
VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーは14日、2026年度3月期の決算を発表し、記者向けに説明会を実施した。
メタバースサービス「ホロアース」のサービス終了を発表し、その減損処理の影響などもあって売上高や純利益が予測より下がったというのがトピックだったが、記者発表会では今後カバーがフォーカスしていく分野について時間を割いて語っていた。
その中で、直近数ヵ月にあった、星街すいせいが個人事務所を設立したり、男性VTuberグループ「ホロスターズ」が運営体制の変更を発表したりと、タレント周りであった大きな動きについても説明していた。とてつもなく長くなってしまったが、なるべく元のニュアンスを正しく伝えるために、今後の展望と記者とのQ&Aについても原文を文字起こししてまとめていこう。
「タレント価値創出への集中的資本投下」
カバーといえば「ホロライブプロダクション」のメンバーを思い起こす人が圧倒的に多いだろうが、会社単位でいえば谷郷元昭(たにごうもとあき)CEOを想像するファンもいるはず。「YAGOO」(やごー)の愛称で親しまれており、イベントの挨拶で登壇すれば万雷の「YAGOO! YAGOO!」のコールで迎えられるほどの人気だ(イベントのレポート記事)。

今回の記者発表会では、そんな谷郷氏とCFOの金子陽亮氏が登壇。発表会の冒頭、少し硬い雰囲気で谷郷氏は話し始め、タレント、クリエイター、ファンに支えられて「VTuber経済圏」とも呼べるひとつの市場を築けたことについて感謝を述べていた。
同時に、業界を牽引していく先駆者として強い使命感で様々な挑戦してきたものの、「その思いから生じた焦りがさまざまな側面で負の影響を与えてしまったことも事実です」と、全てが成功したわけではなく、うまくいかなかったこともあったことに触れる。
「本来の目的である期待に応えることと矛盾する結果を招いてしまった点については経営者として猛省しております。今一度地に足をつけて本質的な課題に向き合う覚悟です」と思い強調。「これからは経営資源の投資を明確に集中させるということです」と触れた上で、中長期的に注力していく分野として「タレント価値創出への集中的資本投下」を挙げた。
……と固い言葉でいわれてもパッと頭に入ってこない方もいるかもしれないが、要するに、今までのように全方位でチャレンジすることから方針転換し、ヒト・カネ・モノなどを集中させて強いタレントを生み出し、そのタレントを軸にビジネスをつくっていこうという話になる。
前述の谷郷氏の話とかぶるが、VTuber業界は2017年末〜2018年頭にムーブメントが起こって以降、可能性を広げるために限りない挑戦を行ってきた。
カバーで言えば、例えばジャンルに特化したグループで、シンガーの「イノナカミュージック」やゲームの「ホロライブゲーマーズ」、先のホロスターズ、英語圏やインドネシア、中国向けのグループなどを投入してきた。
IPの活用でいえば、ショートアニメの「ホロぐら」、「ホロアース」も絡むメディアミックス企画の「ホロライブ・オルタナティブ」、音楽プロジェクトの「Blue Journey」などが挙げられる。今はインディーゲームの「ホロインディー」、カードゲームの「hololive OFFICIAL CARD GAME」、スマホゲームの「hololive Dreams」などが目立つだろう。
VTuber事業としての可能性がどこにあるのか。カバーも含めて、10年近く手探りで色々試してきたわけだ。しかし、そうした多くの挑戦がすべて当たるわけではなく、歪みや疲弊を生んでしまったケースもある。
今一度、立ち戻ってVTuberはタレントが中心で、そのタレントを起点として事業を回していこう。すぐにはできないかもしれないが、中長期的にエンタメ企業としてより大きくなっていくために、強いタレントを生み出し育てることに集中投資しよう……というのが発表会で語られた主旨だ。

