PANORA読者の皆さん、初めまして。ドイツ・フランクフルト在住のライター、Katahoと申します。
6月の頭、ドイツの雑誌にホロライブEnglishに所属する小鳥遊キアラさんのインタビュー記事が掲載されました(上の写真)。コスプレ専門誌「cohaku」の31号で、6ページにわたるロングインタビューです。記事の中で小鳥遊キアラさんは、VTuberになったきっかけや、その魅力などさまざまな質問に答えています。
ドイツメディアが日本のVTuberを紹介
ところで、ヨーロッパで日本のポップカルチャーが人気だと聞くと、皆さんはどの国を思い浮かべますか? 多くの方はフランスと答えるかもしれません。フランスとドイツのどちらでより人気があるのかという答えのない議論は避けるとして、本稿では、ドイツで広がりを見せている日本発のポップカルチャー、特にVTuberの現状について紹介したいと思います。
いま、VTuberというジャンルもドイツに到達し、普及しつつあります。では、どのくらい注目されているのでしょうか? これについては、前述の小鳥遊キアラさんの記事のように、メディアでの取り上げられ方がヒントになるでしょう。
最近ドイツでは、VTuberがメディアに登場することが増えてきました。前述の「cohaku」のほかにも、ドイツのオタク文化を広く紹介する雑誌「Koneko」は、2021年5/6月号(104号)で、「どのようにVTuberはオンライン世界を征服するのか」という記事を2ページで掲載しました。 内容は、5月末に開催されたオンラインフェス「ディギコミVtuberエディション」の紹介がメインで、イベントにも参加する小鳥遊キアラさん、Karen伯爵さん、Fiskyさん、Tomoko-chanが画像付きで紹介されています。
上記のような日本のポップカルチャーファンに向けられた媒体だけでなく、一般向けのメディアでも露出は増えています。週刊誌「シュピーゲル」(2020年12月27日付)やティーン向けトレンド雑誌「BRAVO」(2021年5月13日付)も、それぞれオンライン記事でVTuberを紹介しています。
さらに、マーケティング業界のニュースサイト「OMR」は、2020年12月18日付のオンライン記事で、VTuberのキズナアイを入り口に、ホロライブの影響力の大きさと「スーパーチャット」と呼ばれるいわゆる投げ銭に関連した経済の大きさを取り上げています。
ドイツには、「ドイツ編集部ネットワーク」(RND)という、加盟する地方紙にニュースを提供する団体があるのですが、そのRNDは2021年5月18日付で「配信者からVtuberへ:日本を超えて広がる流行」というタイトルのオンライン記事を掲載しています。
ドイツで今後VTuberはどう展開していく?
上記はここ半年ほどのドイツ国内のメディアの動向です。さまざまな業界が、さまざまなターゲット層に向けてVTuberを紹介していることがうかがえます。
今後、ドイツにおいてVTuberがさらに盛り上がっていく道筋として、どういうシナリオが考えられるでしょうか? そのヒントになりそうなのが、冒頭に紹介した小鳥遊キアラさんのインタビュー記事です。
ロングインタビューでは時に、大事な質問は最後にこっそり現れる、といったケースが見られます。筆者の見たところ、小鳥遊キアラさんのインタビューでも最後間際の質問にこのインタビュー企画の本音が見え隠れしているようです。
その質問とは、VTuberとコスプレの関係についてで、「自分自身のコスプレイヤーが現れたらどう思うか?」というもの。小鳥遊キアラさんは、すでにそういったコスプレを見たことがあると答え、うれしいと歓迎する気持ちを述べています。続けて「私たちはディスプレイ上にしか出現できないので」と説明し、リアルの人物がコスプレするのを見るのはとても素晴らしくわくわくするとしています。
うがった見方かもしれませんが、小鳥遊キアラさんがドイツでさらに有名になるための戦略として、自身のコスプレイヤーを増やすという方法はあり得るかもしれません。ドイツにおいても日本と同じように、催し事に参加するコスプレイヤーはイベントの花であり、同時にトレンドを知るバロメーターでもあるからです。つまりコスプレは、流行を仕入れる「媒体」なのです。もちろん、これは小鳥遊キアラさんに限ったことではなく、海外に進出したい・ファンを増やしたいVTuber全体に言えることでしょう。
平時であれば、ドイツでは年間を通じてアニメファンが1万人以上集まる大型イベントが1ヵ月に1回程度の割合で、各地で開催されています。最近になって、VTuber系のイベントも開かれるようになりました。5月末にドイツ最大のアニメファンイベント「Dokomi」(ドコミ)が「ディギコミVTuberエディション」というオンラインフェスを開催しました。
このイベントでは、大手である「ホロライブEnglish」の小鳥遊キアラさんだけでなく、米国のエージェント会社VShojoに所属する複数のVTuberといった有名どころがキャスティングされており、さらにドイツ国内やドイツ以外のヨーロッパの国からもVTuberが参加しました。このイベントは、現時点でのドイツから見たVTuber界隈を俯瞰するものだった言えるかもしれません。ネットに散在する個々のVTuberを集約して呈示した意義は大きいと感じました。
有名なVTuberは品質の高いエンターテイメントを提供すると同時に、視聴者にとっては憧れの存在になったかもしれません。また、ドイツのVTuberたちがドイツ語で配信する姿は、「自分にもできるかも」と勇気を与えたかもしれません。そして、楽しく盛り上がるトークショーがある一方で、VTuberになるためのワークショップにも多くの視聴者が集まっていました。
では、リアルのイベントはどうでしょうか? 新型コロナウイルスの感染拡大が収まりつつあるドイツでは、アニメファンが集まるイベントもそろそろ水面下で動きだしているようです。あるイベントの関係者の話によると、ある有名VTuberの出演計画が進んでいるようです。VTuberをリアルイベントに出演させるためにどんな技術を投入してくるのか、ドイツのエンタメ業界の本気度を測るテストケースとなるかもしれません。
さて、そろそろ未来を展望して終わりにしたいと思います。アニメやマンガ、ゲームといった日本発のコンテンツに「初音ミク」のようなネットカルチャーが加わり、VTuberはその次に追加されるトレンドとして、ドイツでも存在感を増しつつあると筆者は感じています。
配信されるコンテンツは日本同様に多種多様ですが、VTuber同士の交流によるコラボ動画・配信も盛んです。例えば、ドイツに住む日本人VTuberであるTAIDAさんの動画では、日独のVTuberが交流しています。このようなコンテンツの力によって、国際交流の新しいカタチが生まれているのは興味深いところです。
(TEXT by Kataho) ※写真はフランクフルトにて筆者撮影
<著者プロフィール>
ドイツゴチョットワカル系ライター&コーディネーター。ドイツ・フランクフルト在住。ドイツのオタクイベントでの遭遇率が高い人。日独オタク文化交流がライフワーク。