5月の仙台公演からスタートしたバーチャルライバーグループ「にじさんじ」の7周年記念ライブツアー「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」。6月22日(日)には、2番目の公演となる名古屋公演が、愛知県芸術劇場の大ホールで開催された。緑仙さん、葉加瀬冬雪さん、長尾景さん、先斗寧さん、渡会雲雀さん、小清水透さんの6名が全21曲を披露した約2時間のライブをレポートする。
記事中の画像は、現地で撮影されたオフィシャル写真と配信(ニコニコ生放送のタイムシフトは、7月8日まで公開中)のスクリーンショット。会場外など一部の画像は、現地会場を訪れた筆者の撮影した写真を掲載している。
名古屋公演は「Arc goes oN」で開幕!
会場の愛知県芸術劇場大ホールは、本格的なオペラやバレエも上演できる会場で、側面、後部の客席は5階まであり天井が非常に高い。チケットは当然前売り完売で、開演時間の10分前までには、ほとんどの観客が着席していた。開演時間の約5分前、葉加瀬さん、長尾さん、小清水さんの3人による影ナレが始まる。音楽ライブ初出演の小清水さんは、影ナレを読むのも当然、初めてのはず。先輩の2人がちゃんと読めたことを褒めると、小清水さんは、観客に「みんなも褒めて」とアピール。客席からは大きな拍手が起きる。出演者たちのマイクを通さない気合い入れの声がステージ奥からかすかに聞こえた数分後、聴き慣れた音楽と共に6人の出演者を紹介するオープニング映像が流れていく。
「にじさんじ」7周年記念プロジェクト楽曲「Arc goes oN」のイントロと共に少しずつステージが明るくなると、通常衣装姿の6人の後ろ姿が見える。スポットライトに照らされながら順番に振り向いた後、全員が一斉に光の玉に包まれて衣装チェンジ。
にじさんじの全体ライブ出演時に作られるにじさんじ共通衣装を着た6人を観て、客席から大きな歓声が響く。もし、このステージだけを単独で観たら、曲調的にも会場の盛り上がり的にも、ライブのフィナーレだと勘違いする人もいるだろう。「夢に見てたきらめき」のフレーズを音楽ライブ初出演となる先斗さんと小清水さんが2人で歌うという歌詞割りもさらに会場を盛り上げる。
曲の終わりとともに暗転したステージが明るくなると、ワインのボトルやフルーツ、スイーツなどが大量に置かれた長テーブルの前に6人が並んで座っている。ボカロ曲「main dish が足りてない」のMVの映像が再現されているのだ。お洒落なメロディーの中にワイルドなラップも混じり、少し行儀の良いギャングのファミリーのような雰囲気。曲の途中からは、立ち上がってテーブルの前に腰をかけたりしながら歌い踊る6人。1曲目では、長尾さん、渡会さんが高音も奇麗なことに少し驚き、2曲目では葉加瀬さん、先斗さん、小清水さんの低音のカッコ良さも印象に残った。以前からにじさんじ有数の歌い手の1人だと思っていて緑仙さんを含めて、この後は、どんな曲とパフォーマンスで驚かせてくれるのか楽しみになる開幕2曲だった。
ボカロ曲を中心にカバー曲を披露!
最初のMCでは、まず順番に自己紹介。最初の葉加瀬さんがクールビューティー担当を名乗ったことで、全員が雑に担当を名乗っていく流れに。5人目、いつも元気な渡会さんが大音量で「クールビューティーでーす!」と叫んだことに吊られたのか、頑張ればクールビューティーできそうな先斗さんも元気良く「世界で一番クールビューティー」と叫んでいたのが面白い。共通衣装初お披露目の先斗さん、小清水さんがお気に入りのポイントを紹介した後は、会場とのコールアンドレスポンスで、少しまったりした空気を再び熱く盛り上げる。また、緑仙さんと長尾さんは、過去に共通衣装でステージに立った時とは、髪型が変わっているようだ。
3曲目、最初のソロとしてステージに残ったのは、先斗さん。忍者装束姿の4人のダンサーを左右に従えて、REOLの「宵々古今」を披露した。祭り囃子のような和風テイストの強いダンスポップに乗せて、以前から定評のあるキレキレのダンスと伸びやかな歌声を披露していく。
特に複雑かつリズミカルなステップの技術力は、ダンサーたちの中央で踊っていても、まったく見劣りしない。共通衣装がスカートではなく、ショートパンツなことも、美しい脚の動きをさらに魅力的にしていた。
