Fra&今酒ハクノ、新ブランド「クルイビ」設立インタビュー(後編) 年齢を重ねた今でも集まれる、俺たちみんなの遊び場  

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個人VTuberとして活動する今酒(いまさか)ハクノと元BOOGEY VOXXのFraが、イベントブランド「クルイビ」を立ち上げる。2025年11月8日にはLOFT9 Shibuyaでリアルライブ「クルイビ〜PRE-RELEASE PARTY〜」を実施し、その後、本格的に全国展開していく予定となっている(チケットページ)。

前編に続く後編では、イベントブランド「クルイビ」を作り上げるまでの葛藤、その後の展開なども含めたディープな対話をまとめた。今酒ハクノとFraを知る者には、2人の嗜好性や『クルイビ 』への想い、両者が抱えた苦悩を知るインタビューとなっている。

ぜひとも前編・後編をあわせて読んでいただきたい。

なぜ2人は『クルイビ』を立ち上げるのか?

──お話を聞いていて、人間性もマッチしていたお2人には、どこか飢餓感があったり、なかなか達成感があまりないという部分も共通しているのかなと思います。お2人が実際に「クルイビ」を立ち上げることになったキッカケをお伺いしてもよろしいでしょうか?

ハクノ そこにちょっと話を加えると、私にはいちおう登録者数十何万人かはいて、シーンのなかで登録者数が天井レベルにまで多いわけでもないけど、でもすごい熱心に見てくれてるファンがいる。そんな状況で、「何をしなきゃいけないのか」は実は薄々分かってたんだけど、その………「めんどくせえな」って思ってて(笑)


──なるほど(笑)。売れるには多分あれとあれとあれをしなければならないけど……

ハクノ いや「売れる」というよりも、「使命感があった」って言ったらいいと思います。

自分のファンを見てて強く思うのは、このしんどい世の中で押しつぶされそうになってるけど頑張って生きている人たちがやっぱりすごい多い。こちら側は日々発信していく中で、その人たちにとって少しでも癒しになるようなことをしなきゃいけないと思うし、合間合間で特別な日を作らなきゃいけないよねって思っていたんです。

私自身、人生の中で生きてても死んでても同じだと思ってた時期があるのでわかるんですけど、そういう人たちが先々まで生きていくのって、「この日までは生きなきゃいけない」っていう特別な日がないと無理だって、すごく思うんです。


──よく音楽などのファンでも言われる言葉ですよね。目標というか、いったんのゴールといいますか。

ハクノ 「ここはとても特別な日だから、この日までは生きていかなきゃいけない」と感じさせる催しものをつくって、みんなに来てもらって、一度ここではないどこかまでワーーーッと連れていったあとに、ちゃんと浮世にまでみなさんを帰してあげて、「明日からももうちょっと頑張ってみよう」と感じてもらう。そのうえで私たちはおカネをいただく。そういう循環があるわけです。

私も、そんなに人間社会の中でうまくやれてたわけではないからこそ、そういう催しものが必要な人が自分のファンにいるのがめちゃくちゃ見えていた。それをやんなきゃいけないと思ってるし、主語を大きくして言ったら「規模や影響力のあるVTuberは、全員やんなきゃいけないんじゃないの? ファンが苦しんでるのが見えてるなら」とすら感じてたんです。ここまでいくと、ある意味では福祉の側面があると思っているって言ったらいいのかな。


──確かにそうですね。エンタメのなかにある福祉の側面かと。

今酒ハクノ:私は日々、第一にカネもらうためにエンタメを提供するわけですが、それ以上に、やはり「今酒ハクノがいて、次に何をやらかすのか」ということをすごく楽しみにしてくださってる人がいっぱいいるんだってこと、そこはすごく自覚的だったんです。私は、彼らに応えなきゃいけないなと。


──うん。

ハクノ でもそれ全部踏まえた上で……さっきも言ったように「面倒くさいな」と思ってたんですよ(笑)


