花譜とヰ世界情緒が存在感を放った「超音楽祭 in ニコニコ超会議2024」ライブレポート

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2024年4月22日から28日にかけて、ニコニコ動画が主宰する大型イベント「ニコニコ超会議2024」が開催された。

今年も幕張メッセを舞台にしてさまざまなブースでイベントが開催された中、ラスト2日にわたって実施した「超音楽祭inニコニコ超会議2024」は、ジャンルやシーンを飛び越えた音楽アーティストが集まったスペシャルライブとなった。

ここPANORAでは、DAY1に登場した花譜(かふ)、ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)という2人のバーチャルシンガーにフォーカスして、ライブを振りかえってみようと思う。


ボーカリストとしての完成度の高さを見せたヰ世界情緒

このイベントではシンガーとDJが交互に出演していく形を取っており、休憩らしい時間というものがほとんどなかった。トップバッターを飾ったシユイ、続くDJ/栗山夕璃のあとに3番手として登場したのが、KAMITSUBAKI STUDIOのヰ世界情緒だった。

今年3月にセカンドアルバム「色彩」がリリースされ、8月7日には自身3回目となるワンマンライブ「Anima III」の開催がアナウンスされるなど、KAMITSUBAKI STUDIOでも注目を集めているシンガーであろう。

そんな彼女が出演するということで、KAMITSUBAKI STUDIOファンもグっと集まったのだろう、登場するやいなや白いペンライトが一斉に振られる。本ライブはいうならば「アウェーの地」なのだが、自身のファンを見つけるととても心強かったはずだ。

そんな中で彼女が1曲目に歌いはじめたのは「そして白に帰る」だ。白銀のロングヘアーと青・白のドレスという衣装は、ステージの上でいちばんに輝く。白い照明に白いペンライト、会場中が白に染まるなかで、クリーンな声色でハイトーンを響かせていく。

2曲目・3曲目に歌った「ディメンション」「キミ消失セカイ」はセカンドアルバムに収録されたアルバム曲だが、アップテンポなリズムとソリッドなバンドアンサンブルが映える楽曲だ。持ち時間が数十分しかないフェスらしい攻めた選曲で、観客もググっと盛り上がっていく。

ヰ世界情緒のルックスをみると、メルヘンな少女らしいイメージがついてまわる。だが彼女の歌声を聞けば、そのイメージはすこし変わってくるはずだ。透き通るようなクリーンな声色を伸びやかに発しながらも、すこし低めの音程ではイメージに似つかわしくないほどに力のあるボーカルを聞かせてくれる。

じつは2曲ともボーカルに低音部がハッキリとある曲で、彼女が低音部を歌った際の声の質感・響き方は、そのイメージやルックスからは想像できないほどに深い輪郭を感じた。


そんなボーカリスト・ヰ世界情緒なのだが、彼女が人気なのはもう一つ、普段の口調やしゃべり方にある。

「『超音楽祭』にお越しの皆様!ヰ世界情緒ですー!」

メルヘンな少女らしいミステリアスなビジュアル、高音部・低音部でハッキリとしたボーカリズム、3曲を通して漂わせていたムードから一転、すこしだけ滑舌が甘い口調の愛らしい少女がそこに登場した。ミステリアスさと愛らしさが矛盾することなく一体となった感触、それがヰ世界情緒が人気を集める理由なのだ。

そんな彼女が4曲目に歌ったのは「ヰ世界の宝石譚」、sasakure.UKが作詞作曲した1曲だ。ミドルテンポの楽曲でせわしいバンドアンサンブルはなく、だからこそヰ世界情緒のクリアな歌声がグッと魅力的に響く。ビブラートを挟みながら力感なくスッと伸びていくロングトーンは、キラキラと煌めいてるようですらある。

そしてラストとなった5曲目は「描き続けた君へ」だ。原曲とは少しだけ違い、ドラミングがダンサブルなグルーヴを叩き奏でており、ポップな響きとなって会場を包んでいく。そのなかでヰ世界情緒は持ち前の伸びやかな歌声を披露し、ところどころでしゃくるように歌い上げてドラマティックな色合いを強めるあたり、ボーカリストとして高い完成度を見せてくれた。