そんな谷郷氏の「経営資源の投下先を、明確に集中させる」という思いは、上記の3点にまとめられる。谷郷氏の言葉そのままが一番伝わりやすいので、文字起こしをそのままお届けしよう。
谷郷氏 まず第一に、タレントの才能を開花させ、自身の強みを最大限に発揮し、突き抜けるための重点的な支援です。3月下旬に発表した星街すいせいの個人事務所の設立も特殊なケースではございますが、これに沿った戦略として捉えていただきたいと思います。4月の初めに発表したホロスターズの体制変更についても、ファンの皆様には、動揺を与えてしまったことを重く受け止めておりますが、現状を勘案した上で、心苦しくも必要な決断であったと理解しています。
今まで言及した件に関しては、既に発表を行っておりますが、この先も事業を継続している上で、会社全体で最適なリソース配分の見直しを行っております。これからはそうしたリソースを適切に還元し、自らの才能を磨き、さらなる夢に挑戦し続けるタレントの熱量に対して総合のサポートができるように、タレントに伴走してまいります。
ふたつ目は、当社の強みを伸ばすこと、すなわち技術への投資です。
世界中のプレイヤーが台頭する中で、我々がパイオニアとして他を圧倒し、最高の体験を届けるためには、日々進化する先端技術の開発が不可欠です。3Dコンテンツをはじめとする高クオリティーな配信、演出にこだわった大きな会場でのライブなど、そのどれもが技術の積み上げによって実現しております。
余談ですが、アップルの50周年を祝う世界的なキャンペーンの日本イベントに、当社所属の森カリオペが起用されました。私が感銘を受けたのはそこに起用されたこと以上に、アップル好きのテックギークの間でVTuberが話題になったことです。VTuberという存在とそれを支える技術が、テックギークたちの心を動かし、これまで触れ合わなかった領域が交わり合うことで生まれた新たな価値観。そこに私たちの技術の価値があると感じました。こうした技術的な強みを生かし伸ばすこと。それは他社には簡単に真似できない当社の強みです。

また、本日、ホロアースのサービス終了および財務的には開発資産の減損を発表しました。この点に関しては、経営者としての責任も痛感しております。
しかし、本件は単なる事業撤退ではなく、経営資源の投下先を明確に集中させるという方針の一環でもあります。元々、長期的なビジョンを掲げて開発を続けてまいりましたが、改めてVTuber事業を核に据えた事業展開をする上で、より接着しやすい形へと統合を図ってまいります。表面上は事業をたたむということでもありますが、これまでの開発資産はVTuber事業に引き継ぐ形になります。
今後は、ホロアースの開発によって得た知見やノウハウ、技術も合わせて、日常の配信やライブ演出へと統合し、さらなる体験を届けられるように、高みを目指してまいります。
最後に、次世代の才能の発掘と育成も中長期的な目線において重要な取り組みでございます。
先日発表した「mekPark」はこの点に関する取り組みとなります。同じユニットとして共に歩み、デビューを目指すという新しい形の育成プロジェクト。名称の由来でもある公園に誰もが集まり、切磋琢磨できる場所を作るというコンセプトの通り、ここから次世代のVTuberカルチャーを担うユニットを育てていきます。
主力事業へのプレッシャーが高まる中で、組織として、引いてはVTuberプロダクションとして、持続可能性を保つためには、。新しい枠組みで人材を発掘し、育て、厚みを作ることが不可欠だと考えます。すべては十年先も、二十年先も持続的に成長するための取り組みへの移行です。
ホロアースの技術開発は無駄じゃなかった

中盤からは、前述の3点について、具体的にどういった手を打っていくのか、より詳しい話が語られた。「タレント価値創出への集中的な資本投下」という目標に向けて、下記の3つの要素それぞれに対策を打っていく。
1.トップタレントを輩出し続けるためのマネジメントモデルの構築
2.統合的なファン体験を重視した開発プロジェクトの再編
3.グローバル経済の拡大と収益構造の最適化

上部にある「タレント価値の創出」が最も注力すること。具体的には、制作キャパシティーの向上、表現技術の研究開発、タレント・マネジメント改善を挙げている。
カバーの社員数は2026年3月の時点で741人とVTuber企業としては最多だが、「制作キャパシティーの向上」が挙げられているということは、配信や楽曲、MV、案件……など会社やタレントがやりたいことに対して制作体制が追いついていなかったということ。そこを事業整理とスタッフの再配置、個人事務所のようなリソースの外部化などで改善していく。
魅力的なタレントが生まれた後、ライブやイベント、グッズ、UGC参加などできちんとしたファン体験を提供し、さらもカードゲーム、ゲーム、コミックス、アニメ、世界タイアップなどのメディアミックスでさらに認知を拡大させてマーケットを掘り起こし、さらにまたタレントを強くしていく……というサイクルを繰り返す。

