VTuber/声優として活動する朝ノ瑠璃が、 AcaciaとGREE Entertaimentによるストーリー連動の新音楽プロジェクト「偲ビ鬼」からリリースされる楽曲「偲ビ鬼ノ桜遊戯」で歌唱を担当。2025年12月3日にCDとして発売することを発表し、初回限定生産の受注締切が10月14日に迫っている。
同プロジェクトにおいて、朝ノはヒロインの悠薙瑠璃役として起用されており、彼女自身のビジュアルに即したキャラクタービジュアルも描かれている。
本記事では、この「偲ビ鬼プロジェクト」2曲に触れながら、彼女の近年の活動について約1万5000字の大ボリュームでインタビューした。VTuberとして、声優として、いま何を考えているのか? 彼女の現在地をしっかりと受け止めてほしい。
にじさんじのオーディションを受けようとしたことがあります
──実はインタビューの冒頭からとても懺悔しなくてはいけないことがありまして……。
朝ノ えぇ? いきなりなんでしょうか?
──わたくし草野は昨年1月に開催されたワンマンライブ「謳歌爛漫」の公式ライブレポートを担当させていただきまして、その後にここPANORAで連載執筆やインタビューを多く任されるようになったんです。そのポジションにいながら、「なぜお前は朝ノ瑠璃へインタビューしない?」「はやくやらなきゃいけないんじゃない?」という自責の念がすごくてですね……(笑)
朝ノ なるほど(笑)。でも今回お話をいただいて嬉しいですよ。
──実際あのライブは素晴らしい内容で、このあとにも伺わせていただきます。朝ノさんがVTuberとしてデビューすることになった経緯はどういったものだったんでしょうか?
朝ノ バーチャルYouTuberという存在は友人から教えてもらっていて、当時はキズナアイさん、電脳少女シロさん、ミライアカリちゃんがデビューしていて、「そういうものがあるんだ」という感じだったんです。
当時わたしは忍者屋敷で歌っていたんですが、わたしの声を聞いた当時の運営さんからスカウトされました。やたらと日本語の達者なハリネズミとコアラがおるなと思ったんですけどね(笑)。一見怪しげだったんですが、お2人の熱意に押されて「面白そうだしオッケー!じゃあやってみましょう!」というところからスタートしました。
最初期の頃、わたしは歌に特化したVTuberとしての活動をめざしていたんですけど、一緒にデビューした妹たち2人(朝ノ茜・朝ノ光)が、活動休止になったり引退されたりしたんです。運営としては本来この2人がゲーム系やバラエティー系の活動をメインに動いていくことを期待していたので、「このままだとプロジェクトがうまく動かないかもしれない」と話があったそうです。
その話を聞いて、「じゃあわたしが動きますけど、どうでしょうか?」とお2人に聞いてみました。そこでひと声かけたのが転機になって、現在のような活動に繋がっています。
──デビューから割と早い段階、2018年末ごろにはすでに朝ノさんも配信は始めていますしね。ということは、朝ノさんはいわゆる大手事務所にオーディションを受けたことがないんですね。
朝ノ いえ実は……にじさんじのオーディションを受けようとしたことがあります。月ノ美兎ちゃんや樋口楓ちゃんがデビューした一期生の募集があったときに、”樋口楓”のアバターを選択して応募するところまで進んだんですけど、「いや、どうせわたしなんかがなれるわけがない……」とおもって応募フォームごと消して、応募しなかったということはあります。その少し後に、先程のスカウトの件が起こるんです。
──これまで何度か樋口さんと共演されたことありますが、このお話を樋口さんにされたことは?
