
ソニー・ミュージックエンタテインメントのVTuberプロジェクト「VEE」は3月24日、Zepp DiverCity(TOKYO)にて全体ライブ「VEE 2nd CONCEPT LIVE『Conflict』」を開催しました。
2024年2月にZepp Shinjuku(TOKYO)にて行われた「VEE CONCEPT LIVE『Merge』」に続く今年のコンセプトは、「Conflict」、すなわち「衝突」です。具体的には前回、デビュー時のグループ「dev-○」のくくりが取り払われて、ひとつの「箱」として統合されたありさまを示したのに対して、今年はあふれ出る個性が音楽ライブの形でぶつかり合っていました。
所属タレントの特徴や人となりに関してまとめた事前記事に続いて、観客を熱狂させた本ライブをレポートします。
天籠りのん、安心院みさから繋がる怒涛のオリジナル曲ソロパート
やはり、ライブの魅力の一つは「影ナレ」(影ナレーション)です。電車を乗り継いでライブ会場の前に着いたときはまだ日常の連続という感じがしますが、会場入りし、「いよいよライブが始まります」という影ナレが聴こえてくると、非日常的なライブ体験への扉が開かれるような気がします。

そして満を持して一曲目に流れたのは、なんと今回のライブ「Conflict」を象徴する楽曲「アウトラージュ」。VEEオリジナル曲「絶対零度の世界から」に続く2曲目という位置づけを持つ本楽曲がライブの最初に歌われるという衝撃に、観客席ではどよめきが起こっていました。
「アウトラージュ」というタイトルは、アウトロー(outlaw)とコラージュ(collage)という二つの言葉を組み合わせて作られた造語です。本楽曲のサビ部分、
混沌ぶち壊し 遊び 創造せよMUSIC
あーでもないこーでもない WARNING
ぶつかり合い 限界 粉々に砕きこねたMELODY
そっちじゃないこっちじゃない READY FIGHT
という歌詞が、そのまま今年のライブ全体のコンセプトを表しています。
サビに続く「JUMPING!」のかけ声のところで観客たちも大きく体を揺らし、さながら「最初からクライマックス」と言えるような盛り上がりでした。また、曲の雰囲気がガラッと可愛らしいポップな曲調に変わる二番にも注目が集まりました。

高揚感に包まれた空気の静寂をぶち破ったのは天籠(あまこも)りのんさん。前回のライブでは後半での出演となりましたが、今年はトップバッターを務めることになりました。
VEEの歌姫の一人である彼女が歌ったのは「メメメのメ」と「虚無虚無です。」の二曲。「虚無虚無です。」は天籠りのんさん初のオリジナル楽曲であり、「メメメのメ」は1月31日に公開されたセカンドシングルです。
圧倒的な歌唱力を前提にした二曲と、力強くライブ会場に突き抜ける高音。「虚無虚無です。」はキャッチーなフレーズと共に力強さと可愛さが合わさった見事な構成の楽曲。そして、「メメメのメ」はまさに中毒性高めのポップな曲調であるだけでなく、豪華なアニメーションMVがセットになった新曲ですが、そんなMVで披露していたサビ部分の踊りをライブで再現していて、歌も踊りも大満足のパフォーマンスとなっていました。
メメメのメ!上等ロンリネス
…なんてベー! またヤミ来んの?
もう本気無理 無理 ブギウギ
欲張りさんしでワンパン
「メメメのメ」の冒頭で高らかに歌い上げられるこうした歌詞も、今回のライブの開幕を飾るに相応しい世界観と迫力であったと言えるでしょう。まさに天籠りのんさんそのものを表すような楽曲によって、「アウトラージュ」から急激に沸き上がったライブの熱量はさらに高まり、観客たちの魂を震わせることになりました。

