MRこそがコンピューティングの未来 HoloLensの父・キップマンが基調講演で伝えた想い【de:code】
日本マイクロソフトは23、24日、ザ・プリンス・パークタワー東京にて同社の開発者向けイベント「de:code 2017」を開催中だ。3時間にわたる基調講演の終盤では、HoloLensやWindows Mixed Reality(Win MR)の生みの親であるテクニカルフェロー、アレックス・キップマン(Alex Kipman)氏が登壇した(ニュース記事)。
同氏の講演は実は米国以外で初となるが、それもHoloLensが今年1月に日本で発売されて以来、コミュニティーイベントが多数開催されたり、小柳建設やドワンゴなど活用事例も続々と増えていたりと、大きく盛り上がっている背景があるだろう。日本の開発者の熱意が海を越えて伝わって、発売からわずか5ヵ月での「本人降臨」につながったわけだ。
その基調講演にて、キップマン氏は日本の開発者に何度も感謝を伝えて、一緒にMixed Reality(MR)の世界をつくっていこうと呼びかけた。さらに「パーソナルコンピューティングからコラボレートコンピューティングへ」とという、みんなが目指すべき2、3年先のビジョンも示した。ほぼ全文を起こしてまとめたので、VR/AR/MRに関わるすべての開発者はぜひ読んでほしい。
日本は最も成長しているMR市場
こんにちは、de:code。こんにちは、Tokyo。こんにちは、Mixed Reality Developers──。
この場に来ることができて大変光栄です。とても信じられないことでです。12ヵ月前、私たちが最初のHoloLensをアメリカとカナダでリリースしたときのことを今でも覚えています。それ以降、あなた方はどのプラットフォームやどのデバイスでも実現できない体験をつくってきてくれました。
そして本当に活発なコミュニティーが生まれています。ここ1年間で2万2000人の開発者たちが、7万件以上の驚くべきコンセプトを公開してくれています。そして累計で50万もの時間をみなさんがつくった体験の中で過ごしたことになります。
昨年1年間は、本当に刺激を受けました。その中で最も感銘を受けたイノベーションは、ここ日本で生まれたものです。例を挙げると、MRは幼稚園から大学まで、日本における教育や学習の仕方を変えたわけです。物理学や化学をMRで体験できるようになったらどうなるでしょうか。
もうひとつ本当に刺激を受けている会社が、谷口直嗣さん、杉本真樹先生の2人が中心のHoloEyesです(関連記事)。非常に高解像度な3D画像を患者の上にそのまま載せて、手術の準備ができます。外科手術を行いながらも、3D画像を見られるわけです。私たちがHoloLensをリリースしてから1年しか経っていないのに、6ヵ月前にこうしたプロダクトが出てきました。
日本は最も成長しているMR市場だと思います。世界中で、日本においてもMRのハッカソンが行われているのは、本当に驚くことです。みなさんのような開発者が一緒になってお互いに学び合う。チームとして、会社として試みる。そんなみなさんがプログラムによって世界をどう変えつつあるのか、実際に見てみましょう。
本当にクレイジーですよね。このビデオは何回も見たんですが、それでも見るたびに鳥肌が立って、本当に刺激を受けます。みなさんのインスピレーション、クリエイティビティー、過去2ヶ月にわたる素晴らしいフィードバックにお礼を申し上げたいです。MRは私たち全員の長い旅で、メインストリームにするためには一緒にやっていくしかないのです。
現実とバーチャルを同期させるMR
ではMRの話をしましょう。過去12ヵ月間、私自身はさまざまな業界でいろいろな話を聞いてきました。VRなのか、ARなのか、そして最初に伸びるのはどっちなのか。開発者なら、多分どちらかにかけることになってしまう。
しかしながら、私たちが混乱してはいけません。VR、AR、ホログラムは、決して別のコンセプトではありません。それらは単なるラベルで、MRというひとつの世界をさまざまな角度から見ているに過ぎないのです。
VR、AR、ホログラムと別々に使うのではなく、実はMRがすべてを包括するものになるのです。MRを使うことで、現実のもの/人/場所を、バーチャルなもの/人/場所を混ぜ合わせることが可能になります。実際に、絵を使いながらどうなるか見ていきましょう。
