アレックス・キップマンが解説する「ここがスゴいよHoloLens 2」まとめ【de:code 2019】
日本マイクロソフトは29〜30日、日本の開発者向けイベント「de:code 2019」を開催している。PANORA的には、2月のMWCにて発表した一体型のMRゴーグル「HoloLens 2」が注目だ。2017年の来日から早2年、「HoloLensの父」とも呼ばれるアレックス・キップマン氏も登壇したので簡単にまとめていこう。
キップマン氏。
空間に情報を置ける未来のARゴーグル
まずは初心者向けに、HoloLensの何がスゴいのかを簡単に解説しておこう。HoloLensでできることをザクッとまとめると、
・周囲の空間を把握して
・空間の特定位置にCGを配置し
・体を動かして視点を変えたり、手や声で操作できる
・しかもその空間にあるCGを周囲の人と共有できる
……といった感じだ。
ポイントは、CGをまるでリアル空間にあるように扱えるところ。例えば、複数人で別々のHoloLensをかぶり、目の前のテーブルの上にCGのビルを出して、細部に近づいて見たり、手で外装を剥がして内部を見せたりすることが可能だ。
同じビルのCGでも、パソコンやスマホといった平面のディスプレーで見せるとなると、裏側を確認するためにマウスや指でCGを回転することになるが、空間にCGが置いてあれば体を動かして直感的に見られるわけだ。
しかも事前に紙にQRコードを印刷して机の上に置いておくような準備なしに、いきなりHoloLens単体で空間をスキャンし、周囲の環境を把握してピンポイントでCGを置き、回り込んでもスムーズに表示してくれるのがスゴい。
要するにAR(拡張現実感)で、もちろん今のスマートフォンでも似たようなことが実現可能だ。最近では、スマホをかざすと現実空間に誘導アイコンを表示してくれるGoogleマップのARナビゲーションや、街全体を使って遊べるAR版「Minecraft Earth」などが話題だった。
そうしたスマホと比べると、HoloLensは頭にかぶるので端末を持たなくて済むのがメリットで、これにより体験が大きく異なる。しかも工事現場や高所作業など、パソコンやタブレットを触って操作しにくいシチュエーションでも、声やジェスチャーで指示できる。
HoloLensはWindows 10で動作しており、デスクトップ、ノート、スマートフォン、タブレット……といったように進化してきたパーソナルコンピューターのひとつの未来なわけだ。
そんなHoloLensの初代が登場したのは2016年で、米国向けに開発者版が3000ドルで発売された。日本では2017年1月にリリースされ、いきなり「欧州の3倍売れている」ほど注目を集めた。
そんな状況を見て、アレックス・キップマン氏が来日。その後も、文化財の学習や建築、医療、教育などさまざまな分野で活用が進んできている。
2019年2月には、解像度や視野角、装着感を改善し、対応するジェスチャーなどを増やした2世代目となる「HoloLens 2」を年内に発売すると発表。価格は3500ドル(日本価格は未発表だが、1ドル110円換算で38万5000円)。また、月額99ドル(同1万890円)で購入できるというプランも用意した。そのHoloLens 2がde:code 2019にて、日本で初めてお披露目されることとなったわけだ。
月額99ドル版には、500時間使えるAzureのクレジットが付属する。
ポイントは、没入感、快適性、価格想像時間という3点。
解像度は1度あたり23ドットから、47ドットに細かくなった。
一方で視野角は2倍に増やした。「この世代間で飛躍した」とキップマン氏。
ディスプレーの仕組みとしては、120Hz駆動が可能なMEMSレーザーを採用。
ゴーグル前面にある深度センサーを利用して周囲をスキャンし……。
空間マッピング(Spatial Mapping)を作成し、人間の脳がとらえるような形で空間を認識。さらに壁や床、イスといった物体の意味もとらえている。
さらにこの深度カメラは、CGを手でつかんだり、広げたりといった直感的な操作も実現している。
新機能としてはアイトラッキングも採用。ユーザーがどこを見ているのかを正確にとらえてAIなどにフィードバックできる。
Windows Helloも採用し、虹彩認証でログインが可能。
ひたい側の3つのマイクは、周囲の環境ノイズ低減させるためのもの。目の下側にある2つのマイクは、口に対して指向性を高めている。
空港や飛行機の中といった90dBほどのうるさい環境の中でも、声で指示が可能。
空間オーディオも実現。
そんな送られてくるデータを処理するために、新しくデザインした「ホログラフィックプロセッショングユニット2.0」を採用した。
続けて、快適性の話。快適性がアップすれば没入感も高まる。
様々な年代、性別、民族の頭のサイズや形状を計測して、1つのデバイスで対応しようとした。
熱伝導性を上げる技術「ベイパーチャンバー」を採用し、ファンレス構造で発生する熱を拡散。
筐体はカーボンファイバーを採用し、以前はアルミ板に固定していたセンサー類も直接埋め込んでいる。
デバイスの重心も目から12mmのところから最大70mmのところまで変わった。
とここで、おもむろに実機をかぶってデモを始めるキップマン氏。
氷のダークアレックスと、炎で包まれたライトアレックスという2種類のCGがステージ上に出現。
キップマン自ら手でサイズを変更し、向かい合うように回転させて、格闘ゲームのように対決させる。
さらに3Dスキャンした同じ服を着ているバーチャルキップマンが出現。AIの技術を使って話している英語を文字起こしし、リアルタイムで翻訳してTTS(テキスト・トゥー・スピーチ)の技術で日本語で喋らせるというデモを披露した。「私は日本語をまったく話せませんが、ホログラムで日本語で話す声でここにいます」とバーチャルキップマン。
最後の価値創造時間は、価値を発揮するまでの時間を意味する。今まで3〜6ヵ月かけて開発していたアプリを数分以内に開発できるようにする。
そのために様々な業種の企業とパートナーシップを組んできた。
クラウドERP/CRMの「Dynamics 365」にもMR向けモジュールを用意。遠隔で作業指示できる「Remote Assist」、実際の空間にCGの機材を置いてサイズ感などを確認できる「Layout」に加え、今年初めにスキルを手早く習得するための「Guides」もリリースした。主に現場の第一線にいる作業者に役立つものとなる。
初代のHoloLensは製造、建設、油田、国際宇宙ステーションなどの現場で採用されてきたが、その度にハードのカスタマイズが必要で快適性が落ちていた。そこでHoloLensのカスタマイゼーションキットを用意。特定のニーズに合わせて開発できるようにし、例えばトリンブルと協業して「XR10」というHoloLens向けヘルメットもつくった。
クラウドサービス「Microsoft Azure」を介して……
同じCGをHoloLens/iOS/Androidといった具合に表示させることも可能だ。
またAzureのリモートレンダリングを活用すれば、HoloLens内で処理するなら10万ポリゴンレベルのCGも、1億ポリゴンまで引き上げられる。CADやMRIのデータなど、CGの精度が鍵となるシチュエーションで便利だ。
「最終的にMRの将来は、全ての夢を現実にするためには、ひとつのバリアを破ることです。私たちの周りにあるエコシステムはまだ閉鎖的です。MRのリーダーとして重要なのは、私たちがコンピューティングの第三の時代を迎えるにあたってオープンさを目指した」
「SteamVRも使えるオープンなストア、FireFoxにも対応したオープンなウェブブラウザー、オープンなプラットフォーム。われわれは継続してコンピューティングの未来を今ここで作り続けていくのです」
(TEXT by Minoru Hirota)
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