にじさんじ×ホロライブの二大VTuber事務所が激闘した「#DMMオンクレにじホロ交流戦」 その日宝鐘マリンはホームランを打ったのだ

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5月24日(土)、25日(日)の2日間にわたって「DMMオンクレpresents にじホロ交流戦」がエスコンフィールド北海道にて開催されています。

VTuber事務所の二大巨頭である「にじさんじ」と「ホロライブ」(略称「にじホロ」)のバーチャルタレントが出演するイベントで、今年3月に開催のニュースが発表されたときには業界で大いに話題になりました。というのも、今までそれぞれで幕張メッセなどで大規模な年次イベントをやってきているものの、両事務所の名前を冠して双方からタレントが参加し、野球場のような大きな場所でイベントを実施するというのが初めての試みだったからです。

事前情報として、ミニライブなどがあるというのは判明していたものの、本編はゲーム「プロ野球スピリッツ2024-2025」でにじさんじ・星川サラ、同・リゼ・ヘルエスタ、ホロライブ・天音かなた、同・兎田ぺこらという4人の監督が選手を育成してそのデータで試合をする、そしてにじさんじ・笹木咲とホロライブ・白上フブキがチェアマンとして参加するところまでしかわかりませんでした(敬称略、以下同)。

一体、広大なエスコンフィールドでゲームを対戦する様子をどうやって見せるのか。そもそも、バーチャルの存在がゲーム実況している様子をこんな大きな会場でみんなで眺めて楽しいのか。

色々と「どうなるんだろう」という思いを抱えながら1日目の24日に現地を取材したところ、バーチャルでしかできない、エンタメとしても意義がある、壮大な労力をかけたVTuberを具現化する本気の遊びという思いが伝わってきました。そして観客側も選手の攻防に一喜一憂しながらメガホンを両手で叩き、試合に大きな動きがあったときには大いに興奮している様子でした。詳細をレポートしていきましょう。

なお、会場マップやスケジュールとしては以下のような形で、試合以外にも見どころが満載でした。会場の様子は別記事でフォトレポートの予定です。

エスコンフィールドHOKKAIDOは2023年3月に開業したばかりの野球場。札幌の東南、電車で15分ほどの北広島駅が最寄駅になる
レフト・ライト背後にある巨大ビジョンにイベントの様子が映し出されていた


VTuber業界で長年、積み重ねられてきたゲーム大会

近年はゲーム実況のリアルイベントが増えてきており、今回の「にじホロ交流戦」でやっていることも「大きい会場でゲームの実況を見る」という部分で比較的それに近いです。ただVTuberが行ったこの交流戦は、バーチャルである点で少し異なっています。

試合の仕組み自体は「VTuber甲子園」「にじさんじ甲子園」「ホロライブ甲子園」などを観たことがある人なら、同じなので飲み込みやすいと思います。

監督に当たるVTuberが、自身の所属グループ、ホロライブならホロライブ、にじさんじならにじさんじから野球選手として育成するVTuberをドラフト指名します。その選手をゲーム「プロ野球スピリッツ2024-2025」で3年間分育成し、オリジナルチームを編成。育成結果をオートプレイ(選手交代はあり)で戦わせて勝敗を決めるというものです。

つまり、実際のVTuber選手が球場に出てボールを打つわけではなく、監督も選手交代以外はゲーム進行を見守ることしかできません。しかし毎年行われる「にじさんじ甲子園」はものすごい視聴者がおり、企業の協賛もつく一大イベントになっています。

なぜ面白いのか。例えば、監督は事前にチームを育成する様子を個別に配信しており、ファンはそれを長い期間にわたって見ることになるわけで、どんな思い入れで対戦に挑んでいるのかが共有されています。試合での活躍だけでなく、挫折や失敗も一緒に見てきたわけで、だからこそ大会で選手が大活躍したときに、監督の喜ぶ気持ちに強く共感できるわけです。

試合自体も、VTuberの名前が付けられた選手たちが生む偶然のドラマが、実際のVTuberの性格や活動とクロスオーバーして、「○の○ならこの場面でやってくれると思っていた」のようにストーリーを感じられることが多くあります。

ハイコンテクストな楽しみ方ですが、リアルの野球観戦で監督や選手のことを知れば知るほど楽しくなるのと同じで、多くの人の心を刺激するものがこのシステムにはあるというのが実証されているわけです。わざわざエスコンフィールド北海道というリアルの球場を借りて実施したのは、その興奮を最大限のものとして拡大し、しっかり形にするためだったように思えます。


フィールドに物理で現れる選手たち

具体的にエスコンフィールドでどのように表現されていたのか。基本的にはゲーム画面と監督の動きは、上部の巨大スクリーンに投影されています。基本的にはここを見ていれば全部情報が分かる仕組みです。

加えてフィールドにはいろいろな仕掛を用意していました。ホーム、1、2、3塁には直方体のデジタルサイネージが立てられており、打者や走者を表示。また塁間もデジタルサイネージが敷かれており、光の演出で盛り上げます。投手はそれぞれのチームのベンチからスタンドポップの姿で持ち出されて、マウンドに立っています。表裏で攻守が変わったり、ピッチャーが交代すると、スタッフがスタンドポップを持ち運んで置き換えるという力技で運用していました。

