VRChatという撮影スタジオを使って、おもしろコントを作り続けているLein. – キノピオProさん(以下Lein.さん)が事件を起こしました。
6月27日、Twitterに投稿した「ロマンスの神様」の顔芸動画が大いにバズり、ニコニコ動画でもYouTubeでも注目されたことをキッカケに、グルメ&テックブログ・ネタフルを経由してオリジネーターである広瀬香美さんにまで動画が届いてしまうという大事件が起きてしまったのです。
原作者が二次創作を認めただけではなく好意的に受け止め、VRChatにもログインしようと一体型VRゴーグルの「Meta Quest 2」を買う事態を引き起こしたLein.さんは、いまどんな気持ちを抱いているのでしょうか。お話を聞いてきました。
こんちゃんの面白さを引き出すところから始まった
──僕が初めて見たLein.さんの動画が、「カレーパンが取れないこんちゃん」でした。めちゃくちゃ笑ったし、こんちゃん(VRChatでの利用を想定したアバター「ロポリこん」)の表情がとても豊かで驚きました。こんな表情もあったのか!と。
Lein. 実はこんちゃんって手のパーツがないんですよ。普通のアバターってグーパーチョキと手が動かせるものが多いですが、こんちゃんは手がないから表情のコントロールに集中できるんですね。それが表情の豊かさの秘訣といえます。
──VRcharのアバターで動画を撮ろうと思ったきっかけはなんだったのですか。
Lein. もともといろんなプラットフォームに動画を投稿していました。VRChatは2019年末くらいにはじめて、そしてVRChat内の多くのクリエイターを知っていったんですね。そのなかで、自分と同じこんちゃんを使っているRYUKKOさんの動画に感銘を受けたんです。
こんちゃんを使ったミーム再現で、インタビューを受けたこんちゃんがマイクを食べちゃうみたいな。それを見たときに「めちゃくちゃ面白いじゃん!」と。かわいいキャラクターでギャグができることに感銘を受けて、自分もこんな動画作って人に見せたいぞ思ったんですね。
──最初に投稿した動画のことを教えてください。
Lein. 最初は、こんちゃんに何をさせたら面白いと感じるのかを調べるための実験的な動画でした。そこでVRChatあるあるを入れてみようと思って、口のコライダーが開いていない壺のオブジェクトに、魚を入れようとするけど入れられないという内容にしました。そういう、VRだからこそ表現できることを出していって、そこから面白いことを追求していきましたね。
──誰がみても可愛いと思えるアバターを、面白さに全振りするパイオニアではないかと感じています。
Lein. 自分はパイオニアというか、VRChatの動画を投稿しているクリエイターの一員になりたかったんですよ。それまでにもダンス動画を撮っていたり、綺麗な動画を撮っている人たちの一員になれたらいいな、というのがモチベーションとなっていました。
影響を受けたのは「テツandトモ」の歌ネタ
──今年に入ってから、顔がどアップで、顔芸の表情と身振り手振りでアクセル全開の短編MVを公開しています。こちらの作品群のアイディアは、どのように思いついたのですか。
Lein. 年末年始に大作を作ろうと考えて、米津玄師さん関連のMVを見て製作しはじめたんです。しかしアバターが足りないとかワールドが足りないとか、カメラを動かすのが難しいみたいなことで製作が延び延びになり、年が明けてもこれは完成しないなと思ったんですね。でも、1週間に1回ぐらいのペースで新作を出すことを続けたいと考えていたとき、目に付いたのがテツandトモさんの、笑点のテーマに合わせたネタなんですよ。
Lein. これを真似してみたら、こんちゃんはかなり可愛いくなるんじゃないか、と思って、まずはこんちゃんの動きを撮って、なすちゃん(ティグリなす)の動きを撮って合成しました。テツandトモさんの歌ネタを真似することが目的だったので、収録自体は15分でできました。
それを公開したところ、すぐにTwitterで1000リツイートまで伸びたんですね。当時作っていた他のMVが300リツイートいかないくらいだったので、「今までのMVは作るのに14日もかかったのに、15分で作ったこのネタがこのリツイート数になるかあ」と思って打ちひしがれて(笑)。自分の努力が世間に響くかどうかって、本当に比例しないなーっていうのを強く感じた瞬間でしたね。