再び静寂に包まれた中、会場に響いたのは「今日もみなさま祈りましょう」の言葉。安心院(あんしんいん)みささんの初のオリジナルソング「安心の讃歌」の歌い出しです。天籠りのんさんと安心院みささんのユニット「WARUGURU」でバトンを繋ぐ形となり、会場の高揚感はさらに高まりました。
「安心の讃歌」は安心院みささんの(教祖としての)荘厳な一面と、(一人の女性としての)お茶目な一面が奇跡の融合を果たしている一曲です。本楽曲は、去年の12月20日に行われたソロイベント「安心教礼拝集会」にて初お披露目されました。
神のご加護があらんことを あらんことを あらんことを
おっちょこちょいな運命 いつも心は痛い 痛い
だから今日もみなさま祈りましょうったら祈りましょうったら祈りましょう
われら迷える子羊 右も左も 偉い偉い
あなたを癒すお恵みを お恵みを お恵みを
受け取ってごらん(安心!安心!安心!安心!安心!安心!)

2025年3月をもってVEEからご卒業される安心院みささんを送り出すかのように、去年のソロイベントでコーレスを学んだファンたちが力の限り「安心!」「安心!」と叫んでいる姿が非常に印象的でした。
続いて会場に鳴り響いたのは偉雷(えらい)アマエさんの「ちゅんだーCHU意報」です。初お披露目は昨年10月24日のライブ配信中で、聴く者の心の充電をフルで補給してくれる元気いっぱいの一曲となっています。なお、タイトルの「ちゅんだー」とは、彼女が配信上で「thunder」という英単語を「サンダー」ではなく「ちゅんだー」と読み間違えてしまったことに由来します。
また、偉雷アマエさんはライブ直前に本楽曲のコール解説動画も出していて、それをもとにファンの方々はコールの練習をすることもできました(えらい!)(えっへん!)(ベイベ!)。コールの箇所も多い、大変賑やかで楽しい曲が本楽曲です。
ちゅっちゅちゅんだ ちゅっちゅちゅんだー
キミに元気をビビッと注入
ちゅっちゅちゅんだ ちゅっちゅちゅんだー
エレクトリックビクトリー
こうした歌詞と共に紡がれるアマエさんの雷魔法が、文字通り観客たちの心をしびれさせていました(「ちゅんだー!ちゅんだら!ちゅんだが!」)。インターネットカルチャーに深く沈んでいる人であればあるほど、自室で一人でコンテンツを楽しむことが多いと思います。そうした人たちに元気と明るさをもたらしてくれる本楽曲は、まさにファンたちを照らす一筋の光となったことでしょう。

雷魔法が会場全体に放たれた直後に降り注いだのは「ビタミン」の魔法、音門(おとかど)るきさんのオリジナルソング「きっとビタミン」。高い歌唱力を持つメンバーが揃うVEEの中でも、特に安定感を誇るのが彼女です。YouTubeで公開されているMVもぜひ観ていただきたいのですが、朝に聴いたらその日一日の元気を補充してくれるくらい明るく爽やかで、思わず「V I T A M I N E!」と口ずさんでしまうほどに気持ちを上向きにさせてくれます。
君に足りないビタミンは 私の心に在って
私に足りない感動は 君の言葉に潜むイレギュラー
無いものねだる同士より 有り余るひとつがいいや
私達 きっときっと なれるよ
歌詞に表れているのは、活動者とファンの間のインタラクティブな関わりです。ファンは、心の栄養素(ビタミン)を推しの配信で摂取するとともに、活動者のポジティブな気持ちは、ファンたちの一つ一つの言葉の中から生まれる。実際、歌詞の中では、「君にビタミン」という言葉と並んで、「君とビタミン」という言葉も登場します。そうしたつながりを明るく歌い上げる音門さんのパフォーマンスに、会場は大きな熱気に包まれていました。

