花譜ワンマンライブ「不可解弐 REBUILDING」1万字レポート 激動のコロナ禍に花咲いた魔法のライブ

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花譜から生まれて可能性を示した可不(KAFU)とV.W.P

Q2:REの副題は「世界線は分岐する」。

花譜から分岐していったプロジェクトがテーマで、具体的には、彼女の歌声をもとにした音声合成ソフトウェア・音楽的同位体「可不(KAFU)や、理芽・春猿火・ヰ世界情緒・幸祜(ここ)と結成したバーチャルアーティストグループ「V.W.P(Virtual Witch Phenomenon)が出演した。

可不(KAFU)については、前半の1部で、Guianoの「アイスクリーム」Syudoの「キュートな彼女」と可不(KAFU)がオリジナルの曲を花譜1人でカバー(ややこしい)。その上で、可不(KAFU)をステージに呼び込み佐倉綾音さんとのコラボ楽曲「あさひ」を歌った。

花譜自体がバーチャルなのに、その声を使った初音ミクのような存在である可不(KAFU)がリアルで隣に立っている。そして二人が声を重ねて、自分と観客の心を大きく動かしている。そんなSFのような稀有なシチュエーションを目にして、感動とは何か、ライブとは何かと今一度考えてしまった。

 
後半となる2部は、V.W.P一色だった。KAMITSUBAKI STUDIOに所属する5人のシンガーを「魔女」と称し、シリーズものとして積み上げてきた一連の楽曲を一気に歌い上げた。

まずは花譜1人で「魔女」、続けて理芽と2人で「魔法」「魔的」。変身バンクの動画を挟んで5人が特殊歌唱用携帯「花魁鳥」(エトピリカ)に着替え、「宣戦」「祭壇」「言霊」「電脳」「魔女(真)」(まじょ・とぅるー)という怒涛の流れだった。

V.W.Pは、色が異なる5人の歌声が絡み合い、カンザキイオリが歌詞に込めたシリアスな想いを何十倍、何百倍にも増幅してリスナーの心に届けてくれるのが美しい。今回のライブでもその魅力を存分に発揮して終始、会場を圧倒していた。


筆者が一番驚いたのは、V.W.Pでの新曲となるQ2:REラストの「共鳴」だった。というのもあまりにポップ過ぎて、「今まで積み上げてきたシリアス路線とは……」と宇宙猫のように瞳孔が開いた表情で見守ってしまったからだ。

流れを見ると、冒頭で「My name is 花譜」と5人がそれぞれ名乗り、「We Are V.W.P」と宣言。キャッチーなイントロが流れ出して、四つ打ちダンス調の音楽と共に5人が手を広げて「ハッ、ハッ、Yeah! Yeah! Yeah! Yeah! ハッ、ハッ、Wow! Wow! Wow! Wow!」と踊り出した。

「Yeah??? Wow???」と、そもそもの花譜の曲でも使わなそうな単語が出てきたことに、「こ、これは……!? 今まで見ていたV.W.Pは?」と理解が追いつかないままステージを眺めてしまう。さらに5人がステップを踏み出し、「そんなドリフ大爆笑→サカナクション『新宝島』みたいな動きされても……」とわからなさに拍車がかかった。

ブッ飛んだ歌詞にも追い討ちをくらった。

「仮想世界がお好みなんだ? 最近話題になってるしね 現実もきっと悪くはないよ 正直どっちも好きだよね」

「実際こっちも何が本物かわからないから 愛があれば なんでもいいって 今は誤魔化させて」

「さあさあやってまいりました 我らがV.W.P 偽物だとか本物だとか 実際のところどうでもいいじゃん? 簡単淡々と並べましたが 魂あれば万事OK」

「愛がどうも とりあえず大切みたいで 例え話は 魔女だとか 言霊だとか 祭壇だとか 電脳だとか よくわからないものなのさ」

先ほどまで「愛よ言霊になって世界を救って」などの言葉に共感して涙腺を緩ませてきた身としては、真逆の内容に混乱し、「観客にかけた魔法を自らぶち壊しにくる……。これが『不可解(真)』か」と慄いた。さらにラストの全員で手をあげて「本日はお後がよろしいようで Yeah!」というノリにもとどめを刺された。

トーンの落差に驚く一方で、これはライブの現場だから楽しめる曲だというのも感じた。花譜にはあまりなかった縦ノリで体を動かして楽しい曲だからこそ、ライブにおける強烈なアクセントになるはず。しかもわざわざ「レッツシングアウトボーイ」「レッツシングアウトガール」とコールを入れる場所も用意している。

