
18日にリリースされてネットで大いに話題になったAndroid/iOS向けコミュニケーションアプリ「POPOPO」(ニュース記事)。
POPOPOの取締役でドワンゴ創業者の川上量生(かわかみのぶお)氏に続いて、POPOPOのCTOであるMIRO(岩城進之介)氏のインタビューをお届けしよう。
最初のプロトタイプをつくった2018年から足掛け8年もかけて開発していきたこと、使って欲しいユーザーに届けるために泣く泣く自分が開発した3Dアバターファイルフォーマット「VRM」の読み込み機能を外したことなど、興味深い内容がいっぱいだった。
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つなぎっぱなしのLINE通話+Clubhouse
──POPOPOについて、先の川上さんのインタビューでMIROさんと議論を重ねて生まれたサービスだと聞きました。MIROさん側から見て、どういったスタートだったのでしょうか?
MIRO 一番最初の始まりは2018年で、アバターでコミュニケーションしようとしたときに、なんでスマホだとその背中を小さく見なきゃいけないんだ、これっておかしいよね、だからエモい絵をちゃんと出そうよっていう話をしていたんです。で、一番最初は、アバターでテキストチャットができるサービスを試作したんです。
──えっ、テキストだったんですか。
MIRO そう。同じ部屋に入ると決められたカットのアバターがいて、エモい感じでテキストチャットできるみたいな。これ自体もすごくよくて、作ってる側は「うおー!」とテンションが上がったんですけど、じゃあこれを多くの人が使うかっていったらちょっと難しかもねってなったので、一回それはお蔵入りになったんです。
その次は2021年で、やっぱり音声なのではという話になった。その頃に「Clubhouse」(ホストらの音声会話を楽しむSNSサービス)が一回盛り上がっていたのと、自分の息子を見ていて気づいたことがあったんです。学校から家に帰ってくるとまず最初にLINEの通話で友達とつないで、家の中をうろうろしながらずっと音声はつなぎっぱなしなんですよ。で、歯磨きしたり、明日の宿題をやっていたりと。
──それって普通のことなんですか!?
MIRO おじさん世代にはわからないのですが、ゲームしながらのボイスチャットとかもそうですし、若い子は結構その傾向があります。この辺のカジュアルな友達同士の通話にLINEやDiscordなどが使われていて、Discordはゲームともよく使われているのでエンタメよりといえばエンタメよりですが、にしてもなんだか無味乾燥ですよね。意外とエンタメに振り切った個人通話のサービスってないなと思ったんです。
──確かにパッと思いつかないですね。
MIRO ないんです。ニーズはあるのに通話に特化したツールがないから、この辺ひょっとして穴場なんじゃないの? っていうのがまずあった。
あとは先ほども触れたClubhouse。盛り上がったあとにシューッと萎んじゃいましたが、一度盛り上がった事実自体はあって、維持には失敗したけど一瞬、市場を開拓しそうになったんですよね。これもやっぱりニーズがあるから、じゃあうまくサービス設計したら面白いものになるんじゃないの?っていうのが最初の発想です。
──それが2021年。
MIRO そのときに2018年の試作も踏まえて、やっぱりアバターの姿を背中から見るのはないなっていうことで、いい感じでアバターがしゃべっている風にしたかった。じゃあ友達とつなぎっぱなしにして、同じ空間にいるような気持ちになれて、だらっとしゃべれるにはどうすればいいか。
このだらっとしゃべるのが難しくて、私がよくいうのが、無言の時間が許されるかどうかなんです。例えば目的があって電話をかけたり、Google Meetで会議をするとなると、無言の時間ってすごい辛いじゃないですか。そうじゃなくて、なんかそれぞれマンガを読んでるかもしれないし、ゲームやってるかもしれないし、無言の時間はあるんだけどずっとつながっている。
で、「そういえばさー」って思いつきでなんかまた会話が始まるみたいな、緩い感じの音声のコミュニケーションみたいなものをちゃんとできるサービスがあるといいんじゃないかというのが、全体の設計です。
──2021年というと当時、バーチャルキャストでもCTOをやられていましたよね?
