6人組のバーチャルガールズグループ「VALIS」(ヴァリス)は23日、都内某所にて1stワンマンライブ「拡張メタモルフォーゼ」を開催し、その様子をYouTubeにて無料配信した。
EDも含めて1時間50分ほどのライブのうち、本編はいつものキャラクターの体で見事なパフォーマンスを披露していたが、アンコール直後になんとリアルの体(noteにて公開していた運営の言葉を借りるなら「オリジン」)で登場。照明や演出で顔がはっきり見えないように配慮していたものの、いきなり「次元の壁」を越えて生身で出てくるという展開に、多くの人がコメント欄で騒然としていた。というのも、声優などとは異なり、バーチャルタレントは「魂」の存在を表に出さないのが業界の主流だからだ。
なぜ彼女たちは異例の挑戦に至ったのか。アンコールのMCにて、その一端が涙ながらに語られたものの、全貌はまだ見えず、詳細については11月26日の20時から彼女たちのYouTubeチャンネルで配信する「A HISTORY OF VALIS」にて明らかになる。その前に、ひとまずライブで何が起こったのかを簡単にレポートしていこう。
なお、今回のライブ自体は11月27日の20時30分よりZ-aNにて有料で再配信する。チケット料金は3500円となる。
珠玉のオリ曲ぞろいなバーチャルサーカス団
VALISのメンバーは、CHINO(チノ)、MYU(ミュー)、NEFFY(ネフィ)、NINA(ニナ)、RARA(ララ)、VITTE(ヴィッテ)の6人(敬称略、以下同)。バーチャルの存在らしく、人形のようなスリムなボディー、猫のような縦長の瞳孔、ぴょこっと生えた「ケモ耳」など、微妙に人間と異なる体が特徴的だ。
バーチャルの活動としては、「神出鬼没のバーチャルサーカス団」として、2020年5月から主にオリジナル曲・歌ってみたをYouTubeに投稿してきた。
ライブでは、バーチャルアイドルフェスの「えるすりー」や、同じTHINKRの「KAMITSUBAKI STUDIO」に所属する花譜のライブなどにもゲスト出演。その上で、今年7月にはカバーライブの「旋律コレクション」、10月にミニライブの「感情プレステージ」を実施した。いずれも独特のオーラやキレのいいダンスなどで観客を魅了し、ファンを増やしてきた。
そうして彼女たちに気づいてオリジナル曲を聴き始めると、コンポーザーとして、かいりきベア、syudou、Ayase、煮ル果実、カンザキイオリ、TeddyLoid & Giga、DECO*27ら、ネット音楽の最先端を築いてきた才能が参加していることに驚く。どの曲も彼女たちの声質と世界観にあっていて、めちゃくちゃいいのです。
最近ではこの11月、花譜らが所属する「KAMITSUBAKI STUDIO」から派生し、THINKR/バンダイナムコアーツ/pulseの3社協業で運営するクリエイティブレーベル「SINSEKAI STUDIO」への所属も発表。どんな新展開が起こるのかとファンに期待されている。
初期にはnoteにて彼女たちの物語も展開。退廃的でダークな世界観が魅力……と思いきや、公式Twitterで「外人4コマ」風の画像を投稿したりと割と自由な部分もあり、個人的には「核心が見えないグループだなぁ」という感想を抱いていた。
今回の1stワンマンは7月に発表。事前にクラウドファンディングを実施したところ、目標の300万円に30分で達成し、最終的に1111万2790円に到達するなど、大きく期待を集めた。そして最上位プランのプラチナコースに出資した20人が、今回のリアル会場に招待されている。
普通のバーチャルアイドルのように、歌とダンスを披露し、ライブならではの興奮で大いに楽しませてくれて終わる──。誰もがそう予想していたステージだったが、冒頭にも触れた通り「拡張メタモルフォーゼ」の名前に違わないとんでもない「変身」を用意していたのだ。
怒涛のパフォーマンスと映像美に釘付け
ライブのうち、1時間ほどの本編は、普通のバーチャルタレントのステージだった。
といっても、そこは花譜などのライブで培った流石のTHINKRクオリティーで、単純に彼女たちの歌やダンスが素晴らしいだけでなく、曲の世界観に沿った背景や歌詞のモーションタイポといった演出も見事で、常に配信画面に釘付けになっていた。配信では、ステージに出演(投影)している彼女たちの現地映像に加えて、現地では難しい横や後ろのアングルも映すなど、見せ方にこだっていたのも伝わってきた。