コロナ禍が明け、観客も声が出せる状態で開催したV.W.Pのライブで、観客が熱狂して会場が一体となる様子が容易に想像できる。だからこれもまたひとつの魔法で、多様な曲を手掛けられるカンザキイオリの才能に恐ろしさを感じた。

今回、完全新作で無料配信のQ3だけ参加したというファンも多いかもしれないが、ぜひこのQ2:REの第2部からの「共鳴」という衝撃の流れも目撃しておいてほしい。このライブで制作の開始を告知したV.W.Pの1stアルバム「運命」も楽しみだ。


「みんながつくる魔法。それが『不可解』」

Q3の副題は「魔法の無い世界」。花譜以外のバーチャルシンガーが出てこない真のワンマンライブで、初のワンマンライブ「不可解」への原点回帰ともいうべき公演だった。

「魔法の無い」の解釈は色々できるだろう。ひとつは、バーチャルという魔法をかけられたことで存在している彼女自身だ。プロデューサーであるPIEDPIPERに天性の歌声が見出されたのは、中学生の頃。東京から離れた場所に住んでおり、学業と並行して顔を出さないまま活動したいという都合上、当時、ネットで注目を集めていたVTuberという表現手法を採ることになった。

かくしてカンザキイオリという音楽の魔法、PALOWというキャラクターの魔法、川サキケンジという映像の魔法をそれぞれかけられて、花譜という存在はインターネットに降り立つ。可憐な見た目にもかかわらず、ネガティブな歌詞を激情的に歌い上げるギャップ。謎に包まれた世界観と映像美。2018年末の「Count0」を皮切りに、出演したイベントなどでその魅力を広めてファンを増やしてきた。

初投稿から2年半以上が経ち、高校3年生となった2021年。「魔法使い」に囲まれて育った彼女は、大きく成長して表現の力を伸ばしていた。Q3の冒頭に流れた、彼女自身が手がけたというポエトリーリーディングがそれを証明している。

「世界は驚くほど一瞬で変わってしまって
進んでく、何もかも。
世界はどんな形だったけ?
置いてかれているのは僕だけだと思う
しがみつく場所を間違えたなら
希望も絶望も横並びの世界
魔法のない世界
夢なんて叶うわけない
魔法なんてない
そんな世界で、ぼくは生きてる
足元を泥濘ませるのはいつだってぼくの妄想のくせ
こんな歌に縋らなくたって生きていける彼らが
この歌の意味が一生わからない彼らが
羨ましいなんて絶対に言わない
わたしはかふ
うたをうたう
うたがすきだから」

クリエイターが使える「魔法」は、すなわち人の心を動かすということだ。どんなに知識があっても、どんなに人脈が広くても、誰かを動かすアウトプットなくしては、多くの人に価値を認められない。天性の歌声だけでなく、Q3のOP/EDで披露した作詩も含めて、花譜が「魔女」としての才能を萌芽させてきていることを現場で感じた。

 
リアルライブという観点でも「魔法の無い世界」を感じ取れた。先のQ1/Q2はバーチャル空間におけるライブで、空間に「らぷらす」(魚のような花譜の使い魔)を飛ばすなど、物理法則を無視した表現を実現できた。一方で今回のようなリアルでは、そうした魔法が使えない。再構築にあたって、魔法なしで技術ギャップをどう埋めるか。

その回答は、投影装置とステージ演出にあった。

投影装置について、前回の「不可解」では、背景用の大型スクリーン、花譜用の透過パネル、モーショングラフィック用の紗幕スクリーンという3段構えだったが、不可解弐REBUILDINGでは、背景用の大型スクリーンとTxD(旧StudioTED)の「Eyeliner」を採用した。

Eyelinerは、いわゆるペッパーズゴーストで、ステージの底面に映し出した映像を、斜めに貼られた透明フィルムに反射させることで、空間にCGが存在しているように見せるという仕組みになる。2020年4月まで横浜に存在していた「DMM VR THEATER」でも採用しており、同シアターでバーチャルタレントのライブを何度も実施していたため、過去に見たことがあるという方もいるかもしれない。

その特徴は、スクリーンがつなぎ目なくステージ縦横いっぱいに貼られており、背後から投影するプロジェクターの光もないため、装置の存在を感じさせにくいという点にある。スクリーンが大型のため、CGやエフェクトをステージ全体で動かすという演出も得意だ。つまり、歌詞のモーションタイポをはじめとする、ステージ全体で映像を演出する花譜のライブにぴったりということだ。

この投影装置に、出演者を「映え」させるためのステージ演出が加わる。特に前回の「不可解」と比べて圧倒的に進化したと感じたのは照明の表現で、例えば青色のライトが当たると出演者が青っぽくなるなど、自然と連動していることが実感できた。