MIRO バーチャルキャストはVR特化のサービスですが、もっと数を取るためにはやっぱスマホやんなきゃいけないよね、スマホで何をやるか考えようぜっていう話が会社の出資者でもある川上さんから降ってきた。
で、先ほどのClubhouseとか盛り上がったよね、あれってもう一回できるんじゃないの?みたいな話とかを諸々、川上さんと議論して、じゃあそれを全部まとめた企画をつくろうと企画書にまとめたのが2021年4月でした。
──もう5年も前ですね。
MIRO もう5年前です。それが今のほぼ原形となり、それをちゃんと試作しようとして、当初はバーチャルキャストをベースにスマホ版をつくって、自動カメラワークみたいなのをつけてみて、実際やってみたら、やっぱりちょっと面白かったんです。だったらこれ行けないの? ってなって、きちんとスマホアプリをつくり始めて、カメラワークのアルゴリズムなんかもスクラップ&ビルドで4、5回つくり直したりしました。
──最初に「いけるじゃん」と感じたのはどの瞬間だったんですか?
MIRO やっぱり自動でアバターが動いてカメラワークされるところですね。アバターっていったら、要は自分の動きをコピーするものだったじゃないですか。それは「これは自分だ」と、自己同一感を感じてもらうためにそうするわけです。
カメラワークでも、自分の姿が常に見えている視点か、自分の目線の一人称かになっているというのも、結局それは自分がこの世界にいるんだっていう実感を得るためにあるわけですが、そういう既存の常識を全部取っ払って、自分の声に合わせて勝手にアバターが動いて、カメラワークもついてるっていうのをつくってみたら、意外とありだった。「あ、これ自分だ」って思いながらしゃべれたんです。
──なるほど。
MIRO 何ていうか、見ていて楽しかったんですよ。ニコニコ動画の話でいうと、記者発表会で川上さんがいっていたように、最初は動画にコメントをのっけるなんてそんなのナシだろうって思ったけど、実際やってみたら楽しかったっていうのと同じように、アバターって自分の動きに合わせて動くんじゃないの?と思っていたけど、勝手に動かしてみたらそれはそれで楽しかった。そこで、意外といけるんだねって思いました。
自分と同一じゃないから「アバター」ではなく「ホロスーツ」
──技術面で一番大変なことってなんでしたか?
MIRO 技術的な課題もサービス提供的な課題もいっぱいだったけど、何だろう。
──自分的には、まず30人しゃべれるのがスゴいなと思いました。
MIRO 30人しゃべれますが、実は同時にアバターが出てくるのは8人です。より正確には最大10人で、8人以上どうなってるかっていうと、例えば会議室ならテレビに出てきたり、学校だったらスピーカーに出てしゃべる。定員を超えると、その空間で声が出ててもおかしくない物体が寄り代になって表示されるんです。
──なぜ8人以上表示されないのでしょうか?
MIRO それは単純にスマホでレンダリングするからパワーが足りない。そういう意味で絵作りも相当がんばった。ライティングとかも含めてきれいな絵を見せるっていうことにこだわっています。あとは幅広いスマホの機種できちんと絵を出せるところにも苦労しました。Androidのこのスマホでだけ画面が真っ黒になるとか、iPhoneで2週間に1回ぐらいの頻度でレンダリングが崩れるとか、そういうのがいっぱいありました。
──大変すぎる。POPOPOのチームとしては何人ぐらいなんでしょうか?
MIRO 今は社員が30人くらいで、業務委託や外注さんとかも含めてプロジェクトチーム全体で言うと70人ぐらいです。
──思っていたより関係者が多い!