2曲連続となる先斗さんに、緑仙さん、葉加瀬さんを加えた3人で歌った4曲目は、紫 今の「魔性の女A」。失礼ながら、この3人がこんなにも妖艶な空気を醸し出せることに少し驚かされた。
5曲目は、長尾さんと小清水さんが「ロウワー」をカバー。半分背中合わせに置かれている椅子に座った二人は、「プロジェクトセカイカラフルステージfeat.初音ミク」収録の人気曲を歌っていく。アンニュイな雰囲気で始まるが、段々とテンポもテンションも高まり、立ち上がって高らかに声を張り上げる。2番に入ると、長尾さんが手の先からは炎のようなエフェクトを放ちながら、剣舞のように激しく踊り出す。そして、ここまで常に背中合わせだった二人が、向かい合い手を近づけると、小清水さんの手からも青いエフェクトが放たれて、2色の光が混じり合う。物語性を感じさせる演出だった。
また、会場では気づかず、配信アーカイブを観て気づいたのだが、二人とも座って始まるイントロで、小清水さんが椅子の手すりに置いた右手の人差し指を細かく動かしリズムを取っていることにも少し驚いた。ここまで微細な動きを生配信のライブで表現できるのか。
6曲目では、VTA(バーチャル・タレント・ アカデミー)で同期生だった渡会さんと先斗さんがボカロ曲「サラマンダー」でデュエット。明るく熱いパッションを放つ渡会さんと、一見、クールに見える先斗さん。まったく印象の異なる二人だが、歌声の相性は抜群で、奇麗に重なりながらも、はっきりと聞き分けられるユニゾンが心地良い。
「ノンブレス・オブリージュ」のデュエットに驚愕!
続いては、先斗さんと同じく音楽ライブ初出演ながら、すでに堂々としたパフォーマンスを見せている小清水さんのソロ。二人がけのベンチにちょこんと座って、マルシィのラブバラード「未来図」をしっとりと歌い上げた。基本、夜遅い時間にパソコン前で働いている筆者にとって、深夜長時間配信で小清水さんの声を聴くことはほぼ日課に近いのだが、小清水さんの歌声の魅力には、この名古屋公演で改めて気づかされた。柔らかく伸びやかな歌声は、アコースティックギターの音色との相性抜群。いつか、生ギターとの共演も聴きたいほどだ。
一度、暗転した後、小さなシルクハットをちょこんと頭に乗せた小清水さんが「準備できた?」と声を掛けると、ステージの左右から同じく小さな帽子を被った長尾さんと渡会さんが登場。8曲目は、ガラッと雰囲気が変わって楽しくポップなボカロ曲「Glory Steady Go」を3人で披露。ハイテンションに歌い踊り、最後は全員ダブルピースで可愛く締めた。
緑仙さん、葉加瀬さん、先斗さんによるMCの後、9曲目は、緑仙さんと渡会さんがキタニタツヤの「聖者の行進」をカバー。サビでは、二人が向かいあって目を合わせながら、競い合うようにテンションを高めていく。シンプルな映像演出も含めて、ここまでの曲の中でも特にカッコ良さに振り切ったステージだった。
10曲目では緑仙さんが、ちゃんみなの「ダリア」をカバー。低音から高音まで幅広く歌いこなし、ピッチも正確な上に声量があってパワフル。何より魂のこもった感情を揺さぶる歌声が魅力的なにじさんじを代表するボーカリストは、圧倒的なパフォーマンスで観客の心を揺さぶってくる。椅子に座ったり、床に座り込んだり、ステージを左右に歩き回ったりしながらも、歌声は一切乱れることがなかった。そのパフォーマンス力でも、広い交友関係でも、きっと名古屋公演メンバーの中心となっていたであろうことは、想像に難くない。
11曲目で、葉加瀬さんと小清水さんが歌ったのは、ボカロ曲「メルティランドナイトメア」。小清水さんのソロでも感じたが、二人の歌声は透明感抜群。振りも含めて可愛いアイドルデュオのようなパフォーマンスだった。
ボカロ曲「懺悔参り」のイントロと共に、ステージ下手からゆっくりと歩いて来た長尾さんは、通常衣装などでお馴染み、腰まで届く長髪に戻っていた。そして、大きな月が浮かぶ夜空や幾重にも重なる鳥居など、奥行きのある背景をバックに歌い始める。サビでは、日本刀が出現。ステージを大きく使いながら、華麗な剣舞を披露していく。右手に持った刀の切っ先からは妖しい炎のようなエフェクトが放たれ幻想的だ。さらに、刀を放り投げて消したかと思えば、次は扇子が出現し、扇子を使った舞いを見せる。
