メーカー推奨のスタイルではない、とあらかじめ断っておきますが、後頭部がスカスカなメガネスタイルの利点はVR睡眠でも活きると知りました。
2023年1月のCES 2023で発表され、栄えあるBest of CESも受賞したHTCの一体型XRゴーグル「VIVE XR Elite」。現在絶賛予約受付中ですが、一般販売に先駆けて体験してきました。その模様をレポートします。
●関連記事
・HTC、VR/MR対応の一体型XRゴーグル「VIVE XR Elite」発表 価格は17万9000円で予約受付開始
・HTCが現実とCG世界を融合させる「VIVE XR Elite」と「VIVE Mars」を現地で体験!【CES2023】
VIVE XR Eliteのスペック・アウトライン
まずVIVE XR Eliteのスペックからご紹介しましょう。インサイドアウト方式の 6DoF トラッキングシステムのため、ベースステーションは不要。搭載されるSoCはQualcomm Snapdragon XR2。VIVE Focus 3のようにスタンドアローンで扱うことも可能です。PCとの接続は有線・ワイヤレス共に対応しています。
ストレージは128GB、メモリは12GB。側面にUSB 3.2 Gen-1 Type-Cコネクタが備わりますが、普段は後部のバッテリーのために埋まっています。バッテリー充電のためにはバッテリー部分にあるUSB Type-Cコネクタを用います。
対応ワイヤレス規格はBluetooth 5.2+BLEとWi-Fi 6/6E。重量はバッテリー装着状態で625gです。もしこれからルーターを買い替えるならWi-Fi 6E対応一択ですよ。低遅延だし他のWi-Fi機器とチャンネルがかぶりにくいですからね。
前面、側面には4機のトラッキングカメラ、1600万画素のパススルー用RGBカメラ、深度センサーが備わります。なおこのテスト機は深度センサーが外されているものでした。
採用されたパネルは片目1920×1920ドット、両目3840×1920ドットの4K解像度で19PPD。視野角は110度、リフレッシュレートは90Hzです。またレンズには~6Dまでの視度補正ダイヤルつき。強度近視でなければメガネ・コンタクトいらずです。IPDは54~73mmの間で無段階調節が可能。ゴーグルをかぶったままでも動かせます。
後部のバッテリー入りストラップ部分には大きな締付けダイヤルつき。ヘッドホンのように横向きに這わせる頭頂部用のバンドは脱着可能で、必要に応じて使えます。様々な頭蓋骨・髪型の形に合わせて保持できるようにしたアイディアでしょう。
VIVE XR Eliteには後部のバッテリーが取り外せるという独特の特徴を備えます。ホットスワップに対応しており、数分間であればアプリを起動したままのバッテリー交換が可能です。
耳の後ろを抑え込むテンプルパーツに交換すると、モバイルバッテリーやPCとの有線接続で動かせるグラスモードに早変わり。VIVE Focus 3とVIVE Flowを両立したデバイスとなります。グラスモード時はバッテリーという後頭部の重しがなくなることで一気に軽量化しますね(計測値は現時点で未公開)。
テンプルはスプリング入りのメガネやサングラスのように、左右に広がる構造となっています。
フロントフェイス上部には通気口あり。
下部にはスリット、IPD調整レバーと、2つ穴があります。大きな穴は後日提供予定のフェイシャルトラッカー/アイトラッカーの固定部とのこと。小さなマイク。エコーキャンセレーション機能が備わります。
ガスケットは薄くて柔らかく、凹凸がある顔にもしっかりフィット。周囲の光をほとんど遮ってくれます。
テンプルに内蔵されたスピーカーはかなり大口径のドライバーが使われているようです。
コントローラはバッテリー内蔵式。USB Type-C端子がそなわり、充電が可能です。大きく見えますが乾電池式コントローラに慣れた身にとってはかなり軽いと感じます。
ここで、既存モデルとのサイズ差を見てみましょう。左がVIVE Focus 3、右がVIVE XR Eliteです。なお体験会時に見せていただいた資料によれば、グラスモードにすることで既存モデルの60%のサイズに収まったとのこと。
2015年に公開されたHTC Vive DK1(初代開発キット)とのフロントフェイスのサイズ差はこのとおり。隔世の感がありますね。
軽さを感じる快適な装着感
バッテリーをつけたヘッドセット状態から装着してみました。大きなサイズの頭の人にも合わせたのでしょうか。横方向にも余裕があり、締め付けた際でも装着感は上々。頭を勢いよく振ってもずれません。