ミームと化した「ロマンスの神様」
──「ロマンスの神様」について教えてください。こちらの収録時間はどれくらいだったのですか。
Lein. 正直言って、10分です(笑)。笑点と違って参考にするものがなく、自分のアイディアとフィジカルだけでやったからさらに短くなりました(笑)
しかもVRChat内で友達に会いに行く時の隙間時間で撮ったんです。VRゴーグルをかぶって、動画撮ってから待ち合わせ場所にいこうみたいな感じで、カメラを置いてちょっと踊って、録画できたオッケー。じゃあ遊びにいこう。そしてVRゴーグルを外して編集して投稿したら、どーんと再生数が伸びて(笑)。「ロマンスの神様」は、本当に何気ないの極地なんですよ。こんな伸びるもんじゃないぞと(笑)
──それぞれの表情をベストなタイミングで切り替えながら踊るって、何気ないことだとは思いませんよ!? Lein.さんが培ってきた技術だと感じます。
Lein. こんちゃんは他のアバターと比べて顔が大きく、一番目立つところなんですね。だから表情を動かすのがこんちゃんの醍醐味であり、大前提かつ美味しいところだろうと思っているんですよ。でも正直言って、そんなに顔がクルクル動くのがスゴいっていう褒め方されたことに衝撃を受けちゃって(笑)
──美少女というか、幼女としての可愛さのこんちゃんを見てる人が多く、目をキラキラさせているところばかり見てきたのかもしれません。
Lein. ここまで再生数が伸びたことの理由に、こんちゃんの可愛いさがあったからこそというのは確かにあると感じています。アバターを作ってくれたmidoriさんに感謝しています。
──二次創作の形で、他の方がMMDのモーションデータを配布する事態ともなりました。新しいミームが生んだことにどう感じましたか。
Lein. 実は、「冬の花」(宮本浩次「冬の花」MVの二次創作)を公開したときにもMMDで再現してくれた方がいたんですね。自分の作ったものに対して感銘を受けてもらえるのは嬉しいことですし、今回も再現して、ニコニコ動画で投稿してくれる人がいるんだ。嬉しいなーって思っていました。でもそこまで深くは考えてなかったんです。
そのあと寝る前に、スマホでちらっとニコニコ動画を見たらぶわーって!(笑)何これ!?と。いや、まさか2~3時間で、20~30もの動画が作られるとは思わなくて。それがいまや(7月12日現在)まさかの300作品ですよ。
──しかも、VRChatやMMDを飛び越えてリアルの人々も真似しはじめました。TikTokの文化と繋がったという印象があります。
Lein. VRChatとMMDって過去に色々あったのですが、それでもMMDのクリエイターでフェイスダンスのモーションを使ってくれる人がたくさんいるのを見て、つながってんだなーと思って感動しました。
──橋渡しをしたというか、Lein.さんが橋そのものになったわけですね。
そして広瀬香美さんがレスする事態に
──そして複数のSNSでバズり、多くの人がLein.さんとLein.さんの動画を知り、ついには広瀬香美さんにまで届きました。
Lein. 「カレーパンが取れないこんちゃん」や、「なすandロポの笑点」など、今までにも何回かバズって多くの人に見てもらってきたのですが、今回は、原曲の広瀬香美さんまでTwitterで言及していて、もう心臓がきゅーーーってなりましたよ!(笑)
あくまで自分の趣味であり、原作者の方とは遠いところでやっているつもりだったんで、嬉しい以前に恐ろしかった(笑)。許してもらって本当によかったって感じですし、しかもシェアまでしてくれましたし、VRChatにも来るというし、自分の動画をみてQuest 2を買うと言っているし、フットワーク、軽っ!(笑)
広瀬香美さんは新しいものに強い人なんだなーって改めて思いましたね。また小林幸子さんしかり、サブカルチャーに寛容な方なのかもしれないと感じました。
──そもそも「ロマンスの神様」のMVを作るきっかけは何だったのですか。