いずれも大きな動きはないですが、まるでボードゲームで使うコマが等身大になったかのような存在感を放っています。言うなれば選手の抽象化でした。

試合が始まり、ゲーム内の打者が打つと、ファンからは声援があがるようになります。このVTuberがイメージの中で具現化する瞬間をみんなと共有できるのが、本イベント最大の魅力です。

例えばホロライブ・兎田ぺこら監督のチーム「私立ぺこーら学園」には宝鐘マリンの名を冠した選手がいて、ゲーム内で宝鐘マリン選手は見事にホームランを打ちました。……といっても、もちろん実際の宝鐘マリンは会場にはいません。あくまでも「兎田ぺこらがゲームで育てた宝鐘マリン」がいるだけです。

しかし観客として来たファンが「宝鐘マリンがホームランを打った!」とリアルに声援を送り盛り上がることで、興奮が共有され、ファンの大多数の中で、宝鐘マリンがホームランを打ったバーチャルな事実が生まれるわけです。

みんなの声援が、そのイメージを確定させている。感受性の強い観客の中には、ホームランを打った瞬間の明確なビジョンが頭に焼き付いている人もいるかもしれません。

いわば枯山水のような「見立て」(対象を他のもので表現すること)を極限まで高める遊戯ともいえるでしょう。存在を見立てるためのデジタルサイネージや巨大スクリーンの使用、会場中のライティング活用や炎のあがる演出による臨場感など、いろいろな手段を用いてイメージに刺激を与えてきます。究極的にはファンが集まってみんなで「見立て」をすることで、球場に選手の勇姿をイメージ化・具現化することに成功していたのが、今回の会場の盛り上がりを見るとわかります。

最大のポイントは実際の球場を使ったことです。これがなくてもバーチャルの具現化は可能ですが、観客と運営がその意図を理解して究極を目指したことに意味があります。

ゲーム内で使われていたスタジアムがエスコンフィールド北海道で、見た目が完全に同じなため、巨大ビジョン内で行われている試合を見続けていると、本当に現地で選手が激闘しているような錯覚に襲われると思います。

Xでは「想像以上に楽しかった」という意見がかなり多く見られました。そう感じたのは、スタッフ側の周到な準備と、集まったファン側の熱気で、想像力が強く刺激されたからかもしれません。

球場内にある実況席のLEDにもタレントらが出現して、実際にイベントを進行していた


1日目に実施した2つの試合を簡単に振り返ってみます。第一試合は兎田ぺこらの「兎立ぺこーら学園」と星川サラの「聖★ミルキーウェイ学園」の対決でした。星川サラはチームの味方をとてもポジティブに励まし育ててきたのに対し、兎田ぺこらはすさまじいスパルタでたたきあげてきたという真逆の育成スタイル。

序盤は両者じりじりとした競り合いでしたが、ぺこーら学園の宝鐘マリンがホームランを打ってから流れが変わったかのように、兎田ぺこらのペースに。そのまま一気に勝ち抜けました。

続いてははリゼ・ヘルエスタの「王立ヘルエスタ女学院」と天音かなたの「天界学園」の試合。天界学園はヒゲがトレードマーク(?)の選手が多く、特にピッチャーの雪花ラミィのヒゲはあまりにもモサモサ。これで会場が一気に盛り上がったのは印象的でした。

途中まではじりじりとしたいい勝負だった2人。ところが王立ヘルエスタ女学院の狂蘭メロコが満塁ホームランを打ったものだからびっくり。その後ホームランが続き、天音かなたは身体的にも心も折れてしまいます。

ここが転機となって、王立ヘルエスタ女学院が勝利しました。二人とも腰が低いため、会話で譲り合うシーンが多く、またデッドボールが出たときもすごい勢いで謝りあうなど、らしさを感じるやり取りが笑いを呼んでいました。


マスコットふたりと乱入者

今回のイベントは野球の交流戦にあわせて数多くの催し物やグッズ販売がなされていました。特に目を引いたもののひとつがフブラ(白上フブキのマスコットキャラクター)とサクヤヨー(笹木咲のマスコットキャラクター)の着ぐるみ。サービス精神旺盛であちこちに愛嬌を振りまいていました……がそれ以上に存在感があったのは謎ノ美兎(月ノ美兎の天敵)。

マスコットふたりにちょっかいをかけたり、一般参加者にいたずらを仕掛けたり、かと思えばサービスしたり、普通の席にしれっと座っていたりと傍若無人の謎ノ美兎。これはにじさんじフェスでも見られた奇行ですが、今回のにじホロ交流戦という大きな場も、ちゃんと荒らしてくれました。


推しへの思いを共有する貴重な場

推しが打って走る姿を、本物の球場で見立てるのはとても贅沢な遊びです。アウトになったらしょんぼりとした声が会場にあがりました。ヒットを打てば周囲に轟く大声で歓声が盛り上がりました。一階席、特に「にじさんじ応援エリア」「ホロライブ応援エリア」での一体感は、現実の野球とほぼ同じくらいの熱気でした。推しが選手にいれば、この興奮は倍増でしょう。

