にじフェス・ホロEXPO座談会 年次イベントから伝わる、にじさんじ・ホロライブの方向性の違い

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VTuber業界で二大巨頭といえば、ANYCOLORの「にじさんじ」とカバーの「ホロライブ」(ホロライブ プロダクション)だろう。ただ、同じVTuber事務所といっても目指す方向性が異なり、一口で語れないのも実情だ。

その違いが大きく感じられたのが、2月の「にじさんじフェス 2025」、3月の「hololive SUPER EXPO 2025」という、それぞれ幕張メッセにて開催した年次のイベントだった。

2025年という今を記録するために、弊誌にも多数寄稿いただいている哲学研究者の山野弘樹氏(ホロライブファン、hololive SUPER EXPO参加)、コンテンツ業界に身を置くX氏(にじさんじファン、両イベント参加)をお招きして座談会を行った。

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「タレント軸」重視のにじさんじ、「IP軸」重視のホロライブ

──今回のホロフェス(hololive SUPER EXPO 2025」および「hololive 6th fes. Color Rise Harmony」)の中で、まずEXPO会場で印象に残っていることを教えてください。

山野氏 去年と比べて雰囲気が大きく変わったなと思います。去年のテーマが「hololive Island」だったので、南の島のリゾート風のブースや展示があったのですが、今回は「hololive ARCADE」がテーマということで、ゲームセンターやテーマパークといったモチーフで会場が統一されていた。そうした世界観の違いが大変印象深かったですね。

「テーマ」という点で言えば、「来年の楽しみ」ができたのは嬉しいポイントだなって思います。初めてEXPOが開催されたのは2022年でしたが、2022年と2023年ではEXPOに特にコンセプトは無かった。それが、2024年から「hololive Island」という「南国リゾート」風のコンセプトが用意され、今年は「hololive ARCADE」という「近未来的なゲームセンター」風のコンセプトが用意された。そうすると、「来年はどんなコンセプトでEXPOが開かれるんだろう?」という期待を持つわけです。「来年はどんな舞台になるんだろう」というワクワク感は、まるで『劇場版 名探偵コナン』を毎年楽しみにするファン心理にも通ずるものがあると思っています。こういう「毎年の楽しみ」を作ってくれたのはすごく嬉しい点ですね。

去年のコンセプトや会場の全体的なデザインもとてもよかったと思うんですけど、今年の「近未来的なゲームセンター」という雰囲気は、ホロライブというブランドに特によく合っていた。EXPO会場に入ったとき、「カバーが創ってきたものが、こういう形で一つの大きな実を結んだのだな」と感じました。


──それは核心を突いていると思います。ホロライブは今「holo Indie」でホロメンのゲーム化を進めていますし、ライブの最後ではホロライブ初の公式スマホ向け音ゲー「DREAMS」も発表した。ゲームで始まり、ゲームで締めるというカバーの戦略にも合っていた。

X氏 今回のEXPOは本当にデザインが統一されていましたし、ブースや展示内容も去年よりパワーアップしていたように感じました。写真撮影のエリアが中心だった去年に比べて、今年は抽選制だったとはいえ体験型アトラクションのようなものがあったのもよかった。どこを歩いても、「あ、向こうでも何か楽しげなことがやってる」と感じられました。

写真撮影のための等身大パネルもうまい具合に分散して設置されていたし、パネルの表裏にホロメンたちがいろんなメッセージを書き込んだりしていて、あれは見ていて本当に楽しかった。気づいたら今年は1万5000歩も歩いていました(笑)

山野氏 本当に楽しいEXPO会場でしたよね。等身大パネルに書かれたメッセージは僕もよかったと思っていて、あのメッセージを通してホロメンたちがけっこう会話してるんですよね。例えばラプラス・ダークネスさんの等身大パネルに黄色の文字で「ラプラプたんちっちゃくて草www」って書いてあって、それに対してラプラスさんが「お前『かなで』(音乃瀬奏)か!? バカアホ」って言い返している。それに対して、さらに奏さんが「バカって言った方がバカw」と煽る流れになっていて、こういう会話を見つけるだけで楽しいですよね。

当該のラプ様のパネル

「hololive ARCADE」というコンセプトで統一された会場を歩き回るというマクロな面白さがある一方で、こうした等身大パネルに記されたやり取りを見つけて実際に会話している姿を想像するというミクロな喜びもあって、マクロとミクロの両面で楽しめた会場でした。


