モノを書く、読む、伝える VRの「モノカキ」たちの言葉を選んだきっかけと思いは?【CLUSTARSコラボ連載・第8回】

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インタビュアーのずんださん(左端)の質問に応じる、
じむの朔さん(中央・左)、沈黙静寂さん(中央・右)、sunさん(右端)
(写真提供:蒼さん

2024年5月14日、メタバースイベントコミュニティ「CLUSTARS」は、PANORA✕CLUSTARSコラボの第8弾として、バーチャル空間で文章表現を行っている「モノカキ」の3名(「モノガタリ交流会」主催・ 沈黙静寂(しずだま しずさび)さん、「FM言ノ葉」の局長・じむの朔(さく)さん、「したため勉強会」主催・sunさん)にインタビューを行いました。

同じ「モノカキ」のくくりで集まっていますが、活動の方向性や、文章を書くことについての価値観も違う三者。そこには、お互いの創作をリスペクトする姿勢と、尊敬の念がありました。


3人のモノカキ、それぞれの方向性

沈黙さん・じむのさん・sunさんの三名は、それぞれがモノカキを軸に据えながら、「交流会やコンテストの主催」「文章に関わるラジオ」「小説執筆、勉強会」と違う方向性で活動をされています。

インタビューの序盤では、それぞれの活動内容の詳細をお聞きしました。


沈黙静寂さん 作品を見せ合う「モノガタリ交流会」

沈黙静寂さんは小説投稿サイトで自作小説を連載している「メディアノベリスト」です。クリエイターが集まるコミュニティ「A-Literary Works.」の主宰で、メタバースで行われる大規模な小説・シナリオコンテスト「バーチャルシナリオ大賞」の発起人でもあります。

沈黙さんはVRChat内で、毎週日曜日に「モノガタリ交流会」というイベントを開催しています。これは、毎回違うテーマに合わせてゲストが自分の作品をプレゼンし、沈黙さんが作品の魅力的な部分について話すイベントです。

5月中の「モノガタリ交流会」の一幕にて、
作品の感想を熱っぽく語る静寂さん。(撮影:筆者)

モノガタリ交流会では、毎回違うテーマに沿って作品が持ち込まれます。

持ち込まれる作品は小説から詩歌、台本、漫画、音声作品、落語、漫才、演劇、TRPGシステムなど多種多様。

司会進行を務める沈黙さん自身も事前にゲスト作品を丹念に読み込んでからイベントに臨んでおり、ゲストの方の作品の熱量や質の高さもあって、毎回白熱した感想のやりとりが行われています。


じむの朔さん 「FM言ノ葉」とワールド展示

じむの朔さんは、VRChat内のスタジオから配信されるYouTubeチャンネル「FM言ノ葉」を運営しています。

じむの朔さんのワールド「言ノ葉堂2号店」内にあるラジオブースのひとつ。(撮影:筆者)

おもなコンテンツは自身がMCを務める「言ノ葉ラジオ」です。この番組の特徴はおもに3つあります。

1つ目は読者投稿型企画の「きっとあなたの140文字」。X(twitter)内で、140文字に収まる作品の投稿を募るコーナーです。

2つ目は配信形式。「言ノ葉ラジオ」をはじめとした「FM言ノ葉」の番組は、YouTubeのほか、VRChat内で放送される特別な配信「VRC放送局」の協力により、VRChat内の一部のハブワールド(ワールドを紹介するためのワールド)などでも中継されており、ワールド内や動画配信サイト内での同時視聴が可能です。

3つ目は、「言ノ葉ラジオ」が終わったあとに掲示される壁新聞「言ノ葉新聞」。ゲストとのトーク内容や、投稿企画で紹介した作品のうちの一部を新聞という形でワールドやX(twitter)などに掲載しています。

また、年に一度「VR読書週間」という読書に関するVRイベントを応援するキャンペーンを行い、読書を盛り上げる活動を行っています。

2023年度の「VR読書週間」のポスター
2023年度に行われた「VR読書週間」のスケジュール

sunさん 小説執筆&「したため勉強会」

sunさんは「”あなたを主人公にする”がモットー」をキャッチフレーズとする「メタバース小説家」です。

普段はVRソーシャルユーザーを主人公に置いた小説をメインに有償依頼を引き受けています。

VR空間を中心に、依頼を受けた方や交友を持つ方など、さまざまな方を登場人物とした小説を発表しています。VRChatからcluster、MyVket、Resonite、場合によってはYouTuberの配信にも出向くなど、主要なVR空間をほぼ全て抑えつつ、そこから少しはみ出るような範囲でも活動されています。

筆者を題材にした即興小説のキャプション。
この時は10分程度のインタビューから、約20分で小説を完成させていた

長期間メタバース空間に在住していることから交友の幅も広く、自分自身が持つ小説執筆の技術や、ほかの専門知識を持つ方を講師に招いて学習をする勉強会「したため勉強会」を開いています。

「したため勉強会」の集合写真より。外部講師の講義後、主催として写真に写るsunさん
(撮影:筆者)

こちらが好評となり、別のメタバースサービスではより内容を発展させた形で有料の小説執筆講座を開き、実際に受講した方が小説で有償依頼を受けられるようになっています。


なぜ、「メタバースでモノカキ」だったのか

アバター、ワールドなどの選択肢があるなかで、文章をメインの表現として積極的に選択した三者。それぞれに、交流会やラジオ、勉強会などを始めたきっかけをお聞きしました。


沈黙さん「文章は他の表現と同じくらい奥深い」

沈黙さんの場合、メタバースで活動を始める前から、小説を含め、イラストや3Dモデリングといった創作活動を行っていました。小説を書き始めた理由は、言葉に対するこだわりと、自分自身で感じた手応えでした。