この写真にあるのが現実のオフィスです。そして中にいる人も本当の人間です。では、私たちがMRの中に入って、現実とバーチャルのもの/人/場所を組み合わせたらどうなるのかを見ていきましょう。
MRをオンにして中に入ると、物理的なスペースに色々なものが入ってきます。例えばテーブルの上にSkypeアイコンが載っていたり、ウィンドウが浮かんでいます。床には子犬がいますね。
もう一段進めて、人をアバターに変えてみると、物理的にこの部屋にいなくても、アバターとしてこの場所に存在できるようになります。
環境そのものもバーチャルにしてみましょう。バーチャルなもの/人/場所が、この空間に存在します。
そして最後に実際の場所とスペーシャルマッピング(HoloLensの空間認識機能)を組み合わせます。周囲に見えるドットで実際の壁や床、天井、テーブルなどを現実の空間にマッピングすることで、バーチャル空間を自由かつ安全に歩けるようになるわけです。これが未来で、私がMRと言及する際は、この世界を指しています。
将来においては、例えば、透明にするのか、それとも半透明にするのかというのはユーザーが決めることはありません。デバイスのほうで環境を見ながら、どちらがいいかを決めてくれるからです。これによって、自分たちが今いる周辺の環境に基づいた新しい体験が生まれてくるわけです。
MRはこれから先、私たちの仕事やコミュニケーション、遊び方、学び方を大きく変えていきます。医療、公共部門、航空機関、建設、ハリウッドなども変わっていくでしょう。企業はMRを使ってデジタル的に変わろうとしています。日本の建設会社の変革例を見てみましょう。
会場にいらしている小柳建設の方、ぜひ立ってください。みなさんに本当に刺激を受けました(会場から拍手)。ところでMRの開発者で今、HoloLensをかけている方。私はみなさんも大好きです。あなた方は刺激の源です。
Windows 10はこうしたMRを可能にする唯一のOSで、みなさんのようなパートナーにこれだけの選択肢と可能性を提供できる存在です。そしてMRで最も完璧なプラットフォームで、さまざまなゴーグルでお互いにコミュニケーションができる唯一のプラットフォームでもあります。
そして共通のインターフェースを使いながら、標準化されたインプット、ユニバーサルアプリ(UWPアプリ)のプラットフォームを使いながら、さまざまな開発を可能にしています。繰り返しますが、Windows 10こそがMRデバイスのためにつくられた唯一のOSで、最も入手しやすく、最も没入感あふれるVRの体験、かつ独立型のコンピューティングを提供できるものです。
しかしそこで終わるわけではありません。今、世界中のパートナーたちと協力しながら、MRをさらに拡充しようとしています。そのひとつの例は日本にあって、モバイルゲームのパブリッシャーであるgumiと協力しながら、これから先、Tokyo VR StartupsとソウルのSouel VR Startupsと協力してプログラムをやっています(関連記事)。
VR、ARという違いを忘れてください。バーチャルなものも、リアルなものも混ぜ合わさっていて、MRとして展開しています。その「青写真」はわれわれ全員が書くものです。過去1年間に色々なソリューションが素晴らしいパートナーから提供されております。
NASAでは、科学者たちが火星の表面を歩けるように再現しました。ケース・ウェスタン・リザーブ大学では、まったく新しい形の医学の教育を受けられます。そしてコミュニケーションの生産性も創造性も豊かにするアプリがみなさんによってつくられて、一般に利用されるようになるわけです。
コンピューティングはパーソナルからコラボレートへ
そうした話を意識して、将来はどうあるべきかを考えましょう。2、3年先はこうした絵の姿になっていくはずで、色々なことが想像されます。この絵には、人とビジュアルオブジェクトが存在します。しかし、これから2、3年の間に大きく物事が変わって、パーソナルコンピューティングが、もっとリッチなコンピューティングに移行する可能性を示しているわけです。