──背負っている感覚と束縛感がすごいですよね。言葉を換えると「重い」ともいえますね。

ハクノ 確かにそういう言い方もありますね。私だって人集めてなんか発表したりとかイベントしたりとか、そもそも友達と集まって酒飲むのが好きなタイプですよ。ただこれはVTuber、特に個人で活動している方あるあるかとおもうんですけど、こういうのを計画的にできないから、これ(VTuber)やってるんですよ。


──感じ取れる部分があります。

ハクノ 最近「ガンダム」シリーズをよく見るんですが、シャアがダカール演説というのをやるんですよ。それによって民心を一気に引き寄せることに成功するんですけど、シャアもこんなめんどくさいことやりたくないなぁなんて思ってたはずだし、でもこれが自分の本当にやらなくちゃいけないことだからと頑張って演説でブチ上げたんだろうなって感心して見てたくらいで。

そんな時に、Fraが声をかけてくれたんですよ。多分そういう気持ちが彼からは見えていて、明らかに私が動くべき状態にありつつ、重てぇと思ってもいる。やはりそこはさっきまで話してた付き合いの深さがあったからこそ、自然と見えたんだろうなと思います。

今酒ハクノ

──Fraさんはどうでしょう?

Fra もうまさにハクノが話してくれた通りで。「ハクノ、これやんないとやばいんじゃないの?」と思っていたんです。突っ込んで言うと、「やったほうがいい」ではなく「もうそのフェーズにいるならこの辺のことやらないとよくない」という言い方や温度感で話しましたね。

ハクノ そうだね。

Fra 言ってしまうと、ハクノは動画制作に重点を置いている活動者で、さっきも話してくれたように面倒くさがりなんです。だけど、これまでの活動とは別の動きを見せたときにファンから信用を失ったり、自分の活動に対するコミットが下がることを極端に恐れていると感じていた。

ハクノ はい、そのとおりです。

Fra そんな彼女に対して、無責任に「これやったほうがいいよ」と言うだけなのも違うなと思っていて、どうしようか?と思っていたんです。

ちょうどその時、自分の人生のステップに変化があって、いまなら手伝えるかもって思えたので、ハクノに対して「あんたもっとリアルイベントやったほうがいいよ」って凄く端的に伝えてみたんです。2024年の春先くらいに伝えて、その年の生誕イベントの制作を俺が手伝ったんですよね。

ハクノも、ファンのみんなも、本当に楽しそうだったし、俺自身が何よりも楽しく終えられたイベントでした。

俺は普段の仕事をしていく中で、本当にやりたいことは「催し物を」作ることなんだという気付きがあったんです。しかも、自分が神輿の上に立っているような催し物を作るより、他の誰かをわっしょいわっしょい乗せていける催し物を作るほうが性に合ってると感じたんですよ。

そんなときに周りの友達見てたら、ハクノのことが目に止まって。ちょっと腰を据えて話そうといって2人でいろいろしゃべってみて、「ハクノが中心になってるリアルイベントを作ることに興味あるか?」と聞いたら、「興味あるに決まってる」と言われて、その言葉だけで十分だとおもって粗い内容だけど企画書を書いてみたんです。

それが「クルイビ」の元になっている企画アイデアだったんです。


──なるほど。

Fra その企画書に書かれてたことは実際に立ち上がったクルイビとは細かいところが違うんですけど、こういうエンタメになっていて、ファンにとってこういう福祉になっているんだと説明したんです。さっき(前編記事)にTHA BLUE HERBの話をしましたけど、今酒ハクノという野良犬に対して、俺はコロセウムで興奮した客状態になってて、「勝ちさえすれば、あんたはもっと儲かる」って言い続けてたわけです(笑)

端的に言うと、俺が持ってるスキルセットと今酒ハクノの状態を掛け合わせると、今酒ハクノのファンが喜ぶ状態を作れることが確定してたんすよね、俺の目線からみると。俺もハクノも勝ちだし、Fraのファンもハクノのファンも勝ちになれる。この世には”三方損なし”って言葉がありますけど、それを超えた”四方損なし”が生まれるように見えたわけです。


