『私』がヰ世界情緒になっていく 8/7、3rdワンマンライブ「Anima III」直前1万字インタビュー

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KAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルダークシンガー・ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)による3rdワンマンライブ「Anima III」が、8月7日に開催される(会場チケット配信チケット)。

KAMITSUBAKI STUDIOのシンガーとしてファンタジーな世界観を構築し続けてきた彼女。これまでいくつものライブに出演してきたわけだが、これまで2度あったソロライブはVRやネット空間を使った3Dライブ。今回の「Anima III」は、彼女のソロライブとして初めての現地ライブとなる。

今回のインタビューは連載「Pop Up Virtual Music」特別編として、最新作「色彩」を振り返りながら、ヰ世界情緒から自身のパーソナルな部分や感性(フィーリング)をうまく言葉として紡いでもらった内容となった。

彼女にとっての音楽とは?歌とは?「色彩」とは? 特に印象に残ったのは、『私』がヰ世界情緒になっていく──。ヰ世界情緒と一体になって、創作により通して自分の感覚を投影していく過程の話だ。

これまでのヰ世界情緒、これからのヰ世界情緒を知るための言葉が、ここにある(以下、敬称略)。


創作者・ヰ世界情緒の横顔

──いきなりなんですが、「歌手」としてデビューしてこれまで歌を何度も披露してきたと思うんですが、ステージの上で人前で歌を唄うというのは情緒さんにとってどういうお気持ちなんでしょう?

ヰ世界情緒 幼い頃から考えると、小学生くらいのころにお友達を集めてライブをしてみるというのはやっていたんです。「誰かを楽しませる」「誰かを喜ばせる」というのがすごく好きだったのですが、歌よりも絵を描くことが生活のメインになっていったんです。

絵を描くことは個人競技みたいなところで、自分の体を使ってみてもらって楽しんでもらうというところからは離れていったと思うんです。いまはライブを通して、誰かに喜んでもらうという楽しさや喜びを思い出していってるのかなと思います。

 
──「絵を描くことは個人競技」と表現をする方、なかなかいらっしゃらないなと思いました。

ヰ世界情緒 「絵を描くこと」は1人で完結しますが、「歌を唄うこと」は1人では留まらないことが多いと思います。他の方と一緒に歌うことももちろん、カバーをするときは他の方の楽曲を歌わせてもらう形ですし、レコーディングでミックスをしてもらう際は専門の方に頼むわけで、「絵を描く」よりも他の人の手が加わる印象があります。最後まで作り上げるときに、一人でやり終えているのかどうか?というところで大きな違いがあると思います。

 
──確かに仰るとおりですね。「ヰ世界情緒」というバーチャルシンガーとしてデビューするキッカケ・理由はどういったものでしたか?

ヰ世界情緒 もともと歌を唄うことと絵を描くことがどちらも好きで、当時は絵を描くことを活動の軸にしたいと思っていたんです。ただ、心のどこかで「歌は誰かと一緒に作ってみたい」という意識も強くあって、趣味の延長線で歌を唄えるものにいろいろ応募をしていたんです。

アイドルだったり、声優に近いようなものにも応募しましたが、その中でバーチャルシンガーが一番自分のやりたいことにマッチしてるなと思って、「ヰ世界情緒」として今に至った感じです。

 
──なるほど。自身が活動をスタートする前、もしくは活動している現在でもいいんですが、自身が憧れていたり参考にしているミュージシャンやシンガーはいますか?

ヰ世界情緒 歌手の方だと宇多田ヒカルさんや藤井風さんが好きです。あとはインストゥルメンタルな楽曲が好きなんですけど、そちらだと北欧の方でオーラヴル・アルナルズさん(Olafur Arnalds:アイスランド出身のポスト・クラシカル系音楽家)が好きです。ゲーム音楽だと下村陽子さんなどが好きですね。

世界観がしっかりとしていることはもちろん、歌だけではなく最近では作詞をすることも増えているのですが、宇多田ヒカルさんや藤井風さんの歌詞は参考にさせてもらっています。

 
──宇多田さんや藤井さんはどの曲がお好きですか?

ヰ世界情緒 宇多田ヒカルさんは「キングダムハーツ」シリーズの曲が好きで、「Passion」がすごく好きですね。ああいう不思議な世界観で浮遊感ある曲調の宇多田ヒカルさんの曲が好きです。元々家族も好きで聞いていたんですけど、自分の意志で「好きだな」と思えるようになっていきました。

2024年8月5日に投稿された「Simple And Clean」は「キングダムハーツ」の主題歌「光」の英語バージョンである

 
──藤井さんはどういった経緯で?

ヰ世界情緒 たまたまYouTubeで見かけたライブ映像を見たのがきっかけですね。「死ぬのがいいわ」のライブ映像だったんですけど、「音楽をこんなに楽しそうに人前で表現できる人って存在するんだ……」みたいな衝撃を受けたんです。ライブをする身としては「みんなにどうやって楽しんでもらえるか?」を考えることが多いんですけど、藤井風さんは音楽そのものをその場にいる全員で楽しもうという感覚がすごくあって、そこに惹きつけられたし、憧れますね。

 
──今後自身の活動のなかでコラボしてみたいミュージシャンやアーティストはいますか?