Quest 2、Pico4より重く、Quest Proより軽い625gですが、前後の重量バランスに優れることと、大きな後頭部のパッドと頭頂部用のバンドによって重さが分散され、重量物を頭部につけているとはあまり感じません。
グラスモードで装着すると印象が一変しました。思わず「軽いな!」と叫んでしまうほどのインパクトがあります。フロントヘビーな重量バランスとなっているでしょうし、パーツ交換が可能なモジュール式ならではの重量増加があるでしょうけど、バッテリーレスかつ、(たぶん)エンジニアリングプラスチックを用いたことにより、かなりの軽量化となっているのではないでしょうか。
MRコンテンツを楽しみたくなるパススルーのクオリティ
いくつかのコンテンツを体験してみました。真っ先に感じたのが、視野のクリアさです。
筆者は普段Quest 2とPico 4を使うことが多いのですが、解像感は親しいものではあるものの視野の広さに違いあり。ゴーグルを被っているものの1歩前に進んで見ている感覚で、薄型・大口径パンケーキレンズを採用した恩恵がありますね。
あくまでファーストインプレッションではあるものの、Quest 2のようなフルネルレンズ由来の周辺視野の歪みや、Pico 4で見られるハレーションはナシ。Quest Proのようなスッキリと見える視界をもたらしてくれます。高価な価格帯のデバイスというだけのことはあります。
MRコンテンツを試してみるとカラーパススルーの精度に驚きます。
色の再現性もダイナミックレンジも解像度も高いですね。なにせ、手に持ったスマホの文字も読めるのですから。
近くで手をかざすなど、超近距離に障害物があると映像が歪みますが、普通に外界を見るぶんにはスッキリとしています。ステレオカメラのQuest Proと、単眼カメラだけど立体表現に難があったPico 4、両方のウィークポイントを改善してきたようです。
快適なVR睡眠をもたらすグラスモード
そして、極めて一部のVRChatユーザーの方に刺さるでしょうか。VIVE XR EliteはVR睡眠がしやすいデバイスだということが判明しました。バッテリーを装着した状態で寝ると、他のVRヘッドセットのように後頭部にある硬いパーツがストレスになります。
しかしバッテリーを外したグラスモードにすることで後頭部がフリーになります。枕に頭を載せてもゴツゴツ感は皆無でストレスを感じません。
モバイルバッテリーと接続するためのケーブルがある右側を向くとやや硬さが残りますが、左向きに寝るなら大丈夫。「○○時間寝ても大丈夫」といったテストはしていないでしょうから、テンプル部分の耐久性が気になるけれども、仲のいい友達とおしゃべりしながらのVR睡眠をしてみたいという期待感が高まっていきますね。
VIVE XR Eliteはオールマイティなハイクオリティ機
17万9000円というVIVE XR Eliteです。ライバルとなるのは22万6800円のQuest Proおよび、24万9900円のMeganeXなどとなりそう。これらのモデルとくらべてVIVE XR Eliteにはどんな価値があるでしょうか。
Quest Proは多くのユーザーを持つQuest単体アプリの開発機材として適したモデルです。モバイルなPC用大型モニターとして使っているユーザーもいるほど、映像も歪みなく明瞭で見やすいという特徴があります。フェイス/アイトラッカーや新世代SoCであるQualcomm Snapdragon XR2を採用している点も見逃せません。しかし実際のところ持ち運ぶには大きくかさばるんですよね。
MeganeXはまだ発売前ゆえテスト機にしか触れたことがありませんが、やや狭い視野に両目5.2Kの高解像パネルをあわせたことで、仮想空間を注視したときの画質が素晴らしい。ただしLighthouse環境が必要であること、VR専用であることから利用シーンを限定しています。
対してVIVE XR Eliteはオールマイティなスキルを伸ばしてきたヘッドセットです。グラスモードであればペットボトル大のケースにいれて持ち運べますし、Quest Pro級の画質も納得がいくもの。フェイス/アイトラッカーは別売りオプションの予定ですが、パフォーマーでなければまだ不要な技術といえます。
三者三様の個性を持っていますが、この中で多くの人にオススメできるのはVIVE XR Elite、でしょうね。Quest 2、Pico 4といったエントリー機や、より古い世代のVRヘッドセットからのステップアップに最適な1台になるでしょう。
(TEXT by 武者良太)