ロードマップで言えば、今はさらなる成長に向けた基盤を強化するための投資時期と位置付けている。

さらに「タレント価値の創出」について詳しく解説するスライドが続き、制作環境の整備、タレントマネジメントの強化、コミュニティーの健全化……という3つの要素が挙げられた。

ここでホロアースで培った技術が、VTuber側にも還元されるという話が触れられた。例えば、VTuberの服は通常、1点もののCGとして制作するが、ホロアースにおけるアバターの仕組みを使うことで着替えられるようになるなど、表向きにはユーザーが使わなくても自社技術として持っていて、既存のアプリに組み込めるのが強みだ(この辺の詳細は後述のQ&Aパートで解説)。

タレントの自宅の配信環境をアップデートさせての効率化、Unreal Engineを活用したルックと表情トラッキングなどの技術研究についても触れる。

「タレント価値の創出」のためには、まず才能の確保が起点となるだろう。「mekPark」は、練習生3人とディレクター1人がユニットとなって、最長2年でデビューを目指す新プロジェクト。目標に向けて努力するタレントをみんなで応援し、その成長に共感していくという種類のエンタメが実現されそうだ。
ほかにも常設オーディションを用意して新人を獲得し、独自のカリキュラムや育成を提供することで次世代のトップタレントとなれるところに当てていくという施策も展開していく。

VTuberを日常的に見ていない層に向けても、カードゲームやソーシャルゲームなどをきっかけに知ってもらい、ブランド力を高めていく。例えば、新作アニメで知ったから原作を読む、ゲームのコラボで知ったからアニメを見るといったように、間口が広い方がより多くの人に知ってもらえるだろう。

グローバルでのファン接点の拡大も同様。東アジアの大型タイアップ事例として台湾の「味全ドラゴンズ」では2日間でのべ10万人を動員し、会場となった台北ドームで歴代トップクラスの集客となったという。北米ではTwichとの24時間コラボイベント「holoday」で、関連SNSを含めて50万インプレッション、のべ25万フォロワーの獲得という成果を得た。