特にスポットライトが印象的で、上部からピンク色の光がピンク色の花譜の髪に当たったときに光り輝く様子、直上からの光で足元に影ができる表現などが実在感を高めていてとてもよかった。Q1:REの「金糸雀」(カナリヤ)やQ3の「金鶏」(キンケイ)など、揺れモノが多い衣装で、背景から周辺が透ける感じも繊細さを感じた。

Q3でバックダンサー2人を起用したのも、結果的に奥行きが強調されて新鮮だった。VTuberのライブは、その仕組み上、タレントが前後に動けないため、平面的に見えがちだ。そこを、花譜のすぐそばの左右後方にバックダンサーを配置することで、レイヤーをひとつ増やしてより立体的に見せることに成功していた。ダンスの激しさも、あまり動きのない花譜を逆に引き立てる。カメラを通じた生放送では若干伝わりにくい話だが、現場ではとてもいい施策に感じられた。

奥行き感といえば、Q3ラストの「そして花になる」も素晴らしかった。「そして花になる」は、ステージいっぱいに花譜のイラストがあしらわれる演出が魅力だ。「らぷらす」を抱えてアイスを食べる花譜のイラストを、サイズやボケなどを変えて、Eyeliner/背景スクリーンに複数配置することで、遠近感を表現していたシーンが印象に残っている。

出演者、背景映像、モーションタイポ、照明、バックダンサー、バンド……。花譜のライブを開催するということは、そんなバラバラのピースを集めてきて、現場ですべてをシンクロさせる作業になる。口で言うのは簡単だが、ライブの最後に流れるスタッフロールを見ればわかるように、花譜のライブは関わっているクリエイターやスタッフが多い。

限られた時間、かつコロナ禍で「リアルで実施できるのか?」というプレッシャーのある中、企画を立てて、素材をつくって、実際に組み合わせてみて、調整して落とし込むというのは、並大抵の努力で済まない(しかも、どんなに準備しても、たいていは現場に来て謎のトラブルが起こる)。だからこそ、素晴らしいステージをつくりあげて、無事終わらせたことを、素直にリスペクトしたい。

 
ラストで語られた、「魔法の無い」等身大の花譜の想いも涙腺に訴えかけてくる。

 
「(前略)
みんながいるから、私は歌を歌えています。
好きな歌を、好きなように歌わせてくれて、ありがとう。
あなたの生活の一部にしてくれて、ありがとう。
花譜を観測してくれて、ありがとう。
これからもずっとずっと、歌ってたいです。

どれだけ辛くても、自分がどれだけ嫌なやつになったとしても、その願いは一生、無垢のままにしたいです。

私は、本当にちっぽけで、肝心なときには、あなたのそばに寄って、手を握ることも、抱きしめることも、できないですが、声を聞いてくれるあなたと、その歌を標識に、待ち合わせができたり、その歌を、居場所を離れるときには、一緒に温かな心を持って、それぞれの日常に帰っていくことができたりする関係で、お互いにあれたら、本当にいいなと思います。それが一番嬉しいです。

同世代の君へ。
ちょっと歳の離れたあなたへ。

こんな世界で、学校も嫌いで、仕事も辛くて、毎日がすごくつまらなかったとしても。
もし、生きる意味が分からなくても。
例え、魔法がなくても。
魔法がない世界に、魔法のような出来事を届けたい。
魔法は、みんなの心の中にあります。
みんながつくる魔法。
それが『不可解』。

花譜というものは、アーティストであり、ごく普通の田舎に住む一人の女子でもあって、それがごちゃ混ぜになって、不思議な自分になってて、それが花譜。

花譜というアーティストを通じた私。
物語を演じる『森先化歩』の私。
花譜じゃないときの、高校生の私。
あなたの中の私。
全部が花譜。

実際の私のことを誰も花譜だなんて知らなくても、誰もわかってくれていなくても、あなたがいるから、毎日がすごく楽しいです。
きっとあなたがいるから、私はここにいます。
私は、君は、一人なんかじゃない。
それだけは本当だよ。
本当に、ここまでたどり着いてくれてありがとう。

みんな本当に愛してる。
花譜でした。またね」

 
会場の全員が盛大な拍手を送る中、ふと「田舎と都会の女の子も心が満たされたのだろうか」と考えてしまった。

ラストの花譜が手掛けたポエトリーリーディングも、今の彼女の心境が詰め込まれていてとても素晴らしかった。

次ページでは、約2年半で起こった激動の「変化」をまとめ!