ゲーム実況といえば、VTuberの生配信に欠かせないジャンルのひとつ。VTuberが楽しそうに実況している様子を見て、自分もやってみようとファンが遊び始めるというインフルエンサー的な流れも生まれており、今やゲーム中にVTuberが登場するというタイアップの実施も珍しくない。
そんなゲームとVTuberの密接な関係が続く状況において、ゲーム情報サイトの「Game8」が、昨年11月より「PLAYZY」という新しい取り組みを実施し始めた。
簡単に言えば、ひとつのゲームをテーマにイベントを実施。参加を表明したVTuberさんとファンコミュニティーが一丸となってゲームを遊ぶことでポイントが貯まっていき、上位に入るとアンバサダーに選ばれるなどの特典が付与されるという内容だ。
さらにVTuberにとって注目なのは、収益化プログラム「PLAYZY Partner Program」(PPP)を10月から実施するという点。VTuberがPLAYZYのインフルエンサーとして会員登録し、専用ページからゲームをダウンロードして自分やファンが遊ぶことで、収益化が見込めるようになる。
VTuberにとって、活動が少しでもお金になることは、長く活動を続ける上で重要なモチベーションになるはず。ファンにとってもゲームを遊んでいるだけで無料で自分の「推し」を支えられるというのは大きな要素だ。
Game8はどういった背景でこのPLAYZYの取り組みを行っているのか。同社のStore&Commerce事業本部のStore&Commerceプロダクト部部長である稲冨浩太氏にインタビューした。
社長のゲームの遊び方から着想
──まずPLAYZYとはどんなサービスでしょうか?
稲冨氏 普通に説明すると、ゲームに特化したインフルエンサーとプレイヤーを中心の体験型コミュニティプラットフォームなのですが、「ゲームの公式イベントをまとめたサイト」という表現が一番伝わりやすいと思います。
このイベントというのは、基本的にゲームの企業さんと連携してやっていて、大体20ぐらいのインフルエンサーさんとファンの方々にチームとして参加いただいて、上位に入るとインフルエンサーさんが豪華なプライズがゲットできるという感じです。
例えばX(旧Twitter)で応援ツイートをしていただいたり、インフルエンサーさんの配信を視聴していただくみたいなことでもポイントが入るので、ゲームが苦手という方でも参加しやすくなっています。インフルエンサーさんとファンがいかに協力してゲームに取り組めるかというのが最終的な結果につながっています。
──どういった経緯でPLAYZYが生まれたのでしょうか?
稲冨氏 PLAYZYのアイデアは、元々弊社の代表がゲーム好きで、新しいゲームをやり始めたら社内で「誰か一緒にやらない」って誘って遊んでいたことからなんですよね。それが新しいゲームを知る機会を生んでいたり、ゲームという共通のワードがあると、普段はそこまで話さない人とコミュニケーションを取るきっかけになったりする。そうしたコミュニティーができて、みんな楽しんでるなっていうのを僕が客観的に見てきて、この体験っていいなと。
──技術が発達しても、誰かの家に集まって遊んでいた子供の頃とそんなに変わってないみたいな。いい話です。
稲冨氏 そうした経験から、ひとつはゲームを知るきっかけで楽しんでもらうこと、もうひとつはインフルエンサーが活躍できる場という2つを提供していく目的で、PLAYZYを立ち上げています。
ゲームを知るきっかけに関しては、私たちGame8自体がゲームを通して楽しいを共有していくっていう会社のビジョンがあって、メディア事業とインフルエンサー事業を展開していく中、クライアントであるゲーム会社さんからゲームを見つけてもらいにくくなっているという話が上がっています。
アプリストアなどでもランキングの上位に入らないと、なかなか目にしてもらえない。ユーザーさん側としては、直接ストアにゲームを探しに行くというより、SNSやYouTubeの配信でたまたま見かけたものを遊ぶみたいな動きも非常に強くなってきている。そしてせっかくゲームをインストールしてもらっても、オンラインでの友達がいないと、なかなか長く遊んでもらえない。
もうひとつインフルエンサーが活躍できる場という点では、200人弱に所属いただいている「Hondy Studio」というプロダクションを弊社で運営している経験からもきている話で、必ずしも登録者数が多い方が案件としていい結果が出るとは限らないんです。やっぱりファンとの距離が近いインフルエンサーの方が成功の確度が高い。そうしたエンゲージメントが高い方々にPLAYZYを通じて活躍できる場を増やせればという意図です。
──雑誌から口コミ、ソロからマルチへ……といったようにゲームの知り方や遊び方変化している中で、新しいゲームのメディアをつくっているような印象を受けました。インフルエンサーというと「生身」の方もいますが、なぜVTuberにスポットを当てたのでしょうか?
稲冨氏 ひとつはビジュアルが可愛いという点でゲームとの親和性が高いのと、もうひとつはアーカイブ動画ではなく生配信で遊んでいるところを見せてくれるので、ゲームへの接触時間が長くなるんですよね。
──過去実施してきたイベントで印象的なエピソードはありましたか?