──ハクノさんはどうでしたか? Fraさんの訴えに近い言葉を聞いて。

ハクノ 本当になんか不思議なことなんですけど、「あんたが勝ちさえすれば」って言ってくれる人が意外といたんだなと驚きました。私は人生において、誰かに何かを施したりした覚えは全然ないんですが、なぜか周りの人は「あんたが勝ちさえすれば」と期待や応援をしてくれることが多い。

Fra ハクノはさ、根本的に人を信用しないタイプでしょ?

ハクノ うん、極めてそうだね。悲観的に人間を見ているので、信用したうえで腹割るまで長いね。

Fra 俺としても、この話をしたらおそらくノッてくれるだろうなと思いつつ、友達であるハクノとの関係値が変わるのが嫌だなって思ってて、すごく丁寧に話は進めたんです。なんかめっちゃ小さいディティールのところから、大きな決め事にいたるまでね。

ハクノ 責任者がだれになるのかとかね。

Fra あと、ハクノから見てオレが変になったら止めてくれとかね。


──なるほど。その逆もあったりとか。

ハクノ 逆はねぇ、あんまり無いかな。なんていうんでしょうね。確かに私も狂ってる時と静かな時はあるんですけど、ほとんどは静かな時で、狂ったとしても結構すぐに収まるんですよ。

Fra そうそう。ハクノは狂ってもスッと収まるから大丈夫だけど、俺は結構狂ってる状態が長くなっちゃうタイプだから。

そんな話をしたのは、俺らの人生、俺らを中心とした俺らの友人関係で、「クルイビ」というイベントをやるから、なるべく関係の形が変わらない状態でやりたいっていう想いがあったからで。

ハクノ 話を聞いていく内に、Fraの考えるクルイビとは新たな仕事ではなく、友人の輪の中で進める、それも輪の形を崩さないでイベントを進めていくというのが分かってたので、「Vとしての義務を本気で果たす」と思うと背負うものが大きくて大変だけど、「友人とデカく遊ぶ」と考えれば気負いすぎず、しかも本気でできるんじゃないかも思ったんです。


イベントで積み重ねてきた「戦友感」

──お2人は配信などで表立って交流する前に、オフラインで仲良くなっていたわけですけど、ポップアップストアや楽曲制作で共にしていましたよね?

Fra 当時動いていたBOOGEY VOXXも、今酒ハクノも、結局自分の経済圏みたいなのを持っていたので、表立って混ざることでお互いそんなすげえ得する感じでもないよね?という認知や理解もあったんだよね。

ハクノ お互い自分自身で生きていけるよな、というのが実際の感覚だったね。


──そんな両者が一緒になって開催したのが、2021年10月末から11月上旬に開催された「シブヤVtuber Halloween 2021」でしたね。

Fra ハクノのところにポップアップストアやりませんかって話が来たんだよな?

ハクノ そう。ただ、先方からお話聞かせていただいたんだけど、ちょっと私ひとりで背負いきれる規模の話じゃなかった。でも、何人かで背負うんだったらできるかもな?って。で、その時に思ったんだよね。自分の友人の中でも、ある程度経済圏がきちんとあり、一緒に並んだ時にバァーンと見映えがある友人といえば、BOOGEY VOXXだなと思って。だからFraさんに声をかけたんです。


──しかもこのイベントはコロナ禍の時期に開催されたので、みんなマスクして静かにしてやらなきゃならないわけで。

ハクノ そうだそうだ。だから入り口に清めのアルコールを置いたりしたわね(笑)

Fra 消毒液のことね(笑)。ポップアップストアという商売の仕組みに詳しくない方がいるかと思うのでちょっと説明すると、スペースと店舗を回すスタッフさんを貸してもらうだけなんですよね。なので、基本的にはこちらで多くのものを作って店舗に持っていくスタイルだし、運営上注意してほしいというマニュアルなどが必要になったらこちらで作る必要もある。なので、このイベントは本当に”俺ら”で作ったんですよね。