──確かに。本人たちが実際に会場に来て、そういうメッセージのやり取りを交わしていたというのは、やっぱり素敵な要素ですよね。

X氏 私が今年一番印象に残ったのは「holo Indie」のブースでした。去年まで無かったですよね。それこそ私は今年の「にじフェス」(にじさんじフェス 2025)も参加したので、ホロライブとにじさんじを比較して考えてみたいんですけど、一番感じたのは、にじさんじが「タレント軸」、ホロライブが「IP軸」をそれぞれ重視していることでした。もちろん、割合の問題で完全に分かれているというわけではないけれど、比重の違いは伝わってきました。


──すごくわかります。VTuberはタレントでもキャラクターでもあり、ホロライブはカードやインディー、スマホといったゲームを次々と出して、キャラクターというIP活用を進めようとしている。

X氏 はい。ゲームの開発だったり、「ホロライブ オルタナティブ」だったり……要は、世界観の構築ですよね。にじさんじでは、タレントの私物なども置いたりして、いかに彼・彼女らが生きていることを見せるかということに注力している。他方でホロライブでは、「こいういう世界があるので楽しんでほしい」といった運営側の狙いを感じます。もちろん、VTuberという存在はマンガやアニメのような普通のIPではないから、いろいろバランスを取るのが難しいと思うんですけど、今年のEXPOではそのバランスを模索しているのが伝わってきました。

山野氏 「ホロライブゲームセンター」のブースも、とても来場者の方々の満足度が高かったですよね。このブースの中に設営されていた「ブロック崩し」に参加された方から感想をいただいているんですけど、かなり楽しかったそうです。シンプルなゲーム性だからルールもすぐに分かるし、ホロメンの動画が流れてまるで一緒に遊べている気持ちになれるのもとてもいい。何より、「ホロぐら」ではしばしばホロライブの事務所が爆破されるという展開があると思うんですけど、それをモチーフに崩されるブロックが事務所のビルを模したものになっているんです。だから「まるでホロぐらの世界を疑似体験しているような気持ちになれて楽しかった」と、その参加者の方は仰っていました。こういうところでも来場者の満足度は上がっていただろうなと感じます。

X氏 そこもまさにIP軸なんですよね。「ホロぐら」っていう世界観を構築して、その世界を見せることでファンを楽しませているわけです。


──IP軸という点で言えば、それこそ、「魔法少女ホロウィッチ!」とかもそうですし、ちょっと変化球なところでいくと、「もちぽよちゃん」とかも挙げられます。

X氏 見逃せないところでは、ホロカ」(hololive OFFICIAL CARD GAME)もそうですよね。例えば、実写のアイドルの方々を用いるよりは、アニメ風のキャラクターのほうがカードゲームとしてしっくりくる。こういうのが自然と馴染むのは、リスナー側もVTuberを「IP」として観ている側面があるからですよね。

それに、ホロカ成功の背景にはファンの男女比も関係していると思っていて、もし仮ににじさんじが「にじカ」を始めたとしても、そのブースに女性が押し寄せて、彼女たちが真剣にカードゲームを遊んでいる……というのは現時点であまり想像ができませんよね。

山野 確かに、男女比の違いは様々なところに影響を及ぼしていますよね。ホロカ関連で言えば僕も面白いと思った点があって、今回のEXPOはすでに指摘されているように「近未来的なゲームセンター」が統一的なテーマだったわけですけど、ホロカのブースはそのコンセプトから明らかに逸脱していて、元ネタがどう見ても「不思議の国のアリス」で、明らかにそこだけ異世界みたいな空間でした。そこにあった「ホロライブゲーマーズ」の四人の等身大パネルも、「不思議の国のアリス」モチーフのタッチで描かれていてとてもよかったです。ちなみに、EXPO一日目では、開場して30分足らずで整理券の配布は終了してしまっていたらしいです。

また、今回のホロフェスで、広告に関して興味深い取り組みが行われていました。しばしばファンたちは有志を募って推しのVTuberのための応援広告を制作して、それを都内の駅などに掲載すると思うのですが、ファンによって制作された応援広告を、ホロフェスの運営側が公式化していました。つまり、ファンメイドの応援広告をホロフェスの会場で実際に広告として放映したんです。それで今回、応援広告の企画を主導していたホロリスの方とホロフェスの運営さんが事前に連絡を取り合ったりしていたみたいなんですけど、こういう取り組みって実はホロライブ史上で初めてなんです。こうした「応援広告の公式化」に対して、ホロリスの方々は「今回運営側からコンタクトを取っていただいたことで、カバー株式会社、ホロメン、ホロリスみんなで今回のホロフェスを形作っているという実感を得ることができました」と口々に話しておられました。


