映画「超かぐや姫!」監督&アニメーションプロデューサーインタビュー ツクヨミのモデルはVRChat……じゃなかった!

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Netflixで絶賛配信中のオリジナルアニメーション映画「超かぐや姫!」は、快進撃の真っ最中。劇場公開決定&延長や、VRChatでのライブやクラウドファンディングの展開、3月13日からは映画上映館の大幅拡大など、予想だにしない反響をももたらしている。本作の魅力はたくさんあるが、インターネットの文化や技術の丁寧な描き方に惹きつけられる人は一定数いるだろう。

特に主な舞台となる仮想空間「ツクヨミ」の描写は、どことなくVRChatを連想させるものも多い。「VRChat民がスタッフにいるのでは!?」という憶測も出てくるくらい、その描写は地に足がついている。

こうした数々の描写や世界観は、どのような人々が、どのように生み出していったのか。PANORAでは本作の監督・山下清悟さんと、アニメーションプロデューサー・桃原一真さんにインタビューを敢行し、XR/VTuber/メタバースメディアならではの視点から作中の気になるところを深堀りしていった。

左より山下監督、桃原アニメーションプロデューサー


XRデバイスがコンタクトレンズ型になった理由

──「超かぐや姫!」には、「スマートコンタクト」(スマコン)というコンタクトレンズ型XRデバイスが登場します。作中の中心となるXRデバイスを、コンタクトレンズ型にしたのはなぜでしょうか?

山下清悟監督(以下、山下) 最初はヘッドセット型を考えていたんですが、視界が塞がれてしまうこと、移動が制限されること、そして見た目がSFっぽくなりすぎることが気になりました。女子高生がヘッドセットをつけているのは、ちょっとおかしいなという感覚があったんです。

過去には「電脳コイル」がメガネ型デバイスを採用していましたが、それと同じことをやるのも違う。もう一段先に行けないかと考えていたところで、現実でもスマートコンタクトレンズの開発構想があることを知りました。

世界観監修を担当されている方からは「コンタクトだと外すシーンが作りにくい」といったデメリットも指摘されましたが、メガネやゴーグル越しではなく、直接目の前に仮想空間が広がり、そこへダイレクトに入り込む感覚を重視し、コンタクトレンズ型でいこうと決断しました。現実だと、実現までは遠そうですけどね。

作中に登場するXRデバイス「スマコン」/画像はYouTubeスクリーンショット

──細かなリアリティより、見栄えが重視された結果だったんですね。

山下 そうですね。とはいえ、「竜とそばかすの姫」で見られた、イヤホンを装着するだけで仮想世界にアクセスできるような描写にしてしまうと、この作品においてはファンタジー過ぎるのではと思いました。作中ではVRだけでなく、ARもシーンに取り込む必要があったので、絶妙なリアリティーラインを模索した結果でもあります。


──ちなみに、作中では電車内のサラリーマンがメガネ型のデバイスを使っているシーンもありました。

山下 メガネだけでなく、ゴーグルをつけている人もいて、実は「超かぐや姫!」の作中世界にはいろんなガジェットが存在します。スマコンはあくまで主人公たちの選択肢であって、世界全体でデバイスが統一されているわけではないです。


VRChatは知らなかった! 「ツクヨミ」はどのように生まれたのか

──次に、作中に登場する仮想空間「ツクヨミ」について。この仮想空間では「クリエイターを応援する」という設定が最初に開示されていますが、設定考案にあたって参考になったプラットフォームなどはありますか?

山下 直接参考にしたものはないです。彩葉(酒寄彩葉)がプロデューサー・作曲家として、かぐやをトップライバーへと押し上げていく過程を自然に見せる場を考えた結果、自然に行き着いたものです。

念頭にあるものととしては、Pixiv、YouTuber、配信者など、インターネット上でなにかを発信・表現し、活躍していった、インターネット文化そのものでしょうか。 「ツクヨミ」 は特殊な世界ではなく、今あるインターネットの形をある程度抽象化した場所として提示したほうが自然だと考えていました。

作中に登場する仮想世界「ツクヨミ」/画像はYouTubeスクリーンショット

なので、作中における「ツクヨミ」のクリエイターは、全員が全員、ものすごく有名なクリエイターではないんです。一人ひとりが気軽にものを作ったり、何かを発信したりすることを「クリエイティブ」と呼び、そこに経済圏が生まれている……という設計をしています。


──経済圏としての「ツクヨミ」を象徴するのが、仮想通貨「ふじゅ~」だと思います。これって、どのような仕組みで手に入るものなのでしょうか?

山下 ファンタジーな設定ですが、スマコンが装着者の感情の動きを計測して、「誰によってその感情が動かされたのか」を集計するシステムがあります。そして、人々の感情を動かした人に対して、運営が「ふじゅ~」を支払う、というフローが成立している設定です。貨幣としての具体的な循環の仕組みまでは深掘りしていませんが、インターネット全体の経済圏を抽象化して、ひとつのプラットフォーム内に凝縮させたイメージです。


──VRChatに日々入り浸っている身から見ると、「ツクヨミ」の風土やユーザーの描き方が、ものすごくVRChatにそっくりだと感じました。監督はVRChatはご存知なのでしょうか?

