gumi・國光氏が語るXR業界の市場予測──今、VR/ARの未来を信じられる人が10年後の大成功をつかむ
VR/AR/MR(まとめて「XR」)というキーワードは、2017年のIT業界でも大いに注目を集めたものの、実際はどんな企業が参加していて、どんな実績を残して、将来的にどう発展しそうなのか。
7日に開催されたスタートアップ系イベント「Tokyo VR Startups Demo Day」にて、XR産業に多大な熱意とお金を投じているgumiの代表取締役社長・國光宏尚氏が登壇して、非常にわかりやすく現状と未来予測をまとめていた。本年の業界を振り返るという意味でも非常に有用なのでまとめてレポートしていこう。
本記事を読めば、「ファントム オブ キル」や「誰ガ為のアルケミスト」といったヒットで目立っているスマホゲームの企業と思いきや、XRにも非常に力を入れているのがわかるだろう。
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この2年間、世界でネットワークやエコシステムを広げてきた
gumiグループでは、インキュベーション、ファンドへの出資、自らのコンテンツ開発という3つの体制でXRに取り組んで来た。
Tokyo VR Startups(TVS)は、多くの企業に協力いただいて成り立っている。
例えば、TVSの2016年第1期メンバーは、5社中4社が資金調達できて次の投資ラウンドに移った。こうしたDemo Dayというイベントは次のシリーズにいけるかどうかが重要で、4社が成功して次に行けたのはかなりの成功。
2期の4社もシリーズAを完了。スタートアップとしてはかなり高い確率で次のラウンドの方に移れている。
やるんだったらグローバルに広げていこうということで、韓国にも同じプログラムを広げて……。
第1期が今年の5月30日に終わり、4社中3社が次のステージに移れた。韓国では2期も始まっているが、ロケーションベースドVRに関係したところが多くて、さすがインターネットカフェ大国の韓国と感じる。
東京、韓国の経験を世界に広げるために今年3月、北欧最大のメディア会社と一緒に「Nordic VR Startups」を始め、ちょうど先週にフィンランドの一大スタートアップイベント「Slush」に合わせてDemo Dayを終わらせて来た。
「終わったあとはサウナに入って、酒を飲みまくって、氷点下の海に飛び込むというのを2日間こなした」と國光氏。
テクノロジーやイノベーションの中心であるシリコンバレーでも、「The Venture Reality Fund」に参加している。
グローバルで見たVR業界マップ。
参加企業が多くなり過ぎた(!)ので、ヨーロッパだけ分けたマップも作成。
さらにARの業界マップ。「1年前はほとんどなかったのが、今の時点で一体何社あるという感じ。1、2年前に比べて質・量共に拡大しているとすごく感じている」と國光氏。
このThe Venture Reality Fundも極めて順調で……。
合計21社に投資して8社がラウンドアップ、1社がエグジット済み(Owlchemy Labのこと)。
VRの発展にはキラーコンテンツが絶対に必要なので、3ヵ所でゲームを開発している。よむネコでは、VR時代のMMO、つまり「ソードアート・オンライン」をつくろうと盛り上がって進めている。来年の前半にはアーリーアクセスバージョンがお見せできると思っているので期待していてください。
XRは本当に立ち上がったばかりで、しっかりマーケットを作っていくのが重要なので、世界でネットワークやエコシステムを広げようとして来た2年間だった。
100万ドルを売り上げたVRソフトが8本から18本に
今、VR市場どうなっているのか。こうした成長曲線はよく見ますが、僕はかなり順調に成長してるんじゃないかなと思います。
スタートアップが450社を超えて、今年10月までに約23億ドル(約2600億円)がXRに投資されている。今年後半は特にエンタメ領域が伸びていて、前年同期と比べると79%増。
改めてVRにはの2つの大きな可能性がある。1つはPlayStation 4の次みたいな次世代のエンターテインメントデバイス。もう1つはネットワーキングデバイスで、ポストスマホになる。
ゲーム機器としてのVRの未来について、僕は限りなくポジティブに考えている。今までのゲームの歴史を振り返ると、ハードが売れるときには今まで見たことがない「WOW!」という体験にお客さんが付いて来た。最初にWiiをやった興奮をはるかに超える体験が、今のVRでも提供できているのではないか。
そのハードがしっかり売る重要になのは価格とキラーコンテンツ。価格で言うと、家庭用ゲームの歴史で500ドルを越えるハードは5万人以上に売れたことは1回もない。そこを切ってきて399ドルに到達すると一気に伸びてくる。
この数字は僕が色々な人と話して推測したものだけど、多分そんなに違っていない。去年末で160万台が、今の時点は400万台ぐらいまで、ロケットではないけれども順調に数字を伸ばしてきてるのかな?(*編集註:PS VRが累計実売200万台というニュースがこの講演後に出ました)
VRハードの欠点ははっきりしていて、値段が高いし、コードも危ない。本当のVRの勝負は来年の後半から再来年にかけて。Oculusの一体型「Santa Cruz」に続いて、各社がセンサーレス・コードレス、かつハンドコントーラーも使えて、装着すると今のVIVEのクオリティーでコンテンツが始まる一体型を500ドルを切る値段で出してくるんじゃないか。
