5月23日に開催された、VRChatユーザー向け大型イベント「超メタフェス2026」。
クリエイターやコミュニティによる即売会エリアと、関連企業が集まる企業出展エリアが展開される昼の部と、合計700人もの参加者が集まる懇親会が開かれる夜の部で構成された本イベントは、過去に類を見ないほど大好評を得ている。
その理由は様々だが、デジタル整理券や有料の優先入場パスなどが理由としては多く見られる。特に、デジタル整理券は「現地で待たなくてよい」という快適さや、会場周辺の混雑解消につながっており、イベント運営として大きく評価されているポイントとなっている。筆者自身、デジタル整理券のおかげでラクラクとイベント参加が叶った一人だ。

そして、VRChat関連に限らず、リアルイベントとしても画期的ともいえるシステムの存在から、「こんなイベントができたら……」と願う人も一定数いるはず。では、実際に開催されるまでにどんなものが準備され、どんな経験が培われたのだろうか。
「超メタフェス2026」を主催したなるがみさんに、「超メタフェス2026」開催までの沿革と、イベントの裏側、そしてイベント開催における大切なマインドについて、根掘り葉掘り聞いてみた。
出発は6年前のオフ会企画 リアイベ未経験から出発した「VRC大交流会」の舞台裏
──まず最初に、「超メタフェス」というイベントについて、あらためて沿革などを教えてください。
なるがみ 元をたどると、歴史はかなり長いです。まず、最初のイベントは2024年に開催された「VRC大交流会」ですが、このイベントの元ネタは2020年5月に企画した、DLsiteさんの本社を貸し切った合計500人の同名の大規模オフ会なんです。
自分が「VRChatterの大規模オフ会やりたい!」と思い準備したイベントだったのですが、残念ながらコロナ禍と重なりました。「クラスター感染」がキーワードとして登場し、感染者を出してはならない逼迫した風潮でしたので、泣く泣く中止にしました。
それがずっと心残りで、いつかまた大規模オフをやりたいという気持ちがありました。
──そこから2024年の「VRC大交流会」につながったのですね。こちらの開催のきっかけはどのようなものでしたか?
なるがみ はじまりは2024年の11月15日ですね。当時、「しなの」ちゃんの作者・ぽんでろさんと2人で石垣島に旅行に行っていて、SUP(スタンドアップパドルボード)というレクリエーションを楽しんでいたところ、株式会社往来のぴちきょさんから「なるがみさん、突然ですけど、来月イベントやりませんか?」って連絡が来たんです。

なるがみ リアルイベントの開催には今まで関心がありませんでしたが、仲が良いぴちきょさんからの提案というのもあり「やりましょう!お金は全部僕が出すんで!」と即決で回答。隣にいたぽんでろさんにも声をかけ、さらにホテルに戻ってから異業種クリエイター交流会「ザ・クリエイターズ」を開催しているトライデントワークスの社長さんに電話をかけました。
当時、リアルイベントの知識がほぼなかったので、「来月、秋葉原UDXでイベントをやりたいんですけど……」とお話しし、その場で会場の地図やノウハウを全部教えていただきました。さらに秋葉原UDXの担当者様にも繋いでいただいて、空室の日程を確認したところ、12月21日だけが空いていたのですぐに確保しました。「あんなに大きな会場でも1ヵ月前に予約できるのか」と驚いたのを今でも覚えています。
──イベント未経験の状態から一気に進展しましたね!しかし、残された日数もほとんどなかったですよね……?
なるがみ 「やばい!あと1ヵ月しかない!」ってなりましたね! そこから急いで、僕が代表を務めるVRChatイベント「メタフェス」主催の株式会社ポリゴンテーラーコンサルティングとぴちきょさんの株式会社往来を共同主催として、なんとか開催にこぎつけました。

──開催日が先んじて12月21日に設定されていたのはなぜでしょうか?