朝ノ たぶんなかったと思います。驚くと思いますよ(笑)
──自分も驚きました。自身が活動をスタートする前や活動している現在、自身が憧れていたり参考にしているミュージシャンやシンガーさんはいますか?朝ノさんであれば声優さんを答えていただければ嬉しいです。
朝ノ たくさんいらっしゃいます。子供の頃からその人の第一声を聞いたときから大好きで、いまも尊敬している声優さんは杉田智和さんです。これまで何度かご縁があって現場でご一緒させていただいてます。杉田さんから「自分のやっているラジオに出てほしい」とご連絡を頂いたときからの繋がりなんですけど、そこから収録現場で会うことも増え、わたしの緊張を解してくださる大好きな先輩になりました。
他の声優さんですと、沢城みゆきさん、種崎敦美さん、東山奈央さん、鈴木みのりさんが大好きですね。この4人の芝居への向き合い方が本当に好きでして、自分の演じているキャラクターに対する情熱であったり、解釈や考察の仕方、加えて向き合い方やスタンスというのが本当にすごく好きです。種崎さんに関しては、クレジット見るまで彼女だと気づかない、わからないというレベルなので、本当にスゴイなと。
──「スパイファミリー」のアーニャ・フォージャーを演じているのが種崎さんだとは、最初は誰も気づけなかったんじゃないのかと思いますよね。
朝ノ 声優さんはそういった方々で、逆に歌うことの楽しさや人前で歌ってみたいとわたしに思わせてくれたのは、「マクロスF」なんです。May’nさんのシェリル・ノーム、中島愛さんのランカ・リー、あとは「マクロスΔ」で鈴木みのりさんが関わっている戦術音楽ユニット・ワルキューレになります。
それ以外に好んで聞いていたのは、ALI PROJECTさん、水樹奈々さん、Sound Horizon。あとはAcid Black Cherryさん、 the GazettEさん、シド(SID)さんです。あとは平成のオタクが大好きなアニソンですね。
──途中からヴィジュアル系のバンドもあがりましたね。
朝ノ 実はV系も好きなんです。
──アニソンとヴィジュアル系というと、キャラクターらしさを模倣したりインストールしたうえで歌ったり、衣装をひとつのコスチュームとして捉えて着ているという点で、とても似ているかなと思います。朝ノさんはこれまでコスプレはしたことは?
朝ノ いや、コスプレの経験はないですね。「ローゼンメイデン」の雛苺や「灼眼のシャナ」のシャナの衣装を買いたいなぁーと思いながら衣装を見ていたんですけど、当時お小遣いが足りなくて……やってみたいなという気持ちはありました。
──ここ最近で心に残った作品を教えて下さい。小説でも、アニメでも、マンガでも、ドキュメンタリー作品でも大丈夫です。
朝ノ 己のなかにぶっ刺さっている作品というと、あちこちで言っている定番の作品があるんですが、最近のものですよね……。最近よくマンガを読んでいて、更新されたら必ずチェックしてるっていう作品をあげていくと、「おじ転生~悪役令嬢の加齢なる転生~」「マザーパラサイト」「私の幸せな結婚」「でこぼこ魔女の親子事情」「薬屋のひとりごと」、わたしの出演作品の「邪神ちゃんドロップキック」「さようなら竜生、こんにちは人生」、あとは「ごほうびごはん」と「深夜食堂」と……
──めちゃくちゃありますね!? 女性向け漫画だけでなく青年誌で連載されているような作品も多い。
朝ノ めちゃくちゃ読んでますね。気になったらとにかく読みます。
──紙面で読まれますか? 電子書籍ですか?
朝ノ わたしは電子書籍でチェックしていて、もう紙面は美容室で手渡されたものを読むくらいです。SNSで漫画が読めるハッシュタグみたいなのをつけて、作者さん自身が1話をピックアップして投稿されてることあるじゃないですか? ああいうのを見て、面白い!とおもったらとりあえず一巻買って、その1巻が面白かったら出てる分は全巻買って読んでいきます。
──お聞きしてよろしいかちょっと難しいところですが、昔からインターネットに触れていたんでしょうか?