再び静寂に包まれた沈黙の空気を弾けるような歌声で破ったのが、カガセ・ウノさんのオリジナルソング「U☆World*Order」です。「ジャジャーン! カガセ・ウノ 参上! ちきゅうをまるごと洗脳ちゅー!」という冒頭の歌い出しからすでに会場全体が「うのうの」してきます。複数の曲調が込められた構成は、ウノさんの多面的な魅力を反映しているよう。元気あふれる歌声と明るく振り付けを踊る彼女の動きが相まって、大変可愛らしいパフォーマンスに感じられました(間奏のときに大またで歩くような姿が特に可愛らしいと評判でした)。
未来、将来どーなるかなんて かみさまのおみそ汁
すこししょっぱい味付けだって ウノにかかれば あまあまジュース
どーだい? おいしい!? バンザーイ!!!!
まるでアニメのOPの主題歌をそのまま聴いているかのような本楽曲には、こうした印象的な歌詞も登場します。どんな味付けの未来だって、彼女の手にかかればきっと「あまあま」なものにしてくれる。そんな未来と希望を感じさせてくれるパフォーマンスでした。「もっともっとこっちおいで! みんなでヒトツ♪」と歌うウノさんが、曲が終わっても最後の最後まで観客席に向かって手を振ってくれていたのが記憶に残っています。

ライブはそのままウノさんによる「MCパート」に突入します。ただ、一般的なライブのMCとは異なり、今回のライブでは「Conflict」というコンセプト(ないし世界観)にのっとった形で「語り」が紡がれるような内容でした。
ところどころ噛んでしまう箇所もあったウノさんの語りは、それでも優しく、はっきりと、今回のライブのコンセプトを観客に伝えてくれるものでした。
「私のこの(MCの)時間は終わります。しかし、衝突と生は続きます。生が続きますように。……ライブは続くよ? 準備はオッケー!? じゃあみんな立ってみよう。こっからもーっと盛り上げるんだよー!? 最後まで楽しむぞー!!」
ウノさんのかけ声に呼応するかのように会場全体が再び熱気を取り戻し、そしてライブは中盤へと突入します。
多彩な組み合わせが「衝撃」を生んだコラボ中心パート
中盤の一曲目に歌われたのは、雛星あいるさんとるみなす・すいーとさんによる「可愛くてごめん」のカバーです。VTuber文化に親しみのある人であれば知らない者はいないであろうこの一曲を歌う二人の姿は(背景画面の演出も相まって)大変可愛らしく、(「カッコいい」、「元気いっぱい」と来て、続けて)「可愛い」重視のセトリの流れを方向づけるのに相応しい一曲でした。
今回のライブで初めて複数人の踊りが披露されたということもあり、雛星あいるさんとるみなす・すいーとさんの踊りが息ピッタリであるという点にも注目が集まりました。細かい点で言うと、二人の瞳が細かく変化したり(例えばるみなす・すいーとさんの瞳が「˃ ˂」になったり、雛星あいるさんの瞳に「☆」のエフェクトが入ったりしました)、「ムカついちゃうよね? ざまあ」の振り付けや表情が毎回異なったりして、「3D」の動きをフルに活用している様子が見られました。
二人の声質は、どちらも「あどけなくて可愛らしい」というところに特徴がありますので、そうした彼女らがイタズラっぽい楽曲代表である「可愛くてごめん」を3D姿のデュエットで歌い上げる姿は、まさにファンたちが待ち望んだ光景であったと言えるでしょう。

驚かされたのは、続けて流れた楽曲が2011年にニコニコ動画でミリオンヒットを記録した「Nyanyanyanyanyanyanya!」だったこと。突如としてステージ中央に表れた赤いオブジェクトの後ろから覗くのは毛先の赤い秋雪(しゅせつ)こはくさんの尻尾(彼女自身は狐です)。尻尾をゆらゆらと揺らしながら笑顔を覗かせる秋雪こはくさんはまさに「可愛さ」そのものを体現しているようで、その両隣でリズムに合わせて体を揺らしている雛星あいるさんとカガセ・ウノさんの愛くるしさも抜群でした。音楽ライブという場であえて歌わず、楽曲だけを流して体を揺らして楽しむ時間を設けるというのは、筆者の目には非常に新鮮に映りました。