「目先の成長スピードよりも、将来の飛躍に向けた『種まき』」というのが2027年3月期からの目標だ。まだ発表していない施策も数多く進めているとのことで、業界関係者やファンとしてはとても気になるところだろう。
細かい誠実なニュアンスが伝わってきた質疑応答パート
ここからは質疑応答で、登壇者はプレゼン発表と同じ30分をかけて記者たちの質問に丁寧に答えていった。筆者的には、いくら「タレント価値の創出」といってもコンテンツ業界は厳しい世界なわけで、リソースを注力すれば大ヒットを産めるという自信の裏付けはどこにあるのかという疑問が湧いてきた(あとはホロスターズの扱いだ)。
その他の記者の質問も、これからカバーが目指すところを理解する上でとても有用なので、基本的にそのまままとめていこう(めちゃくちゃ長いが)。
──mekParkのような育成枠について、アイドルマスターにおける「vα-liv」(ヴイアライヴ)や、にじさんじのVTAのように他社さんでは存在していましたが、カバーの歴史では初だと思います。ここに力を注ぐこだわりを教えて下さい。
谷郷氏 mekParkの背景としては、VTuberが世の中にかなり出ているというのがひとつあります。個のタレントさんだけで目立っていくっていうのは、なかなか難しい側面があって、われわれも最近はユニット展開を重要視してきています。実際、hololive DEV_ISでも、「ReGLOSS」(リグロス)や「FLOW GLOW」(フロウグロウ)でディレクターがユニットごとのチャンネルを持って運用している状況があります。
こうすることによって、タレントさん一人一人が個々人のチャンネルを伸ばすだけではなく、ユニットのチャンネルを会社が伸ばすという形で一緒になって成長させていくことが可能になっています。
これは一般のアイドルでいえば、昔の近藤真彦さんのようなピンのタレントさんが活躍している時代から、今はSnow Manさんのようなユニットで注目を集めるという時代に変わっていっているのと同じだと思います。
VTuberでいえばKiznaAIさん、ときのそらもそうですけど、そこからからどんどんユニットになってきている状況があるので、われわれとしてはユニットを運用する力を社内でも培っていきたいです。
ユニットとして他のタレントさんと協力しながら活動していくというのは、タレントさんにとってもコミュニケーション能力などが求められるので難しいところもありますが、デビューしたけどユニットとしての運用が困難となると(成長が)難しい面もある。(だから)事前にユニットとしてディレクターと一緒に成長していただいて、それで昇格していただくという、他社さんとはかなり毛色が違った形での育成という方針になります。
──今日の記者発表会は、今ある土台を固めながらもこれから力を入れる領域を定めていくという話だったと思います。カバーとして向かいたい方向性の話をもう少し具体的に教えて下さい。
谷郷氏 われわれとしては今後、VTuberの市場というのはより広がっていくのではないかと思っています。根拠としては、ボーカロイドという文化が2007年ぐらいに誕生して、今、その文化の歌い手さんとかボカロPの方々、Adoさんだったり、米津玄師さんだったりがメジャーなシーンで活躍されている状況があるということです。
(ボーカロイドが)出てきた当時はかなりサブカルチャー的な盛り上がりでしたが、個人でもクリエイターが成り上がれるということがフィーチャーされた結果、若いクリエイターたちが憧れて挑戦するようになって、メジャーに活躍される方々が出てきたのかなと思っています。
VTuberにおいても、やはり同じような現象が起きることが自然だと感じていて、今活躍している、例えば星街すいせいのようなタレントに憧れるような人たちが今後登場してくる中、われわれはそうした方々をきちんと育成して、スターダムに押し上げていくようなことをしっかりとやっていかなければならない。
今、K-POPのビジネスもどんどん産業化していっていると思いますが、VTuberもここから十年とかの間でより産業になっていくことが求められていると思っています。そこに耐えうる体制を築いていきたいです。
──今、ユニットでの売り方に力を入れていくという話がありましたが、一方でホロスターズの体制が変更されました。やはり厳しかったということでしょうか?
谷郷氏 ホロスターズに関しては、やはりわれわれがビジネスの展開を供給者視点で行なってしまったことが大きな(問題)点でした。男性のタレントさんを求める女性の方々、もちろん男性の方も視聴者としていらっしゃると思いますが、それと女性のタレントさんを観られる男性というのは、かなり求められているものが違うのかなと思っています。
われわれはホロライブの成功体験を、ある意味、横展開してしまったということ、供給者的にその方が楽だからと、われわれは女性のタレントさんをアイドル的に見せていくところに成功体験があったので、それを横にスライドして、男性のタレントさんに適用してしまったことが非常に大きな課題でした。
女性のマーケットニーズをしっかり汲み取れていなかったというところが大きいのかなと思っています。もちろんその中でもファンはついていらっしゃるので、しっかりサポートはしていきます。
──今のところ体制を変更されたのはホロスターズの日本のみで、ENは現体制のままですが、その理由はなんでしょうか?