ヰ世界情緒 歌うことはもちろん大好きなんですが、先ほど話したように人の声が入ってないようなインストゥルメンタルが好きなんです。ゲームのBGMとかで人間の声が楽器や道具のような形で使われたり、表現されている音楽ってあるじゃないですか? ああいう世界観を表現するような曲がとても好きなので、特定の誰かというより、そのジャンル・作品でコーラスがほしいと悩んでいる方がもしもいれば立候補したいです(笑)

 
──面白いですね。自分がメインとなるような楽曲ではなく、しかもコーラスを想定していらっしゃる。

ヰ世界情緒 世界観の一つになりたいんですよ。自分の音楽もなんですけど、歌を含めた世界観を表現したいというのが大きくて、世界観を構築するような音楽を作れればいいなというあこがれはあります。

 
──最近心に残った作品やハマった作品はありますか?

ヰ世界情緒 SF小説の「ソラリス」*という作品ですね。学者さんが地球じゃない惑星に行って、そこにある海と対話するっていう話なんです。

*編註:ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムが1961年に発表したSF小説。何度か映像作品化されており、20世紀のSFを代表する作品と評価されている(Amazonアソシエイト)。

 
──かなり昔の作品を読まれるんですね。これまでに一番ハマった作品をあげるなら?

ヰ世界情緒 「キングダム ハーツ」シリーズですね。シリーズ作品のほとんどプレイしてますが、中でも「キングダム ハーツ2」が一番心に残ってます。

初めてプレイした頃、わたしは田舎に暮らしていたんですが、「いろいろな世界を股にかけて冒険していく」というのが当時新しく映って、「こうしていろんな世界へ自由にいけるんだ」とゲームを通して教えられたので、とても記憶に残ってます。あと、扱っているテーマが「愛」や「友達」とまっすぐなモノが多くて、そこが自分が好きで、影響を受けてますね。

 
──ここ1、2年でルーティーンになっていることはありますか?

ヰ世界情緒 えっとですね……悩むこと……ですかね?(笑)

 
──えっと……それはどういう流れの中で起こるんでしょう?(笑)

ヰ世界情緒 すこし考えてみた時に、日常生活のすべてが創作に繋がっているなと思ったんです。なかなか理想に近づけない中で、自分の内側に内側にと考える時間が自分は多いなと気づいて。正確にいうと”悩む”ではなく”空想する”といったほうが合ってるかなと

 
──ご自身の楽曲・音楽について考えてらっしゃるんですか?

ヰ世界情緒 それもありますし、それ以外にも自分の中で考えている創作のお話だったり、絵のことだったりですね。むしろ自分からそれが無くなってしまったら、自分はなにをしている存在なんだろう?と思えるくらい、何かについて考えたり、何かを作っている時間が多いですね。

 
──花譜さん、理芽さん、春猿火さん、幸祜さんの4人とは長く活動を共にしていますが、出会った当時から今にかけて印象はどのように変わりましたか?

ヰ世界情緒 いい意味でみんなの印象は変わってないですね。花譜ちゃんはささいなことでもよく笑う人だし、春猿火ちゃんは繊細なんだけども芯がしっかりある強い人で、理芽ちゃんは底抜けな明るさがあって、幸祜ちゃんは視野が広くてしっかり者です。みんな裏表がなくて真っ直ぐな人たちだから、距離が縮まったことで見える部分が増えて、一層その印象が強くなった感じです。


──日々のやり取りで冗談を言い合ったり、そもそも一緒に活動する時間も増えてきたからこそですよね。プライベートなお話もしたり?

ヰ世界情緒 それはあると思います。プライベートな話題もかなり話しますよ。最近あったことで楽しかったのが、春猿火・花譜・ヰ世界情緒で集まることが多いんですけど、「最強のかき氷を作ろう」というテーマで集まったんですけど、一生懸命氷を作ろうとしても水にしかならなくて、3人でめちゃくちゃ笑い転げてました(笑)

あと、わたしたち5人で繋がってるグループチャットがあるんですけど、理芽ちゃんから急にグループ通話が来て「ゲームしよう?」っていう通話が来たことがあります。たぶん皆さんから見えている以上に、私たちは一緒に遊んだり楽しんだりする機会は多いです。


アルバム「色彩」は無意識に思っていたことがテーマになった?

──これまで多くのオリジナル楽曲を歌ってきましたが、ご自身のお気に入りの1曲あげるとするならどの曲でしょう?

ヰ世界情緒 うーん……「そして白に還る」ですね。この曲は伝えたいことややりたいことがすごく真っ直ぐで、荘厳な世界観がしっかりとあって情景がハッキリ見える曲だと思うんです。曲自体が持っているパワーもすごく好きですし、そういう世界の中で歌を唄えるという行為そのものが楽しいというところもあります。

 
──アルバム「色彩」のなかには、今お話しされた「そして白に還る」のほかに、「パンドラコール」「かたちなきもの」「暮れなずむ約束」「キミ消失セカイ」「ラピスのお人形」と6曲が先にリリースされています。アルバムのコンセプトや「こういう感じにしよう」と形が見えてきたのはいつ頃でしょうか?

