出ているタイトルはタイトル側の判断で(PS4 Pro対応は)必須ではないです。
──これからのタイトルはほぼPS4 Pro対応必須に?
吉田 例えばインディーデベロッパーとか、プログラマーさんが一人でやってるようなタイトルなど、いろいろ事情もありますので、タイトルによる部分もあるとは思いますが、基本的にPS4 Proに対応するのはそんなに難しくないですし、やった方がタイトルのためにもなりますよ、というお話はさせていただいています。
──びんぼうソフトさん(*3)の「ローラーコースタードリームズ」もPS4 Pro対応ですが、確かあそこ(社長)一人でやってるんですよね。そういうことを考えると。PS4 Pro対応にプログラマー1人、1日つければ大丈夫という話もあります。
吉田 そうですね。わりとやりやすい手法と、手の込んだやり方もありますが、やりやすい方でもかなりの効果が出る場合もあります。
──ちなみにPS VRの発売台数をお聞きしたいのですが、今は言えない感じでしょうか……?
吉田 そうですね。
──ソニー本体の業績発表会の中で発表する可能性はありますか。
吉田 現時点でその予定はありません。今後いずれそういう話ができる場合もあるとは思います。
──PlayStation Moveの時は1000万本突破した、というリリースを流しましたよね。
吉田 そうでしたね。PS VRについてはまだ売り切れで、一生懸命作っている状態なので様子を見ています。
吉田さんオススメのVRタイトルは?
──VRと関係はないのですが、今回、「パラッパラッパー」「パタポン」「ロコロコ」「ワイプアウト」といった旧作のPS4向けリマスターが発表されました。他社さんになりますけど(*4)「クラッシュ・バンディクー」の初期作品のリマスターも明らかになっています。そこで、吉田さんがVRでリマスターしたいWWSのタイトルはありますか?
吉田 よく希望を頂くのは「Jumping Flash!」(*5)ですね。実際にやってどうなるかわからないけれどもVRでやってみたいという話は聞きます。
あとはホラーものとVRはよく合うので「SIREN」(*6)。実は「SIREN」は海外でもPS2版をエミュレートしてPS4で遊べるものがあるんです(*7)。それをシネマティックモードで遊んでいますが、結構合ってて怖いです。シネマディックモードでは画面全体が暗いじゃないですか。なので割と馴染むんです。
──ちなみに個人的にVRでやってほしいのは「ファンタビジョン」(*8)なんですよね。
吉田 あぁ、それ合いますね! PCでは花火を見るVRソフトもありますし。確かにPS2ソフトでは「Rez Infinite」もそうですが、シンプルなグラフィックスのものってVRに合いますよね。今ならパーティクルを強化すればいいものになると思います。
──では「SIREN」のVR化は手が空いた外山さん(*9)にお願いするとして(笑)、今後出てくるタイトルのおすすめをWWSタイトルと今回出展されたサードパーティタイトルで教えてください。
吉田 WWSのものでは、やはりエイムコントローラーも含めて「Farpoint(仮)」ですね。VRで実際に大きな銃を手に持って思った通りに動けるのは楽しいですし、VRでFPSが遊べるかどうか、という一つの答えかと思います。
今回発表させていただいた「StarBlood Arena」も、360度自由に動けますがまったく酔わないというタイトルになっています。デベロッパーさんがいろいろな工夫をして自由にコントロールできつつ、酔わないつくりにしていますよね。これもオンラインでマルチプレイをやると盛り上がると思います。
──あのゲーム「ディセント」のスタッフがつくったのでかなり「ディセント」っぽいな、と思いました。
吉田 そうです。もともとのコンセプトが「ディセント」をVRでやりたい、というところから始まって、それが発展してマルチプレイで、アリーナ対戦になって……という。もちろん、シングルプレイも用意しています。
──「RIGS」もそうなんですが、VRのオンラインタイトルってユーザー数が少ないのが現状だと思います。例えばEAさんが「タイタンフォール2」でやられているようなオンラインの体験版を配布して特定の週末に遊べるような施策(*10)などは考えていらっしゃいますか?