そうなると、あとはキラーコンテンツが出るかどうかでVRの未来が変わってくる。それはゲームの歴史を見ればわかりやすい。一番最近ではNintendo Switchで、発表当初は「これは無理だろう」と言われていたものが、ふたを開けてみれば世界的な大ヒットになった。
なぜみんな流行らないかと思った理由はシンプルで、ソフトがゼルダしかないから。でもゼルダが究極に「神ゲーム」だったから、みんな買っていった。エンターテインメントビジネスは、適切な値段でハードが出て、どうしてもやりたくなるコンテンツが1本出たときに一気に市場が立ち上がってくるのかなと。
コンテンツの現状は、多分みなさん思ってるよりも意外に早く成長している。ちょうど去年の今頃はSteamで8本のゲームが100万ドル以上の売上を達成していたが、今年は10月末まででも18本に増えた。PlayStation VRやOculus Riftは足してない数字で、年末、Bethesdaなどが怒涛のようにゲームを出しているので、すべてのハードを併せるとおそらく38本になると思う。まだトータルで100万台のVIVEでこの数字なので、「ニンテンドーWii」ぐらいハードが出ると100倍ぐらいに膨れ上がるポテンシャルはある。
2020年のARグラス登場に向けて備えるApple
もうひとつの可能性としては、VR、AR、MRとつながる流れ。特に今年はARが注目で、Appleの「ARKit」が出たことで一気に市場が拡大していっている。
まずAR一番最初に口火を切ったのは、Microsoftの一体型である「HoloLens」。これは値段が3000ドルで、技術的にも難しいので値段は一気に落ちることはないため、コンシューマー向けというよりはBtoBで伸びていくと予想している。
そこに出てきたのが、AppleのARKitだった。今までのGoogle Tangoのように特殊なカメラで深度を計測するのではなく、既存のiPhoneのカメラで平面を取ることでCGの出現位置と方向を決められるようになった。ARで一番面白いのは、リアルな場所にバーチャルのものを出すよりは、リアルとバーチャルっていうのを融合できるところだと思っています。例えば、歩いてドアをくぐって恐竜の世界に入って、後ろを向くとリアルがあるような体験。
来年はかなりARの年になってくるだろうと思っています。「Pokémon GO」をつくったNianticがハリーポッターをベースにしたARゲームの開発を発表していて、その元祖の「Ingress」も完全にリメイクしたものを来年に出す。よくARはスマホをかざすのが面倒と言われるが、数ヵ月前を思い出すとみんな必死にポケモンを探していたわけで、そうしたムーブメントがIngress、ハリーポッターで蘇ってくるのではないか。そうなったときに多くのスタートアップにも追い風になる。
Appleはかなり明確にAR戦略を発表していて、彼らはVRよりもARに重きを置いている。まずはARKitで3.8億台と言われているiPhoneでARを使えるようにしたうえで、次に出てくるのが「AR Cloud」。ARKitは割と限定的な位置取得だけど、AR Cloudでは現実のこの世界の3Dマップを建物とかも含めてすべてクラウド上に再現する。社会を全部クラウド上に構築した上で、リアルとCGをマッチングしていくというのが2018年に導入されていく。そして今はまだ内側についている深度を計測できるカメラも、2018年から2019年にかけて背面につくようになり、よりさまざまなことが実現できるようになる。
さらに2019年にはARグラスの開発キットをリリースして、いよいよ2020年にメガネ型デバイスが出てくるのではと僕らは思っている。メガネの時代はもう少し先だと思っている人もいるかもしれませんが、2020年の東京オリンピックの年にはかなり多くの人がARグラスをつけてポケモンを捕まえまくっているのではと思っています。
2007年と2017年は象徴的な年。2007年はiPhoneが出てきて世の中すべてが変わった。そこから10年経った2017年は、今まで続いたスマートフォンの時代から、いよいよデバイスがVR、ARに移っていって、見ているものすべてがディスプレイになっていく。そういう新しいインターネットの時代がやってくると思っています。
僕がgumiを立ち上げたのもちょうど2007年。ほかのメルカリやLINEなども含めて成長できてきた理由はシンプルで、「これ何もできない! 性能悪い! 高い! ガラケーの方がいい!」とダメな理由を探すのではなく、その未来を信じて自分の全精力をかけたから勝ってきたのかなと。
2017年のVR/ARもまだまだ問題は多いけど、その問題のすべてがビジネスチャンスで、解決できるところにある。なので、今、VR/ARの未来を信じられる人が、10年後に大きな成功をつかんでいくのでは。せっかくなので日本から世界に飛び出して大成功する会社を一緒につくっていけたらなと思っています。
Tokyo VR Startupsも4期を引き続きやっていって、名前も「VR」だと「VRしかないのか」とよく言われるので、AR、MRも含めて「XR」に変えていきますので、みなさんよろしくお願いいたします。
(TEXT by Minoru Hirota)
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