なるがみ UDXがピンポイントでこの日しか空いていなかったことが最大の要因ですが、同日に先行して開催が決定していた「VketReal 2024 Winter」に関する炎上事件にも一因があります。同会が有料化すること自体は事前に発表されていたものの、開催1ヵ月前になって3900円という、即売会を内包するイベントとしては相当に高額なチケット料金が発表されました。
参加費が当初あまりに高額であったことから、地方からの参加者や参加クリエイターから不満の声が相次ぎ、僕自身も周りのクリエイターさんから「たくさん作品を作ってしまったのに、この参加費では人が来なくなって困る」と相談を受けていました。類似の相談はぴちきょさんの方にも来ていたそうです。
また、同会は高額なチケット料金に対してすぐに謝罪しましたが、その中で「3000万以上はかかるイベント」と説明している点が個人的にすごく気になっていました。自分の肌感よりもかなり高額で「自分ならもっと安く開催して参加者に還元できるな」と。自分は500万円で完結するイベントを想定し、作業を進めました。後ほど説明しますが、最終的には足が出て660万円となりました。
以上によって、2024年のVRC大交流会は「コロナ禍で中止となった元祖VRC大交流会のリベンジ」「特定イベント一強下でのクリエイターさんと一般参加者への選択肢の提供」「僕個人のリアルイベントの開催経験値の獲得」の3つの目的が定まり、何をするべきイベントであるかが明らかになりました。
同会の出展者を奪うことはしたくなかったので、同会に出展予定のクリエイターさんへの営業は可能な限り行わず、困っていることを明らかにしていたクリエイターさんと、リアルイベントに出展予定がなかった、ぽんでろさん、ひゅうがなつさん、アルティメットゆいさんなど、個人的に僕と交友が深かったクリエイターさんたちにお声掛けしていきました。
企業出展については、ぴちきょさんにほぼおまかせする形で集めていただき、僕からはVRChat社に「こんなのやるんだけど出る?」とDiscordで聞いたら「出る!」という返事がすぐに来て出展決定。こうして、あっという間に出展企業と出展サークルが決まりました。
──現場の声から生まれたイベントだったのですね。当時の会場の状況を振り返ってみていかがでしたか?
なるがみ 2024年の「VRC大交流会」の時点では、チームにリアルイベント開催経験者は誰もおらず、何もかもが手探りでしたが、最大の問題は混雑対応であることは明らかでした。
ここはプロに頼むしかないと思い、かつて僕が同人活動をしていた際に縁があった、同人誌即売会のベテランスタッフさんに連絡しました。この方も即断で快諾いただき、すぐに2人のスタッフさんを集めてくれました。「3人で回せますか?」と聞いたら「5000〜6000人はいけるかな」と返答いただいたので、大船に乗った気持ちで現場はおまかせしました。
振り返ってみると、同人誌即売会のベテランスタッフさん3人と、ポリゴンテーラーコンサルティングとぴちきょさんのコアメンバー4人、そこにSkebのスタッフさんなどを呼び、合計20人体制での運営でした。もうドキドキハラハラでしたが、1か月で形にして、4000人ほどご来場いただけたので、結果としては大成功に終わりました。
ただ、初回ゆえに要領が分かっておらず、待機列ができてしまった点は申し訳なかったですね。あの日は特に寒かったですし、2024年の冬はコロナ・インフルエンザ・マイコプラズマのトリプルデミックと言われていた時期でしたから、急遽当日の朝にドン・キホーテで大量のマスクを買い、僕が待機列の方々に1枚1枚配っていました。
“超”の起源はドワンゴ時代 「超メタフェス」に宿る「ニコニコ超会議」企画の経験
──波乱万丈の「VRC大交流会」の翌年、2025年の春に開催されたのが「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」ですね。名称が変わったのはなぜでしょうか?
なるがみ 僕がVRChatで開催していたバーチャル即売会「メタフェス」と親和性が高かったため、シリーズとして統一し、リアル版という意味で「超」を付けています。超の由来は僕が元ドワンゴ社員で「ニコニコ超会議」の企画担当者をしていたことに由来しています。

──ドワンゴでエンジニアをされていたのはお聞きしていましたが、「ニコニコ超会議」にも関わっていらっしゃったのですね。
なるがみ 僕はドワンゴでは「ニコニ立体」というサービスを開発しましたが、同時に「ニコニコ超会議」の企画担当者もやっていました。
例えば、MMDモデルと一緒に記念撮影ができる「ニコニ立体写真館」や、「艦これ」の提督の部屋を再現したコスプレイヤーさんと記念撮影できるブース、「ご注文はうさぎですか?」(ごちうさ)ブースに展開した、空中に浮いたキャラの抱き枕を20秒以内に走って取れたら持って帰れる企画「あぁ^~体がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」ブースなどを担当していましたね。特にごちうさブースは、製作委員会からいただいたJPEG画像から、抱き枕用にPhotoshopでレタッチをかけていくような地道な作業なんかもやっていました。
このドワンゴ時代の経験が、「VRC大交流会」も大いに活かされました。「超会議がなければこのイベントもなかった」というリスペクトから「超」を取って、「超メタフェス」というイベント名に決めました。ドワンゴ時代の最後の上司が栗田穣崇さんだったので、「栗田さんなら怒らないでしょう」という甘えもあり持ってきたところもあります(笑)
──「ニコニコ超会議」で得られた経験で、具体的に「VRC大交流会」で活きたのはどんなものでしたか?