──その話を聞いて思い出したのが、1日目のオープニングステージでカバーCEOの谷郷さんが「タレントとファンの皆様が共に笑顔でいられるように全力を尽くしてまいります」ということを話してましたが、あれは本当に本心で言っていたんだろうなと思います。最近、いろんなホロメンたちの卒業が目立っていますけど、生身のアイドルで考えたら三年とかで辞めちゃうとか普通なわけですからね。そう考えると、七年続いているとかは奇跡のように見えるわけです。そんな状況で、「自分たちがどのような在り方をしていきたいのか」ということが、今回のホロフェスでは表れていたように感じます。

X氏 VTuberたちは活動も休止するし、引退していなくなったりもしてしまうので、そのあたりがIPとしての側面だけではないVTuberの特徴なんだろうなと思います。

圧倒的女性の「にじさんじ」、圧倒的男性の「ホロライブ」

──今回、EXPOの運営さんも本当に頑張っておられましたね。噂によると、ホロリスの方々が絶賛していた運営の対応があったとか。

山野氏 「徹夜待機組」の一掃の件ですね。例年、ホロライブのEXPOって、いくら公式が「深夜に並ばないでください(始発でご来場ください)」ってアナウンスしても、深夜のうちから待機列を形成する参加者が後を絶たなかったんですよ。目的はもちろん、早期入場者特典の確保ですね。公式のルールを守っている参加者は当然始発で来るのですが、すでに深夜待機組の長蛇の列が待っているので、特典がもらえなくなってしまうんです。つまり、ルールを守る方が一方的に不利益を被っていたわけです。しかも、それで配布された早期入場者特典がのちに転売されていることが発覚したりして、正直、参加者たちの憤りはかなりのものでした。

そして今年、ついに運営が本格的な対策を打ち出すことになります。今年も例年通り深夜待機組が前方の方で行列をなしていたわけですが、ある種の「サプライズ」と申しますか、運営の方が突然それよりもずっと後ろの方で入場待機列の開始地点を用意してくれたんです。その時間がちょうど始発で来場する人々が訪れるタイミングとぴったりで、運営のルールを守って始発で来た人たちが最前列で並ぶことができた。運営によるこうした対策は、今年のEXPOの中で最も評価が高かったものの一つでした。一度こうした「待機列の場所の変更」という具体策を提示すれば、来年以降の深夜待機組への「けん制」になりますからね。


──それは素晴らしい取り組みですね。そういえばEXPO会場までの道のりと言えば、にじフェスとホロフェスでは広告の出し方に大きな違いがあったように思います。

X氏 それは本当にそうで、にじフェスでは会場に着くまでの道のりでたくさんの広告が掲示されていました。それに比べると、ホロフェスでは驚くほど広告がなかったんです。これは本当に対照的で、にじフェスの方では、「この広告をたどっていけば会場にたどり着けるよ」ということをはっきり示しているんです。その代わりに、道中にスタッフは一人も配置されていませんでした。反対に、ホロライブでは広告が一枚もなかった一方で、ちゃんと角を曲がるところとかでちゃんとスタッフが看板をもって誘導をしていました。

実はこれ、客層の違いと上手くマッチしてるんです。やはり男性と女性で「推し活」のやり方が違っていて、例えば女性たちは「痛バ」(推しグッズで装飾されたバッグ)や「概念コーデ」(推しの色やモチーフを取り込んだファッション)で身を固めていて、ぬいぐるみやアクスタを持参して広告を背景に写真を撮っているんですよ。同じことをホロライブでやっても、男性リスナーがぬいぐるみを持って広告と写真を撮るとことは、おそらくあまりないはずです。


──参加者の男女比率が極端に偏っているのも、二つの「箱」で対照的ですよね。個人的にはホロフェスの男性比は95%ぐらいな印象でした。

X氏 にじフェスでも95%くらいは女性でしたね。どちらも非常に極端な割合になっているわけですが、個人的には、ホロライブの方がさらに比率が偏っていたように思います。

山野氏 とはいえホロライブも、例年に比べれば女性ファンの数も増えてきたなという印象もあります。


──確かに。そういえば、ホロフェスで男性が「痛バ」を持っている割合も増えてきなたと思いました。

X氏 そうなんですよ。この現象も前までは見られなかったものです。近年になって男性ファンも「痛バ」を持っていくということが馴染み深い景色となった。こうした光景はアニメ文化の方ではそこまで見られないので、こうしたものもVTuber文化での特徴の一つと言えるのかなと思います。