谷郷氏 すいません、今日私がどこまで話していいのかというところはあるのですが……。事業を開始したタイミングが日本のホロスターズのほうが当然早い状況があり、日本のほうをどうしていくのかというのを考えている状況です。ENに関しては、まだ挑戦している最中という認識です。
──一般論として、タレントに限らずコンテンツ自体をヒットさせること自体がハードルの高いことだと思います。その売れるタレントが継続して創出できるという、カバーとしての裏付けや自信はあったりするのでしょうか?
谷郷氏 その話もほぼ同じような内容になると思います。つまり我々は女性のタレントさんに関して人気が出るように成長させていくノウハウを他社さんに比べると持っていると認識しております。
これは例えばキャラクターデザインやイラスト、3Dモデルの制作などが業界内で高い水準にあることもそうですが、ネットワーク外部性が働く要素もあります。強い人気の女性タレントさんがいて、実際に男性のファンについていただいてる状況があるからこそ、そこに能力を持った女性タレントの方にきていただける「回っている」状況があります。やはりわれわれが抱えているファンコミュニティーというのが非常に大きいわけで、それが強みの一つだと思っています。
昔でいうと、(才能を持っているのに埋もれていた)ライブ配信の経験者の方が多かったのですが、今はどんどん減ってきています。もちろん配信経験を積まれている方がいて、そうした経験者を採用していく一方で、われわれ自身も自分たちが得たポイントをしっかりレクチャーしていくというのが必要なことなのかなと考えております。
──ホロアースについて、メタバース自体が縮小気味な印象があります。そうしたメタバースについて御社がどう分析しているかを教えて下さい。
谷郷氏 メタバースについてですが、私は今、世界的にうまくいっていないという認識ではなく、「VRChat」や「Roblox」というサービスについては伸び続けているという認識です。両者とも収益性についてはわからない部分でもありますが、VRに特化したコミュニティープラットフォームとしてのVRChat、あとはゲームを制作できるUGCプラットフォームとしてのRoblox、この2社に関しては伸びていっています。
ただVRのデバイスに関しては、北米圏においてはかなり販売は伸びてきていますが、Switchとかと比較されるような、つまり「キッズ」が買っているものになっている。ハイエンドのAAAタイトルをVRで出しても売れない状況というのが私の認識です。
だからわれわれとしては、北米圏でVRChatやRobloxで成功してきているプレイヤーさんが出てきているその中で、われわれが勝ち筋を見出せる分野……。われわれホロアースについては、色々なことをやりすぎてしまった感があります。つまりライブをやったり、ゲームをやったり、色々なものを盛り込みすぎてしまった。例えばライブに絞るとかすればよかったのかもしれないのですが、そこを総合的に事業を展開してしまったということが、投資も多くかさんでしまう結果になってしまった。
ただ、(色々な技術資産は産んでいて、例えば)ユーザーさんだけでなく、タレントさんもアバターを着替えられたりできるんです。今、タレントさんの衣装というとワンオフでつくってるわけですが、これからは例えばユーザーがデザインした服をタレントにすぐに着てもらえるみたいなこともできてしまう。だから開発してきた技術はホロライブの運用にも活用していけると思っています。まぁ、われわれの展開の仕方が問題だったのかなと。
もうひとつ、ホロライブのタレントさんにとっても、いつも配信しているホロライブと、ホロアースという2つの選択肢ができるのは、やはり大変だったということです。今後、ホロライブのいつも配信しているアプリケーションに、ホロアースで培った技術を入れていくことで、タレントさんとしてはそれを(手軽に)使っていただける。
ホロアースですと、ファンの方々がタレントさんの配信に参加していただくことができるのですが、そういった体験をホロライブアプリの方で実現していった方が、ある意味、ホロライブの力をそのままフル活用できるんじゃないかなと思っています。
昨年度からは(ホロアースは)ライブに特化した形で、ホロライブの力も借りて伸ばそうという方向性で進めてはいました。そこがやはり中途半端で、もっとホロライブと直列させていったほうが、タレントさんにとってもファンの方にとっても喜んでいただけるようなサービスを提供できるのかなという認識です。
──タレントマネジメント組織の強化という話をされていましたが、例えば人員を増やすとか、具体的にどんな施策を考えているのか教えて下さい。
谷郷氏 2点ありまして、ひとつは組織的な体制としての話で、この4月の組織変更がありました。これいって言っていい話だと恐らく思うんですけど、私、昨年度は社長として会社全体を見る立場にありましたが、この4月からはVTuberの運営部門と、タレントマネージメント部門の両方の責任者もやっています。
まずタレントマネージメントの部門は、もともとVTuberの部門に統合されていたんですけれど、分離してひとつの部署になりました。そうすることによって、VTuberの運営だけではなく、例えば今だとメディアミックスだとか、営業案件とかライセンスとかが発生している中で、社内でより関係部署との連携をしっかり立ち位置をはっきりさせた上で(運用を)強化していくことができるようになりました。さらに私が、最終的な責任者になることによって、社内全体を動かしやすくする意図があります。