その後も、今度は左手で青い炎を放つ刀を振っていくと、刀が和傘に変化。大きく開いた傘と共に踊ってみせた。最後は、開いたままの傘をステージに置き、二刀流の剣舞。剣の柄のお尻同士を合わせると、テッカマンブレードのテックランサーのような二つの刃をもつ1本の槍に変形。まるで、ゲームの戦闘モーション見本市のようなステージだった。最後は、背後から伸びて来た不気味な2本の手に掴まれて消失。にじさんじVR技術の凄さがさらに実感できた。
驚きの連続だったステージの直後で会場がざわつく中。暗転したステージをスポットライトが照らすと、葉加瀬さんと先斗さんが手を繋いで立っている。2人が歌う13曲目は、ボカロ曲「ノンブレス・オブリージュ」だ。ボーカロイドだから歌える息継ぎのない曲を、2人でスイッチしながら歌うというアイデアが面白い。
もう少し息継ぎしやすい歌詞割りにもできたように思えるが、原曲のニュアンスを大事にするため、あえて難易度の高い形にしたのだろうか。高音が続きブレスのポイントも少ないのに、2人とも歌声はブレない。さらにラストに向かっては、スイッチをせずユニゾンで歌っていくのが恐ろしい。こんなパフォーマンスを生ライブで披露してしまう2人の歌唱力に驚かされた。会場からも驚きまじりの歓声が聞こえてくる。
共通衣装からまさかの衣装チェンジ
長尾さん、渡会さん、小清水さんのMCを挟んだ14曲目は、渡会さんのソロ。「俺の大好きな歌」という紹介から歌うのは、SPYAIRの 「サムライハート(Some Like It Hot!!)」。イントロから「ヘイヘイ! サムライハート!」という客席からのコールが奇麗に揃っている。ステージ前方に置かれた踏み台の上に上がって、会場をどんどん煽っていく渡会さん。サビの前で、「声、聞かせてくれ!」「お前ら、盛り上がっていけ」「全力で楽しめー!」などと叫ぶと、客席からのコールはさらに大きくなっていく。声量の大きさや音圧の高さはもちろん、全身を使ったパフォーマンスも存在感があり、改めてライブ適性の高いシンガーだと感じた。
葉加瀬さん、長尾さん、渡会さんは、燃えさかる炎を背に「劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク」の挿入歌でもある「ファイアダンス」を熱唱。激しいラップ曲で、ステージパフォーマンスも少し治安悪目だ。葉加瀬さんの高音ロングトーンに、長尾さんと渡会さんのラップが併走する大サビも盛り上がる。
ステージに立つメンバーが全員入れ替わって、緑仙さん、先斗さん、小清水さんが歌う16曲目は、アイドルグループ=LOVEの「呪って呪って」。緑仙さんの艶やかなボーカルとステージング。先斗さんの深みのある歌声とダンスのキレ。そして、自称クールビューティー担当なのに、歌声や振り付けからキュートさがあふれ出る小清水さん。個性も魅力も異なる3人の融合具合が、観ていて楽しいパフォーマンスだった。
17曲目は、ここまでのパフォーマンスでも、さまざまな魅力を披露してきた葉加瀬さんのソロステージ。歌うのは、YOASOBIの大ヒット曲「群青」で、2020年10月に葉加瀬さんが投稿したカバー動画は975万回以上再生されており、ファンの間でも人気の曲だ。レースの付いた傘を差し、可愛くステップも踏みながら、雨の中、澄んだ歌声を響かせていく葉加瀬さん。そして、途中でくるりとターンすると同時に昨年11月に披露したクラシカルなドレス衣装に早着替え。おそらく、筆者だけではなく観客のほとんども共通衣装からの衣装チェンジは予想していなかったはずで、客席からは、この日、一二を争うほどの大きな驚きの声が上がった。
6人で作った車「しゃちほこ号」も登場
驚きのパフォーマンス後、明かりが消えて葉加瀬さんがステージを降りた後も、まだざわついている会場。そんな余韻をぶち壊して始まった18曲目は、緑仙さんと長尾さんによる風味堂の「クラクション・ラヴ ~ONIISAN MOTTO GANBATTE~」のカバー。車を走らせる歌詞に合わせて、いかにも手作りな車の書き割りの後ろで歌う2人。コミックソング的なビジュアルと、歌声の安定感やハモリの奇麗さとのギャップが面白い。
途中で車が撤収される際のセリフで判明したが、車の名前は「しゃちほこ号」で、6人で作ったらしい。最後は、両手に黄色いボンボンを持った4人もステージに登場。ステージ前で火花も上がる中、全員でさらにテンションを上げていく。曲が止まった後も歌い続けて収拾が付かない状況になりかけた中、なぜか葉加瀬さんが全員を優しくノックアウト。そのまま、全員でのMCに突入した。