MIRO でかいでしょ。結構びっくりです。
──MIROさんの個人プロジェクトみたいな感じなのかなと思っていたら、まさかそんなに多いとは。
MIRO そんな規模じゃないです。
──じゃあ片手間みたいな話じゃなくて、めちゃくちゃ資金を投じて本当に本気で開発してるやつなんですね。
MIRO 川上さんも相当本気ですよ。
──チームの中で使ってて「これいいよね」という話は出てきましたか? 川上さんは名前のテロップが最初にでるところがいいと語っていました。
MIRO 先ほども話しましたが、アバターが自分と同じ動きをするわけじゃないので、これは自分のアバターですと感じさせる仕組みが若干弱いんです。その辺を補強するのが実は名前だったりします。アバターが映ったときにこれは誰っていうテロップが出るのが重要で、「これは⚪︎⚪︎さん」って思いながらしゃべっていくうちに馴染んでいく。
──川上さんのインタビューではPOPOPOが生理的に気持ちいいという話も出ていました。ただ、新ジャンルなだけにユーザーが慣れるまでに時間がかかりそうです。
MIRO そもそもアバターでコミュニケーションという時点で「Not for me」ってなったり、別に通話したくないしって人もいるかもしれません。あとは現状、配信機能のほうが目立ってしまっている部分もあるかもですが、やっぱり友達の雑談とかに使うとハマるんですよね。
社内でもPOPOPOで雑談していると本当に楽しい。社内の定期ミーティングでも使っていますが、開発中のバージョンが使えないときがあって「じゃあ今日はGoogle Meet」となって集まると、なんかね、すごく辛いんですよ。そういう意味ではすごくポテンシャルがある。ただ、そこのよさを感じてもらうまでがハードルが高くて、ここを何とかしたくて始めたのが1億円が1人に当たるキャンペーンです。
──まさに川上さんがインタビューで同じことを言われていました(笑)。しかし、POPOPOで会議しているのが意外でした。でも確かに通話アプリだから会議にも使えますよね。
MIRO そうすると今度は、画面の共有ができないとか、PCからログインしたいとかのニーズが出てくるので、PC版も開発しています。
──機能でいうと、3Dアバターフォーマット「VRM」の読み込みに対応していないのも意外でした。MIROさんといえば、開発を手がけた「VRMの父」ですが、あえて「子供」を入れない選択をしたという。
MIRO それはマジで苦渋の決断です。当然、インポート機能自体はあって、使おうと思えば使えるわけですが、最初はなるべく簡単にして、ホロスーツを気軽に着替えてしゃべってもらうっていうところを体験してほしかった。
アバターじゃなくてホロスーツって呼んでるのも意味があって。アバターというと自分の依代と思われるので、そこをあえてスーツと名付けているのはもっと気軽に着替えて欲しかったからです。一番最初に「あなたのアバターを選んでください」ってなると、その姿を選んだ理由を求められると思うんです。アバターがいっぱい並んで選んだり、この姿をエディットしましょうみたいな感じになって、じゃあなんでこの目を大きくするのかとか、この髪色の理由は何かっていう話になって、自分がこの姿になりたいというモチベーションのもとに選ばされている感じになる。でも、なりたい姿がない人はここで困っちゃう。
──確かに雑談してもらうのが目的なのに、最初のアバターでユーザーがつまづいていたら本末転倒ですよね。
MIRO その辺のハードルは下げたい。なのでホロスーツって呼んで、これは後でも変えられますって最初にいわれるんです。その理由は、これはあなたの依代としての姿なのではなくて、ファッションなんですと。気分で変えるものなので、今から寿司が食いたいなと思ったら寿司になればいいんですっていう、もっとカジュアルなものにしたかった。
だから全体的にそのサービスを使うまでのハードルを下げています。本当にその辺にいる普通の人でも楽しく使ってもらえるサービスを目指したときに、ユーザーインターフェイスやユーザー体験をできるだけシンプルにした流れで、アバターを選ぶっていうことも難しいよねという気づきがあった。
じゃあ呼び方を変えて、簡単に選べるようにしましょうとなったときに、VRMの読み込み機能をつけて、最初からユーザーがこぞって3Dアバターを持ち込んで、「アバターってUnityでVRMを書き出して自分で持ち込むものなんですよ? なんであなたはそうしないんですか」って空気に最初からなっちゃうと、ちょっと辛いなというのもあった。
──まぁ、ロイヤリティーの高いユーザーになってくれるかもしれませんが、現状、VRChatを見てもアバターはBOOTHで流通して持ち込まれているのが主だから、プラットフォームにお金入ってこないですからね……。
MIRO 本当に苦渋の決断です。ただ、これは最初の空気の話なので近いうちに対応したいとは思っています。
競合はgoghやREALITYではなく「LINE通話」
──競合サービスは何を想定されてますか? なんか今のお話を聞いていると、ambrの「gogh」(ゴッホ)なのかなとも思いました。