そしてループの切り替わりの直後に「お前らまだまだ盛り上がってくぞー!!」と声を発した秋雪こはくさんが歌い始めたのは、彼女のオリジナルソング「$HOT!!」。
1Tapで Shooting Sound 打ち込むメロディー
誰も彼もが沼にハマってく
Sing It Loud きっともう戻れない
こんな楽しい音 知っちゃった
Yeah, Shooting Sound 揺らせこのリズム
今日も色んなゲームが待ってる
Yeah, Shooting Fox 狙えヘッドショット
ちゃんとエイム合わせ Tap Tap Tap
まさに秋雪こはくさんを象徴するかのような本楽曲では、「全力でっ!」、「ジャンプっ!」など、一緒に体を大きく動かす場面を随所に用意しており、今回のライブの中でも大いに盛り上がった代表的な一曲となりました。可愛さとかっこよさが同居した見事なパフォーマンスが展開されていたと言えるでしょう。

「$HOT!!」で盛り上がった観客たちを続けて出迎えたのは、芽々守(めめもり)あんさんのオリジナルソング(※記事執筆の時点でタイトル曲は未公表)。こちらは3月16日の配信の「重大告知」配信にてその存在が明かされた楽曲であり、今回のライブにて(「ライブ限定スペシャルバージョン」で)先行公開が行われました。
もともとが「Shorts用のオリ曲」ということもあり、楽曲全体の長さはそれまでの曲と比べて短いものではありましたが、それでもキャッチーなリズムで繰り広げられる約1分半の中に、芽々守あんさんの可愛さがぎゅっと詰まっていました。また、「いつもの挨拶、忘れてないよねー!? この紋章の前に、ひれ伏しなさ~い!」というかけ声に合わせて、実際に頭を大きく下げるファンたちの動きを最前列では観ることができました。
いつか見る夢の頂上へ 君と作るお話
わがままでも愛してね
甘い歌声を持つ芽々守あんさんにまさにピッタリなオリジナルソング。フワフワと可愛らしい振り付けがキレのある動きで表現され、観客たちの視線はピンクに染まったステージにくぎ付けになっていました。曲が終わった後の立ち姿勢も大変良いもので、その様子を見た近くの観客席のファンたちが「可愛い」と真剣なトーンでつぶやいていたのが非常に印象的でした。

続けて歌われたのが、亞生(あにゅう)うぱるさん、緋墨(ひすみ)さん、日和(ひより)ちひよさん、羽澄(はすみ)さひろさん、甘楽(かんら)デイティーさん、浮々(うきうき)ゆにこさんによる「シネマ」のカバーです(※全員Live2Dでの出演)。
「シネマ」のときには特に背景の三枚のLEDディスプレイがフル活用されており、歌唱を披露する彼女たちの姿が次々に切り替わって映し出される演出は、明らかに去年のライブのときよりもパワーアップしていました。ディスプレイをそれぞれ均等に並べるのではなく、あえてずらした配置で演出に利用することにより、より芸術性が高まっていたと言えます。
もちろん、六名それぞれの歌声の重なりも大変見事なものでした。低音で伸びやかに歌い上げる亞生うぱるさん、若々しく力強い歌声の緋墨さん、あどけない声質と高い歌唱力が調和している日和ちひよさん、優しさを感じさせる歌声で人々を魅了する羽澄さひろさん、非常に高い安定感と迫力を合わせ持つ甘楽デイティーさん、明るく快活な歌声を持つ浮々ゆにこさん。彼女たちの歌声が一つのハーモニーとなり、ボカロの名曲「シネマ」を見事に歌い上げていました。そのパフォーマンスのクオリティの高さに呼応するかのように、会場の盛り上がりはさらに力強いものとなっていました。