朝ノ 幼い頃から2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)を見るのが好きだったんです。子供にとってはたどりつきにくいようなカテゴリーが一杯ありましたが、当時AA板(アスキーアート板)をみていて、「面白いことするお兄さんたちがいるんだな」「こんな記号で絵を描いててすごい」と素直に楽しんでました(笑)。それこそ、「顔合わせていないのに人と人とが喋ってるのってスゴイ面白い」と感じてましたよ。
──その頃からネットカルチャーの楽しさを学んでいたわけですね。
朝ノ そうですね。ネットリテラシーが何たるかを学んだ部分もありましたし、影響は受けてると思います。
──アニメへの興味も、幼い頃に見ていた部分もありつつ、ネットカルチャーから伝わってより興味が湧いたという部分はあるんでしょうか?
朝ノ そうかもしれないです。ネット上で喋っているワードがわからないなと検索して、それがアニメ作品のこういうセリフなのかと知るというのはありましたよ。
きまっしスタジオ運営、実は「忍んで」スタッフをやっていたことも
──冒頭にも話題に上げましたが、昨年1月のワンマンライブ「謳歌爛漫」を振り返って、どのようなイベントだったと思いますか?
朝ノ 現地でワンマンライブを開催するのはそれまでの活動の中で初めてだったので、スタンスとしては「これが最初で最後になる」くらいの感じで挑んでました。あの日は二部公演で、昼夜合わせて40曲近く歌ったんですよ(編注:実際には合計38曲)。しかもライブを終えたあと、声帯から出血していると言われて……。いま振り返ると、あのステージを超えられるライブは多分できないだろうと思うくらい、本当に自分の中で全力を出してやりました。
またワンマンライブをやりたいなと思うんですけど、あの時以上の感情を自分の中から出すにはどうすればいいのかなと、いまでもふわっと思ってしまいますね。
──年明けすぐのライブでしたが、やはり準備期間も長かったわけで、それだけ気持ちも強く込められてたんだなと感じます。その後、朝ノさんはいくつかライブに出られていますが、今回調べていて現地ライブのご出演が一気に減っていることに少し驚きました。
朝ノ 10月12日に開催される「CONNECT V Fes」の出演が、仰るとおりワンマンライブ以来の現地ライブになりますね。わたしとしてはもちろんオファーを頂いたら出演させていただきますし、むしろ現地ライブへの出演はやる気満々です。現地でしか感じられない、味わえない熱量がもちろんあって、わたし自身あの熱量があれが大好きなんです。よろしくお願いいたします。
──(PANORA編集)今後ぜひオファーさせてください!(編注:しました)
朝ノ ありがとうございます!!
──配信についてですが、現在では仲の良い女性VTuberとアニソンを聞いて反応するというショート動画を多く投稿していて、自分も大いに楽しませてもらっています。一方で配信活動はすこし抑えめになっていて、動画投稿が比重として多くなっている印象があります。このあたりはどのような意識をされていますか?
朝ノ 最近あまり配信ができていないというのはご指摘の通りですね。その上でじゃあ何ができるのかと思ったとき、やはり動画投稿になるのかなと思って活動しています。去年の末ぐらいから運営さんとそういった話をしていて、歌ってみた動画なら定期的に出すことができるし、ロケ動画を作るとなると今度は動画編集する必要もあったり……そういったなかでやりくりさせてもらっています。
あと、わたし自身は歌が嫌いな人は基本的にいないと思っていて、なかなかVTuberさんがカバーしないような楽曲や、この曲すごく良いから知ってほしいなという気持ちで歌ってみた動画を制作させてもらっています。
──そのうえで、ライブ配信では歌枠を取られることが増えましたね。
朝ノ やはり配信を見る初見さんにとって来やすい(視聴しやすい)というのがありますし、今回「偲ビ鬼」のリリースにあわせてアピールしたかったというのもあります。それに「第一興商」と契約して機材をレンタルして音源を使っているので、歌配信自体がやりやすくなったというのもありますね。わたし自身、歌を歌っていないとどうしても感覚が鈍ってしまうし、歌える時にしっかりと歌っておきたいというのもあります。
──さまざまな理由が絡んで歌配信を頻繁にしているわけですね。歌っているときの感覚を鈍らせないという意味もあるし、一種のアピールの側面もあると。
朝ノ その通りです。それに機材があったらやろう!という気持ちも湧きますしね(笑)
──少し違う話題ですが、「朝ノ姉妹ぷろじぇくと」の運営であるノリさんとともに3Dスタジオの「きまっしスタジオ」に運営として携わられております。どういうポジションでしょうか?