5曲目の「錯綜リフレクション」で、同じSINSEKAI STUDIOに所属する存流(ある)が登場したのもトピックだ。アンコール後の話題に関係なく、作り込まれた素晴らしいステージはぜひ見ておいてほしい。ちなみに後からわかったことだが、曲はすべて「東京ゲゲゲイ」などの音楽を手がける安宅秀紀がライブアレンジし、ダンスパフォーマンスはダンスカンパニー・elevenplayが担当したとのこと。
一方でMCは、緊張のあまりか割と噛みまくりなMYU、「ちゃんにな♪ ちゃんにな♪」と踊り出すNINA、終始テンションが高くNINAと「どうも〜ブルーアースで〜す」漫才を始めてしまうVITTEといった具合に、さすがサーカス団(?)という自由さ全開な様子も見せる。
そんなMCでは、アンコールにつながる伏線にも張っていた。例えば、RARAが
「VALISで活動を続けるということは葛藤の連続だったの。お客さんから反応があると嬉しいし、もっともっとがんばりたいと思う。でも自分よりもっと上の存在がいて、その人たちには全然叶わないっていう悲しさが襲ってきて、VALISってなんなんだろうって悩み続けてきたのよね。でも、RARAたちはRARAたちなりに、頑張って結果を出していくことが大切だと気づいたんだ。もちろん一番になることは大事なんだけど、歌やダンスを楽しむことを忘れちゃいけないって、活動を通じて思い出したの」
と言及するなど、VALIS結成以前に「何か」があったことを口々に匂わせる。そうして本編ラストに「私たちからの感謝を込めて、この曲を聞いてください」と歌ったのが、カンザキイオリによるオリジナル曲の「革命バーチャルリアリティ」。思い返せば、
「さあボタンを押して 目を見開いて
平行線を吹き飛ばせ
革命ならここにある
辛くても泣かないから
君に会える 会える ならば
笑ってるんだ 笑ってたいよ」
といった歌詞が、彼女たちの今につながっているのかもしれない。
「叶えられなかった夢、まだ叶えたい夢」
花譜のライブでもそうだが「おまけが本編」なのは、THINKR流のサプライズなのだろうか。そもそもバーチャルの存在が、こんなにも「本当の言葉」を表に出すこと自体が珍しい。
声が出せない時代で定番となった拍手で促されて始まったアンコールでは、「VALIS Act.2」との文字に続いて、「Sow a character, reap a destiny.」(キャラクターの種を蒔き、運命を刈り取る)と謎の宣言が浮かび上がる。改めてメンバーのスライドを紹介した上で、ステージに現れたのは逆光で顔が見えない中、フォーメーションでポーズを決めたリアルの体の6人だった。
あまりに想定外すぎる出来事に、リアルとネットで見ていた全員が「!?」と瞬時に現実を受け入れられず、戸惑ったままアンコール1曲目の「天命系メルト」が始まった。
第一声で歌われたのは「こちらへおいで わたしとワタシがとけ合う世界 今」という歌詞。まさに目の前で歌と現実がシンクロしており、「この女の子たちがメルトしてるVALISの『オリジン』……ってコト!?」と壮大な仕掛けに鳥肌が止まらない。
アンコール2曲目の「物換星移カタルシス」に続くMCでは、涙ながらにVALISにかける想いが明かされる。以前の活動はうまくいかずにVALISとして再デビューしたこと、改めて実力不足を実感して研鑽していること、支えてくれているファンや運営に本当に感謝していること。
6人全員(あのフリーダムすぎるVITTEでさえ!)が涙で言葉を詰まらせながら、一言ずつ慎重に想いを紡いでいく様子に、見ている誰もが息を呑んだはずだ。この衝撃と彼女たちの本気は、ライブ自体を見ていただかないと絶対に伝わらないし、ぜひ歴史の目撃者になってほしい。
ごく一部だけを紹介すると、ララはこう語っていた。
「私たちが叶えられなかった夢、そしてまだ叶えたい夢をここで実現するために、VALISになる決意をしました。私自身、小さい頃から歌もダンスも好きで、その頃から音楽の世界に憧れていたと思います。
だけど、やってみたら、うまくいかないことばっかりで、自分の実力不足も痛感したり、仲間に裏切られることももちろんありました。苦しい思いもたくさんしたけど、やっぱり好きなものはやめられなくて、今このメンバーでこうやってステージに立てていること、そしてヴァンデラーのみなさんにお会いできたこと、この姿で出てきてびっくりしているかもしれませんが、ペンライトをずっと振ってくれているみなさん、本当に幸せです。