稲冨氏 最初の「Game8 VTuberアンバサダー決定戦」では20名のVTuberさんにご参加いただき、毎日しかも平均で4~6時間ほど熱心に生配信をしていただけました。配信が盛り上がったときには、同時接続者数が4、5倍にも増えたこともあって、コミュニティーの熱気を感じました。あとは、スキップしがちなストーリーを細かく拾って、リスナーと一緒に見ていただけるのもVTuberさんで特徴的だなと。
そんなコミュニティーにおける熱狂を、PLAYZYでいろいろなタイトルでイベントを展開して可視化して、いい意味で感染させていきたいなと考えています。
──参加したVTuberさんからはどんなフィードバックがありましたか?
稲冨氏 1番多かったのは、新しいファンが増えたという声です。イベントにはもちろんゲーム企業さん側にもSNSでの告知などにご協力いただきますし、ゲーム自体から入った方も誰が勝つのかなと動向をチェックしているうちに興味を持ってファンになったというパターンもありました。
──ゲーム企業側からはどんな意見がありましたか?
稲冨氏 新しい取り組みですねっていう第一声が多いですね。従来、インフルエンサーマーケティングというと、お仕事として頼んでその範囲で遊んでいただくということも多いのですが、イベントで10日とかの一定期間をコミュニティーで乗り越えるという経験をするせいもあって、通常のプロモーションより継続率が7倍ぐらい高い。そこは驚きの声をいただいています。
ポイントを通じてVTuberを支えられる
──収益化のPPPは、どんな経緯で生まれてきたのでしょうか?
稲冨氏 PLAYZYの特徴のひとつに、報酬がしっかりしているというのがあります。普段はなかなか難しい、企業のアンバサダーだったり、ゲーム内の声優だったり、大型ビジョンへの登場などを提供してきました。
せっかくインフルエンサーさんにイベントに参加いただいたのだから、上位入賞を逃したても何か手元に残ってよかったなと思っていただける仕組みを用意したいという意図です。
──実際どんな感じなのでしょうか?
稲冨氏 サービス自体は簡単で、参加登録していただくと、インフルエンサー専用のプロフィールページが作られます。そこにプレイ中のゲームが表示されて、あとは普段通り配信していただくという感じです。一番変わるのは、ファンの方々がインフルエンサーのページからゲームを遊ぶだけで、「ハニカム」という名称のポイントで還元されて、貯めたハニカムを現金やモノに交換できるという仕組みになります。
やっぱり自社でも事業をやっていることもあり、インフルエンサーの活動を支援していきたいというのが根底にあります。僕が言っていいのかわからないのですが、必ずしもPLAYZYで才能のある方々を囲いたいというわけではなく、うちを踏み台にして大きくなっていただければという思いです。
──PLAYZYをこれからどう発展させていきますか?
稲冨氏 今期中には、インフルエンサーやファン向けのメリットを明確にして、還元を増やしていきたいです。例えばギフトを投げられるなど、ファン向けの応援機会も用意していきたい。積極的にゲームを遊んでいるだけで、収益源のひとつができているみたいな状況になればいいなと。
ファンの方々に向けても、10月から「Pポイント」を導入します。イベントに参加するだけでPポイントが貯まったり、誰が勝つのかみんなで予想して当たった人でPポイントを山分けできるみたいな企画も展開していきたい。そこで貯まったPポイントを、ゲーム中のアイテムや公式グッズと交換できるようにしていければと考えています。PLAYZY経由でイベントに参加すると、お得に課金ができたり、何かアイテムがもらえたりといったメリットを提供できればと考えています。
もう少し先で言えば、現状はソーシャルゲームが中心ですが、PCやコンシューマーゲームも対象として広げていきたい。さらに、例えばゲームに関係したファッションコーディネート大会だったりとか、収益だけでない、参加してよかったと思ってもらえる面白いイベントにもチャレンジしていきたいです。
──お話を聞いていて、様々なゲームの上に、もうひとつ大きなゲームが被さるような印象を受けました。
稲冨氏 それはまさにそうで、うち自体で配信プラットフォームを持っていないのは、ある意味強みなのかなとは思っています。イベントをきっかけにゲーム企業さんとインフルエンサーさんをつないでいくことにフォーカスしているので、実際にYouTubeやTwitchなど、いろいろなところで配信していただいている。
PPPのインフルエンサー専用ページでは、そうした別々のプラットフォームで配信したものが一箇所にまとめられて一目でわかるようにしていきたいです。
──登録するインフルエンサーさんが増えて、PCもコンシューマーもカバーできれば、PLAYZYを見れば、今のゲーム実況のはやりがわかるという風にもなりそうです。
稲冨氏 本当にそうだと思います。ユーザーからは、配信やイベントが多いタイトルは今のトレンドなのかなと見えるでしょうし、ゲーム企業にとっても自社タイトルを遊んでいるインフルエンサーさんを網羅的に知ることができる。そこからダイレクトに案件を依頼するという流れも生まれてくると思います。
さらに来年か再来年ぐらいで海外展開も考えています。PLAYZYに似たサービスはなかなかな存在していなくて、弊社では海外向けのインフルエンサー事業も展開しているので現地向けに発信できる。海外展開したいインフルエンサーの方々の支援としてもお役に立てると考えています。ゲーム好きなVTuberさんならぜひPPPにご登録ください。
(TEXT by Minoru Hirota)