ハクノ そうだね。場所を借りただけだったもんね。場所と店頭のサイネージとかをお借りしてやったけれども、中身はこっちが色々しなきゃいけなかった。

Fra あと、当時俺がイベントなどに取り組むとき、仲間の物を置くのがブームだったんです。そのときよくつるんでた個人勢・企業勢のひとにわーっと連絡して、「こういうのをやるので、委託販売しませんか?」と声をかけたんですよ。俺の家に商品をガッとあつめて店舗までピストン輸送したり。あとは「梱包手伝ってくれない?」と近くに住んでいる仲間に声かけて、ありえない量のステッカーをアッセンブリしてもらったりとかしてた。

ハクノ なんかそれ言ってたね(笑)

Fra 文化祭みたいな感じでこのポップアップストアはやりましたね。

ハクノ 私も前日に東京に来て、当日こんな感じだよと現地確認もしました。その後、お互いの今後のビジョンについてルノアールでがっつり話したりしてね。

Fra 結果的に言うと、あのポップアップショップを経て、俺とハクノの戦友感みたいなのが生まれたね。

ハクノ それは間違いないね。

Fra 仲いいだけじゃなくて、仕事の面で頼れるなって思ったのもここからだったね。

──2022年4月には「GASSAI」という曲を出されてますよね。BOOGEY VOXX、ハクノさん、NICOさん、93poetryさんでやられてたんですけど、実際の制作はどういった流れでの制作だったんでしょう?

Fra この曲は「8 File」というコンピレーションアルバムに収録されてる曲で、その制作の中で3人に声をかけた流れですね。このコンピは、さっき話した友達の商品を自分のイベントで並べるという感覚を、さらに一歩先に進めたプロダクトだと位置づけてるんです。


──それはなぜなんでしょう?

Fra この頃のBOOGEY VOXXの周りにはすごく才能あふれるミュージシャンがたくさんいて、特にラップ系のミュージシャンがたくさんいたんだけど、クローズアップしてあげる機会がないなって思ってたんです。そのときに「そうか、俺がコンピ作ればいいんだ」ときづいて、俺がいいなと思う人たちに声をかけて制作したんです。そのコンピのリード曲として作ったのが「GASSAI」だったんです。

──はい。

Fra コンピを作っているとき、ぼくは「みんな買ってくれるだろう」という気持ちでいたんですけど、それってただの甘い見積もりじゃないですか?


──まあ、怖いですよね、ビジネス的に。

Fra そう。だから「買ってくれるだろう性」を上げないといけない。誰を呼んだら「買ってくれるだろう性」が上がるだろうと考えたとき……ハクノがでてきたんです。


──その時点で、Fraさんにとってハクノさんは「売れる人」という認識もあるわけですね。

Fra そりゃもう。だってこの人、この時点で「銀盾」(編注:YouTubeチャンネル登録者数10万人以上をもつチャンネル所有者に、YouTube公式から送られるクリエイターアワードの俗称)持ってますもん。

ハクノ 自分でいうのもあれだけど、数字はシンプルに持っているからね。

Fra あとは単純に頼みやすかった。ハクノのファーストEP「暗銀の盾」を制作するときにも手伝ったりして、ある種、貸しがある状態だったから

ハクノ ま、貸し借りとか関係なしに、タダでも喜んでやったけどね。


──今話しにありましたが、「暗銀の盾」制作にもFraさんは関わっていて、ポップアップストア、お互いのEP・コンピに参加したりお手伝いがあり、お互い信頼できる相手だっていう確証がかなりあった。

Fra まあそうですね。ゲームサーバーでありえない量の時間を共有してたんで、「仕事ができる/できない」とかよりも、もっと根幹にある……人間性が合うみたいな部分が合致してた。