「しゃちほこ号」制作時のエピソードなどを語りあった後、緑仙さんの「我々の本気を歌わせてください」という言葉に続いて披露されたのは、ボカロ曲「仮死化」。ライブ本編最後の曲では、まるで6人組のボーカルユニットのように、さまざまな組み合わせで奇麗なハーモニーを響かせていき、要所要所のソロパートも美しい。さっきまで、わちゃわちゃとはしゃいでいたのは、まるで別の人々のようだ。ステージの明かりが落ちると、すぐに客席からはアンコールが始まった。
ファンの声援に応え、ステージに帰ってきた6人が歌うのは、四季をコンセプトにしたにじさんじ全体曲の春曲「Budding!」。爽やかで朗らかな歌声を聞きながら、暦的にはまだ春だったことを思い出す。1曲の中でさまざまな組み合わせのユニゾンを聴けて、得した気持ちにもなれる歌詞割りだった。
最後のMCでは、告知や記念撮影の後、ひとりずつ順番にライブの感想を語っていく。
渡会さん「こうやって、みんなに会いに来れる機会ができたのがめちゃくちゃ嬉しいなと思っていて。実際に俺らの歌を届けられたのかなと思っております。届いてますか? 楽しかったですか?(観客から歓声)その言葉があれば、今日、ぐっすりです(笑)」
緑仙さん「ただでさえ近寄りがたくて、一言多めな僕なんですけど。初めて関わる人間たちが優しくて(笑)。いつも仲良くしてくれてる人間たちもみんな優しくて。僕の大好きな歌で、こういう風に繋がれたのが、素敵な時間だったなって思います。この素敵だなって気持ちがみんなにも届いていると嬉しいなと思うんですけど。届いてますか?(観客から歓声)よかった。僕もぐっすり寝れそうです」
先斗さん「初めてのライブ参戦で、共通衣装も初めてで。自分ではあまり自信のないことが多かったんですけど。皆さんがポジティブな言葉で褒めてくださったので、練習が始まってから今日まですごい楽しかったです。また、こういった景色を見られるように、これからも頑張っていこうと思いました」
葉加瀬さん「前回、共通衣装ライブの「SYMPHONIA」に出たときは、後輩のつもりでやっていたんですけど。今回は、先輩みたいな立ち位置になって。ライブ慣れもちょっとずつしてきたし、やっとみんなが乗ってくれている姿とかを目で捉えながらパフォーマンスできるようになりました。もしかしたら、私の配信を観たこと無い人がいるかもしれないけど、それでも声を上げて、ペンライトを振ってくれて、すごい温かい気持ちになりました。ありがとうございました。また再び会える機会ができるように私も頑張っていきますので、よろしくお願いします。今日はぐっすり寝ます。あ、いっぱい食べます(笑)」
長尾さん「今回、ワールドツアーの一つとして名古屋公演に立たせていただいて。やっぱり、にじさんじって、でかくなってきたよね。それも、皆さんが俺たちの背中を押してくれたおかげだと思うので。これからも応援してくれたら、もっとでっかい会場でやれると思うので。ぜひ、俺たちにじさんじの背中を押してください」
小清水さん「正直、自分、ダンスとかやったことなくて。普段、外にも出ないし、やれるのかめちゃくちゃ心配だったんですけど。皆さんが、すごい優しく何回も教えてくれて。本当にありがとうございました。(観客の方を向いて)みんなもいっぱいペンライトを振ってくれたり、応援してくれたりして、ありがとう。楽しかった?(観客からの歓声)良かった~ライブ楽しい。名古屋最高!」
最後は、予想通りにじさんじを象徴する曲「Virtual to LIVE」。このメンバーらしく、真剣に歌いあげながらも、わちゃわちゃと楽しい雰囲気も感じさせるパフォーマンスだった。
出演メンバーが異なるので当たり前のことではあるのだが、選曲の方向性なども仙台公演からはガラッと雰囲気が変わった名古屋公演。仙台、名古屋とまったく異なる2つライブを観られただけに、7月21日(祝)の横浜公演や、急遽、追加となった7月12日(土)の上海公演がどのようなライブになるのかが、さらに予想できなくなってきた。まだ始まったばかりのにじさんじワールドツアーがますます楽しみになる公演だった。
(C)ANYCOLOR, Inc.
(TEXT by Daisuke Marumoto)
●関連リンク
・「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」公式サイト
・名古屋公演配信ページ(ニコニコ生放送)
・にじさんじ(X)
・にじさんじ(YouTube)