ライブ体験の歴史を変えた「輝夜月 LIVE@Zepp VR」レポート 玄関開けずにVRで最前列ってヤバい!!
照明やスモークでライブ感がマシマシに
最後にVRゴーグルを使ったVRライブについてもまとめていきたい。今回のVRライブで感じたいいところは、ざっと以下のような感じだ。
●月ちゃんに近づける!
リアルでは指定席だったり、スタンディングでも位置固定になってしまったりすることが多いが、VRでは最前列から最後列まで自由に動いて好きなポジションで見られる。残念ながらステージには上がれないのだが、極限まで月ちゃんに近づいて目の前に感じられるのがとてもいい。
●みんなで楽しめる!
200人という人数で、同じシーンに同じエモーションを出したり、月ちゃんの指示に従って動いたりするのがとにかく楽しい。VRのライブというと、一人で見ている感が強くなりがちだが、今回は会場の一体感を覚えた。
ボイスチャットしたり、ペンライトの色を合わせたり、ウェーブなどはできなかったのだが、それでもエモーションで一体感は得られた。
●光と空気の演出がスゴい!
エンターテインメントといえば、光と音で気分をハイにさせるものも多い。そのために現実のライブでも、照明やレーザービーム、クラッカー、炎といった要素で気持ちを上げて行くわけだが、今回のZepp VRもそうしたライブ演出が素晴らしかった。
例えば、天井からのスポットライト。周囲には焚かれたスモークがただよい、リアルのZeppのような「ライブのあの空間」に来た感覚がある。
レーザービームだけでなく……。
リアルでは、コストや回収の面倒さでここ一番のときにだけ発射するクラッカーも撃ちまくりだ。
極め付けが花火だ。お分りいただけるだろうか。
●壮大すぎるセット
こちらもライブレポの繰り返しになるが、空を飛ぶステージや爆発するエビーバーなど、このライブのために作り起こした舞台や小道具が豪華だと感じた。ライブ前に待機スペースがあるのも、見る側の気持ちを煽ってくれてとてもいい。下世話な話だが、有料ということもあって過去のCluster.のイベントで一番お金がかかっていた印象だ(わずか40分なのに!)。
月ちゃんが飛ぶ!
●自宅から一歩も出ずに他人の目を気にせず楽しめる
ライブとはすなわち祭りだ。前々からこの日を楽しみにして待ち、その瞬間を目撃するために、みんなで同じ場所に集まって興奮を分かち合う。そんな体験を、自宅から一歩も出ずに体感できるのが素晴らしかった(筆者の場合、PANORAの事務所だったが)。
しかも、自宅で1人で見るなら周囲の目を気にせずに思いっきり体を動かせるわけだ。シャイおじさんな筆者なので、特に取材のライブではあまりはしゃげないものの、自宅からの参加なら話は別。さすがに大声は出せなかったものの、Beyond The Moonの「てーあげろ! てーあげろ! ジャンプしろ! ジャンプしろ!」に合わせて全力で体を動かしてしまった。月ちゃんのライブの場合、頭を振るための柵っぽい何かを自宅に用意しておくといいかもしれませんね。
ライブの歴史を大きく変えた一歩
全体をまとめると、特に素晴らしかったのは、みんなで楽しむ「ライブ会場感」を実感できたことだ。
前提として、VRでネット経由で多くのユーザーを一箇所に集めてその動きを遅延なく同期させるというのは、技術的になかなか難しい話になる。そこにリッチな空間演出を加えようとすると、さらにハードルが上がる感じだ。
筆者も過去にVRゴーグルを使った数々のVRライブを体験して来た。もともと日本のVR業界では、キャラもののVRライブが人気を博しており、ユニティちゃんやデレマス、初音ミク、Hop Step Sing!、ネコぱらなど、様々なタイトルでライブ体験が提供されてきた。いずれもリアルタイムではなく、「体験の再生」となる。
これとは別にリアルタイムでのVRライブも増えている。360度カメラを使った実写での事例は割と多いものの、キャラものでユーザーの動きもリアルタイムで同期してとなると、今回のCluster.のほか、アップランドでシロちゃんやばあちゃるくんが使っている「VR LIVE」、岩本町芸能社の「えのぐ」が先日ライブをしたバルスの「INSPIX」、あとは「VRChat」などのソーシャルVRプラットフォームが上げられる。
その中でCluster.は大人数を会場に入れ、エモーションを使って客席の一体感を作り上げるのが得意だが、リッチな空間演出は苦手で、どちらかといえばセミナーやトークライブに向くプラットフォームだった。それが今回のステージで「音楽ライブも全然いけるじゃん!」と180度印象が変わった。ここまでクリエイティブを突き詰めた制作チームに惜しみない賞賛を送りたい。
一方で音楽ライブの体験がよかったからこそ、3曲だけというライブパートの物足りなさが際立った。リアルのライブの参加後といえば、思いっきり体を動かしたり轟音を耳と体に浴びたことによる爽快な余韻が残っているはず。おそらくVR参加者の健康や安全、制作コストなどとのトレードオフだったのだろうが、今回はまだまだ体力が有り余っていて「カバーでもいいのでもっと聴かせて……!」という気持ちだった。
これまた技術的なハードルが高くなるが、やはり付近の観客の声が聞こえないのももったいないと感じた。コールを合わせたり、「る”ーな”ち”ゃーん”」という叫び声を聞けたなら、もっとライブに没入できたはずだ。もちろん自宅では声が出しにくい問題があるが、将来的にはカラオケボックスなどと提携してVRライブのサテライトがつくれるといいかもしれない。
会場が広すぎて隙間が感じられたのも、もったいない要素だ。身体性の話になるが、来場者は会場を自由に移動できるがゆえに前のほうに集まりすぎて後方がスカスカになり、ライブの醍醐味の一つであるひとつの会場に詰めて見ている感覚が薄まってしまっていた。この辺、今後発明されて行くであろうVRならではの空間演出でカバーできそうだし、同期に負荷がかからないようにAIのモブで埋められるかもしれない。
……と、細部ではいろいろ言いたくなってしまうところもあるものの、いいところの方が多すぎて、Beyond The Moonの歌詞にもあるように「最終的に良しなら良し!」というのが率直な感想になる。
最終的に良しなら良し! 「でも幸せならOKです」に匹敵するパワーワードだ。
この「自宅でライブ参加」の先に待っているのは、ライブ体験を非同期で切り売りできる未来だ。ちょうどniconicoで過去に投稿されたコメントを見ながら一緒に盛り上がるように、近い将来、VRでステージも観客もすべて動きを残しておいてあとで体験できる世界が来るはずだ。
平成という30年は、テレビ、PC、スマホとハードでもコンテンツでも「平」面ディスプレーを「成」熟させてきたわけだが、その最後の夏にARでもVRでも空間体験を拡張するライブが盛んに行われているのが新時代の到来を予感させる。
その潮目において、「それは竹www」と破竹の勢いで表舞台に出ていっている輝夜月ちゃんは、時代に選ばれた次世代のアイコンだろう。今後、どう成長して行くのか。次のVRライブが今から楽しみでならない。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・輝夜月(YouTube)
・輝夜月(Twitter)
・輝夜月(公式サイト)