なるがみ 一番役に立った経験は、いろいろなブースを、アイデアゼロの状態から担当させていただいたことですね。「この技術でこういうスペースを作るのは決まっているけど、具体的に何をするかは考えてね」という状態で企画を渡されていたんです。
そこで当時、「このイベントに来る人たちは何をしたら喜ぶか」を最初に考えて行動していました。ウェブマーケティングの用語でいうところの「ペルソナ」をしっかりと定めて、その上でターゲットとなる人にどう楽しんでもらうかを考えていたんです。

Oculus Rift DK1を用いた「超すけすけゴーグルくん -ラッキースケベ体験-」なるアトラクション……!
なるがみ 例えば「ニコニコ超会議」では、自分はアニメエリアの担当だったので、アニメファン以外は視野に入れず企画を立てていました。そして「VRC大交流会」と「超メタフェス」の場合、「VRChatter以外はターゲットとしない」と、ざっくり割り切りました。「VketReal」のように「まだVRを知らない人たちにも広めていこう」ではなく、「VRChatterによる、VRChatterのためのオフ会の口実イベント」と、戦略を定めたんです。
このターゲット層とペルソナの設定を最初の一歩目でできたのは、「ニコニコ超会議」の経験が大きかったです。ここがブレていたら、絶対に1ヵ月でイベントを作れなかったと思います。
──確かに、ペルソナという軸が定まっていないと、あれもやりたい、これもやりたいと企画などが増えて、結果的に全部が崩れてしまうことはよくあります。
なるがみ その通りです。「このイベント、結局なんなの?」とならないためにも、ペルソナを定めるのは大事です。
懇親会でご飯を独占する人が!? イベント開催で得られた課題と改善
──こうしてお話を聞くと、2020年からずっと貫かれているイベントなのだと再認識しました。ところで、「VRC大交流会」も「超メタフェス」も比較的好評だった印象ですが、運営視点で確認できた課題やトラブルはどんなものがありましたか?
なるがみ 当イベントは毎回、コアメンバーで反省会を実施し、問題などをスタッフのみなさんから吸い上げています。毎回たくさんの課題が出てきますね。その上で、次回はしっかりと改善策を打っています。
例えば、2024年の「VRC大交流会」では「出口が分かりにくかった」という意見が多かったので、2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」では大きな「出口」の表示を会場に貼りまくりました。
また、2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」では入り口の窓側にサークルスペースがない、空いたスペースがあったのですが、そこにスマホを見ながら溜まっている人が続出して、会場内の流動が悪くなっていました。
これに対して、「超メタフェス2026」では2階の即売会エリアの全辺をサークルスペースにして、一切立ち止まることができない構造にしました。同様に、催事コーナーやメッセージボードも流動の妨げになるため、「超メタフェス2026」では2階から全部撤去しています。
──入口についても、「超メタフェス2026」はマップが置いてあるだけでスペースが狭く、滞留しにくい設計になっていましたね。懇親会についてはいかがですか?
なるがみ まず、2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」から、懇親会の参加にあたっては名刺が必須になりました。2024年の「VRC大交流会」では任意にしてたのですが、後から話を聞くと「名刺を渡しても、かたくなに名前を名乗らずスッと消えていく人がいて怖かった」という意見を複数人からいただいたんです。後ろめたい理由がなければ名前を隠さないはずと判断し、以後は名刺を必須にしています。
あとは食事ですね。2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」では開始10分で全てのご飯がなくなったんです。提供量はケチっていなかったし、秋葉原UDX指定のケータリング業者に依頼していたのですが、どうやら食事の入った大皿ごと持ち去った人がいたらしく……。
──えぇ!? そんなやんちゃな参加者がいたんですか!?
なるがみ イベントが有名になった影響か、立食パーティーについて造詣がなく、食べ放題だと勘違いした方がいたみたいですね。これについては、「超メタフェス2026」では量を1.5倍にすることで解決しました。最後の方できれいになくなったので、適正量が分かってきたなと感じています。

圧巻のデジタル整理券方式が生まれた経緯
なるがみ 自分たちのイベントはもちろんですが、他のイベントの様子もチェックしています。特に、昨年の「VketReal 2025 Winter」では整理券が配布されましたが、「整理券を得るための列」が道路を占有し、秋葉原を一周するほど形成されてしまい、参加者が不満に感じる姿を確認していました。「超メタフェス2026」では、この一件を踏まえて、デジタル整理券システムを独自に開発しました。結果的に、今回の目玉になりましたね。
──内部の需要ではなく、他のイベントのトラブルから生まれた事前対策として、あのシステムが生まれたのですね。
なるがみ 実は2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」のときにもチケットサイトは用意していたのですが、利用は部分的で、自分が作業の合間に一人で作ったものだったので、完成度も高くありませんでした。一方、「超メタフェス2026」のチケットサイトは、SkebのCTOが一人で作ったもので、非常に完成度が高いものです。
SkebのCTOは自分と同じ年にドワンゴに新卒で入り、ともに「ニコニ立体」を作った、2013年からの戦友なのですが、実はVRChatを全く知らず、リアルイベントも同人即売会も行ったことがなかったんです。完全にエアプの状態であのクオリティを1ヵ月で作り上げたの、すごくないですか!?