グッズとしてチームキャップ、チームTシャツ、ユニフォーム風チームシャツ、監督たちのタオルが売っているのはパッと見てわかりますが、実はTシャツとタオルに関しては選手個別のものが用意されています。

これは「ピンポイントで推したい」という気持ちに対してよくできた配慮です。例えば、前述の満塁ホームランを打った「狂蘭メロコ」の名前の書かれたタオルを掲げたファンの姿がスクリーンにズームで映し出されて、彼女の活躍を振り返る動画に使われる一幕もありました。

イベントでステージに立つVTuberはかなり増えましたが、立っていないVTuberもまだまだいます。そのファンにしてみればこんなにみんなで活躍を応援し、大盛りあがりできる機会はなかなかありません。推しへの愛を高らかに叫び、服装で表現できる、貴重な機会です。


配信を見ていなくても十分楽しめる配慮

前述のようにこの試合に至るまでの4人の育成を観ていると、試合は格段に面白くなります。しかし観ていない人でも楽しめるようにしっかりとした配慮がなされていました。

まずチーム紹介で、どのような育成方針がなされていたのかをかなり深堀りしてチェアマンが解説しています。また、4人のパラメーターを表示することで、それぞれどんなところが得意で、どこが不得手なのか視覚的にわかりやすく見せています。

加えて試合中も個々の選手の特性やピッチャーの投げ方などを、ゲーム画面や監督の動きのじゃまにならないように、けれども誰でもわかるようにゲーム性をうまく表示しています。野球らしさは最大限に活かしつつ、このイベントだけでもちゃんと楽しめるように、かなり細かい部分まで手が行き届いていました。野球がわからない人でも、かなり丁寧な情報の出し方のこだわりは、観ていてドキドキできると思います。


観客との距離感の近さ

VTuberは配信で視聴者と近い距離で会話できるのが強みのひとつ。今回はさすがに球場が大きいため無理かと思いきや、サイン入りボールをプレゼントするための抽選で当たった人にカメラが近づき、その人に話しかけるというサプライズがありました。

ファンに対してVTuberがなんらかのリアクションをしたとき、相手はキャラクターではなく生きている存在なのだ、実在しているのだ、という認識のスイッチが入ります。それをちゃんと今回の会場でもやってくれたことで、6人のVTuberは距離的にはすごく遠くにいるはずなのに、近くに感じられました。


にじホロの初の共同リアルイベント

今回はにじさんじ、ホロライブの初の共同リアルイベントとして、大きなマイルストーンになりそうです。どちらに所属しているVTuberも、揃うこと自体が諸々の問題でとても難しいと思われます。今回の6人だけでもだいぶ調整が難しいかもしれません。

今回はその6人が参加しただけでなく、選手として登録されたメンバーが名前を出して出演することで、ものすごい大人数のコラボが、擬似的あるいはバーチャル的に成立しました。

まだまだいろいろな手法の共同リアルイベントが出来ると思います。その一端として15分ほどのミニライブがありました。合同のライブイベント実施の可能性が、少しだけ垣間見えたように感じられました。


野球に対する興味への入口として

VTuberファンで野球場に初めてきた人には、かなり刺激的だったかもしれません。一階席の歓声の大きさ、ファン同士の一体感、グッズを身にまとってチームの一員になるワクワク感。このワクワクを入口として、実際の野球の試合にも行ってみようと感じるだけの引きがあったように思います。

実際の野球と比べるとゲーム画面は何倍もスピーディーに進むため、見ていて飽きないのも初心者が見るにはもってこいです。特に途中でミニコーナーとして、観客に商品が当たるコーナーがあったり、選手から応援メッセージがあったりとぎゅうぎゅうにネタが詰め込まれていたので、内容の濃度が高く楽しんで最後まで観られるのも高ポイントです。

参加選手のポップがあらゆる場所に配置されているのも特徴的でした。撮影するために歩いていると、エスコンフィールド北海道をぐるっとまわることになるため、必然的に「野球場」の面白さが多角的に見えてきます。階ごとの席から見える景色に気づきやすい導線がこのポップによって作られていました。


とりあえず気になったら観てほしい

北海道の方ならまだ間に合うと思います。是非現地に行ってみて下さい。配信で見ながら応援するのも、十分面白いのでおすすめしたいです。ただ現地の熱気と一体感は、ほかでは味わえないかなり特殊な体験になるはずです。

25日だと一階席はもう購入できないのですが、自由席チケットはまだ買えるので、もし迷っていたらとりあえず行ってみて下さい。他のファンと一緒に声を出したくなること、グッズの推しのタオルがほしくなること、間違いなしです。

運営側がファンの「見立て」力を信じたこと、ファンがその贅沢な遊びに乗ったこと、双方あってこそのレアな開催です。VTuberの歴史の1ページとして、観ておいて損はないです。


(TEXT by たまごまご

 
 
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