「initial step in NIJISANJI」渾身レポート 「にじさんじ」の歴史を築いてきた1期生8人による初ライブ!

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10月31日、にじさんじ1期生の8人による音楽ライブ「initial step in NIJISANJI」がぴあアリーナMMで開催された。

現在は、国内だけでも100人以上の人気バーチャルライバー(VTuber)を擁する「にじさんじ」。ゼロからその礎を築き、VTuberという新しい文化を世の中に浸透させる大きな原動力にもなったのが、2018年2月に活動を開始した月ノ美兎さん、樋口楓さん、静凛さん、えるさん、勇気ちひろさん、鈴谷アキさん、モイラさん、渋谷ハジメさん。後に、「にじさんじ1期生」と呼ばれることになる8人だ。

活動開始から約3年9ヵ月、全員の3Dモデル化により、ついに実現した1期生の初ライブ。カバー曲を中心に約2時間全20曲を披露したステージの模様を、現地で撮影した写真とともにレポートする。

1期生全員の「Mr.Music」で開幕

「みなさん、こんにちは。鈴谷アキです」

開演約5分前、この日、3Dモデルを初披露することになる鈴谷さんの影ナレが場内に流れた後、マイクを通さない肉声でメンバーによる掛け声が聞こえてきた。円陣を組み、手を重ねて目を合わせながら声を上げている8人の姿を脳内で想像していると、ライブのキービジュアルを映していたステージ上のスクリーンがオープニング映像へ切り替わった。

8人のビジュアルと名前が順番に映し出された後、「あ~…あっ、もしもし?」「みなさんこんばんは静凛です」など、それぞれの初配信の第一声が文字で紹介されていく。恐らく、このライブを観ているファンの大半もリアルタイムでは観ていないであろう「にじさんじ」の歴史の始まり、initial step(第一歩)だ。

カウントダウンの後、ステージに8人が登場。このライブを観ている1期生ファンなら誰もが知っているであろうボカロ曲「Mr.Music」を歌い出す。ワンフレーズ歌った後、中央に立つ鈴谷さんと渋谷さんが「本日は1期生ライブにお越しいただきまして」「ありがとうございます」と開幕のあいさつ。そして月ノさんの掛け声に合わせて、鈴谷さん以外の7人が「アキくん、3D、おめでとう!」と祝福した。

「Mr.Music」は、2018年7月に公開された1期生8人による初めての歌ってみた動画でカバーされた楽曲。8人を象徴する曲なのでセットリストに入っていることは確信していたが、1曲目という構成には少し意表を突かれた。しかし、ステージで歌う8人の姿を観ていると、始まりの曲として、これ以上ふさわしい曲はなかったという気になってくる。

歌ってみた動画の中で発して以降、渋谷さんの決めセリフのようになっていた「にじさんじは、家族みたいなものだから」という言葉を全員が声を揃えて叫ぶ。1曲目からファンが求めていたものに応え、さらにその思いを越えてくるようなパフォーマンスだ。

炎に包まれながら鈴谷さんと渋谷さんが「漢」を見せる

最初のMCでは樋口さんが中心となり、まずは順番に自己紹介。その後、「Mr.Music」の歌ってみた動画を作った当時の思い出を語り始める。誰もが歌動画作りのノウハウもない中で進行した企画で、えるさんの歌声はスマホで録音されたものだという。

2曲目は、樋口さん、えるさん、勇気さん、モイラさんによるユニット「もちがえる」の「恋は渾沌の隷也」。イントロが始まると同時にステージ上に大きな棒が出現。えるさん、勇気さんチームと、樋口さん、モイラさんチームに分かれて、なぜか綱引きならぬ棒引きが始まる。曲が始まると、決着がつかないまま同時に棒引きは終わり、棒も消失。棒引きの意味という謎は残ったままだが、テンポの良い電波曲を楽しげに歌う4人を観ていると、些細なことは気にならなくなった。

続いて、この日が3Dデビューとなった鈴谷さんと、9月に開催された「Rin Shizuka Solo Event “Recollection”」にゲスト出演し3Dデビューを果たしたばかりの渋谷さんが登場。背後のスクリーンに燃え盛る炎が映り、ステージ前には本物の火柱が立つ中、日本刀を手に「よっしゃあ漢唄」を披露。1期生の「漢組」(おとこぐみ)による初めてのステージは、「漢」らしさを前面に打ち出した選曲とステージで、いつもは「性別なんて関係ない」ほどにかわいい鈴谷さんの歌声も力強い。