朝ノ 簡単にいうと営業担当を任されてる形でして、「うち、こういうスタジオやっているんですけどどうでしょうか?」と関係者さんやVTuberさんにお声掛けさせてもらっています。スタジオが始まった頃はスタジオスタッフとしてもお仕事をしていたこともあり、髪型や服装やらをしっかりと隠して、VTuberさんの3Dライブのサポートをしたこともあります。
──それこそ”忍んで”ということですよね? 完全に忍びきったことは?
朝ノ ”忍んで”ライブ制作に加わってましたし、その日来たVTuberさんが”朝ノ瑠璃”とは知らずに帰られたこともありますし、フードから見えた髪色で「もしかして?」と聞かれたことがあります。その時は口元に人差し指を添えて、「しーーっ」ってやりました(笑)。いまでは営業ポジションですので、制作現場には入る機会はほとんどないです。
セリフを音として捉えるように特訓しています
──朝ノさんは声優事務所クロコダイルに所属しています、ちょうど5年目を迎える頃ですよね。
朝ノ そうですね。11月に契約を更新する予定でして、今後も声優として活動していきます。
──同じ事務所の田中音緒さんと七原帝子さんと非常に仲がよく、お2人とも現在バーチャルのお姿でも活動されています。もしかして朝ノさんがきっかけなんでしょうか?
朝ノ まず音緒ちゃんですが、彼女がクロコダイルに入ったキッカケがどうやらわたしらしいんです。うかがった話では、当時彼女は声優活動と並行してバーチャルの姿での配信活動を行いたいと考えていたらしく、この両立を許してくれそうな声優事務所はないかと探したところ、朝ノ瑠璃がクロコダイルに所属しているのを知り、事務所に連絡を入れたと聞きました。
帝子ちゃんに関しては、わたしと音緒ちゃんがバーチャルの姿で活動しているのをみて、「2人と一緒に遊びたいけど、何をどうすればバーチャルの姿になれるの?」という風に言われて、バーチャルのお姿について彼女に教えました。
──仲良くなるきっかけはどういったものだったんでしょうか?
朝ノ 音緒ちゃんとわたしがおおよそ同じ時期に所属になって、しばらくしたあとに「ちょっとお茶しない?」という話になって、そのタイミングで「七原帝子って女が面白そうだから、一緒に連れて行ってもいい?」と音緒ちゃんから伝えられ、結果3人で会うことになったんです。そうしたらもうその日の内にめちゃめちゃ意気投合しまして、そのまま現在まで至ります。
──そうしているうちにお2人ともバーチャルなお姿での活動をスタートさせたわけですが、お2人にアドバイスなどを送ることはありますか?
朝ノ 気付いた時に伝えるようにしています。こういうソフトが便利だよとか、バーチャルなお姿で写真を撮るならこのソフトを使うといいよとか、情報共有的なアドバイスが主ですね。逆にどういう機材がいいか、どういうパソコンがいいか、こういう配信はやっていいのか、このゲームの許諾ってどうすればいいのかとか、そういう話が2人から届いて答えることもあります。
──配信するうえでのベーシックなところのお話をされることが多いわけですね。
朝ノ そうですね。お2人のやりたいことを妨げちゃうことにもなるし、絶対にやりたいことがあると思うので、活動そのものに口は出さないようにと決めています。
──今後3人で絡むこともより増えそうで楽しみにしています。現在VTuberとしての配信業と、アニメやゲームなどの声優業として2つのお仕事を続けているわけですが、やはり忙しかったりしますか?
朝ノ 自分が思っていたよりも時間がないもんなんだなと感じてます。いまは声優業としてのお仕事の合間に配信をしているのですが、お仕事を頂いたらその作品と台本に向き合う時間が絶対に必要になるので、そこに時間を取られてしまいますね。その上できまっしスタジオでのお手伝いも発生したりするので、すごく大変で……でもすごく楽しいです。
──先程マンガ作品についてお話をしてもらいましたが、いまはアニメ作品やゲーム作品がもう山のように発表されているわけじゃないですか? ご自身の演技や知識のインプットとは、どのように進めているのでしょう?