ハクノ そうそう、そうね。あの時間がなかったらここまで制作を共にすることもなかったし、「クルイビ」もなかっただろうなと思うね。


「自立した大人同士が遊びのために集まってガチる

──FraさんがXのスペースで「クルイビ」について熱弁されていたのを聞きました。そこで話されていた「クルイビはグループじゃない、イベントブランドなんだ」という内容を、今一度その具体的にしてもらいたいです。

ハクノ 先に私の方から話せるところは話したいなと思うんですけど、なんでユニット、グループ、クルーじゃないのかっていう部分について。


──よろしくお願いします。

ハクノ ユニット、グループ、クルーは運命共同体だよなっていう印象が私の中ですごくあって、生きるも死ぬも一緒じゃないといけないという連帯感があるんです。でもこの「クルイビ」の場合は、この祭りをやるためだけに集まってる、あくまで友人同士である、この関係性がとっても大事だと思うんです。

お互いのクリエイティブ、つまり日々の糧を得るための仕事は、日々お互いの責任でちゃんとやっていく。私だったら普段の動画制作、Fraさんなら普段の仕事とか、曲作ったりとかね。そこはお互いに1人の独立した人間としてやっていく。

そのなかで、”自立した大人同士が遊びのために集まってガチる”。それは私の感覚だと、ユニットやクルーといったものとは少し違うし、一緒に仕事をする者同士となってしまったら関係値がグッと変わってしまいかねない。


──なるほど

ハクノ そういうふうに考えているので、お互いの活動自体は当たり前に続いていく。その上で、裏で時々集まってゲームしているような遊びの時間を、表で、それも規模をデカくして、みんなを巻き込むようにやっていく。そんなイメージで私は捉えています。……Fraさん、こんな感じでいい?(笑)

Fra 合ってると思うよ(笑)。まず絶対誤解しないでほしいのは、オレとハクノでグループを組むわけではない、このことですね。


──今回の2人の話をズラっと読んだ人からすると、「なんかFraさんがハクのさんプロデュースするんか?」みたいな、すごい短絡的な解釈をする方がいらっしゃいそうですが、まったくそんなことはないと。

ハクノ それはない。

Fra 全く違う。


──はい。

Fra 全く違う。


──はい(笑)。重要なので二回言いましたね。

Fra というかすまないけど、できない、普通に。この人のことプロデュースとか(笑)

ハクノ あの、私は本当に……人の言うこと聞けないんですよ(笑)

Fra 無理無理。

ハクノ 重ねて言いますが、そんな話は本当にしてないです。

Fra 今回の記事2つを通じて、 俺とハクノ、お互いに人間性が近いと思う理由が伝わってくれたかなと思うんです。俺がハクノに対して足りてないと思うもの、俺自身に対して俺が足りてないと思うものっていうのが存在していて。それを同時に解消したり、解決する方法みたいなのをハクノと一緒だったら実現できるのかなと思ったし、そしてこの取り組みをお互いの活動に干渉しないような形の取り組みにしないといけない。だからイベントブランドって表現を使っています。

あとそうですね……俺がいま実現したい野望……なんというか願いみたいなものがあるんです。


──何でしょうか?その願いというのは

Fra えっと……俺たちって日々年食ってくじゃないですか。

Fra

──そうですね、はい。フランケンシュタインのFraさんに言われると言葉の重みがありますね。

Fra そうして時間が過ぎていって、10年前に楽しかったことがいま楽しめなかったり、去年楽しかったことがいま楽しめなかったりすることって往々にしてあると思っているんです。


──これはライブイベントからすこし視点をズラしてみると、スポーツを楽しむということが当てはまりますよね。10歳の時に何のことなくできてたスポーツも、40歳や50歳になったタイミングで楽しめるかって言われたら、さすがに反射神経とか身体的な衰えがあるので楽しむことは難しくなりますよね。