静寂の中で静かに歌い出したのは桜鳥(おうどり)ミーナさん。普段尋常ではないレベルの耐久配信を実施されている配信上での姿を思い出すと、「本当に同一人物なのか?」という気持ちにさせられます(もちろん、桜鳥さんの歌の実力には定評があります)。そんな彼女が歌ったのが自身の初のオリジナルソング「ダンシング☆PONPON」です。桜鳥さんは優しい歌声で、どこか懐かしさを感じさせる本曲を歌い上げていきます。それまで「カッコいい」、「元気いっぱい」、「可愛い」、「オシャレ」と続いたセトリの流れの中で、初めて「しっとり」系の雰囲気が披露された瞬間でもあります。
魔法が解けても いつか逢いましょう
すたこらドロンで
ポワ ポワ ポワ
まるで夢の中の光景を表しているかのような本楽曲は、推しと配信上で会える時間が「魔法」のようなものであることを思い出させてくれます。そんな魔法が解けても、きっとまた再会できる。そうしたメッセージを、桜鳥さんは優しく私たちに伝えてくれました。このような体験をさせてくれた桜鳥さんは、まぎれもなく聖魔法使いであったと言えます。

続けて会場に流れたのはマル・ナナモナさん、北白川かかぽさん、雨庭やえさんによる「メランコリック」のカバー。三人の踊りの動きもピッタリで、複数人で3Dで踊るというパフォーマンスの良さを最大限に感じることができました。また、マル・ナナモナさんの衣服や北白川かかぽさんの白衣、雨庭やえさんの尻尾が踊りの中で軽やかに揺れる様子は、3Dで踊る際の大きな魅力の一つであると言えます。
さらに、この三人はVEEの中でも特に強い個性を持っているという点も特筆されるべき点です。マル・ナナモナさんは異文化や異なる他者を理解できるようにするために複数の外国語を学んでいる方であり、北白川かかぽさんは「学びの扉」を開けてくれるような活動をされる方です。また、雨庭やえさんは「24時間企画」や「○○選手権」を代表としたVEE屈指の企画屋でもあります。
三人に共通するのは「開放性」であり、そんな三人が「片思い」がテーマの恋愛ソング「メランコリック」を歌うというのは、非常に特徴的な選曲であると言えるでしょう。何らかのキャラクター性やタレントとしてのパーソナリティが物語をリアルタイムで作り上げるVTuberがどのような楽曲を歌うのか(そしてそれによってどのようなギャップが生まれるのか)というのは、VTuber文化における大きな見どころの一つであるということが再確認された瞬間でもありました。

静寂に包まれた会場の中で静かに響き始めたのは、言のハ(ことのは)さんの初のオリジナルソング「your guidance」(作詞も言のハさんです)。彼女もLive2Dでの出演となったのですが、静かなる雰囲気の中で伏し目がちに歌うその姿は、まるで3Dのように筆者の目に映りました。淡く、白い線で縁取られた言のハさんの姿が背景の画面に映し出される演出も幻想的で、彼女の儚い雰囲気にまさにぴったりなものであったと言えます。観客席を埋め尽くすファンたちも、彼女の楽曲によって世界観が一気に変わったということを肌で感じ取り、それまで力強く振られていたペンライトの動きも、その空気感に溶け込むような優しい動きに変貌していました。
間に合いますように 間に合うように
君のことを思い出す度に
何処かに向かってきっと ずっとうたってる
世界を好きになれますように
私を好きになれますように
静かに紡がれる祈り。背後で優しく光る星の輝きは、彼女の存在そのものを表しているよう。まるで世界の全てが夜空になったかのような空気が、ライブ会場を静かに包み込みました。そうした優しい沈黙の中、「your guidance」の後に披露されたのが、言のハさんによる「語り」(MCパート)。まるで、朗読のような時間でした。