──それはすごい……! 実際、私も当日使わせていただきましたが、とても分かりやすく、動作も快適でした。しかもバックグラウンドで自動リロードがかかっていて、めちゃくちゃ使いやすかったですね。
なるがみ ちなみに、VRChatとの連携機能は、元々Skebで進めていたVRChatログイン機能を流用しています。Skeb側のソースコードをかなり流用しているので、シェアボタンにMisskey.ioやBlueskyが含まれているのも、Skebのシェアボタンをそのままコピーしてきた名残だったりします。
──なるほど。ゼロからログイン導線を引いてきたわけではなく、Skebにちょうどいいものがあったので再利用していたのですね。
なるがみ そうですね。そのまま使えばいいなと思いまして。その上でVRChat社のAevさんに「VRChatアカウントでチケット登録できたら面白くない?」と伝えたら、「いいね!せっかくならフレンドの参加状況も見られるようにしようよ」と提案いただき、「フレンドの参加状況表示機能」も追加されました。
このおかげで、Plus(優先入場枠)所持者か、懇親会参加者かも可視化され、なによりフレンドと一緒に参加しやすい仕組みが整いました。これは大成功だったので、次回も取り入れたいですね。
──整理券受付は完全にオンラインで対応されていたかと思いますが、整理券の呼び出し運用はどのようになっていましたか?
なるがみ 実は、混雑管理については全て自分の責任で、一人で行っていました。サークルの配置や島のレイアウト、待機列のポールの設置も自分が指示を出して決めつつ、前日は床のバミリテープの貼り付けも僕が行い、当日は2階の入口と出口に張り付き、手元のスマホから手動で次の番号呼び出しを行っていました。
──なんと! 人力でしたか!
なるがみ はい!より詳しく話すと、館内に即売会のベテランスタッフを配置し、その人と通信しながら「まだ入れると思いますか?」と確認しつつ、番号呼び出しを行っていました。
そして昼頃に、「館内に入場すればするほど、その分だけ退場者が増える」という人間心理に気づきました。そこで午後からは、退出人数に合わせず、呼び出しのペースを上げていきました。結果、館内は混んでいるけれど、移動は十分にできる程度で、快適だったという意見をいただいています。
──実際会場内では、「あそこ見たら出よっか」と話す人もチラホラ見かけました。「適度な混雑は自然と循環を促す」というのは面白い発見ですね。
なるがみ この運用も当日に思いついたものなので、「何事も実際にやってみないと分からない」の典型例ですね。
そして、14時44分からフリー入場モードに切り替えて、発券した瞬間に入場できるようにしました。午後から自分が4階に上がってオークションを取り仕切る必要があったのですが、4階から階下の列の長さを確認したところ、だいぶまばらになっていて、300人入れても全然混まなくなっていたので、フリー入場モードへの切り替えを決断しました。
あと、今回は発動しないで済みましたが、整理券の発券打ち止め機能も用意していました。事前登録人数が8000人を超えていたので、万が一に備えてイベント前日の夜ギリギリに実装してもらっていました。
ちなみに、事前登録者数については面白いデータがあります。前日までの登録者は7,800人だったのですが、最終的な当日の数値は8300人で、当日増加分がわずか500人だったんです。
これは、みなさんがちゃんと説明を読んで、前日までに登録やルール確認を済ませてきてくれたということです。どうやらフレンドと複数人で来る方が多かったので、「登録しておかないと大変だよ」とフレンドに教えてもらうケースが多かったようですね。
自分は事前登録が5000人程度で、当日に別の5000人くらいが事前登録なしに秋葉原UDX周辺でたむろするのを恐れていたので、それを防ぐためにメガホンを6個用意し、エンジンかずみさんと覇王別姫樹里さんにたむろ禁止のアナウンスを録ってもらって、常時流す準備もしていました。これが結果的に杞憂に終わったので、来場者のみなさんには感謝ですね。

参加者へのフォローも完備 カギはSkeb資産の活用
──こうして見ると、ほかイベントの開催も重なっていることもあり、イベント参加者側の練度も上がりつつある、と言えそうでしょうか?