ハクノ うんうん。

Fra スポーツだと町内会の草野球チームとかサッカーチームがあったりして、楽しみ方のスタイルがその競技において変わっていくと思うんですけど、エンタメの場合は明確にボリュームゾーン、そのエンターテイメントにおける想定する顧客の層が存在するわけじゃないですか。


──いわゆる10代やユースに向けたものとかがそうですね。

Fra そうですね。俺がずっと加わっていたクラブカルチャーは、やっぱりどうしても10代や20代なんだよな。


──まあ頑張っても30代ぐらいですね。

Fra 頑張って30代でしょうね。でも30代でイケイケで遊んでたら、やっぱり若い子から「なんなん、あのおじさん」って思われるかもですが。


──あるかもしれませんね。

Fra 俺自身、クラブからちょっと足が遠のいてますけど、行ったりしても、あの頃と違う遊び方を見つけたりして。なにより俺自身が、かなり周りを気にする質なので、若い子たちの遊び場に邪魔してるよっていう感覚をもって遊んでるんですよ。


──ああ、なるほど。

Fra 本音で言うと、つまらない。楽しみ方がわからなくなってきてるんですよね。


──自分が20代の時の楽しみ方を今の年齢でするか?って言われたら、まあしないかなって感じですよね。

Fra だから、老いた俺でも楽しめるものっていうのが、もっともっとあってくれると嬉しいなって思ったんです。俺が根城としているバーチャル音楽シーンのイベントでは、その年代・その層に向けたものがまだ少ないんじゃないかなと感じるんです。


──例えばどんなところが足りないと思います?

Fra 例えば椅子が少ないとか。ご飯が食べられないとか。そういう細かい話で、少し上の世代が持ってそうな「もうちょっとお金かかってもいいからホスピタリティーあると嬉しい」っていうニーズに応えるものが、まだあんまりないような気がしているんです。それを発信することっていうのが、俺にとってすごく有意義なんじゃないかなって感じたんですよ。


──その発信が「クルイビ」にはあるというわけですね。

Fra そうですね。俺は、俺のファンと同じテンポで老けていくことがすごく豊かだと感じたんですよ。そういうのを考えた時、今酒ハクノのファンやリスナーさんって、言ったら俺とほぼ同世代、一緒に老いていってくれそうだ!とも思ったのね。あとはさっきも言ったように、四方損なしという関係性で合致しているし、ちゃんとニーズを汲んで、それに応えたものを作れれば、いまいった願いみたいなものが叶うのかなと思ったんです。


──うんうん。

Fra なんというか、例えばいま30代くらいでバーチャル音楽とかVTuberシーンの楽しみ方が分かんなくなっちゃってるファンの人たちに、「もう老いから逃れなくていい」と伝えて、受け止めてあげたい。「クルイビ」に来れば、俺とお前が気負いなく楽しめるものがあるっていう状態を、2年ぐらいかけて作っていきたいと思ってるんです。

それと同時に、老いから逃れられないからといって、昔楽しかったこととか、楽しそうだって思うけど自分の年齢だと違うなって決めつけちゃってることからも逃げないでいいよっていう、そういうメッセージも発信したかったんですよ。


──なるほどです。

Fra あなたたちの年齢をボリュームゾーンと定義して、エンタメを提供していきたいと考えてるんです。だから、クラブとかライブハウスに若いころに行きそびれちゃって、あの頃に行っとけばよかったな~って思ってる人たちが、何の気負いもなく我々の「クルイビ」に来てくれることによって、その体験を穴埋めできればいいんじゃないか?って俺は感じてます。

だから最初は音楽イベントになっちゃうのはマジ申し訳ないと思ってて。


──その点、結構重要な話かなと思うんですけど、つまり音楽イベントではないイベントも想定して、もうやる気満々ですって話ですか?

Fra やる気満々ですね。

ハクノ そう、そうね。


──おお、面白いですね。もしかすれば展示会になるかもしれないですし、年齢のことを考えて散歩をするかも知れない?