そうしてヰ世界情緒の持ち時間は終了、出番を終えた。彼女の高いボーカルテクニックや歌っている際のミステリアスなムード、MCに入った時に顔をのぞかせる愛らしい素の表情と、彼女の魅力が強く感じられたひとときだった。


トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」で歓声が上がった花譜

続いて登場したのは、KAMITSUBAKI STUDIOの顔役でもある花譜である。2018年10月に本格的に活動をスタートさせ、今年で7年目を迎えようというバーチャルシンガー界のトップランナーだ。

東京武道館や代々木第一体育館などでのソロライブを完遂した彼女だが、「ニコニコ超会議」との縁はじつは深く、「ニコニコ超会議」内で開催された「VTuber Fes Japan 2019」「VTuber Fes Japan 2022」と2度にわたって出演しており、今回で3度目となる。

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そんな花譜が1曲目に選んだのは「青春の温度」だった。花譜のボーカルといえば、ウィスパー気味な声色を強く・高く発声することで掠れた声色をより強調させ、心の柔いところをザラリと撫でていくような独特のボーカルでこれまで多くのリスナーを魅了してきた。

1曲目からそのボーカルを存分に輝かせる。音をわざと外しそうにしつつちゃんとメロディに戻っていくような部分、ラストのハイトーンでザラっとした声色を響かせていく部分、どれをとってもボーカリストとしての高い技術をみることができる。

続く「この世界は美しい」では、サビ部分のシンプルなメロディ・歌詞・節回しにあわせて、段々と力を入れていって感情を込めていく。この曲のハイノートでは苦しそうに歌い、切々とした願いを込めるかのようだ。

最近新たに公開された衣装・第五形態「雷鳥」を着飾った花譜。2年ぶりの出演に嬉しさをあらわして、3曲目には「スイマー」を歌いはじめた。

シンセ&キーボードを生かした穏やかなイントロに、力感なくフワっと声が混ざり合っていく。柔らかく低めの鍵盤に、輪郭の薄い花譜の声が一体となっていくさまは心地よい。そこから徐々にバンド隊が入ってくる花譜の声もすこしずつ強まっていけば、その声色の変化だけでドラマティックに感じられてしまいそうだ。

4曲目に歌った「邂逅」は、ここまでのアップテンポな楽曲とは違い、大きく間をとったスローテンポな1曲。そのリズムに合わせるように体を揺らしながら、線の細い歌声をすこしずつ強めていくと、声を荒げて悲鳴といってもいいほどの歌声を響かせた。

「苦しいですと叫んでもいいか さながらナイフのように拡声器を持った 画面越しだって伝わるはずだ」

この曲にはこのような一節があるのだが、言葉通りの強圧的・切迫した感情が爆発した瞬間だった。ここまでと違ったグルーヴやテンポということで、観客も自然と注意を払う。そんなタイミングだからこそ、花譜の歌声がより刺さりやすい。彼女の良いパフォーマンスは?その本懐はどういったニュアンスなのか?そういった狙いを感じられる選曲チョイスだった。

「ここからラストスパートです!」と伝えて歌いはじめたのは「ゲシュタルト」。じつはまだこの曲はミュージックビデオや配信サイトで公開されておらず、現状ライブでのみ聴くことができる1曲。花譜はギター・鍵盤の絡みにあわせて振り付けを踊り、明るく声色で歌っていった。

どうしてもシリアスかつ苦しそうな表情で歌っていく姿を想像してしまいがちだが、笑顔を見せながらキュートさを見せてくれるようになったのも、ここ数年における彼女の変化であろう。

この最後に披露したのは、そうした彼女の変化を決定づけたであろう「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」だった。原曲のダンサブルかつポップなサウンドに、ワッと歓声があがるのは当然。リズムにあわせ小気味よく歌っていく花譜も、ステージを右に左に歩いては会場を煽り、この日のライブを終えたのだった。

この後もさまざまなアーティストやDJがライブを披露していったが、バーチャルシンガーとしてしっかりと存在感を示した2人。その勇姿は、この日初めて彼女らをみたひとにもしっかりと伝わったはずだ。


(TEXT by 草野虹

 
 
●関連リンク
花譜(公式サイト)
ヰ世界情緒(公式サイト)
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