朝ノ 実は常にやっていて、起きたその瞬間からとりあえずテレビをつけて、Netflixで何かしらのアニメを流すようにしているんです。お世話になっている監督さんから、「朝ノは、アニメ映像を見てどういう芝居をしているかを学ぶフェーズに関してはもう終えているから、アニメの映像を見ずに音だけを聞くというのをやってみて」と言われたんです。「そこには絶対に違いがあるはずだし、朝ノならその違和感に気づけるはず。盗めるものもたくさんあるから、それをやってみろ」と言われたので、それを日々やっていますね。
──それはいわゆる劇伴や音楽を聞くのではなく、セリフのやりとりを音として聞くということですよね?
朝ノ そうですね。
──教えを実践して、何か至りましたか?
朝ノ いやぁ、気付けることがたくさんあります。言葉にするのは難しいですが、向いているベクトルがぜんぜん違うなと思ったり、いまここは合わさってるなと感じたり、自分の持っている音感とこの人の音感が近いなと発見したり、日々勉強ばかりです。
──コロナ禍では全員集まって収録できない環境になり、1人1人別録りしていたとうかがいました。普段通りに集まって収録していても、声の出し方ひとつで表現が大きく変わると思います。自分はこういう感情の大きさで演技すると、あっち側が思っていたよりも大きな感情で演技で返してしまうとか。会話になっているけどハマっていないみたいなやり取りが起こることがあって、たまにアニメとか見ていてちょっと違和感を覚えることがありますが、そういうベクトルのお話ですか?
朝ノ 概ねそういう話です。どういう感情の動かし方があったらこの演技やトーンの声が生まれるんだろうとか、この声を出しているときの舌の位置はどのあたりにあるんだろうとか、ずっと考えながら聞いてます。
──そこまでいくと再生を止めてもう一回見ることありますよね。
朝ノ ありますね。「いまのなんだろう?」と思って見返したりします。仕事を抜きにしてアニメを見ていた頃と、いまのアニメって芝居感がぜんぜん違うなって思うし、時代の流れなのか流行りなのかこういう風に演技するのかっていう気付きはあります。以前よりも生感の強いヒューマンドドラマ的な芝居みたいな、いわゆるアニメっぽい大げさな感じではなく、人間と人間の対話みたいなお芝居が増えた気がしてます。
──声優さんが舞台に出演されたり、2.5Dの舞台が一気に広まったことで、もしかすると俳優さんや声優さん同士で影響し合っている部分はあるのかもしれませんね。舞台とアニメでの声優芝居などで違いがあるとは思うのですが、ご自身の中で何か違いなどはあるんでしょうか?