山下 実は、VRChatを体験したのはつい最近です。先日、かぐやの3Dライブが開催された時に軽くログインしたくらいですね。そもそも、この企画を立ち上げたのは3年ほど前で、その当時はVRChatはほとんど知りませんでした。

桃原一真プロデューサー(以下、桃原) 自分もVRChatは知ってはいたものの、当時はVTuberの方が知名度は高かったですし、そもそもバーチャルな存在に「なる」よりも「見る」ものとして意識が向いていたので、あまり強い関心がなかったんですよね。


──驚きました……! しかし、その存在を知らなくとも、現役ユーザーが「似ている」と感じられるものが生まれたのはおもしろいですね。

桃原 ちなみに企画を進めていた当時は、「ファイナルファンタジーXIV」といったオンラインゲームの方を参照していた記憶がありますね。

山下 「インターネット発のプラットフォーム 」という点で見れば、どんなアイデアでも自然と似ていくものなのかもしれませんね。


──そして、監督ご自身も参加された、かぐやのVRChatライブについて。そもそもの話として、あの企画はどのような経緯で実現したのでしょうか?

桃原 製作プロデューサーの一人が、過去に類似の案件を経験したことがあるらしく、「メタバースとの連携ができそうな作品があるんですよ」と売り込んでもらった結果、実現したと聞いています。Live2Dモデルや歌ってみたのように、作品に相性の良いアプローチの一つ、という立ち位置だったはずです。


──そのような形で企画されたものが、実はVRChat全体の最大同時ユーザー接続数を更新するほど、多くの人が観に来ました。こうした反響は制作サイドとしてどう受け止めていますか?

山下 正直、よく分かんないことになってる、という感じです(笑)。このライブに限った話ではなく、本作にまつわるあらゆる出来事に、ただただ驚かされています。どういうことか分からないものの、嬉しいです!


──さらにその後、VRChatに「ツクヨミ」を再現するクラウドファンディング企画「ツクヨミ感謝祭」も始動しましたよね。

桃原 ファンのみなさまの声や、VRChat側の制作に関わるあしびカンパニーなどのクリエイターの熱意によって実現しています。宣伝チームも含めたここまでの歩みは、どこかでお話しできたらいいですね。


制作陣のインターネット体験のルーツは?

──インターネットカルチャーが大きな軸になっている本作ですが、お二人のインターネット体験のルーツはどのあたりでしょうか?

山下 自分は今年で39歳になるんですが、中学1年生だった2000年ごろからネットを始めていて、2ちゃんねるや個人サイトが自分のインターネット体験の原点です。ニコニコ動画が出てきたのはその後で、ちょうど業界に入り始めた時期と重なってしまい、じっくりとコンテンツに触れる時間があまり取れませんでした。ボカロ文化も含めて、触りは知っているけど深くはない、という状態でした。本作に取り掛かるにあたって、自分が触れてこなかった時期のカルチャーを学びましたね。

桃原 自分は今31歳で、ニコニコ動画直撃世代です。小学校の頃に「おもしろフラッシュ保管庫」、中学でニコニコ動画に触れ、高校でボーカロイドにハマって、本作にもご参加いただいたryo(supercell)さんやkz(livetune)さんの音楽を聴き続けてきた世代です。今のアニメ業界、特に企画の中核には、同じような世代が多いんじゃないかと感じています。実際、昨日もスタッフたちとカラオケに行ったんですが、みんなほとんどボーカロイドの曲を歌っていました(笑)


──アニメ業界だけでなく、いまは様々な業界で、ニコニコ直撃世代が企画を回しているような印象を受けますよね。

桃原  世代としてちょっと嬉しいとは感じますよね。本作においても、宣伝や企画を担当している中心メンバーはほとんど僕より年下の20代で、ニコニコ世代からボカロ文化の直撃世代が揃っています。


──制作チーム全体で見ると、2ちゃんねる黎明期から現在のVTuber・ショート動画文化まで幅広くカバーできていそうですね。ちなみに、ボカロ楽曲などの起用は、特定の世代へ向けて訴求するための戦略的なものだったのでしょうか?

山下 戦略的な要素はそこまで強くはなかったとは思いますね。

桃原 いちおう、「プロジェクトセカイ」が人気を得ている今なら、若い人に敬遠されることはないだろうな、という感覚はありました。その上で、自分たちの世代に刺さるといいな、という思いはありましたね。結果的に、多くの人に見てもらえるコンテンツとなったのは、今でも驚いています。


かぐやが配信者として駆け抜けた理由と、彩葉のキツネモチーフの原点

──ボカロ楽曲を起用しつつも、本作のシナリオラインは、主人公のかぐやが配信者としてスターダムを駆け上がっていく過程を描いています。作品の中核を為す配信者/VTuber文化の起用はどのような経緯があったのでしょう?

山下 企画の骨格として「現代に来たかぐや姫が美貌を活かして何をするか」という話があって、そこからアイドルになって活躍するというラインは自然と立ち上がりました。ただ、個人でやらないといけないという条件があって、インターネットと接続してアイドルになるなら、現代ならばそれは配信者だろうと。割と必然的な流れで決まりましたね。


──となると、お二人の世代的には、実はニコニコ生放送が大きなリファレンスになっていたりしますか……?

