──Vision Proの開発コミュニティは熱い。
2月28日に行われた「Apple Vision Pro ホルダー限定Meetup」を取材するために参加し、参加者では唯一Vision Proを所有していなかった筆者はこの光景を見てそう思った。
このミートアップイベントのドレスコードはその名の通り、Apple Vision Proをかぶること。会場となったambrと、STYLY、MESONの3社合同で開催された。
2024年2月2日に全世界で唯一アメリカ国内でのみ販売され、多くの人にとっては月収よりも高額なデバイスを現時点で所有しているという、国内有数のXRの先鋭たちが集結。Vision Proホルダー達による交流をメインに、Vision Proのコンテンツ開発にまつわるLTなどが行われた。
長年期待が寄せられていたAppleのXRデバイスをいち早く入手し、開発したり純粋に楽しんでいる人びとの熱気をお届けできれば幸いだ。
Apple Vision Proはなぜ注目されるのか
Vision Proの発売が発表されたのは昨年6月。長年発売が噂されていたAppleによるゴーグル型デバイスが「WWDC23」にてついに発表され、大きな話題となった。(関連記事)
Appleらしい洗練されたプロダクトデザインや高価な価格と共に、「空間コンピューティング」というキーワードが話題となった。
Apple CEOのティム・クックが「Macが私たちにパーソナルコンピューティングをもたらし、iPhoneがモバイルコンピューティングを実現したように、Apple Vision Proは私たちを空間コンピューティングの世界へと導きます。」と語った通り、Vision ProはMRやメタバースという言葉ではなく「空間コンピューティング」という言葉を用いてそのコンセプトを説明している。
FaceboomがMetaへ社名変更をして以降の流れに新しい潮流が生まれるのではないかという期待感や、「あのAppleがついに参入した」ことへのワクワク感。そして現時点では日本国内で販売されていないという特別感にも注目が集まっている。
どんな人たちが何に使っているのか
本ミートアップは、現時点でVision Proを所有しているユーザー同士の交流がメインというだけあり、参加者全員による自己紹介から始まる。それぞれ、名前(所属)とVision Proの好きなコンテンツを発表することになった。
参加者は、ミートアップを開催したambr、STYLY、MESONのほか、XR系企業の代表やエンジニアたちがメインとなったため、好きなコンテンツに自社アプリケーションを挙げる参加者が多かったのがさすがだった。
自社アプリ以外で目立ったのが「Explore Encounter Dinosaurs」を挙げる声。リアルな恐竜が躍動するさまを目前で見たりできるもので、筆者もこの機会に体験させてもらったが、短い体験時間でもディスプレイ表示の綺麗さや自然さを感じられるものだった。機会があったらぜひ体験して欲しい。
このほか、WebブラウザのSafariや、動画配信サービスのDisney+を挙げる声も。1ピクセルあたりのサイズが赤血球レベルとも言われるマイクロOLEDディスプレイの性能と精度の高いアイトラッキングの性能によって、自然な見え方に注力されたデバイスゆえに、何かを見ること自体のストレスが少ないのが大きなメリットに感じた。
参加者の中にはついさっき(Vision Proを購入するために行った渡米先の)ハワイから帰国したばかりという方や、XR関係の仕事をしているわけでもエンジニアでもないが面白そうだから買いに行ったという方まで、多彩な参加者が作り出す熱気を感じさせた。
全員がApple Vision Proをかぶってる
発売から一カ月も経っていないタイミングでの開催となった本ミートアップは前述のとおり、主な参加者はXR系企業の代表やそのエンジニア達。2月2日の発売と同時に自社コンテンツを発表する企業もあるなど、Vision Proのコンテンツ開発に用いられるUnityのvisionOSサポートは昨年7月からベータ版の提供が開始されていることから、オンラインLT会などもすでに行われている。
しかし、発売から日にちが経っていない段階で、参加者全員が所有している集まりはなかなかないだろう。
その場の全員がVision Proを持っていることを前提にSTYLY CEO山口氏が発表したのが、STYLYを活用してその場でVison Pro用のコンテンツをUnityでビルドしてSTYLYにアップロードするというデモ。
また、Vision Pro向けの天気体感アプリ「SunnyTune」をリリースしたMESONのエンジニアじゅじゅ氏によるLTでは、開発時のつまづきポイントを披露。
UnityでVRコンテンツを制作している方からするとその制約の多さに驚くと思うが、Shader Graph以外のシェーダーが使用できない、パーティクルの描画順を制御できない、カメラ位置を取得できない等、かなりのつまづきポイントがあったという。最後に、新しいデバイスでの開発には技術検証が大事だとまとめ、そんな制約の中でもできることで表現していくエンジニアの強さを感じた。
続いてXRのエンジニアではないという調(しらべ)氏によるハンドトラッキング機能を活用してオリジナルのジェスチャーで玉を飛ばすサンプルアプリの発表。
ハシラスCEO安藤氏によるVision Proを体験してもらう際にただ体験させるのではなく、凄いと思ってもらうために気を付けていることの共有も。ロケーションVRコンテンツを作り続けているハシラスのCEOらしい、興味深い内容に強い感心が集まった。
Graffity CEO森本氏のLTでは自社コンテンツのVision Pro向けタイピングソフト「Ninja Gaze Typing」の開発秘話と、最後に実際に全員参加のタイピング大会を実施。スコア100を超えればかなり上手という中200超えの参加者が複数人現れ、森本氏も「すごい!」と興奮気味になっていたのが印象的だった。
最後のLT登壇者はCyberAgentエンジニアでIwakenLabなどのXRコミュニティを主宰しているイワケン氏。用意していた内容がハシラス安藤氏の内容とかぶっていたことから急遽差し替えるという機転を利かせてVision Proの開発で使われる用語についてのクイズ大会を開始。
LTが終わるとそのまま交流会へ。参加者たちが思い思いに会話に花を咲かせる中、Vision ProでのDJプレイがBGMになるところは抜かりない。このDJはAppleが発表しているアプリ「djay」で行われており、スマートフォンやスマートウォッチなどはもちろん、あらゆるデバイスやプロダクトが生活に浸透しているAppleが作ろうとしている「空間コンピューティング」の片鱗を感じさせた。
(TEXT by ササニシキ)
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