2点目として、おっしゃるような人員強化も目下、進めている状況であります。
──メタバースについて、社長自身の強い思いがこれまであったかと思います。この方針転換を判断した経緯を教えて下さい。
谷郷氏 メタバースに関しては、会社としてやはり昨年度も続けていくかどうかという判断があって、その中で、ライブに特化するという少し絞った形で事業を展開してく段階を踏んだのですが、それでも思ったほどの成果が出なかったということで区切りをつけた形になります。
それ以上のコメントは少し難しいですが、私自身の反省としては、非常に会社として大事なプロジェクトにも関わらず、私自身がそこまでコミットできるような立場になかったんです。昨年度でいうと、私は社長という立場でやっていたのですが、こうした社運をかけるようなプロジェクトをやるのであれば、やはり自分自身がそこの事業責任者として立つなどの対応をすべきだったと感じています。
──決算の数字を拝見すると、今期はトップラインも利益ベースもそんなに伸びていない状況があります。VTuber市場はトップが独占していて新規参入が難しい今、どう広がっていく展望がありますか。一方でAITberのような新しい存在も出ていて、市場への影響をどう見ているか教えて下さい。
谷郷氏 VTuberの業界をどこが牽引していくのかという話について、もちろんわれわれがその1社であるという認識をしていますが、現実問題としてタレントさんがデビューした翌年の方が利益を出しやすいという構造があります。そして昨年度も、今年度もタレントさんをデビューさせていない状況がありまして、われわれとしては騎座をためこむようなタイミングになっています。
ただ、われわれ以外にもこの市場を牽引している会社さんも存在していると認識しています。具体的には、例えば韓国の「PLAVE」(プレイブ)を運営しているVLASTさんです。日本においてはVTuberというのは主に配信者型が主流だと思うのですが、韓国ではBrave groupさんが買収された「StelLive」などの配信者型もいたうえで、PLAVEさんはアーティスト型のVTuberで、つまりタレント一人一人はチャンネルを持たずに、PLAVEというチャンネルだけを運用して音楽をメインに活動されています。
もう売上が確か90億ぐらい出ているという認識で、かなり日本でも攻勢をかけられている。韓国側では、類似するようなVTuberは男性というよりかは女性側でかなり出てきている認識です。
VTuberは、基本的には世の中に埋もれたタレントをどうやって利活用していくかというビジネスで、日本だと声優になりたくてもなれなかったり、憧れている配信者の方だったりが、かなり人材プールとしていらっしゃる。韓国にはK-POPのアイドルになりたくてなれないような狭き門がある。そういう人たちがVTuberとしてデビューしていくのが今、起こっているんだと思います。当面、この日韓というところが、かなり市場を牽引していくのではと考えています。
AIVTuberという市場に関しては、今私の認識では、AIキャラクターチャットサービスというものが、かなり立ち上がってきている認識です。やはりAIVTuberというのは、Neuro-samaのように高度な技術を背景として人気になった存在もいますが、一人のAIVTuberが注目を集めても、複数のAIVTuberが人気になれるのかというと、ちょっとわからない側面があるビジネスです。
一方でAIキャラクターチャットという部分は、App Storeなどでもたくさん見かけるようになっていると思います。つまりキャラクター性によって受け答えを変えることがすごくしやすいので、そういった領域でビジネスが伸びていっている認識です。
──生成AIの普及がエンタメ業界全体において議論になっておりますが、その脅威についてどう考えますか? また自社サービスについて生成AIの活用を考えていますか?
谷郷氏 生成AIが脅威になるのかというと、そういう認識は現状はあまりしていないです。AIVTuberと生成AIはまた別物ですし、われわれは映像制作屋ではなく、やはりタレントさんを応援するファンの方々がいて成り立つようなビジネスです。
生成AIでつくられた映像を楽しむような方が増えてくれば、その映像という領域においては、……何て言うんでしょう、多少のカニバリゼーションが発生する可能性もゼロとは言えないと思いますが、基本的にはそれもクリエイターになりたくてなれなかった方たちが、AIにうまく指示を出すだけで映像を作れるようになる流れになるのかなと思っています。ある意味、クリエイターの裾野が広がっていくということではあるのかなと。
ただ、自社で活用するのは非常に難しいのかなと認識していて、やはり現状はAIをトレーニングするためにさまざまな著作権の(グレーな)データを活用されているのが現状だと思います。自社内のデータだけでトレーニングできるような、今ですと「博衣こより」のAI版をつくることもやっていますが、それ以外の領域ではなかなか取り組んでいくのは難しい面があるのではと。
もちろん、そうではない会議の議事録とかでフル活用していくのは当然会社としてもうかがっている部分ではありますが、著作権の問題がなかなかクリアされない以上は、生成AIを最終成果物に使っていくのは現状ではなかなか難しいところがあると思います。
(TEXT by Minoru Hirota)
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