にじさんじでは顕著で、ライバーたちが「痛バ」用のグッズを出していて、それをみんな活用している。オタクはグッズを使いますから。特ににじさんじのファンたちは、「推し(ライバー)に会いに行っている」という感覚が強いから、本気でおしゃれをしていくわけです。こういう方向性でも、にじさんじとホロライブではそれぞれ「タレント軸」と「IP軸」で特色が分かれているという点を見て取れます。

これ、何が重要かと言うと、大手二大企業がそれぞれ差別化し合っているってっことなんです。これは業界にとってもいいことなんですよね。


──VTuberというジャンルの中でも、少なくとも2つの方向性を示しているということですものね。

X氏 二大企業や「Brave group」に追いつこうとしている事務所や個人勢たちは、「じゃあどっちの方向性でいくのか」ということをいろいろと試すことができるんですよね。また、これも明らかなことですが、にじフェスにせよホロフェスにせよ、こういう大型イベントは、株主の方々に対して「うちはこういう方向性でやっていきます」ということを明確に示すためのお披露目の場としても機能しているわけです。


──男女比という話ついでで、今年のホロフェス、海外からのファンもけっこう多くなかったですか?

X氏 そうなのですね、にじフェスではほとんど見かけなかった気がします。

山野氏 海外からのファンに関しては、とある切り抜き師の方がインタビュー動画をYouTube上にアップされていたんですけど、その動画の中では様々な国から来られた海外ホロリスの方々の生の声が収録されていました。例えばミャンマー、フィリピン、タイ、アメリカ、南米、フィンランド、デンマーク、イタリア、インド……といった顔ぶれで、こうした多様性が見られたのもホロフェスの特徴のひとつだったと思います。

X氏 ホロフェスを訪れる海外ファンの数はにじフェスと比べても格段に多いですよね。これも両者の明らかな違いの一つだと思います。にじフェスでは「どこの国から来ましたか?」というのを世界地図にシールを張って示すっていうボードがあったんですけど、それをホロフェスでもやったら面白かったんじゃないかなって思いますね。きっと全然違う結果が浮き彫りになったと思います。

実は音楽ライブも結構違う!?

──それでは、ホロフェスのライブに関してはいかがでしょうか? 適宜、にじフェスとの対比という視点も入れつつ。

X氏 これは個人的な意見なんですけど、ライブ体験に関してはにじフェスの方が良かった気がしますね……。ホロフェスの方は、そもそもライブ会場が広すぎて、遠くの方のタレントがほとんど観えなかったです……。


──そういう点もありましたよね。だからライブ体験というよりは、「同じ空間にみんなでいる」ということの価値に力点が移り変わっているような気もします。だって、現地で観るより、ネットの配信でライブを観た方がよっぽど分かりやすいですからね。今回の目玉の一つだったセンターステージに関しては例外ですけど。

山野氏 しかも幕張メッセって平面のライブ会場だから、遠くの方が特に見えにくいんですよね。目の前に身長高い人たちが並んでいたらもうほとんど見えないという。

X氏 これに関しては、にじフェスの方は普通にイベントホールで行われたので、そういうこともほとんどなく、ちゃんとライブを観ることができましたね。そちらの方が落ち着いてみることができました。ただ、席の前の通路はファンたちの「痛バ」で埋め尽くされていましたけど。


──(笑)

X氏 ギチギチに「痛バ」が通路に詰まっていて。これは席に着いたらもう身動き取れないだろうなって思いました(笑)

山野氏 その景色も、まさに「にじフェス」らしい景色だなぁと思いますね(笑)


──それで言うと、にじフェスのライブの方では、観客たちがあまり叫ばなくないですか? ライブ慣れしていないのかな、と思ったり……。

X氏 そこは、慣れてないというよりかは、男性ファンと女性ファンの違いのような気もしますね。男性ファンは推しに対して「泣かないでー!!」とか言ったりしますけど、女性が推しに対して「泣かないでー!!」って叫ぶかというと、叫ばない気がするんですよね。まぁ言う人もいるかもしれないですけど……。あまり強調するのもあれかと思うのですが、やはり男性ファンと女性ファンでライブの楽しみ方が違うという点は、指摘できるんじゃないかなと思っています。

例えば、男性ファンはすべてのグッズのコンプリートを狙うけど、女性ファンは推しの特定のグッズを無限に買い求め続ける……とか。あと、男性ファンの方は「仲間と推すぜ!!」みたいな空気感があるから、ライブでもそれぞれの席のファン同士で共鳴し合って叫ぶことも多い。ただ、女性ファンは違いますよね。あくまでそこにあるのは「私とあなた(推し)」という一対一の関係です。会場が1万人のファンで埋め尽くされていたとしても、「私とあなた(推し)」です。このあたりは違いが出てくるだろうなと思います。

