日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は、国内においてメタバース市場が本格的に拡大する中、市場の概況やメタバースが果たす役割を分析し、メタバース・サービス提供者に向けた提言をまとめたレポート「過剰な期待に沸くメタバース市場、その先にある真のポテンシャルとは?( https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/report/metaverse-japan-report )」を公開しました。
本レポートは、IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が行った調査を基に、主にB2BおよびB2B2C領域においてメタバース・サービスの提供を検討あるいは実施する事業者や、そのビジネスパートナーまたはユーザーとなり得る企業を対象に、取り組むべき方向性を示唆します。また、国内の個人消費者(以下、個人)を対象としたWebアンケート調査(以下、Webアンケート)(※1)を実施することで、B2C領域における個人のメタバースに対する受容性や潜在的なニーズを分析・深堀し、最新事例なども併せて紹介します。
本レポートでは、VR(Virtual Reality)に加えAR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)も含めてメタバースを構成するコア要素として定義し(※2)、個人や企業が認識する課題やニーズに応えるため、メタバースがどのような役割を果たすのかについて以下の3つの視点から考察します。
(1)「コミュニケーション」と「コミュニティー」の観点でのメタバースの価値:
個人のコミュニケーションに関する悩み事のうち「情報が表現できない」もどかしさは、対面やテキストと いったあらゆるコミュニケーション手段で上位3位以内に入る唯一の課題であり、コミュニティーに関しては「人間関係の煩わしさ」に悩む傾向が強い。こうした問題の解決に向けたニーズはビジネス領域においても拡大する(※3)
(2)メタバース体験者の感想とB2B2Cエコシステム拡大の可能性:
相対的に満足度が低い傾向にあるB2B2Cメタバースは、コンテンツや機器の改善次第で、B2Cメタバースに匹敵する満足度を生み出す兆候がみられる(※4)
(3)未来への期待とB2Bメタバースの革新:
19項目のメタバース・サービスの魅力度を比較すると、上位5つのうち4つはAR/MR機能を活用したサービスであった。ゴーグルや眼鏡型機器に対する期待が強まる傾向に合わせて、B2B領域でのAR/MR利用が広がる可能性が高い(※5)
上記を踏まえ、2023年は企業によるメタバースのユースケース検討が急速に広がり、「エンタープライズ・メタバース元年」になると日本IBMでは予測しています。以下にメタバースに取り組むサービス提供者への提言を4点記載します。
メタバース・サービス提供者に向けた提言
・メタバースに限定されない包括的技術力とエコシステム形成が必須:B2B/B2B2C領域のメタバースは、企業の業務効率化やDXの一環として推進することが前提となる。したがってサービス提供者は(メタバースも含め)ITとビジネスの「総合力」を獲得していくために、包括的な技術ケイパビリティーの醸成や、幅広いエコシステムの形成が不可避となる。
・「メタバースありき」ではなく 「企業の課題解決ありき」の実績が肝心:サービス提供者側の思考が「メタバースありき」では顧客の求める本質的な課題解決にはつながらない。各産業および用途特有の課題解決の実績を豊富に持ちつつ、課題解決を行うための1つの選択肢としてメタバースにも精通するパートナーの選定が、サービス提供者には肝心となる。
・「アジャイル型経営」を基軸とした、 顧客のデジタル組織強化とマインドセット変革が急務:上記の技術、エコシステム、実績といった観点に加えて、サービス提供者は企業のデジタル組織強化や経営層の意識変革を後押しし、アジャイル型経営を定着させることで、事業環境の変化への柔軟な対応や迅速な事業創出を促進することが不可欠となる。
・社会課題解決とサステナビリティー実現を前提とした メタバースの推進が不可欠:サービス提供者は、メタバースを含めたDXの取り組みを企業と推進する上で、目先のビジネスの収益性などに囚われ過ぎることなく、中長期的な視点で社会課題の解決やサステナビリティーの実現に重点を置くパートナーとの連携を進めることが必須となる。
IBMのメタバース関連の取り組み