「生きるということは、選択の連続であるなんて言葉を、よく耳にする。選択をする。この行為の連続に、自分というものが表れていると思う。……どちらを選ぶべきかではなく、どちらを選んだ自分が良いかを選んでいるときがある。しばしば起こるこの状態は、自分で自分で作っているのだろうなと思う」
「しかし、ひどく理性と感情のバランスというものは難しい。理性はなりたい自分を演じようとするが、感情が本当の醜い自分を動かしてしまう。本当の僕は醜い。それはもう、七つの大罪の集合体みたいに醜い。七つの大罪を背負いし七人の存在なんかいらない。僕一人で十分だ」
「そんな醜い僕でも、本当の僕が選ぶべきだ、と思うことがある。クリエイティブという行為だ。ものを創り、歌詞を、歌を、踊りを、言葉を、創り表現するという行為。一人の人間が作品に血を注ぐとき、そこに憧れや見栄はいらないのではないかと僕は思う。本当の自分が良いと思うもの、伝えたいと思うもの、それを大切に注ぐべきなんじゃないかと思う。それは、なりたい自分を作る行為と、似ているのかもしれない」

改めて触れると、今回のコンセプトは「Conflict」(衝突)です。それは「Merge」(統合)をはたした後のVEEにおいても、それぞれの個性がぶつかり合い、そうした火花の中でバーチャルな輝きを世界に見せるという様子を象徴的に私たちに示すものです。
ただ、こうした「衝突」は、自分と誰かの間だけでなく、きっと自分と自分の間でも起こるもの。理性に従いたい自分、感情に従いたい自分、これだけでも二人います。こうしたConflictの中で、自分がどんな選択をするのか。個々の物語がさらにぶつかり合うことで、どんな一つの大きな物語が紡がれていくのか。その場においてファンは証人で、観測者になります。リアルとバーチャルが交差する物語を言のハさんの言葉を通して聴く中、参加者たちはまぎれもなく「リスナー(耳を傾ける者)」として会場に存在していました。
ライブはいよいよ終盤へと向かって一気に加速していくことになります。
アニメのEDのような体験にじーんと来たラスト
言のハさんからバトンを渡されたのは、VEEの中でも最も強い存在感を放っている一人である月白累(げっぱくるい)さんです。彼女が歌い上げたのは自身の初のオリジナルソング「メーデー」。2024年10月26日にプラネタリウムにて開催された音楽イベント「VEE Presents “Seek the Brilliance”」で先行披露して、ファンの間で大変話題になった楽曲です。
その容姿から受け取られる儚い印象とは裏腹に、まるで魂で叫んでいるかのように力強く歌い上げる月白累さん。そして彼女自身の作詞である「メーデー」は、安易な解釈を許さない言葉の数々から構成されています。ただ、明確な理解の形を持たない叫びこそ、輪郭なき人間の心というものの本質を明確に示しているのかもしれません。白く輝く月面の光が、まるで心のように砕け散るガラスの破片が、それを聴く者すべてに「月白累」という存在の痕跡を残しました。
光から一番遠い
場所でずっと待ってる
あなたが わたしを選んだの
地獄までいっしょに きて
ねえ
自らの負の感情をすべて吐き出すように紡がれた歌詞が、深い暗闇の向こう、深海の奥底から響くような声に乗って心に響いてくる。人間にはきっと明るい曲を聴くだけでは救われないときがあります。そして、ネガティブな感情を持つ者にしか歌えない曲も世界にはあります。そのような歌を世の中に残せるのは、きっと彼女のような人なのだろうと、現地で聴きながら筆者は感じました。