2番の後半では、刀を持った月ノさん、樋口さん、静さんがステージに乱入。主役の二人は、斬りかかる悪漢3人を相手に殺陣を披露した。しっかりと腰の入った刀さばきを見せる渋谷さんに対し、刀の重さに振り回され気味の鈴谷さんはやはりかわいい。

4曲目は、公募により選ばれたアイドル衣装姿の月ノさんと、9月のソロイベントで発表されたファンタジー風衣装の静さんが登場し、幻想的な「タルト・タタン」のカバーで美しい歌声とダンスを披露。貴重な「りんみと」でのアイドル活動だった。

パフォーマンス中は完璧にアイドルだった二人だが、曲が終わって他のメンバーもステージに戻ってくると、静さんは「失敗した、失敗した」と地団駄を踏んで悔しがる。月ノさんが「先輩、どこが失敗したの?」と優しく問いかけると、二人でダンスを確認。他の仲間は、笑いながらその様子を見守っている。そんなやり取りを初ライブのステージ上でやってしまう自由さや空気感も1期生らしい。

MCでは、もちがえるの曲での棒引きは樋口さんのアイデアと明かされたが、結局その理由は謎のまま、話題が変わってしまった。

鈴谷さんの「怪物」とちーくんの「うっせえわ」に驚き

次のブロックは、月ノさん、静さん、鈴谷さん、渋谷さんによる「福寿草」で開幕。4人は、椅子に座ったまま爽やかな曲に合わせて身体を揺らし、それぞれに個性的な魅力を持った歌声を響かせる。椅子に座った姿を初めて観るだけで「アキ君が椅子に座ってる! 座り姿もかわいい!」と感動できるのは、VTuberファンならではの感覚だろう。曲と歌声と演出が完全にマッチしたおしゃれなステージだった。

曲が終わり椅子から立ち上がる4人。椅子がステージから消えるとともに、月ノさん、静さん、渋谷さんは左右に分かれて退場し、ステージに立つのは鈴谷さん一人になる。3Dモデルを持たなかったためライブやイベントなどへの出演はなかったものの、活動初期から歌唱力に対する評価も非常に高かった鈴谷さんが、初めてのソロのステージで披露したのは、MVがYouTubeで1億5000万回以上も再生されている超人気曲「怪物」のカバー。低音で始まるAメロから、高音でハイテンポのサビまで悠々と歌いこなす姿にボーカリストとしてのポテンシャルの高さを再確認した。原曲のイメージに合わせたステージ演出もそれを引き立てる。

鈴谷さんのクールだが熱いステージの後は、8人の中で唯一、煽り合いの喧嘩も似合う組み合わせ、樋口さんと勇気さんによる「おこちゃま戦争」。にぎやかでかわいい兄弟喧嘩を描いた人気ボカロ曲は、VTuber界でも数多くカバーされてきたが、この二人ほど煽り合いが似合う仲良しコンビはなかなかいない。リズミカルで印象的なイントロが聞こえてきた瞬間、「でろちー」の登場を確信したファンも多かったはず。樋口さんのパワフルで滑舌も切れ切れのボーカルと、勇気さんのかわいい話し声のまま響く驚異の歌声の対比も楽しい。合間の煽り合いもさすがのテンポの良さだ。

二人の戦争は歌詞の中では引き分けに終わったが、ステージ上では、勇気さんが樋口さんをステージから追い出し、かわいく勝利のウインク。そのままソロで歌い始めたのは、まさかの「うっせえわ」。しかも、その歌声は少年声。時折、勇気さんの配信などに登場し、今年の5月には、Live2Dの身体も手に入れた「ちーくん」の歌声だ。左右に広いステージを端から端まで歩いている10歳の魔法少女の姿と、聞こえてくる歌声のギャップも魅力をさらに強めていた。普段の配信ではFPSゲーマーの印象の強い勇気さんだが、音楽ライブでのパフォーマンスは常にインパクト抜群だ。