日本IBMでは、こうした3つの視点の全てにおいてさまざまな取り組みを進めており、本レポートではその一部を紹介しています。まず「(1)「コミュニケーション」と「コミュニティー」の観点でのメタバースの価値」として、日本IBMでは自社内コミュニケーションの活性化に向けた部門懇親会の実証を進めている他、500名以上の新入社員の入社式をメタバース空間上で実施するなど、POC(Proof Of Concept)およびPOV(Proof Of Value)を推進しています。次に「(2)メタバース体験者の感想とB2B2Cエコシステム拡大の可能性」について、ある医療機関の建物を3Dモデルとして再現し、患者や家族が来院する前に医療従事者を含めた病院の様子を体験できる仕組み作りや、外出が困難な患者向けに病院外を再現したバーチャル空間で家族や友人と交流できる仕組み作りに取り組んでいます。また「(3)未来への期待とB2Bメタバースの革新」に関して、IBMでは、AR/MRを活用した業務効率化や、VRを活用したビジネスプロセスのデジタルツイン化などの実績を国内外で多数保有し、将来的にはそれらを組み合わせることで、ビジネスプロセスや事業モデルの変革を加速させることを視野に入れています。
本レポートは、こちらのURLからダウンロードいただけます。
URL:https://www.ibm.com/thought-leadership/institute-business-value/jp-ja/report/metaverse-japan-report
以上
※1 「メタバースWebアンケート調査」の概要
– 調査手法・期間:インターネット調査にて2022年9月12日〜15日まで実施
– 調査機関:日本アイ・ビー・エム株式会社の Future Design Lab.より、株式会社マクロミルに調査を委託して実施
– サンプル・サイズ:n=1,105(日本全国における15歳以上の男女)
※2 本レポートにおけるメタバースの定義
XR系の3D空間技術をインターネット技術と組み合わせることで生み出される仮想世界や仮想空間の総称。XR系の3D空間技術には以下を含みます。
・VR(Virtual Reality:デジタル仮想空間を現実世界であるかのように疑似体験する技術)
・AR(Augmented Reality:現実世界へデジタル情報を付加する技術)
・MR(Mixed Reality:現実世界とデジタル仮想空間を相互に影響させる技術)
一般的にメタバースという言葉は、アバター同士のコミュニケーションなど、VR技術を中心に活用することで実現されるインターネット上の仮想世界や仮想空間を指すことが多いです。しかしながら本レポートではVRだけでなく、ARやMRも含めてメタバースを構成するコア要素として捉えることで、幅広い視野から市場の展望に対する考察を行います。
※3 「コミュニケーション」と「コミュニティー」の観点でのメタバースの価値
VR/アバター技術による感情伝達、AR技術による体験の共有、さらにはメタバース空間での新鮮な体験の共有により、個人のコミュニケーションおよびコミュニティーの課題は改善されます。そうしたニーズはB2BやB2B2C領域にも波及し、企業の既存システム内に組み込まれ、業務課題を解決するためのキラー・アプリケーションとして浸透すると本レポートでは分析しています。
※4 メタバース体験者の感想とB2B2Cエコシステム拡大の可能性
8項目に分類したメタバース・ジャンルのうち、「教育/訓練」「広告」「観光」「医療/治療」といったB2B2Cメタバースは、「イベント」「ショッピング」「ゲーム」「コミュニケーション」のようなB2Cメタバースと比較して満足度は低い傾向ですが、メタバースのコンテンツと機器の双方が洗練化されることで、市場が広がると予想されます。メタバースを含めたIT(情報技術)の活用による産業特有の課題解決や、産業特化型のサービス競争が拡大することで、サービス提供者間のオープン・エコシステムの形成が活発化すると考えられます。
※5 未来への期待とB2Bメタバースの革新
B2C領域だけでなく、B2B領域おいてもAR/MRを活用した業務効率化/省人化を目的としたメタバースの市場が大きく成長し、付随してゴーグル/眼鏡型機器の活用も広がると見込まれます。B2B領域でのAR/MR技術と、デジタルツインを中心としたVR技術が融合し、現場プロセスや事業モデルの変革に向けた新たな価値を創出すると考えられます。
IBM Institute for Business Valueについて
IBM Institute for Business Value(IBV)は、業界の有識者、第一線の学者、および対象分野の専門家からの専門知識を、グローバルな調査とパフォーマンス・データを組み合わせて、テクノロジーとビジネスの接点にある当社の立場から信頼できるビジネスの洞察を提供しています。IBVのソート・リーダーシップのポートフォリオには、調査の詳細、ベンチマークとパフォーマンスの比較、および地域、業界、テクノロジー全般にわたるビジネスの意思決定をサポートするデータの可視化が含まれています。最新の洞察は、https://www.ibm.com/thought-leadership/jp-ja/institute-business-value/ をご参照ください。
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