MIRO goghさんがリリースされたときには、POPOPOをつくり始めてからだいぶ経っていたので、実際「うぉっ」と思ったのはあります。利用者に寄り添う感じというか、領域は近いなって思ったんですよね。でも最終的なユーザー体験やアプローチは結構違う。goghはどちらかっていうと箱庭の中に自分のようなキャラクターを飾って愛でる方向で、サービスの思想が違うため、競合かといわれればそうではないかなと。想定の競合はストレートにいえばLINE通話ですね。
──やはりLINEなんですね。スマホアプリのアバターコミュニケーションだからREALITYだと思っていました。
MIRO さっき息子の行動の話をしましたけど、だらだら雑談しているLINE 通話をPOPOPOでやってみようという、その選択肢に入ってほしいです。
REALITYさんと並べてみると、配信があって、通話があって、自分がアバターになってっていう要素は全部同じなんですよね。でも先ほどもいったように背景にしている思想が結構違う。だからその辺をきちんと広報したい。「ああ、ああいうのね」って片づけずに使ってみてほしいです。
──となると、今のPOPOPOは有名人の配信のほうが目立ってしまってるのがあまり望まれた状況ではない気がします。配信を入れた理由はなんでしょうか。
MIRO これはクローズドな通話だけだと広がりが出ないからです。ネットのバズりを生まないとそこから先にリーチしないので、広く話題になってみんなに認知してもらってインストールしてもらうのがまず最初にないといけない。
通話するなら、やっぱり話す相手もインストールしてないといけないじゃないですか。で、今、LINEで通話してるのに、じゃあPOPOPO使ってみたいからインストールしてよっていうのもすごくハードルが高いですよね。だからまずフックとして1億円キャンペーンだったりとか、GACKTさんから電話がかかってくるとか、広くリーチする導線が必要だったんです。
──いや、なんかその辺を川上さんも語られてて、本当にチーム内でブレがないんだなと思いました。
MIRO そう、川上さんと本当にずーっと議論しながらつくってきたので、まったくズレはないです。
「サマーウォーズ」のような寄り添う存在
──最終的にPOPOPOで目指したい体験を教えてください。
MIRO 今、表に出ているのは通話アプリなんですが、実はここを取っ掛かりにできることがいっぱいあるんです。終着点の話をしますと、フィクションの中のメタバースとしてよく参照されるものとして、「レディ・プレイヤー1」と「サマーウォーズ」がありますよね。この2つってメタバースへの扱いが全然違っていて、「レディ・プレイヤー1」はフル没入してバーチャルの世界で生活している人たちがいるんです。
一方で「サマーウォーズ」はそうではなくて、冒頭、OZの説明があったあとに主人公と友達が部室の中でパソコンでバイトをしているシーンから始まるんです。これって没入してるんではなくって、現実世界での生活が最初にあって、そこにそのバーチャルの世界の自分が張り付いてるというか、寄り添ってるんです。「サマーウォーズ」って全般的にそんな描写になっていて、リアルの生活はリアルの生活であるんですよ。
POPOPOの世界観もそっちに近くて、そこに窓があってバーチャルの世界の自分みたいなものが裏側にいる感じなんです。スマホの中でホロスーツを着てる存在がいて、そこに没入するのではなく自分と伴走している。そしてアバターも自分で操作するんじゃなくて、勝手に動いている。そんな世界観のサービスって今まであまりなかったよね、とも思っていて。
今はAIをエージェント化したりとか、AITuberが出てきたりしていますが、そのバーチャルの世界と現実世界をつなぐ窓という世界観を推し進めていくと色々なことができるようになると思います。
──なんというか、欧米と日本の考え方の違いみたいな話を感じました。POPOPOのキャラクターには、自分の魂の断片みたいなのが入ってるみたいな感じでしょうか。
MIRO 断片というか、自分で選んだアバターエージェントがいるみたいな、そんな感じですよね。
──スゴい。この10年、アバターの姿をエンタメに活用したのがVTuberで、単純にコミュニケーションしたい人たちがVRChatとかのメタバースで使ってきたわけで、そのアバター史観の根底から変えていこうとしているわけですね。
MIRO そうじゃない切り口があるんじゃないのっていうことなんですよね。ただまあ、これはあくまでも終着点の話で、今後そういうこともあるよねぐらいの余談だと思ってください。
──でも興味深い話です。例えばゲームで自分でカスタムしたキャラクターって自己同一視することないじゃないですか。それとも違う伴走している感じという。
MIRO そう、この辺きちんと掘り下げて、UXを考えると色々面白いよなと思ってます。
──そうですね。バーチャルのもうひとつの体に関しても、グラデーションがあってもよかったはずなのに、気づかれてこなかった。本当に新しいインフラをつくろうとしているのが伝わってきました。
MIRO そう。だから本当に大勝負なんです。川上さんも大勝負ですし、お話しした開発体制とかもそうで、冗談でなくチャレンジをしています。実際に友達とのふわっとした雑談に使ってみてもらうと「あ、これ楽しいな」ってなるので、ぜひインストールしてほしいです。
(TEXT by Minoru Hirota)
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