すべて私たちのこの姿、この形を受け入れることができなかったとしても、私たちはみなさんの気持ちを全て受け入れる覚悟でここに立っています。今日まで、そしてこれからのためにも過去の自分を超える力をつけてきました。これからも私たちにしかできないVALISらしいショーをお届けするので、どうか、信じてついてきてください」
VTuberの世界では、草分けであるキズナアイ以降、「魂」を明かさないというのが業界標準になっている。それはアニメやゲームとは異なり、リアルタイムで対話できるというキャラクターの魔法を解かない側面もあるのだが、逆に「魂」が過去に担当したキャリアとして紹介できない負の側面もある。
もちろん、MonsterZ MATEのような、リアルを明かした上でバーチャルの体でも並行して活動するタレントも存在するが、業界ではまだまだ少数派だ。そしてVALISの場合は、1年半にわたりバーチャルの存在として活動してきて、1stワンマンという節目で突然「次元の壁」を越えてきたのが異例だ。
ここからは推測の話になるが、彼女たちは過去に何らかの活動をしていてたが、何かの理由があってVALISになることを決意したのだろう。本当に何もわからず、助け舟をもらって始めたバーチャルの体。蓋を開けてみれば、運営が求めるクオリティーに達しない未熟な自分たち。追いつくように必死で練習する毎日。それでも応援して、クラウドファンディングでも支えてくれるヴァンデラーのみんな。
普通に考えれば、バーチャルタレントならバーチャルの体のみで活動していた方が波風立たずに得だろう。言われたキャラクターのロールプレイだけこなしていても「仕事」としては成り立つし、企業所属のVTuberとしてはそういう生き方もあるかもしれない。
しかし、VTuber業界は1年も経たずに引退していくタレントも多い生き馬の目を抜く業界だ。自分たちが本当にやりたいことは何だったのか。自分たちだけが提供できる価値とは何だったのか。誰かが決めたキャラクター設定ではない、「平行線」を超えた本当の自分たちとは何だったのか。
すべての覚悟の上、自分たちの意思で「賽を投げる」ことを選んだ彼女たちは、バーチャルだけど、最高にリアルを生きている存在だとライブを見て確信した。ララの
「これが私たちの、今の素直な気持ちです。バーチャルの姿でも、リアルの姿でも、これからも精一杯頑張っていきますので、応援よろしくお願いします」
という声で、「よろしくお願いします」と深々と頭を下げる6人。本来あるべきVALISの姿に戻った瞬間だ。
ライブのラストは、もう一度生身で「革命バーチャルリアリティ」を披露し、最後に「改めまして、見てくださっているみなさま、本当にありがとうございました。これからもリアルの姿でも、バーチャルの姿でも今まで以上にがんばっていきますので、どうかみなさん応援よろしくお願いします」と感謝を伝えて、エンドロールを迎えた。
……と、この原稿を書きながら調べているうちに驚いたのが、過去のプレスリリースに添えられていたVALISの世界観設定だ。
裏世界で活動する神出鬼没のバーチャルサーカス団「VALIS」。現実社会で様々な問題や不満、葛藤を抱えた人々が、ふとしたきっかけで辿り着いてしまうという裏世界。そこでは、欲望を解放し、積極的に、衝動的に、刹那的に振る舞うことで、現実のストレスを解消している。自分たちの夢を叶えられなかった6人の少女たちは、メンバーの一員となって裏世界で活動することを決意する。
「自分たちの夢を叶えられなかった6人の少女たちは、メンバーの一員となって裏世界で活動することを決意する」というのはキャラクター設定ではなく、彼女たちそのものだったのかもしれない。
VTuberの歴史を変え、自らの意思で「オリジン」の存在を明かすというラインを超えて、未来への決意を新たにしたVALIS。それでもまだ見えない全貌は、11月26日の20時から配信する「A HISTORY OF VALIS」でチェックしてほしい。また、VTuber好きやアイドル好きは、ぜひ27日の再配信も見ておくべきだ。
●セットリスト
1.残響ヴァンデラー
2.開幕ゼノパレード
3.真夜中コンツェルト
4.道化師ブランケット
5.錯綜リフレクション feat 存流
6.超常現象ダンスダンス
7.再構成ウィーバー
8.鈍色リグレット
9.新世界ピグマリオン
10.革命バーチャルリアリティ
*アンコール
11.天命系メルト
12.物換星移カタルシス
13.革命バーチャルリアリティ
●関連リンク
・「拡張メタモルフォーゼ」再配信(Z-aN、有料)
・VALIS(YouTube)
・VALIS(Twitter)