コンピューティングの歴史を振り返ると、70年代から現代まで、すべてのコンテンツはデバイスの中に格納されていたわけです。そしてパーソナルコンピューティングというのは、人間によって制約されていて、ポケットの中(のスマートフォン)や目の前のデバイスを使ってコンテンツを持ち歩いてたわけです。
しかしMRでは、コンテンツはひとつのデバイスに固定されているわけでも、一人の人間に限定されているわけでもなく、その場所に存在していて、デバイスはレンズでしかないわけです。
この会場でアニメファンの方々は手をあげてください。私もアニメの大ファンです。アニメは色々なコンセプトになじみを持てる存在です。
このテーマには、インターフェースやコントロール、パーソナルアシスタントも存在していません。このコラボレーションを通じてのセッションではAIが中心に置かれていて、音声を通じてやりとりできます。2人の人間は自分の対話について、AIを通じてやりとりしています。今日んの基調講演でもbotなど色々な話が出ていましたが、人間の体とAIを組み合わせるとどうなるでしょうか。
コラボレーションの際には、他の人と会話したいわけですが、ここでUWPの力が発揮されます。UWPはMRのために設計されたものではありませんが、MRはいろいろなものを網羅できます。
MRゴーグルを持っておらず、Surface Studioの前に座っているユーザーもこの対話に誘えます。こうした人たちも網羅したい。
さらに4人目としてに参加した人は、コンソール(Xbox)用のゴーグルです。
4人のうち、1人はパソコン、1人はコンソールとVRデバイスで、あとの2人は自己完結のホログラフィックコンピューターを使ってやりとりしています。物理的にその場にいないことを忘れるほど、気軽に参加できるわけです。こうしたプレゼンス(実在感)の可能性を想像してみてください。直接会いに行かなければならなときでも、こうした場を使って対話できるようになります。
パソコンを使っている女性は、ヘッドセットなしでも、視線を使うことでボットとやりとりできるようになります。特に許可を求めたり、ボタンを押したりしなくても、コントローロールしなくても、キーボードとマウスを使ってアクセスできます。
Xboxで参加している人は、われわれの新しいモーションコントローラーを使っています。そしてHoloLensを使っている人間は、視線やジェスチャー、音声で自然な入力ができるわけです。これが標準化されたインプットの力です。人々はあたかもそこにいるかのようにコラボレーションできます。
「Pinterest」のボードを出して欲しいとお願いすると、ウェブブラウザーの「Edge」が起動して、さらにWebVRを使って画面の中からイスを引き出して他のところに置けます。3Dクリエイターだったり、なろうと思っている人たちは、すでにこうしたMRを利用できる状況にあります。
この場に参加している4人の人間は、パソコンやVRのコンソール、HoloLensと異なるデバイスでアクセスしていて、インプット方法も違いますが、お互いにやり取りすることができます。他の人が急にアクセスしたとしても、コンテンツはそのまま残るわけです。
これがパーソナルコンピューティングからコラボレートコンピューティングへの移行です。まだMRの開発に関わっていない方はぜひ参加していただいて、これから2、3年かけてコラボレーションを通じてみんなで実現しましょう。MRこそがコンピューティングの未来です。それはWindows開発者のみなさんによってつくられるわけです。
最後に新しい2人がHoloLens、1人がVRゴーグルで同じ空間にログインして、今日来るクライアントのためにMRで店舗デザインを話し合うというコラボレートコンピューティングを実践した映像が流された。
ボットに話しかけてさまざまなテイストの3Dオブジェクトをあたりに出現。そこからインスピレーションを得て最終的に禅テイストに仕上げて、やってきたクライアントにHoloLensで見てもらってOKが出る──というストーリーだった。
【オマケ】キップマン・ミニ写真集
*Build 2017・de:code 2017のまとめページはこちら
(TEXT by Minoru Hirota)
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