ドワンゴは4月27、28日、インターネットの祭典「ニコニコ超会議2024」を幕張メッセにて実施した。リアルでの開催が再開されて早2年となるが、すっかり以前の活気を取り戻したと言っても過言ではないだろう。
「ニコニコ超会議」といえば、ジャンルに問わず様々なコンテンツがお披露目される場である。無論、それはVTuberとて例外ではない。そのVTuberの中でも、一際異彩を放つ存在がいることはご存知だろうか。そう、日本初の自治体公認VTuber・茨ひよりさん(愛称:ひよりん)である。ということで、本記事は、そんなひよりんのブースを紹介していく。
茨ひよりさんは、2018年より茨城県(いばらきけん)公式YouTubeチャンネル「いばキラTV」のアナウンサーとして活躍する、茨城県バーチャル広報課職員のVTuberである。また、茨ひよりさんは、国内初である「自治体公認 VTuberのAI化(AI茨ひより)」を行ったことでも有名である。より詳細な解説については、筆者の昨年および一昨年のニコニコ超会議レポをご覧いただきたい(昨年、一昨年の超会議レポ)。
ここで、AI茨ひよりについて解説しよう。AI茨ひよりとは、アドバンスト・メディアの提供するAI 音声対話アバター「AI Avatar AOI」(エーアイ アバター アオイ)のシステムに、OpenAI社が提供する会話生成 AI「ChatGPT」を連携させることで、「茨ひより」さんのキャラクター性を再現した会話を実現するものである。
AI茨ひより(以下、AIひよりん)は、昨年の超会議でも登場している。今年の超会議では、機能のアップデートに加え、「画像認識」機能を引っ提げて帰ってきた。
このアップグレードされたAIひよりんは、すでに「いばキラTV」にてお披露目されている。内容は、県のふるさと大使である「いばらき大使」に任命されている元キャスター・檜山沙耶さんとのコラボトークである。
動画では、AIひよりんが、茨城県の名産品である「ほしいも」や、檜山さんの服装の細かな要素まで正しく認識できている様子がうかがえる(認識に戸惑った場合も、それとな〜く濁す奥ゆかしさまで実装済みだ!)
ブース紹介
ここからは、ブースの様子を解説していこう。
まず、ブース自体は、去年と同じく、茨城県の特産品が景品となったくじ、そして物販コーナーが設けられた。また、今年初となるコーナーとして、茨城県のサイクリングロードを試走できる「バーチャルサイクリングinニコニコ超会議2024」が新しく設けられた。
AIひよりんは、ブース内に常設されており、イベント時以外はいつでも話しかけられる。筆者もAIひよりんとお話してみた。
ブースのAIひよりんは、「占う」、「話す」、「見せる」の3つのコマンドを選択できる。占うでは、来場者の服装から本日の運勢とラッキーアイテムを教えてくれる。話すでは、来場者がマイクに語りかけた内容に応答してくれる。また、見せるでは、来場者がカメラに写したものに反応してくれる。加えて、AIひよりんは、英語にも対応しており、コマンドによっては英語で話しかけることも可能だ。
筆者がAIひよりんとお話した時、AIひよりんは、受け答えに詰まることなく回答することができていた。また、英語で「茨城県のデートスポットを教えて」と質問した時も、ネモフィラで知られるひたち海浜公園と、梅の名所の偕楽園をオススメしてくれた。極めて優秀なAIである。
AIひよりんについて、アドバンスト・メディアの神戸さんにお話を伺うことができた。昨年のAIひよりんからのアップデート箇所は、すでに上記した内容だけでなく多岐にわたっているとのこと。
中でも、筆者として一番興味深かったのは、「会話のラグ」の改善である。神戸さん曰く、(体感にはなるが)昨年より大幅に速くで回答ができるようになったそうだ。言われて見れば、去年のAIひよりんは、お返事が返ってくるまで「シンキングタイム」を必要としていたのが、今年は瞬きする間にはお返事が返ってくる。
1日目のイベント紹介
以降では、27日にブースにて実施されたイベントを紹介しよう。今回の超会議では、1日の中で5つもイベント企画が設けられており、内容が盛りだくさんとなっている。今年MCを務めるのは、声優の市原えりささんだ。
1つ目は、本物の茨ひよりさん(以下、リアルひよりん)が食レポを行い、来場者はリアルひよりんが何を食べているのか当てる「リアル茨ひよりの全力食レポクイズ」のコーナー。
普段のひよりんの食レポはこんな感じ(参考動画)で比較的上手であるが、今回の食レポでは、「私の父が作ったことがある(正解:干し芋)」や「おばあちゃん家で見かける(正解:かりんとう)」など、ユニークな発言が飛び出した。MCの市原さんの言う通り、食レポというより最早ア◯ネイターの方が近いかもしれない。
そんな食レポコーナーでは、茨城県の有名コーヒー店である「SAZA COFFEE」の社長である鈴木さんが登場する一幕もあった。昨年の超会議でも、ひよりんのブースではサザコーヒーの商品を発売していたが、今年はなんと公式にコラボ商品を発売することに。鈴木さん曰く、コラボのきっかけは「去年の超会議で一目ぼれした」とのこと。
2つ目の企画、「AI茨ひよりに分かるかな?なにこれレビュー対決」は、司会者がAIひよりんに様々なモノを見せ、来場者がAIひよりんが正しく認識できるかを予想するコーナー。