朝ノ ぜんぜん違うと思います。アニメのアフレコに関しては複数人が同じ場にいてマイク前に立って芝居をするんですが、主役の人が向けているベクトルを探さなきゃいけないと思うんです。どこに向かっているのか、誰に声をかけているのかという部分を探って、自分もそこに向けて声をかけていくことをしないと、協調性や和というものが生まれないのかなと思います。
ゲームの収録では、基本的に掛け合いではなく、台本だけがあって誰かに声をかけているというセリフが一杯あるんです。声を掛ける相手が、自分の次に喋るキャラクターかもしれないし、プレイヤーであるみなさんへ向けてかもしれない。その辺のベクトルが誰にどれくらいなのかがわからない部分があるので、「おそらくこのくらいで話しかけられるとして、じゃあ自分はこのくらいで出力してみよう」というのを考えながら演技してます。
──それはかなり違いますよね。予想予測しながら加減を考えながら演技することを求められるんだろうなと。
朝ノ 難しいですね。ボイスドラマは一緒に収録はしますが、アニメのアフレコとは違って絵がほとんどないんです。イラストが参考程度にあるくらいで、どう動くかがちょっとわからない。このキャラがどのような動きをしてどう声を当てるのかは想像して演技します。あと、ボイスドラマはあくまでボイスのドラマなので、 あまり大げさな芝居をしすぎると聞いている人が疲れてしまうかもしれない。ですので聞いている人が疲れない程度の出力に抑えようと心がけています。
──これが舞台演技になるとまるで違いますよね。
朝ノ そうですね。舞台という板の上で一緒に演じている仲間がいます。それに観客席にお客様も入ってらっしゃるのが大きな違いです。体を使って演技をするので、「そういう風にくる(芝居する)のね。じゃあわたしはこういく(芝居する)ね」というキャッチボールをする形になります。ですので、舞台での演技はもう全然違います。舞台では自分自身がハジけて演技したほうがいいと思っています(笑)
歌っているわたしからみても「この話はほんとうに救いはあるのか」と
──今回のシングル「偲ビ鬼ノ桜遊戯」についてお話を伺えればと思います。
朝ノ 「偲ビ鬼ノ桜遊戯」は、AcaciaというクリエイティブブランドさんとGREE Entertaimentさんが一緒に制作されるストーリー連動音楽企画「偲ビ鬼 プロジェクト」がありまして、そこからリリースされる楽曲になっています。わたしは悠薙瑠璃という役で歌を歌っていきます。
──ゲーム「魔法少女ノ魔女裁判」を制作したスタジオですよね。最初にオファーを頂いたときはどう思いましたか?
朝ノ あの、わたしなんかでよろしいんでしょうか?と……
──朝ノさんってそういうリアクション多いですよね?(笑)。「わたしでいいんですか?」系の反応というか。
朝ノ わたしでいいからお声掛けくださってるんだっていうのは分かってるんですよ(笑)。頭の中で分かってるんですけど、基本的に自己肯定感が本当に低いので、本当に「わたしでいいんですか?」というところから入っちゃうんです。
──プロジェクトのテーマとして「絶望×百合」とありますが、先程も名前のあがったALI PROJECTさんを思い出します。
朝ノ 音源やメッセージ性などを知ると、絶望というよりももどかしさを感じていますね。とある出来事が自分の知らないところで起きていて、いま自分が生きている世界でもそういう犠牲によって成り立っているところがあるのかな?なんて考えが出てきてて。歌っているわたしからみても、「この話はほんとうに救いはあるのか」と思っちゃう。
──歌を歌っていたり音楽を聞いただけで「これ救われないなぁ」なんて感想、なかなかでてこないですよね。
朝ノ デモ音源を聞いたときに「こういう感じかぁ」と感じましたね。あと歌を歌う側で見てみたとき、ここクリアしたらまたひとつ引き出しができる、もうひとつ壁を破るキッカケになりそうだなと思ったんです。この曲のキーが、わたしからするとハイトーン過ぎるんですよね。
──そもそもキーが高めだったわけですね。
朝ノ サビがずっとハイトーン連発になっていましてで、しかも音を当てていく角度や精度が収録ギリギリまで分からないままだったんです。そのままレコーディング収録を迎えたんですが、作曲をされているdaikiさんから「『拍手喝采歌合』をかつて歌われていたし、これもいけますよね?」と笑顔で話しかけてこられて、「これは挑戦状を叩きつけられたな」と思ったし、「偲ビ鬼 プロジェクト」という大きなプロジェクトを任せていただいたというプレッシャーも抱えながらマイク前に立ちました。
──ここでキーを変えるというのも……。
朝ノ なにか負けた気がするな、みたいな(笑)。歌えなかったら悔しいんで。本当にきつかったんですけど歌い切りました。
──もう1曲が「偲ビ鬼ノ隠恋慕」で、こちらは朝ノさんはメインボーカルではないんですよね。
朝ノ こちらの曲は柊優花さんが担当されている楽曲で、これまた救えない絶望寄りの歌になっております。なにか救いがあるのかなと思ったら、なかったというね。「偲ビ鬼ノ桜遊戯」の裏テーマ的な楽曲、といえばいいのかなと思います。
──朝ノさんはこの楽曲だとコーラスなどを担当されているんでしょうか?