曲が終わり、他のメンバーが「うっせえわ」と連呼しながらステージに戻ってくると、勇気さんの声は、普段のかわいい「ちーちゃん」の声へと戻る。月ノさんが「すごかったですね。あれが魔法ってやつですか?」と尋ねると、「魔法って便利ですね~」と笑って答えていた。続いて、それぞれの選曲の理由などが語られる中、「でろちー」に「おこちゃま戦争」を推薦したのは、月ノさんか、えるさんかで議論に。一応、月ノさんということにしておこうか、といった曖昧な空気になる中、「マジで、わたくしなんだから!」と必死でアピールする月ノさんがかわいい。本当にそうだとしたら、さすがの選曲センスだ。

運命の女神・モイラ様が「狙いうち」

ライブの前半が終わったところで、突然のゲームコーナーがスタート。にじさんじのアンセム的名曲「Virtual to LIVE」を順番に歌いながら行うゲームで競い合い、さっきまでのステージとはまた違う盛り上がりを見せる。最終的に罰ゲームを受けることになったのは渋谷さんだった。

ライブ後半は、月ノさんとえるさんの「ドキッ!こういうのが恋なの?」で開幕。えるさんは、自身が所属するユニット「Rain Drops」の衣装で登場。アイドル衣装の月ノさんとのデュエットは非常にレアだ。

その後、暗転したステージが明るくなると、8人全員がステージに勢揃い。真ん中に立つモイラ様以外のメンバーは、黄色いポンポンを持っている。何事かと思った瞬間、流れ出した曲は、なんと昭和の懐メロ「狙いうち」。若い世代のファンも多いだけに驚きの選曲だったが、同期の仲間をバックダンサーに従えた運命の女神は、華麗なダンスとツヤのある歌声で会場の熱気をさらに高め、名曲は時代を越えることを証明した。

続いて、ギターを持った渋谷さんがステージに登場。「曇天」で初めてのソロパフォーマンスを披露した。和服にギターの組み合わせはミスマッチだが、曲とギター、曲と和服はどちらも親和性抜群。渋谷さんの美声もピッタリだった。

「えるちー」こと、えるさんと勇気さんが歌う「流星」は、FPSゲームが大好きという共通の趣味を持つ二人にはぴったりの疾走感あふれる曲。「ちーちゃん」のかわいい歌声と、透明感と力強さを兼ね備えたえるさんの歌声のハーモニーも心地良い。

MCで、選曲の理由が明かされる中、モイラ様の「狙いうち」は樋口さんの推薦だったことが判明。地球よりも年長で推定46億歳の運命の女神にとっては、昭和40年代のヒット曲も最近の曲感覚なのかと思っていたのだが、違ったらしい。恐らく野球好きの樋口さんには、高校野球の応援歌として馴染みのある曲だったのだろう。

樋口さんとえるさんが「かえるメドレー」を初披露

最後のブロックの1曲目。ステージに残ったのは、月ノさん、樋口さん、モイラ様の3人。最初期の2018年3月、モイラ様の初コラボ配信で実現した「でろもいみと」がアリーナのステージで再結成された。そんなレアな組み合わせの3人が虹色に光るスクリーンや照明の前で歌ったのは、「マツケンマハラジャ」。インド映画のような歌と踊りを全力でパフォーマンスする3人の姿は、ここまでの1時間半で積み上げてきた感動をちゃぶ台返し。間奏では、スライド付きでカレーの作り方を説明され、笑いをこらえながら困惑させられたが、「これが、にじさんじ」という別の感動も湧き上がる。最後、モイラ様の背中の翼が大きく広がったことにも驚いた。

樋口さんとえるさんのユニット「かえる」が歌ったのは、ファンメイドのユニットイメージソング3曲のメドレー。「かえる」の二人による歌唱は初めての「かえるのマギカ」「かえるの大合唱」に、2019年1月の「Kaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”」以来、2度目の披露となる「けろっぐふろっぐ」。活動初期から人気のユニットによる久々のステージに歓喜したファンは多いはず。「けろっぐふろっぐ」の歌唱中、両サイドのスクリーンに「KANA-DERO」のライブ映像が流れる演出も見事だった。

「にじさんじ」初のソロライブを成功させるなど、音楽面でも先頭に立ってグループを引っ張ってきた樋口さん。そして、樋口さんの同期の友人かつ「最古参オタ」でもあるえるさん。「けろっぐふろっぐ」では、えるさんが熱いガチ恋口上を披露。口上を捧げる側も捧げられる側も、今ではメジャーレーベル所属のアーティストであることに、月日の流れの早さと、1期生の活躍ぶりを実感した。