吉田 そうして製品版のユーザーを増やすという施策ですね。それ以外にも「RIGS Machine Combat League」でも開発者と一緒に対戦しましょう、というイベントをやっているんですね。特定の週末にやりますので、というアナウンスをして。これはPS4のイベント告知機能から調べることができますので随時確認してみてください。それからPSXでは出展していませんが日本で開発されている「V!勇者のくせになまいきだR」はテーブルトップのVRゲームとして遊びやすくておすすめです。
──サードパーティタイトルではいかがでしょう。
吉田 他社さんのタイトルも新しいものがたくさん出てきて、遊んでいて楽しかったですが、ひとつ挙げるとするなら「Dino Frontier」ですね。あれもテーブルトップなんですが、キャラクターがかわいいですね。街をつくっていきながら恐竜を育てたり、戦ったりするという、ステージクリア型のシミュレーションです。
──「V!勇なまR」や「O!My Genesis VR」などを含めてそういうタイトルも多いですね。
吉田 そうですね。いろいろ試してこれは合う、というスタイルが浸透してきているのではないかと思いますね。最新版はプレイできていないのですが、「エースコンバット7」ですね。出展しているバージョンでは、もっともっと進化していると思います。コックピット物はVRに合ってますね、座ってプレイできますし。高いところを飛んでいる感覚が半端ないです。
──「Star Wars バトルフロント:ローグ・ワン X-ウイング エクスペリエンス」もありますしね。
吉田 あれも非常に素晴らしい出来です。私も最近プレイさせていただいたのですが、ゲームをスタートさせるとAT-ATが登場して、あの段階で非常に盛り上がりますね。クライテリオン(*11)がつくっていると聞いて、すごくいい仕事をしたと思っています。もともとアセットが高解像度で作られているので、その良さをうまく活かしている感じはありますね。
あとは「バイオハザード7」ですね。私は9月の東京ゲームショウでやらせていただいたのですが。
──「Lantern」版ですね。
吉田 そうです、隠れて逃げるやつ。あれは怖いですね。下手に自分が攻撃していくよりもあの方が怖かったですね、ただただ、見えないように隠れて通り過ぎるのを待つという……。その方が合ってますよね、あまりウロウロするよりは。今回のPSXはアップデート後のものが出展されているようです。
──「ビギニングアワー」のアップデート版ですね。E3出展版をさらにブラッシュアップしたやつで。
吉田 カプコンさんもすごく工夫されてますよね、コンフォートの部分に色々な仕組みを入れてていいサンプルになるかと思います。
──最後に、PANORAの読者の皆様にメッセージをお願いします。
吉田 今年はおかげさまでPlayStation VRを予定通り発売できて、最初から「Rez Infinite」や「サマーレッスン」といったいろいろな素晴らしいソフトも出していただいて、反響もよくてよかったと思っています。
来年からはいよいよサードパーティさんも含めて力の入ったタイトルがラインナップに入っていますし、PCなどでもいろいろなタイトルが発表されていますが、そのタイトルがPS VRでも遊べるようになっていくんじゃないか、ということも含めて期待していただきたいな、と思います。
ただ、PS VRそのものが手に入らないという状態がまだしばらく続いていますので、それは一生懸命製造数を増やして買いやすい状態にする努力を続けていきますので、もうしばらくご辛抱をお願いします。
*1 日本ではPS VR専用パッケージソフトとして「RIGS」「PlayStation VR Worlds」「DriveClub VR」の3本が発売中。
*2 一般的なゲームの値段でアメリカだと60ドル(Sales Tax別)程度。日本だと7000〜8000円台。
*3びんぼうソフトは社長一人の会社として知られている。「ローラーコースタードリームズ」をPS4 Proで動かすと遠景のグラフィックが微細化される。
*4 PS1時代の「クラッシュ・バンディクー」シリーズはPS4チーフアーキテクトとして知られるマーク・サーニーがUniversal Interactive Studios在籍時代にNaughty Dogとともに開発。IPの権利はUniversalが所有し、ローカライズ・販売をSCEが手掛けるという体制になっていた。現在はActivision BlizarrdがIPの権利を保有し、リマスターの開発も同社傘下のスタジオが行っている。
*5 PS1初期の作品で、浮遊島を舞台とする3Dアクションゲーム。通常では3段ジャンプができ、その浮遊感が人気を博した。メインシリーズは2作作られ、その後スピンオフタイトルも登場。登場する「ムームー星人」は初期のプレイステーションのマスコットキャラクターになった。
*6 PS2で2作品、PS3で1のリメイク(主要人物が外国人になっている「新訳」版)がリリースされたホラーアドベンチャーゲーム。ゾンビとは異なる生理的に嫌悪したくなるようなデザインの「屍人」やそれを含めた登場人物の視界を乗っ取って状況を把握できる「視界ジャック」という独特のシステムが話題になった。テレビCMがあまりの怖さに一日で放映中止になったこともある。
*7 PS3におけるPS2エミュレーションと同様な形で実現しているPS4ソフト。アメリカでは「Star Warsバトルフロント」「ディズニーインフィニティ3.0」の本体同梱版に付属した「スター・ウォーズ」関連タイトルが第1弾となり、その後欧米では多くのPS2タイトルがPS4向けに発売されている。
*8 PS2のロンチタイトルとして発売された花火を題材にしたアクションゲーム。同色の花火を3つ以上繋げて起爆させるのが目的。当時としては美しいパーティクル表現や特定条件で発生するスターマインモードが話題になった。
*9 外山圭一郎氏。SIEジャパンスタジオゲームディレクターで、PS2時代には「SIREN」シリーズを担当。現在は「GRAVITY DAZE 2/重力的眩暈完結編:上層への帰還の果て、彼女の内宇宙に収斂した選択」を開発。マスターアップしたので手が空いた、と言ったものの、3月に追加DLCが無償配布されるため、作業が終わってないことをすっかり失念。いけないいけない、テヘッ。
*10 「タイタンフォール2」の無料開放はPlayStation Experience当日に開催された。このような施策は他にも「オーバーウォッチ」(Blizard/国内発売元:スクウェア・エニックス)や「Rainbow Six: Siege」(ユービーアイソフト)が実施している。
*11 イギリスにあるエレクトロニック・アーツの開発スタジオ。代表作は「バーンアウト」シリーズ、「ニード・フォー・スピード モスト・ウォンテッド(2012)」など。
(TEXT by Shogo Iwai)
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