なるがみ いえ、いまも同人即売会への参加が、「超メタフェス」などが初めてという一般参加者やクリエイターさんも多いですね。
例えば、2025年の「超メタフェス 〜VRC大交流会〜」では、「PayPayが使えないの?」「現金を持ってきていない」と困っている一般参加者や、50円単位で頒布したことで会計に時間がかかっているサークル出展者を何人か見かけました。
そこで「超メタフェス2026」では、サークル出展者へ「なるべく500円単位で頒布価格をそろえてください」というアナウンスを、メールで2〜3回、ホームページで2回、合計5回ほど行いました。
さらに、Xに投稿されたお品書きを全て目視で確認して、端数がある方には「お釣りを用意してください」というメールを送る仕組みも作りました。お品書き投稿のURLを貼ると、その方の連絡先が自動的に表示されるシステムを構築した上で、毎日送っていましたね。
──すごく骨の折れそうな作業ですが、システムである程度自動化できていれば、なんとか回せそうではありますね。
なるがみ この仕組みは、Skebの規約違反料金表を掲載している方に対する通報・連絡システムの応用だったりします。同じ仕組みを使って、会場内でもらった名刺をSNSにアップロードしている人への警告も並行で行っていました。一連の確認・連絡は、基本的に自分が担当しています。
──専任のスタッフがいてもよさそうなものですが……開催理念や運用上の思考などをしっかり理解した主催だからこそ回せるタスクかなとも思いました。
なるがみ:全体的に、Skebの仕組みを流用できている上に、考え方もかなり近い点は大きいですね。Skebは万人受けしないニッチなサイトで、「条件が合う時だけ使ってね」という考え方で運営しています。また、「こういう機能が欲しい」という意見に対して、引用リポストで「こういう理由でやりません」と明確に伝えるようにしています。
「超メタフェス」も全く同じで、「オフ会の口実イベント」「VRChatにいる様々な立場の人たちが交流できる場所」というコンセプトで一貫して、「VRを初めての人に広める」といった考えは一切持っていません。ペルソナをガチッと決めて動かさないスタンスは、Skebも「超メタフェス」も基本的に同じです。
有料だけど大好評 プレミアムパス「超メタフェスPlus」はなぜ生まれた?
──チケットの話題に戻りますが、今回は有料プレミアムパス「超メタフェスPlus」が用意されていました。こちらが設けられた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
なるがみ:以前フレンドさんからUSJに誘われた時に「お金を払っても並ばないといけないのがだるいな」と思ったのがきっかけですね。これは即売会にも言えるなと思って、試しに作ってみたら大好評でした。
もともと自分の道楽イベントですし、「VRC大交流会」の開催動機を踏まえれば、なるべく無料で参加できるようにしたいので、無料参加者の流動が滞らないギリギリの人数として、枠は500人と定めました。2階の会場が実績ベースだと1000人まで入る中で、500人一斉に入る可能性は低く、うち300人程度が同時に入場するなら大丈夫だろう……という計算です。
あと、「5500円なんてぼったくりだよ」と言われるかなと思ったら、全然そんなことはなく、むしろ開催週になって売り切れたのを見るに、絶妙な価格設定だったなと思っています。
──いつでも出入りできる点も魅力ですが、休憩スペースとして機能するラウンジの存在も非常に好評でしたね。
なるがみ:今でも自分は毎回コミケではイラストレーターのIxyさんのサークルの売り子をやっていますが、一般参加でもサークル参加でも、足がパンパンになるんですよね(笑)。とにかく休みたい、座りたい。そう毎回思っていたのがきっかけで、「超メタフェスPlus」特典としてラウンジを設けました。
さらに、マッサージがあったら嬉しいなと思って、近所にある秋葉原の鍼灸院の先生に声をかけたところ快諾いただき、マッサージコーナーも展開しました。
2025年の懇親会にも来ていただき、会場に無料マッサージ体験コーナーを設けたのですが、これも全ブース中で一番混んで2時間待ちになっていたのですが、今回も人気でしたね。お越しいただいた先生も、重いヘッドセットをつけているせいから首がひどい状態な人もそこそこいたという話も伺ったので、改善点なども10分の体験の中でお伝えいただくコーナーとなっていました。
そしてもう一つ、喉が渇くのでコーヒーも欲しいなと思い、自分が最近ハマっているコーヒー屋「暮らしと珈琲」さんにも快諾いただき、10種類以上のスペシャルティコーヒーをご提供いただきました。これも当日とても人気で、待機列が30分待ちになってしまったのは反省点ではありますが、「こんなにおいしいコーヒーは初めて」という意見もたくさんいただき、とてもうれしかったですね。
──なるがみさんのコーヒーのハマり具合は最近よくお見かけしています。こうして見ると、ラウンジにはなるがみさんのお好きなものであふれていた印象です。
なるがみ:フレンドさんたちからは「なるがみさんの好きなものを集めた道楽イベントでしょ?」と言われました(笑)。自分はとにかく、自分が好きなものをみんなに使ってもらうのが好きなんです。VRChatも、自分が好きだから周囲の漫画家さんに広めているくらいですから。
実はSkebにメリットあり。気になる収支について聞いてみた
──ところで、今回のイベントの出費ってどのようになりましたか……?