桃原 いえ、どちらかと言えばVTuberだと思います。本作の企画自体が、VTuberや「NEEDY GIRL OVERDOSE」などを見つけたところから骨格が定まったのが大きいですね。ランキングを一気に駆け上がる様も、どちらかと言えばVTuberに寄っているかなと。

あとは、成功したらタワマンに住めるみたいな、活動がしっかりとお金につながる描写もそちらに寄せていますよね。 ニコニコ動画の初期はどんなに人気が出ても活動がお金に直結しにくかったですが、YouTubeではクリエイティブとお金が結びつくようになりましたから。

山下 やはりお金って避けて通れませんからね。実はかなりお金の大切さを重視している作品でもあります。


──VTuber要素に関連して、一点気になることが。「ツクヨミ」のアバターについて、かぐやがうさぎモチーフなのはイメージ通りなのですが、彩葉は直接的なイメージのないキツネがモチーフです。VTuber文脈で言うと、とある方を連想させられるのですが、実際はどうなのでしょうか?

山下 かぐや、彩葉ともにモチーフのモデルはおらず、彩葉に関しては「嘘つき」のイメージを与えています。キツネは人を化かす存在ですが、彩葉は本音を言わず、「自分を騙している」子なので、その本質を現しています。あと、うさぎとキツネの組み合わせは、「ズートピア」のジュディとニックもそうですよね。


「予測でき得る未来」としての2030年と、現実の予想外の進化

──本作の舞台は2030年と、ほんの少しだけ未来の設定です。この時代となったのはなぜでしょう?

山下 仮に2035年以降にすると、何が起きているか予測できないから、が率直な理由です。企画を立ち上げたのが2023年ごろでしたが、そこから10年以内が物語を想像できる限界点だろうと思い、2030年に落ち着きました。ただ、企画を立てた後にChatGPTをはじめとするLLMが爆発的に普及したことは予想外でしたね。「ray」MVの中で、彩葉がヤチヨAIチャットボットと話すカットを入れることでギリギリ補完しましたが、もし1年遅ければ全然違う描写も作中に入れていたかなと思います。

桃原 「ツクヨミ」の規模感も、そうした時代設定から逆算して、総ユーザー数を1億人と設定していますよね。『サマーウォーズ』の「OZ」は、総ユーザー数が全世界に10億人いるという設定でしたが、YouTubeの現在の総ユーザー数は全世界で20億人と、ずっと多いんですよね。それを踏まえると、「ツクヨミ」はだいたい1億人くらいだろうと考えていました。

山下 社会受容についても、「サマーウォーズ」の「OZ」は支払いなども完全に個人と紐づけられて、もはや「第二の人格」レベルまで浸透しているのに対して、「ツクヨミ」はあくまで遊び場の範囲にとどめてあります。いちおう経済圏はあるけど、全員が全員使っているわけではない。そんなエクスキューズは置いています。

桃原 ⼀⽅で意外だったのは、XRデバイスはこの数年で想定よりは広まらなかったことですね。「Apple Vision Pro」が発表されたときはすごいスパンでXRデバイスが発展するのでは?と思っていたのですが、結果的にはみんなが持っているデバイスというまでは普及していない。その分、スマコンが逆説的に未来感を出せていたのかもしれません。


──こうした時代設定の中でも、インターネットのあり方や価値観については、相当リアリティのある描き方をされていたのが印象的です。そこはこだわりがあったのでしょうか?

山下 そうですね。やはり、今を生きてる人の感覚に近づけようとは考えていました。例えば彩葉のように、疲れている時に、推しの配信を聞いて持ち直し、なんとかやっていくといった感覚って、ある程度若い世代に共通していると思うんですよ。自分はあまりこのあたりの勘所がわからなかったのですが、企画とシナリオを担当してくれた30代のスタッフがうまく取り入れてくれていましたね。現場スタッフの感覚が活きています。


──「ツクヨミ」内の描写も、友人とチルい場所で集まっておしゃべりをしたり、路上でこじんまりとしたライブをやったりと、地に足ついた描写が目立ちました。こちらも、現場の声が反映されているのでしょうか?

山下 それはどちらかと言うと、細田守監督作品との対比が念頭にあります。「サマーウォーズ」や「竜とそばかすの姫」って、ものすごくスケールが壮大ですけど、逆に本作は「我々にできるのはこのくらいだろう」と想像しながら描写を考えていました。実際に人が仮想空間を訪れてやることといったら、まぁ大体こんなところだろう、と。それが、現在のVRChatユーザーのあり方に近くなった理由かもしれません。


──最後に、来週の3月13日より映画の上映館が100館以上に拡大されるというビックニュースに一言いただけないでしょうか。

山下 みなさまの熱意に支えてきていただいたおかげで、ここまで大幅に拡大上映することができました。本当にありがとうございます。Netflixでも、映画館でも、ぜひ何度でもお楽しみください!


(TEXT by 浅田カズラ


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