話をホロフェスに戻しますと、センターステージという取り組みを導入することによって、去年よりもライブ体験は良くなったんじゃないかなとは思います。真ん中の人は前方と後方のどちらの画面も遠いわけですけど、今回はセンターステージを最前列で観ることができたわけですからね。

センターステージ。会場中央の天井に六角形の「箱」があり、時おり降りてきて中にタレントが現れて歌っていた


──センターステージの導入は、昨年までと比べて本当に大きな違いでしたよね。多分そこには思想が表れていて、「どの席でもちゃんと見えてほしい」という運営側の想いがあるんですよね。

山野氏 センターステージに関しては自分もいろいろ感じたことがあって、これまでの平面的なディスプレイにタレントさんが映るという方式だと、いくらAR的な技術を使っても、どうしても「平面的なディスプレイに映っているタレントと対面する私たち」という構図にはなってしまいます。それが、今回のようなセンターステージを用いると、それがゆっくりと回転して360度全方向からタレントを観ることができるわけなので、それは文字通り立体的な鑑賞の構図になるんですよね。こうしたところに、よくVTuberリスナーの方が使われる「実在感」というものを感じることができるポイントの一つがあったのではないかと思います。つまり、「そのセンターステージの箱の中に入っているように見える」という、そこが重要なんです。


──「実在感」という話で言うと、今回のホロフェスのライブではMCが徹底して客席とコール&レスポンス(コーレス)をやっていたというのが非常に印象的でした。観客席とのインタラクティブ性をすごく強調していましたよね。

X氏 コーレスと言えば、今回、ペンライトの電池が途中で切れてしまって……。それがあまりに悲しかったです。


──それは、ちょっとテンション落ちますね!(笑)

X氏 それだけで「参加している感」が一気に無くなりました……。そういえば、にじフェスとホロフェスのライブでは、セトリの選曲にも違いが出ているように感じますね。にじフェスでは一般の人々にも知られている曲が歌われる傾向にあると思うんですけど、ホロフェスはよりオタク文化に繋がっているので、オタク受けする曲が数多く歌われる傾向にあります。


──確かに、その傾向はあるかもしれませんね。

山野氏 具体的なライブの内容の話で言えば、個人的には、やはり今年のホロフェスで初めて「ReGLOSS」の面々がライブのステージに立てたので、それが熱かったですね。「フィーリングラデーション」が流れ始めたとき、「ReGLOSS」のメンバーが一気にキラリンッと登場するのではなくて、左右の端から一人ずつ順番に登場するんですよ。あの演出もすごくかっこよくて。まるで、ReGLOSSのメンバーが一人ひとりホロライブの歴史に刻まれていく様子を表しているかのような……そんなニュアンスさえ感じてしまいましたね。

ReGLOSSのステージ


──確かにそうですね。それでは、今年のホロフェスの総括になるコメントをお願いします。

X氏 今回、ホロフェスに参加して安心したのは、すでにその歴史が始まってから七年~八年目に突入している「VTuber業界」が、まだまだ全然停滞していないということですね。ホロフェスに参加することを通じて、「これはもっと良くなるな」、「来年はもっとすごいものを観ることができるな」ということを本気で感じることができました。来年のホロフェスも楽しみです!

山野氏 大きく分けて三つあります。一つ目は、シンプルに「来年も楽しみ」ということです。特に来年のEXPOの統一テーマは何になるんだろうという楽しみがすでにあります。

二つ目は、年々増え続ける来場者数を今後上手くさばいていくことができるのだろうか、という心配な点です。例えば、今年のEXPOでは、白上フブキさんと大神ミオさんの等身大フィギュアを撮影するために配られた整理券が3000番台に到達しています。こうした状況で、「EXPO開催だけ三日間にした方が良いのでは?」というホロリスからの声も上がっていたりして、このあたりをどのように運営していくかは、引き続き注視していきたいと思っています。

三つ目は、今まさに伸びつつある中小規模のVTuber事務所や個人勢の方々に対して「道」を示してくれているという感想です。もちろん、ホロフェスやにじフェスのやり方は「一つの可能性」であって、他のやり方もあり得るわけです。後続のVTuberグループや個人勢の方々は、そうした「二つの色」を見ながら、自分たちの「色」を模索することができる。そういう一つのモデルケースとして、ホロライブとにじさんじには今後もVTuber業界を引っ張っていってほしいなと思います。

X氏 まだまだVTuber業界、楽しみですね!


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