なるがみ 懇親会のケータリング費用を除いて660万円の出費です。費用はSkebとポリゴンテーラーコンサルティングとで分担しています。
ただ、実は長期的に見ると安上がりだったりするんです。Skebではたまに手数料無料キャンペーンを打ちますが、1日あたり120万円、1週間の実施で1000〜1200万円かかります。その半額以下ですし、不思議とイベントを開催するたびにSkebへも集客が起こり、売上も伸びているんです。Skebへの還元を知ったことで、全員が得をするイベントになっているんだと気づきました。
──意外です。会場内でSkebの直接的な広告はそこまで見られないのに、しっかりとユーザーが増えるんですね。
なるがみ というのも、Skebのクライアントの20%はVRChatユーザーなんです。そして、自分のアバターを描いてもらう「うちの子リクエスト」という文化があるんですが、これが「超メタフェス」を開催した月に有意に伸びているんですよ。結果的にみんな得するので、この費用は全然安いと感じています。
──今回は「超メタフェスPlus」費用や懇親会の参加費も含めると、トータルではかなりプラスになっていそうでしょうか?
なるがみ 「超メタフェスPlus」はチケットの半券やコーヒーチケットの作成費用、コーヒー屋さんへの支払い、ラウンジの借用費や机・椅子のレンタル費用などを考えると、500枚ではあまり儲かったとは言えません。懇親会も同様です。
また、「超メタフェスPlus」の枠をこれ以上増やすと、一般参加の方への影響が出ますし、ラウンジのキャパシティ的にも難しいところです。
なので、次回は「超メタフェスPlus」と無料の間に、「時間指定チケット」を作ろうと思っています。「フレンドと一緒に来たけど、整理券で一緒に入れるか分からなくて不安」という声があったので、最初から時間を指定して一緒に入れるチケットを作れば解決できるのではと。
「オフ会の口実イベント」でもある以上、合流のために「超メタフェスPlus」を買うのは少しもったいない。「超メタフェスPlus」は「金で時間を買う」方向けに用意し、「時間指定チケット」はフレンドと一緒に来たい方向けとして、それぞれ棲み分けようと思っています。
──自分は次回は「超メタフェスPlus」を買わせていただきたいですね……(笑)。今回気付かされたのは、意外と「金で時間を買う」タイプの出費を惜しまないVRChatユーザーがいることと、多くの同人イベントでも導入してほしいという声が多いな、ということですね。先例が少なかったのも大きいと思いますが。
なるがみ ただ、優先入場はオペレーションが複雑になりますし、今回の快適さはチケットサイトがあってこそなので、他のイベントがすぐに真似できるものではないと思います。弊社がウェブサービスの開発会社だからできることですし、主催である自分自身がエンジニアなので、要件を理解し、それを的確にエンジニアに伝えられる点も、成功につながったカギです。
サーバーの負荷も無視できません。今回は、Skebのキャンペーン実施時の2倍のサーバーを用意して、幸いにも当日は一切障害が発生しなかったのですが、インフラが整っていないとあの規模の負荷には耐えられません。
それと、翌日にVRChatのAPIがダウンしていたので、開催日が一日ズレていたら大変でしたね。一応、API障害も想定して、朝9時にVRChatアカウントなしでも登録できる入口が自動的に表示されるようにはしていました。連携先の障害は自分たちではどうしようもなく、ゆえに“念のための備え”も設計すべき……という想定も、ウェブサービスの開発会社だからできたことです。
加えて、VRChatログイン連携機能は、VRChat社から特別な許可を得て使っているものなので、有志イベントで使うのはそもそも難しいですね。
大切なのはペルソナとペイン 本当にほしいイベントは、スモールスタートでも始めるべき
──「超メタフェス2026」開催後、「超メタフェスのようなイベントを開きたい」と考える人も増えていると思います。全ての要素を真似するのは規模感からして難しいと思いますが、イベント開催志望者になるがみさんからアドバイスをするとしたら、どんなものがありますか?