ライブ本編の最後は、2曲連続でソロのステージ。まずは、渋谷さんが「成るがまま騒ぐまま」を熱唱。広いステージを左右に移動しながら、会場の隅々、配信用カメラの向こう側のファンにもアピール。渋谷さんが過ごしてきたにじさんじでの日々に重なるような歌詞も、クライマックスをさらに盛り上げる。終盤では、樋口さん、勇気さん、静さん、モイラ様も登場し、ステージの両端でファンを盛り上げた。

最後に登場した鈴谷さんが歌うのは、ファンメイドのイメージソング「Brand New Day’s」。デビュー直後の2018年4月に初めての歌動画としても投稿された曲だが、ライブで披露されるのは、もちろん初めて。多くのアキネコ(鈴谷さんファンの愛称)が夢見ていた光景がついに実現した。スクリーンには、鈴谷さんのイメージカラーである黄色の花びらが舞い、会場もファンが振るペンライトの光で黄色く染まる。

「みなさん、ありがとうございます。僕も、僕らにとってもメモリアルなライブになりました。現地の皆さんも、ニコニコの皆さんも、今日は本当にありがとうございました」。

お礼の言葉とともに、深々と頭を下げた鈴谷さんは、手を振りながらステージ左に退場。

しかし、すぐにアンコールを求める拍手が大きく響き始めた。

アンコールのラストは1期生オリジナル曲

アンコールに応えて、最初に登場したのは、月ノさん、樋口さん、えるさんのユニット「みかえる」。ショートコントのようなやり取りから、樋口さんがえるさんに強烈なツッコミを入れた後、歌ったのは、「君にジュースを買ってあげる♡」。恋人に依存するダメ男の歌を全力で熱唱し、セリフパートでも迫真の演技を見せる。ステージを去るときは、なぜか静かで殊勝な雰囲気なのも面白い。

アンコールの2曲目は、静さんと渋谷さんの「DREAMS」。背後のスクリーンに広大な宇宙空間や月が見えている中、相性抜群の二人の綺麗なハーモニーが響く。

定期的に「モイっと まほすずラジオ」も配信している「モほすず」の3人、勇気さん、鈴谷さん、モイラ様は、にぎやかなトリオ曲「みっつ数えて大集合!」を披露。曲に合わせて、歌声もますますかわいくなっていた。

最後のMCでは、ファンにアンコールのお礼を伝えた後、本編最後のブロックやアンコールの曲の振り返り。「みかえる」のショートコントには、元ネタがあったらしい。

その後の告知タイムでは、1期生の3DLINEスタンプの発売、今年の夏に開催された「にじさんじ AR STAGE “LIGHT UP TONES”」のBlu-ray発売、にじさんじ4周年を記念したライブ「FANTASIA」の開催が立て続けに発表された。

デビュー当時の思い出なども交えつつ、メンバーの1人1人がそれぞれに個性あふれる最後のあいさつを述べた後、このライブに先駆けて発表された1期生のオリジナル曲「1 ∞ color」を披露。ライブの最後の最後を締めくくる曲ではあるが、曲調も歌詞もポジティブで、始まりの予感を感じさせるフィナーレとなった。

退場後の影ナレを担当した月ノさんがライブタイトル「initial step in NIJISANJI」の「step」を「stop」と間違えると、メンバー全員で総ツッコミ。会場からの大きな拍手に応援されながら正しく言い直すと、最後は全員で「ありがとうございました!」と叫び、初めての1期生ライブは終了した。

これまでも、にじさんじのメンバーが出演するライブやイベントには何度も参加し、特に音楽活動にも力を入れている樋口さんや月ノさんのステージは数多く観てきたが、同期の8人だけが揃ったこのステージでは、今までのライブとはまた違う、さらに自由な姿を数多く観られた気がする。

「initial step」と名付けられたこのライブ。にじさんじにとって、この8人が「第一歩」だったという意味だけでなく、この日が8人にとっての新たな「第一歩」という意味も含まれているはず。3年9か月の間、積み立ててきた思い出が大きな感動へと変化した初の1期生ライブ。また、何年か分の思い出貯金が貯まった頃、再び一挙放出の機会があることをことを信じたい。

©ANYCOLOR, Inc

(TEXT & PHOTO by Daisuke Marumoto