言のハさん、月白累さんと続き、動と静のコントラストの中で紡がれるステージの中に登場したのはカシ・オトハさん。アコースティックギターを弾きながらステージに立った彼女が歌うのは、自身のオリジナルソング「anthology」。ライブ配信において、彼女が「anthology=カシ・オトハみたいな曲」と述べている通り、この曲は等身大の自分を表現しています(また、「anthology」という言葉は彼女のファーストアルバムのタイトルでもあります)。
「嫌になっちゃったんだ全部」
「嗚呼、もう辞めちゃいたいんだ全部」
そんな君のまんまで そんな僕のまんまで
生きてみようよ ねぇ
そのうち笑えるはずさ
「嫌になっちゃう自分が嫌だ」 そんな君へ手を伸ばすよ
こんな世界だけど こんな僕なんだけど
迎えに行くから ねぇ
あと少し待っていて
弱くて情けない自分という存在も肯定する大切さを、そうした痛みを抱えたまま生きる強さや優しさを教えてくれる楽曲、それが「anthology」です。歌詞の中にも登場する月明かりのような光に照らされたステージで、オトハさんはそうした希望の曲を私たちに歌ってくれました。セトリの流れにおいて、「anthology」がまるで月白累さんの「メーデー」に共鳴するかのような位置づけを担っているように思えるのは、筆者の読み込みすぎでしょうか。

続けてバトンを受け取り、雰囲気をガラッと変えたのは、「セグレタリア」(ドラゴンの谷)でバーテンダーを務める黒燿(こくよう)リラさんです。彼女が歌い上げたのは、初のオリジナルソング「楽園」。最初は流行りの曲の要素を数多く取り入れる予定だったのが、楽曲制作を進めていくうちに、「黒燿リラ」という存在を明確に示す曲になったという経緯が配信上で語られています。
僕だけを なぁ、見てろ見てろよah どうして
押さえきれない黒い炎が
心臓を焦がして爆ぜて
欲望のまま
お前の全てを もう離さない
他の誰も触れやしない この楽園
静かに燃え盛る黒燿リラさんの魂の炎をそのまま表現したような楽曲に、観客席を占めるファンたちも全力のかけ声とペンライトで応えていました。また、185センチ(※角とヒールを含む)という、現時点で在籍するVEEのメンバーたちの中でも最も身長の高いその3Dの姿からは、他のタレントたちには見られない迫力を感じ取れました。最後の立ち姿勢ではこちらを向く形でポーズを決めるタレントが多い中、背中を向け、両腕をまっすぐ左右に延ばして広げる黒燿リラさんの立ち姿勢に、ファンたちの心も射抜かれたのではないでしょうか。

ライブの終盤に登場したのは、普段の配信とのギャップから「歌担当の魔王様」とも称されるトゥルシー・ナイトメアさんです。満を持しての彼女は、なんと寝そべりながらの登場。そこからゆっくりと起き上がって(ある意味)「寝起き」で熱唱されたのが彼女の初のオリジナルソング「革命のオーバーチュア」でした。トゥルシーさんの遊び心や歌唱力が前面に押し出された高難易度曲というだけでなく、様々なミームが込められているのも面白い点で、聴く者を歌唱力とネタという二つの点から楽しませてくれます。
Welcome to the underground
陽が当たらないからこそ花咲く
陰気に満ち満ちた とびきり粋な Freaky culture, Nuff respect
がしかし馬鹿に見つかれば最後 争いの種撒かれ哀れ廃墟に逆戻り
幕も下り また新たに芽吹く
トゥルシーさんは、歌唱力の高さだけでなく、声質の中に含まれているボーイッシュさもまた大きな魅力でしょう。ライブでは独特なリズムを見事に歌いこなす彼女のかっこよさが存分に発揮されていました。歌い終わりの直後、会場から「よくできました!」というかけ声が聴こえてきたのも、トゥルシーさんとファンとの間の関係性をよく表していました。