なるがみ いっぱいあると思いますが、まず「〇〇みたいなイベントを作る」というのは絶対にやめたほうがいいです。
自分はエンジェル投資家として、さまざまなベンチャー企業のピッチをよく受けるのですが、その時に「〇〇みたいなやつ」という説明がされたら、その瞬間に出資NGとしています。

なるがみ というのも、ある一つのものを模倣しただけでは、ただの劣化版になってしまうんですよ。ちゃんとオリジナリティを出すべきだし、そのためには「既存のイベントやサービスに不満がある人たちが、何をしてもらったら嬉しいか」──つまり、ペルソナの設定を徹底すべきなんです。
年齢・性別・居住地まで詳細に考えて、その人たちが何を望んでいるか、何に困っているか。マーケティング用語でいうところの「ペイン」を解消するものを、イベントで作っていけばいいんです。
そして、イベント開催未経験であれば、まず自分の身の回りで困っている人たちが「こういうイベントがあったらいいね」と思っているものを、小さな規模から始めることが大事です。いきなり「超メタフェス」や「VketReal」規模のものに挑むのは困難が伴います。
──少し脱線するかもしれませんが、「超メタフェス2026」の参加をVRChatアカウント必須にしたことに、「Resoniteなど他のプラットフォームも対応してほしい」という意見が出ていました。「のけ者にしないでほしい」という心理から生まれた声かなとも思いますが、こうした声に対しては、なるがみさんはどうお考えですか?
なるがみ 「超メタフェス」は参加者も出展者も運営も、全員がVRChatユーザーであることを前提として設計されています。そこに無理矢理、他のプラットフォームのユーザーを入れたところで、疎外感を感じてしまうと思うんですよね。
そもそも自分は、Resoniteはプレイしたことがないですし、彼らが何に困っているかも分からない。そんな人間が彼ら向けにイベントを開催すること自体、おこがましいことだと思っています。
自分の哲学として「コミュニティのプレイヤーたれ」というものがありますが、VRChatは8000時間(VR睡眠やデスクトップのプレイ時間は含まず)、始めた時からフルトラだけでプレイしてきたからこそ、ユーザーの困っているものが分かるんです。だからこそ、他のプラットフォームユーザーが求めるイベントは、そのプラットフォームのコミュニティに属する人が開催したほうがいいと思っていますね。
──なるほど。そして「VRC大交流会」の発端を思えば、大きなイベントに相乗りするよりも、ちゃんと自分たちが欲しいイベントをスモールスタートでもいいので作ったほうが、実の入ったものになるということなんですね。
なるがみ そうですね。あと、「メタフェスの『メタ』はメタバースに由来するのだから、Resoniteなど他のメタバースサービスも許容しろ」という話も耳にしましたが、それは「超メタフェス」だけでなく「バーチャルマーケット」も同様ですよね。
そもそも「メタバース」というキーワードは非常に曖昧で、最大公約数を取ろうとすると「Fortnite」やNFTまで許容しないといけなくなります。そういうことではないですよね。さらに、バーチャルの「メタフェス」自体、Resoniteがリリースされるより以前の2022年からVRChat一筋で開催してきました。
──振り返ってみると、「バーチャルマーケット」がある程度の会期を迎えたタイミングで、いろいろなVRChat内の展示・即売会イベントが開催された時期がありました。その主催者たちも、思えば「自分たちの求めるものを作る」が根源的なマインドだった可能性はありますよね。
なるがみ:そうそう。だから、みんなイベントやってみればいいのにと本当に思います。お金がないなら小規模から始めればいいんです。
例えば、僕が昔活動していた東方Projectなどの二次創作の同人誌即売会は、地域の公民館や貸し会議室で数千円〜数万円で開催しています。いきなり大きいことをやろうとせず、経験値に合った規模から始めて、徐々に規模を大きくしていけばいい。賛同者が増えれば、やがて参加費も回収できるようになるはずです。
なにより、みんな失敗を恐れすぎです。事故さえ起きなければ失敗じゃないと思いますし、失敗という経験には、代えがたい価値があります。だから失敗していいんです。自分も失敗しまくりですから。

なるがみ その上で、「イベントが終わってよかったね」で済まさず、ちゃんと改善点を洗い出して、次に活かすための時間を設けることもまた重要です。実際、「超メタフェス2026」が大成功だったのも、それまでの反省点をフィードバックして、小さな失敗を一個一個改善してきたからこそなんです。
行動力と、反省と改善。これは、リアルイベントだけでなく、VRChat内のイベント、そして全ての事業・サービス・取り組みにおいて必要なことだと思います。
それと、「即断・即決・即実行」が自分のモットーなのですが、これも大事だと思います。2024年の「VRC大交流会」はそもそも、ぴちきょさんの「やりませんか?」に対して、即座に「やります」と返した、1分くらいのやり取りがなければ存在しなかったイベントですから。
──紐解いていくと、「超メタフェス2026」は特大の成功例に見えますが、それは“点”で見た話であり、実際には長く積み重ねた末の成功なのだと分かりました。地道な積み重ねこそ王道なのですね。
なるがみ 自分も気がつけば、リアルイベント経験が3年になっていましたからね。おかげで2020年の雪辱はいい具合に果たせていると思っています。
なにより、みんなで乾杯がしたかったんですよ。即売会会場を立食パーティーにするアイデアの起源は2020年にあって、それは僕自身がずっとやりたかったことだったんです。
嫌なことでも走り切る。「心の筋トレ」の重要性
──イベント開催における重要なマインドセットをお聞きできましたが、同時に、挑戦と失敗のサイクルは、なるがみさんのように、やる気・行動力が無限に出てくる人ならではの営みだとも思います。やる気や行動力を、限りあるリソースと捉える人もいるはずですが、その違いはどこにあると思いますか?