先ほど筆者がトライしたときは、一眼レフカメラも認識できていたが、いざコーナーが始まると「緊張」からか、可愛らしい「ごじゃっぺ」(茨城の方言で「でたらめ」「間抜け」)を発揮。
初めに、茨城県のブランドメロン「イバラキング」を見せたときは、何故かメロンではなく、ネットキャップ(果物を包むアレ)と認識してしまう。
また、ブースで発売されている「あんこう肝汁うどん」を見せた所、何故か「飴」と認識。これには、来場者だけでなく、ブースの茨城県職員さんたちも思わずズッコケてしまう。
一方で、ブースで販売している商品を見せたときは、極めて正確に認識できた。茨ひよりとコラボしたサザコーヒーの商品を見せてもらったときは「茨城県で飲める美味しいコーヒー」と発言しており、また、あんこうふりかけを見せてもらった時は「ご飯にかけて食べると食卓の彩りが豊かになる」と発言していた。やっぱり緊張しがちなのかもしれない。
3つ目の企画、「リアル茨ひよりと協力プレイ?正体当てゲーム」は、司会の市原さんだけが知っているお題に対して、リアルひよりんが質問を行い、来場者が回答からお題を推察するというもの。要はア◯ネイターごっこである。
この企画では、コスプレイヤーのもころすさんも企画に参加した。もころすさんは、自身でひよりんのコスプレをするほどの茨ひよりファンであり、これまでの超会議含め、何度もコラボを行っている。
お題はどれも茨城県に関するアイテムであったため、高度に訓練された茨城県ファンである来場者たちには簡単だったようで、特段詰まることもなく正解を当てていった。
4つ目の企画は、AIひよりんに一発ギャグを考えてもらう「AI茨ひよりの爆笑(?)一発ギャグ」のコーナー。来場者からもらったお題を元に、AIひよりんが一発ギャグを考案。最後にその一発ギャグを、MCの市原さんが演じる、というもの。
予行練習として出されたお題は「ほしいも」。これに対するAIひよりんの答えがこれだ。
……うん、まだAIひよりんにはギャグは早かったようだ。このあとも来場者から様々なネタが提供され、AIひよりんは人間が理解するには「高度」なギャグを返していた。
しかし、来場者たちの優しい反応のおかげで、会場はとても暖かい空気に包まれていた。やはり、漫才というものは「お客」と一緒に作るものなのだろう。
実際問題、AIひよりんのベースであるChatGPTは、日本語の「ダジャレ」を得意としていない。アドバンスト・メディアの神戸さん曰く、今のAIひよりんには、「一発ギャグを返す」ための機能はまだ実装されていないとのこと。ただ、今後のアップデートによって、「面白い一発ギャグ」を言えるようになる可能性は十分にあるらしく、まさに今後に期待といったところだ。
最後のコーナーは、リアルひよりんとぷよぷよ対決ができる、「ひよりに挑戦!ぷよぷよ対決!」のコーナー。
最早恒例となった本企画だが、これは2019年の超会議にまで遡る。ひよりんは、デビュー直後の19年に「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」のPR大使兼アシスタントという重役を任されている。このとき、同年の超会議にて、PRとして本大会の種目の1つである「ぷよぷよ」で来場者との対戦を行ったのがきっかけである。
リアルひよりんは「茨城県ぷよぷよプレイヤー代表」を自称するだけあって、その実力は確かだ。ただ、ひよりんと対戦する来場者の腕前も高いため、なかなか勝てないご様子。ブースには、ピンチに陥ったひよりんの悲鳴が何度も響き渡った。
本ブースの主催である、茨城県営業戦略部プロモーションチームのチームリーダー菊池さんと、主任の遠藤さんに、お話を伺うことができた。
今年のブースで力を入れたところをお伺いすると、「双方向のコミュニケーション能力の向上」という点に注力していたことがわかった。行政が一方的に情報を発信するのではなく、茨城で活躍するプレイヤーと行政が一緒になって情報を発信していく為に、昨年よりも多くの地元企業とコラボを行ったそうだ。また、ブースの企画は「若年層」をターゲットとし、一方的な情報発信にとどまらない「ゲーム性」に富んだ企画を作ったとのこと。企画を作るにあたっては、チームの若手から知事まで巻き込んで、何度も試行錯誤を繰り返したなど、本企画に対して熱量が伝わるエピソードをお聞かせいただくことができた。
最後に、筆者の感想を軽く述べさせていただきたい。
茨ひよりさんのブースを取材するのもかれこれ3年目になるが、贔屓目を抜きにしても、「茨ひより」の知名度が向上していることを実感している。
ブースを取材している時、それを一番強く実感した場面がある。ブースを通りがかった人々が、「知ってる知ってる、茨ひよりって茨城県のVTuberでしょ〜」などと話しているのを何度か見かけたのだ。前までは「自治体公認のVTuberだって、すごいわね」といった具合のはずだった。これまでの広報は着実に効果として現れているといっても過言ではないだろう。
茨ひよりさんと茨城県庁の方々は、「様々なメディアを通し、一方的ではなく相互のコミュニケーションを行い、茨城県の魅力を広める」ことを目的として、これまで様々な活動を行ってきた。AI茨ひよりのような斬新な取り組みもその一環である。来年の超会議では、果たしてどんな面白い企画が待っているのだろうか。早速楽しみで仕方がない。
(Text by ONO SOICHIRO)
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