本ライブの大トリを務めたのはアルバ・セラさんです。多様な歌姫がそろうVEEですが、その中でも群を抜く歌唱力を誇る彼女のパフォーマンスに、観客たちは残った最後の力を振り絞って全力で応じていました。
まず一曲目に歌ったのは彼女の代表的なオリジナルソングの一つでもある「メシア」。爆発的な音と光が観客たちの心をがっちりと捉え、ヘドバンをするファンたちも多数いました。二曲目の「God Willing」は、彼女の数多くのオリジナルソングの中でも特に人気な楽曲になります。ペンライトを握っているとなかなかハンドクラップは難しいのですが、この曲のときはどうにかこうにか筆者も手を叩こうと試みました。
静寂を剥いで 剥いで
瞬き貫くだけ
深淵の愛で 愛で
ただ握りつぶすまで
「メシア」の歌詞をじっくりと聴くと、創造には必ず破壊が付きものだということが脳裏をよぎります。この曲は歌い終わりの後、特徴的な余韻が聴く者の耳に残りますが、そこで暗く輝く雷鳴の光が、今回のライブのコンセプトが「Conflict」であったことをにわかに思い出させます。ぶつかり合う個性の衝突。そこで生じる雷のような輝き。その中でこそ楽曲に命が吹き込まれ、そこに真のクリエイティブが宿るのではないでしょうか。アルバ・セラさんの力強い歌唱は、今年のライブを締めくくる最高のパフォーマンスであったと言えるでしょう。

そして、本ライブのエンディングとして流れたのが、去年の「Merge」の最後に流れたVEE初の全体曲「絶対零度の世界から」です。2024年5月8日に公開された「絶対零度の世界から」のMVでは、VEEのタレントたちが思い思いの歩き方(あるいは飛び方)で前に進む姿が横から描かれているのですが、今回のライブでは、その姿の3Dバージョンを見ることができました。




まるでアニメのエンディングのようなその光景に、じんと来た参加者の方々も多かったのではないでしょうか。この曲を会場で聴けただけでも、今年のライブに来る価値はあったと言えます。惜しむらくは、3Dの演出で統一するという方針であったためか、今回Live2Dでの参加となったメンバーたちにフォーカスが当たらなかったという点です。来年の全体ライブでは、全員そろっての3D姿でパフォーマンスが観られることを願わずにはいられません。
本ライブのコンセプトを象徴する「アウトラージュ」に始まり、去年のライブのエンディングとなった「絶対零度の世界から」で締められるその構成に、観客たちの心は大きく動かされていました。今年の全体ライブは終わりを迎えましたが、その終わりはきっと始まりでもあります。3月という別れの季節は、同時に新たな出会いの季節でもあるのです。そんな新しい春の幕開けを感じさせる、素晴らしいエンディングでした。


去年の「Merge」と異なり、今年のライブ「Conflict」はコンセプトが一貫して徹底された全体構成となっていました。普段はコーレスなどを観客に求めてインタラクティブに関わることが多い「MCパート」において、物語性を示す「語り」が前面に出ていたのもそのことをよく示していると言えるでしょう。
ライブが終わった後、様々な感想がオフ会やSNSの場で飛び交いましたが、総じてその満足度は非常に高かったと言えます。実は今回のライブはチケットの売れ行きが不穏という経緯があったのですが、さらなるプロモーションを経て100枚以上売れ、当日の会場ではかなりの程度客席が埋められていました。
これはライブ開催後にVEEのプロデューサーである渡辺タスクさんが話されていたことですが、実は最初から「実際の売上の枚数分のチケット」が売れていれば、オンラインチケットの導入も視野に入っていたそうです。次回の全体ライブの際には、オンライン配信の実現が強く待ち望まれるでしょう。
ライブを実施するにあたって様々な方向性があるとは思いますが、一つのライブ(あるいは、もはや一つの作品)として高い完成度を誇ったのが今年の「Conflict」であったと言えるでしょう。こうした個性のぶつかり合いから生じるバーチャルな輝きが、来年どのような光を見せるのか。来年の全体イベントについての期待を多くの人たちに抱かせる、素晴らしい音楽ライブであったと言えるでしょう。






(TEXT by 山野弘樹)