なるがみ 「モチベーションの維持」にあると思いますね。自分はほとんど全ての事業を「怒り」で作っていて、自分ではこれを「怒り駆動開発」と呼んでいます。
自分自身がされた不条理や、周りの作家さんや友達の困りごと、不義理を働く団体や企業──そうしたものへの怒りから、Skebやポリゴンテーラー/ポリゴンテーラーコンサルティングが生まれています。なので、怒りが解消されるまでは、モチベーションはなくならないと思っています。
──あえて聞きますが、なるがみさんの中から「怒り」が消えてしまったとしたら、どうなると思いますか?
なるがみ やる気がなくなると思います。その時には、コーヒー屋でもやっているんじゃないですかね(笑)。ただ、VRChatも7年やって楽しいままなので、ずっとやっているかもしれません。もっとも、なにか区切りが来てやめてしまうかもしれませんし、そこはまだ予測できないですね。
モチベーションが維持できない方へアドバイスするとしたら、「心にも筋肉がある」ということをお伝えしたいです。「筋肉」とは、嫌なことでも継続して遂行するための力です。そして、現実の筋肉と同じように、いきなり大きな負荷をかけると壊れてしまうので、「ゲームをやりたいけど我慢してこれをやらなきゃ」といった積み重ねで育てていきます。長期間何もしないとこの筋肉は衰えてしまうので、継続も重要です。
──実際、イベント開催って楽しいこともあれば、大変なことも多いですよね。
なるがみ むしろ、好きなことができる時間って全体の1割もないんですよ!
「超メタフェス2026」でも、人手不足のため会場の等身大ポップは全て自分がカットパスの切り抜きをしていますし、印刷について分からない出展者に「Illustrator」で入稿用データを作ってあげたり、名刺の作り方が分からない友人の名刺を刷ってあげたり……全体を通しても、楽しいというより手間のかかる作業の方が圧倒的に多いものです。

──なるがみさんの場合、いわゆる「心の筋トレ」はいつごろ行い、今のようになったのでしょうか?
なるがみ 自分が「心の筋トレ」をした時期は2つあります。1つ目は高校時代。地元の進学校に通いながら塾にも行って、毎日朝6時半から夜11時まで活動する期間が2年間くらいありました。社会人だったらとんでもない時間外稼働ですよね。
2つ目がSkebを作った時です。Skebは3ヵ月で作り上げたんですが、その時期は寝るとき以外は作業場にこもって、1日14時間プログラミングしていました。しかも実装だけでなく、弁護士との利用規約確認といった、プログラミング以外の作業も膨大で、「終わるのかこれ!?」と思ったものです。でも、「高校時代に比べたら楽じゃないか」と思えたので、乗り越えられたんですよね。
そうした経験があるおかげで、今回は「超メタフェス2026」の準備をしながら、Skebの新機能開発、4社の経営もこなしつつ、睡眠は7時間しっかり取り、さらにここ2〜3ヵ月で「Slay the Spire 2」を300時間以上遊び、その上でVRChatもしっかり遊んでいましたよ!
──「Slay the Spire 2」ってめっちゃ時間泥棒じゃないですか!? 仕事とVRChatをこなしながらそれをしっかり遊べるってすごいです……!
なるがみ: ダラダラとYouTubeショートとかを見る時間を削れば、人間って意外と時間を捻出できるものです(笑)
ここから言えるのは、小さな成功体験から積み上げることの大切さです。嫌なことをたくさんやったけど、上手くいった。じゃあ次はこれを、その次はこれを……と成功を積み重ねていくんです。
イベントもウェブサービスも、未経験だと「何をすればいいんだ?」と呆然としてしまうものです。ところが、よく見るとそれは「小さなタスクの積み重ね」なんです。一個一個、確実に消化していけば、必ず終わります。
嫌なことの連続ではあっても、一個一個のタスクはそれほどハードルは高くない。だからこそ、コツコツやるしかないんです。心の筋肉が育っていれば「めんどくさい、やめよう」じゃなくて「前に比べたらいけるっしょ」と思えるようになります。筋トレ、がんばっていきましょう!
(TEXT by 浅田カズラ)
●関連リンク
・超メタフェス