朝ノ そうですね。ほかにもちょこっと色々やっています。
──2曲を収録された全体の感想をお聞きしたいんですけど、いかがでしょうか?
朝ノ 音楽とストーリーが連動する企画なので、この2曲のみだと考察し足りないなと思うんです。もっとヒントをくれ!と考察要素がほしくなるし、わたし目線でもまだ隠れている要素がいっぱいありそうだなと感じています。実はこの企画、わたしもこうして参加はしていますが、収録時の情報共有がかなり少なくて、なんなら企画を楽しんでいるみなさんと同じような立ち位置にいるといっても過言じゃないくらいです。
──ということは、次の展開もあまり伝えられていないということですか?
朝ノ じわじわと公式からヒントが出ていますが、それを見て「なるほどね!」ってなるくらいです。
──もしかしたらお2人以外にも新しいキャラクターとボーカルが登場されるかもしれないわけですね。
朝ノ そうですね。できれば長く務めていきたいなと思っています。
演技は、ナマモノ、生き物だなと思っています。
──数年前に別のメディアでのインタビュー対談で、VTuberデビューを目指す人についてをお話しされたのを覚えてらっしゃいますか? 「いまからデビューするのは遅い!」というお話をされていて、こうもハッキリいうのかと僕の中で驚いてしまったんですよ。
朝ノ 覚えてます!
──いまのご自身のポジションや立場からみて、いまからVTuberでデビューされるのはどう考えていますか?
朝ノ 長くこのシーンにいたからこその言い方をするなら、VTuberシーンはめっちゃ優しい世界なんです。その人が実力が伴ってなくても、ファンやオタクから褒めてもらえる形になっている。なので、その状況で満足してしまう人が多く生まれてしまいがちだなと、わたしには感じられます。そういったことも影響してか、「バーチャルの姿でやりたいことをやろうぜ!」というのが主体だったのが、「バーチャルになれば人気が出るんでしょう?」という思考に変わっている気がします。
──大いにあるんじゃないかと思います。
朝ノ デビューして1年から1年半くらい経つと、スッとオタクやファン達が離れていってしまう傾向があるから、現状に満足してはいけないよと思います。
VTuberとしてデビューしたから(するから)といって、活動を通して何かを与えることを(周囲から)求められるのではなく、その活動を通してあなたは何を与えられるのか、こういうのを与えられるんだという風になることが、本人にとってもシーン全体にとっても一番健全なんじゃないのかなと。
結局は何年経とうが最後まで立ってた人の勝ち、残ってた者の勝ちだとわたしは思っていて、デビューして「ファンがチヤホヤしてくれる!やったー!」という状況に満足しては終わりじゃないかと思います。大切なのはVTuberとしてデビューした自分が、どのポジションにいきたいか、どういった枠のどの位置でハマっていって、その上で何をしていきたいかが大切で、重要なんじゃないかなと思います。
──朝ノさんから手厳しい言葉がいくつも飛び出してきたので、自分からも話すと、なにかになりたい人がVTuberになるというのは昔からあったと思うんです。ですが、VTuberになることがゴールになってしまっている上に、自分がやりたいことをやるために”VTuber”という手法を選んでいる方が多いんですよね。あなたが本当にやりたいことは、VTuberじゃなければ本当に達成できないのか?という自分への問い掛けができていない人が、とても多いように感じています。
朝ノ いやー……そうなんですよね。
──一方で、VTuberではなくてもできることを”あえて”VTuberの領域で挑戦することによって、可能性が広がったり、できる領域がグーーンと広がるという点も見過ごせないです。むしろVTuberという手法を選んでエンタメをやることはなにも悪いことではないし、否定することでもない。
朝ノ そうですね。