Lein. 踊りやすかったっていうのが一番ですね。リズムに合わせてズンチャッチャと踊るので、ロマンスの神様は本当にやりやすかったんです。で、トドメにキャラクター同士のやりとりを入れたかったんです。最後の「この人でしょうか」のフレーズで、こんちゃんがなすちゃんを指さして、なすちゃんが「私じゃないよ!」と手をふるところが挟めるな、と気がついて「これだー!」となったんですね。あれは奇跡的にかっちりハマりましたね。
──たくさんの日本の曲がある中で、「ロマンスの神様」を思い出せたっていうのは、それこそなにかの神様が降りてきてくれていたとか。
Lein. 神様っていうか、これに関しては家庭のおかげというか……。自分の親が自分の趣味を息子に見せるタイプだったんです(笑)。その趣味の1つが80年代90年代の歌謡曲。広瀬香美さんだけではなく、槇原さんとか平井堅さんの曲を聴いて育ちましたし、自分が生まれる前の「赤いスイートピー」(松田聖子)も歌えますし、中森明菜さんの事は明奈ちゃんと呼びますし(笑)
──失礼ながら、お年はおいくつぐらいでしょうか。
Lein. まだ30歳にはなっていません。リアルタイムでの黄金時代を知っているのは杉浦太陽だけです(笑)。友達からは趣味が古臭いっていわれるんですよ。好きなテレビ番組はウルトラセブン、好きな漫画はパタリロですから(笑)
──家庭内カルチャーが本当にすごい(笑)
Lein. 親のおかげで、幅広く網羅できるようになったってのはありますね。逆に親が知らない「香水」(瑛人)やAdoさんの曲など、現代だからこその作品も受け入れられているというのもあります。そういう意味でも親の教育の賜物です(笑)
──VRChatとMMDの架け橋になるんじゃないかと思っていましたが、新しい世代に古き良き日本の歌謡曲を伝える伝道師にもなりえるのでは。
Lein. ああ、でもTikTokで古い曲が流行っていたりするんですよね。以前は「め組のひと」(ラッツ&スター/倖田來未カバー)も流行っていました。ただ、誰が歌っているかまで掘り下げてはいないかも。その部分は、自分が架け橋となれるところかもしれません。
こんちゃん、なすちゃんのやり取りを見せるための合成編集
──Lein.さんの動画には複数のアバターが登場します。ワンオペで撮るときのコツってありますか。
Lein. 経験則でやっちゃっていますが、最初にこんちゃんの動画を撮って、なすちゃんの動きを撮る時にこんちゃんの動画を同時に流して動きを見ながら、動いていくというのをやっていますね。例えば手でビンタするモーションを見ながら、受け止めるモーションを同時進行でやることでスムーズに撮れます。
──それが作品としての、一体感につながってるわけなんですね。
Lein. 他の方が同じことをやっているというのは、まだ聞いたことがないんです。複数人で撮っている方々はいるみたいですが、1人だとリテイクが簡単にできるというメリットもあるんですよ。
──複数人で動いているところを一括して撮ると、コンマ何秒かの遅れが起きやすいという問題もあります。
Lein. VRChatはどうしてもレイテンシが大きい世界ですからね。だから多人数で収録するケースでも合成しているチームはいるかもしれません。もしくはレイテンシがそんなに関与しない、キャッチボール型の会話をメインにするとか。自分は結果論ですが、VRChatのレイテンシーで複数アバターの同時撮影が難しいと思ったからこそ、ローカルで編集することにしたというのがありますね。
──その中でショートコントに特化して動画を作り続けてきたのは、Lein.さんの大きな価値だと感じます。
Lein. たしかにVRChatのコント動画って他にほとんど見たことがないんですよね。VRChatお笑い道場もあるし、お笑い番組風のものは見てきているんですけど。どこか探せばあるのかなあ、みたいに感じています。
──でもここから流行ってほしい。Lein.さんの動画をきっかけに、こういう表現ができるんだっていう気づきになるでしょうし。
Lein. そうですね。自分の動画を見て始めましてみたいな人はぜひ出てきて欲しいです。自分ができなかったこととか、思いつかなかったものがたくさん出てきてくれたらいいですよね。ロポりこんは指の表現ができないから、そういった表現を他の人がやってくれるの期待したいです。