Fra 散歩の可能性あるっすね。

ハクノ みんなで散歩しようの会。

Fra 散歩きついな、大人数では(笑)


──まあ散歩は冗談だとしても(笑)。展示会は本当にありえそうですね。そういえば、ファンからの声をハッシュタグで集めていましたよね?

Fra そうです。ファンが欲しいと思ってるものを、できる限り実現したいと思っていて、実はもうすでにタグで出た要望のうちでいくつか見積もりを取りに動いています。


──そうなんですか!?

Fra 旅館でやってほしいって投稿があったので、実際に探してますね。


──少し話が逸れますが、例えばそのVTuberのイベントって、多分大元のネタとして考えられるのは、クラブイベントだけじゃなくて、ロックバンドのライブハウスでの運営とか、アイドル系イベントの内容とか、そういうもののマッシュアップが今のVTuberイベントや客層のベースになってると俺は思うんです。

Fra うんうん。分かります。


──さっきご飯が出るっていう話がありましたけど、VTuberのイベントだとコラボフードみたいな形で売ることがありますが、ライブハウス備え付けのご飯を提供することもありますよね?ライブハウスとかにいくと分かりますが、メンバーがよく行っている居酒屋や飯屋のひとが、わざわざライブハウスの出演に合わせて食事を出してくれることもあります。

Fra あとは演者がたこ焼き焼くのが得意だからたこ焼き焼いているとか、見たことあります。


──さっきの「飯が出る」というのも、そういう目線で捉えたほうがよくて。要は、音楽イベントと一言でいっても、いろんな形やスタイルがあり、別ジャンルで見られるスタイルを取り入れながら、さまざまに提供していこうという風にも感じたんです。

Fra おっしゃる通り。クルイビを形成する仲間たちが集まった場所は、音楽主体のコミュニティじゃなくて、さっき俺らが話していたインディーゲームが好きで集まるコミュニティがバックボーンにあるんです。

さっき俺らが話していたインディーゲームのアンテナが高いVTuberの彼、マネミックっていうやつなんですけど、彼は別にクラブ行くようなタイプの人じゃないんですよ。そこで俺らが音楽イベントばっかり作っていると、次第にマネミックが楽しくなくなっちゃう。


──それは確かにそうですね。

ハクノ マネミックさん別に、人並みには音楽好きだけど、クラブ行く人じゃないしね。


──うんうんうんうん。

Fra 音楽イベントを作り続けちゃうと、俺らの大好きなマネミックが楽しくないんすよ。マネミックが楽しくないということは、俺らのことを大事に思ってくれてるファンの中でも、マネミック同様に楽しくない人がいる可能性が高い。そういう風に話がつながっていくと思うんですよ。


──なるほど。そういう意味でも仲間基準というのは大きい。

Fra だから音楽は大事な軸ではあるんだけど、ど真ん中の軸には絶対しないって決めてますね。あとさっき草野さんがおっしゃっていた話でいうとかなり意識はしていて。なんというか……もう世界には素晴らしい音楽イベントがたくさんあるんですよね。


──ええ、それはもちろん。

Fra VTuberの業界のなかだけでも、みんな楽しそうなイベントを開催しているのを見ているので、彼らと競合したいとはまったく思っていないんですよね。


──難しいですよね。冷たい言い方をすれば、イベント開催すればそれは必然的に競合になってしまうけども、できるだけそことは違ったスタイルを提示して、共存していきたいということですよね。

Fra そうそう。共存したいですね。いろんなイベントが、それぞれのプランでターゲットを狙った上でイベントを打っていると思うんですけど、アイドル系のVTuberが好きな人がアイドル現場みたいな楽しみ方できるもの。クラブが好きな人が現行のクラブシーンで最前線で活躍されてる方と共演する形でVTuberを楽しめるものとか、いろいろある。

そのなかでうちは、音楽を軸の一つに取り入れてるけど、ターゲットが違う、それでいて老いや年齢についてを念頭に置きながらイベントを作っていきたいですね。

(TEXT by 草野虹

 
 
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