「コンセプトは一貫して、『物語の新しい形を作りたい』でやっています。絵だったら物語の風景を視覚化できますし、3Dだったら奥行きも生まれます。小説はそれらの物語のコアとして捉えています」

VRChat内にある沈黙さん作成のワールド「沈黙ノベルワールド」。
部屋内には沈黙さんの作品が展示されている他、壁には作品から引用された「言葉」が張り付いている
(撮影:筆者)

文章を書くことについて、沈黙さんは、極めようとすればするほど絵と同等の奥深さがあると話します。

もともと小説投稿サイトを中心に活動していた沈黙さんは、ただ作品を投稿するのみでは評価がされない状態をいかに打破するかを考えた末、メタバースにたどり着きます。

「形式上、他の人と同じプラットフォームを使うだけじゃ評価されないと気付いて、VRの世界に入って。これと物語を掛け算していけたら、と思い今に至ります」

冒頭に書いた「バーチャルシナリオ大賞」は、沈黙さんがやりたかったことのうちのひとつで、一年前からこういったコンテストを行いたいというアイデアを持っていたと話します。


じむのさん「読書が好きだから、言葉の創作活動を中心にラジオを作った」

別イベントの広報の一貫としてラジオを経験し、元々「パーソナリティをやりたい」という願望をもっていたじむのさんが始めたのが言ノ葉ラジオでした。

「言葉に注目したのは、元々本を読むのが好きだったっていうのと、ちょっとだけモノカキをする時があったので。話題を広げるために小説以外にも、エッセイとか曲とか、色々拾えるように『言葉を使った創作活動』を中心にしたのが、言ノ葉ラジオのきっかけです」

「言ノ葉ラジオ」は、じむのさんが運営している「言ノ葉堂」というVRChat内のワールドで行われています。このワールドにはラジオ配信用のブースのほか、専用のDiscordサーバーを通じて作者から渡された140以上の作品を、本のように閲覧できるスペースも。図書館や書店のように、新しい作品に触れることができます。

「言ノ葉堂」の本は実際に読める。写真はsunさんの作品を開いているところ
(撮影:筆者)


sunさん「居酒屋イベントの雑談がきっかけ」

sunさんが「したため勉強会」を開き始めたきっかけは、イベントコミュニティ「CLUSTARS」で行われていたイベント「居酒屋CLUSTARS したため」です。

「居酒屋CLUSTARS したため」はsunさん主催の、「CLUSTARS」内のDiscordサーバーで開かれていた接客イベントです。その中でsunさんは、主に接客応対などの会話を中心としたコミュニケーションを行っていまいした。

「接客をしているsunさんの小説の書き方を教えてとか、私の持っている専門知識について教えてほしいという需要がたくさんあったので、たまに接客中に教えたり、外部講師を招いてトークをしていました」

「したため勉強会」のポスター

そこから発展し、現在CLUSTARSが行っている学習イベントの一貫として始まったのが「したため勉強会」です。sunさんとCLUSTARSに深い関わりがあったことから、sunさんが講師サイドとして呼ばれ、現在でも不定期で講義を開いています。



読むこと、書くこと、言葉に対する思い


沈黙さん「言葉の感じ方を変えたらどうなるのかを求めたい」

沈黙さんははじめに、「文字という形にとらわれなくてもいいと思っている」と切り出したうえで、

「僕にとって言葉は記号でありメディアだと思ってるんですね。記号といっても文字・音声・手話、世の中のもの全てが記号でありメディアというふうにいえるんじゃないかと思っています」

文字や言葉そのものが持つ形式を変えることで、感じ方がどう変わるのか、という鑑賞体験を追求していきたい、という思いがあると沈黙さんは話します。

「普段のコミュニケーションからそういったことができるんじゃないか、と思っています。VRはその先端的な場所なんじゃないか、というふうに思っています」


じむのさん「言葉は鏡」「もっと読書を盛り上げたい」

じむのさんは、自分にとっての言葉や文章は「鏡」であると語ります。

「言葉を読んだときにどう感じるかって、結構その人を反映させているような気がするんです。同じ人が『走れメロス』を読んでも、子供のときと大人になってから読むとで違う感想を持つこともある」

川柳や短歌など、短い作品を読んだとしても、どんなタイミングでどんな感情で作品と向き合うかによって、持つ感想は全く違ってくるとじむのさんは語ります。

また、じむのさん自身が「VR読書週間」を押し出しているように、メタバースでの読書をもっと盛り上げたい、という強い思いがあります。

「小説とか文学とかもっと盛り上がってほしいと思うんですけど、どういう切り口で盛り上げるのが良いか攻めあぐねている。色んな可能性を探るためにも、毎年『VR読書週間』をやって、コラボレーションを重ねていくなかで、モノカキをするひとが、VR空間をより楽しめる環境作りを頑張っています」

インタビューに答えるじむの朔さん(提供:蒼さん


sunさん「私に出来ない体験をさせていただいてる」

文章を書くことを「快楽」と言い切り、楽しんでいるのはsunさん。そこには小説執筆で培った、他者との会話や体験談に触れることが深く関わります。

「私自身が体験できないことを、他の方を通して体験できる。これはかなり贅沢な体験。その人の美しい部分を、ひとつの本としてフルパッケージする、それが私にとっての文字、小説、そして言葉です」

インタビュー終了後、来場者とともに記念撮影をする一同
(提供:蒼さん

*連載一覧はこちら → CLUSTARSコラボ連載

(TEXT by 改札口西口

 
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