──加えてこれは概念的なお話にはなるんですが、かつてインターネットカルチャーはテレビなどのメインカルチャーから対抗するカウンターだったはずです。ですが現在では、テレビや他のカルチャーをそのまま模倣しているものも見られますよね。たしかにリスナーとして笑わせてもらっているし、楽しく見させてもらっていますが、本当にそれだけでよかったのか? ネットカルチャーが本来持っていた独自性はVTuberシーンではどこにあるのだろう?という疑いの目も持ちながら、日々配信などを楽しんでいます。これは自分が「VTuber学」という書籍の中でも綴ったことです。
朝ノ わかります。結局ウン番煎じになったら終わりなんですね。とはいいつつ、わたしもオリジナリティを出せているわけではないから、何を偉そうなこといってるんだ!と思われるかもしれないわけで(笑)
──言葉はすべて自分の元に返ってきますからね(笑)。VTuberとして活動できる領域を広げる、面白さを多くの人に届けるという意味で、自分はいまのシーンには十二分に満足はしていますよ。
朝ノ そうですね。こういう生き方があるんだと思ってもらえるのはいいかなと思うんですが、自己実現という意味で考えた時に、安易にVTuberになろう!と選択しないでほしいですね。もっと色々やり方があるはずだからと、見ていて思います。
──質問も残り少なくなってきましたが、これまでこのインタビューでは「VTuberやバーチャルシンガーをあなたはどう捉えていますか?」というようなご質問を最後に投げかけさせてもらっていました。ですが朝ノさんということで、すこしヒネって質問をさせてもらいます。朝ノ瑠璃さんにとって、いま”演技”というものをどういうものだと捉えていますか?
朝ノ うーん……なにか重たく聞こえたら申し訳ないんですけど、「何者にもなれないまま、このまま死んでいくんだな」と思っていた自分への救いだと思っているんです。その上で、演技や芝居というものを通して、誰かになることができると思っているし、その子として生きていくことができるし、誰かの心を揺さぶることも、生きる希望になることもできる。
捉え方をかえると、演技や芝居を通して得た自分の中の引き出しは、自分の味方をしてくれることもあれば、使い方を誤れば悪い意味で武器になり、誰かを傷つけることだってできる。誰かにめちゃめちゃトラウマを与えることができると思うんです。演技することで生まれる感情の爆発のさせ方が、やっぱり声優をやっている人と一般の人だとぜんぜん違うので。
演技は、その時その時にしか出せない感情とか心の動きに溢れている、いわゆるナマモノ、生き物だなと思っています。
──少しメタい話をしますが、朝ノさんは”朝ノ瑠璃”として演技したことはあるんでしょうか?
朝ノ 初期だけっす、自己紹介動画だけですね(笑)。あのときだけでした。「お姉ちゃんです!」という風に言われたので、「分かりました!」といってやりはしたんですけど……端的にいうと面白くなかったんですよね(笑)近寄りがたいんじゃないかなと思ったんです。
自己紹介動画を投稿した数ヵ月後に運営さんと打ち解けてきたときに、素の自分が出せるようになったことに運営さんが気づいて、「そっちのほうが素なんですね。そっちのほうが面白くないですか?」と言われて、それ以来このような感じで活動しています。ただ、朝ノ瑠璃としてどうあるべきか? みんなにとってどういう存在であるべきか? というは常に考えて活動しています。
──今後はどのような活動をされていきますが?
朝ノ そうなんですよ、8周年なんですよね。なんかもうみんな長く活動すればするほど悩んでいると思うんですよね。わたしよりもデビューが早かかった先輩方もきっと悩まれているだろうし、いま5年目や6年目を迎える子たちもきっと悩んでいると思うんです。ですがさっきも話したように、自分が何を成し遂げたいか、そのバーチャルの姿で一体何になりたいのか、どこに行きたいのかっていうのは大事に持っていたいですね。
そこに加えて、8周年だからこそなにかデカイことはしたいなとふわっと思っています。現状では何が起きるかはわからないけど、絶対なにか起こしてみせるから楽しみにしてね。
──もしかしたら、セカンドワンマンライブかもしれませんしね。
朝ノ うわー、できるかな。やれたらいいですね。
(TEXT by 草野虹)