アップデートにより表情豊かになったこんちゃん
──改めて表情についてお聞きしたいのですが、こんちゃんなすちゃんの表情は意識的に出しているのですか。それとも無意識でだせるようになっているのですか。
Lein. いや、意識的に、です。今は、どういう表情にしたいかを考えたとき、瞬時にコントローラを操作できるようになっています。まあでもこんちゃんは変な表情が多いですからね(笑)
──どういう表情が好きとか、Lein.さんが考えるこんちゃん自身の魅力を教えてください。
Lein. こんちゃんって、最初は純粋に可愛いアバターだったんです。今でこそいろんな表情がありますが、その一部はアバターのアップデートで実装されたものなんですね。最初はなかったんですよ。
自分がVRChatにくる前、こんちゃんが、かわいいからこそ好き勝手できるおもしろポジションができていたんですね。その流れを作者のmidoriさんが汲み取ったのかどうかはわからないんですけど、オーバーな表情が追加されたんですよね。それで、変なことをしても許される(笑)ことに魅力を感じています。
──作者さんからの、もっと自由に使ってほしいというメッセージだと受け取ったわけですか。
Lein. midoriさんは色々と許してくれる方なんですよ。自分がやっていることがギリギリのラインを超えることはほとんどないだろうと思って、やらせてもらっているというのはあります。正直言うと、デフォルトの表情に助けられているのがありますね。こんちゃんが表情豊かでよかった、と。
──Lein.さんが表情を改変している、ってことはないんですか。
Lein. こんちゃんに関してはデフォルトで充分です。現在のところ、なすちゃんには悲しそうな表情だったり、叫んでいるといった表情が備わっていないので、自分で無理やり作ったものを追加しています。
──こんちゃん、なすちゃん共にデフォルトとは異なる色ですが、なぜこのカラーリングとなったのかを教えてください。なすちゃんのほうはTwitterで夕焼けがモチーフだと書かれていましたが。
Lein. こんちゃんに関しては、最初は派手な色黒とかビビットカラーを使いたかったんです。でもなんだかしっくりこないなと感じて、紺色をベースとしました。そして青と黄色のコンボが好きだったから黄色を入れ、さらに青/黄色ときたら赤でしょとなって、アクセントに赤色を入れました。
実は髪の毛の後ろや先っぽのほうも赤っぽくしているんですよ。これは1色にするとのっぺりしちゃうのと、自分が車やバイクのチタンマフラーの焼け色が大好きで(笑)、あの青から赤へのグラデーションをもってきました。またなすちゃんは、こんちゃんの色の対比となるように合わせました。もともと色に関して情熱があったので、適当に決めたわけではないんです。
VTuberさんとのコラボを待っています!
──VTuberにはなりたくなかったんですか?
Lein. 当時の自分ができることと、VTuberでやれることが合致してなかったんです。やりたくないっていったらウソになってしまうんですけど、いざVTuberをやろうと思ったときに、「じゃあいったい何をするの?」って考えちゃって。VTuberの方っていろいろな企画をやっているじゃないですか。でもそういうのが思い付かなかったんですね。
今考えてみても、やりたいゲームの配信とかそのぐらいしか思いつかないから、やってみたいけど一歩踏み出せないところがあります。
──では今後、チャレンジしたいことはありますか。
Lein. ええと、正直いって、他のVTuberさんとコラボしたいです(笑)。最終目標っていうか夢のなかの夢で、いまのところはまったく目標設定や努力とかをしていないんですけど、VTuberになって食べていくというというのが自分の喜びなんですけど、今のところはまだ受動的なんです。
だから、目標っていうわけじゃないんですけども、今後、他のVTuberの方とのコラボからやってみたいです。ぜひぜひお問い合わせいただけたらありがたいです(笑)
(TEXT by 武者良太)
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