ヰ世界情緒 「色彩」という言葉がアルバムを総括するような言葉だなと思ったのは、2023年6月の2ndワンマンライブ「Anima Ⅱ -神椿市参番街-」をやり終えたときでした。

このライブのMCで色について話したりなどしていて、いろいろな側面や奥深さを「色彩」という言葉に感じたんです。最初はコンセプトを定めたりや特徴を狙って作っていこうとはしていなかったんですが、作家さんなどには「皆さんの思うヰ世界情緒の世界観を描いてほしい」というオーダーをよくしていて、結果的にいろんな曲調がありつつ、それぞれ繋がりがあるとも思えたんです。

こうして4年近く活動してきて、ある程度わたしのイメージが定着してきたからこそこのような形になったのかなと思います。

 
──自分は今回のセカンドアルバムを聞きつつ、前作「創生」も同時に聞いていて感じたのは、前作は情緒さんの声の高い部分がよく拾われていて、今作は声の低い部分がよく使われているなと思ったんです。活動してきてボーカルとして使える声の幅が広がったり、歌い方が多彩になったり、いろんな意味で成長したり大人になったからこその変化だと感じました。「この曲は歌うのが難しかったな」「この曲は歌うのが楽しかったな」など記憶・思い出があれば教えていただきたいです。

ヰ世界情緒 「グレイスケイル」は歌っていて楽しかった記憶があります。歌い上げるような曲ももちろん楽しいんですが、声そのもので遊ぶような楽曲も自分は好きで、そういった域に挑戦できたのがこの曲だったかなと。自分の声の可能性をもっと広げたり、その土壌で遊んだりするような楽曲に、これからも挑戦できれば嬉しいです。

 
──絵を描くことが情緒さんのなかで大きなウェイトを占めているという話を先に知りまして、そもそも情緒さんの活動のなかで「色」というのが大きな軸だったり、繋がっているテーマなんじゃないかと思ったんです。そこで色々調べたんですが、情緒さんはご自身の中で「色」について歌った曲がいくつあるかご存知でしょうか?

ヰ世界情緒 セカンドアルバムについては、意識的にテーマカラーを浮かべながら作家さんにお願いしていた部分はありました。「この曲は灰色かな」みたいな感じで。「色とりどりに色んな曲をやりたいね」という話はファーストでもセカンドでもスタッフさんと意識はしていて、ファーストではあえてぜんぜん違う曲調にトライしたり、セカンドでも結果としてそういう部分はあったかなと思います。

 
──情緒さんの楽曲で歌詞の中で「色」という言葉が使われた曲は、実は14曲ほどあって、ファースト・セカンドともに7曲ずつあるんです。これまで合計30曲ほど歌ってきた中で、半分近い曲で「色」と歌っていますし、赤・青・緑・灰色・白といった言葉を加えるともうちょっと増えるんです。ヰ世界情緒さんは多くの楽曲で、「色」という言葉でなにかを語ったり、何かしらの色についての言及があると。

ヰ世界情緒 それはぜんぜん知らなかったです(笑)。作家さんからそういうイメージを持たれているということですかね?

 
──それは何とも言えないですが(笑)なので、絵を描かれる情緒さんがアルバム名で「色彩」というタイトルにするのも、ある意味では必然だったのかなと思ったりもしました。

ヰ世界情緒 音楽や創作はなにか色を付ける行為だとずっと思っていたんですけど、「普遍的なことに色を付けることができないと、世界は楽しくないかもしれない」みたいなことを、これまでのライブを通して改めて感じたんです。

だからこそ「色彩」という言葉が良いテーマだなと思えたし、それはたぶん創作をしているとき、たとえばファーストアルバムを作っているときの自分も何となく感じ取ってはいたと思うんです。ある意味では一周戻ってきて自覚できるようになったのかな?と思いますね。

 
──このアルバムのなかでコアになる曲を1曲選ぶとするとどの曲でしょう?

ヰ世界情緒 1曲選ぶとすると「かたちなきもの」ですかね。初めて作詞をしたということもあって思い入れが強いのと、この曲は創作に対する気持ちやメッセージを書いた曲なんです。

普段から創作というものについて思っていることを書いた分、他の曲に込めていた気持ちや根幹の部分を歌っているような気もするんです。そういう意味で、このアルバムでコアになるのかなと思いました。

 
──実は自分も「かたちなきもの」がコアになる1曲なのかなと思っていて、いま恐る恐る質問させてもらったんですね。というのも、この曲の歌詞で「色彩」という言葉がサビに使われているんです。なので、この曲こそがアルバム「色彩」のコアなんじゃないか?と。

ヰ世界情緒 あ!そうだ!確かに「色彩」と書きましたね!(笑)。点と点が線になって繋がるみたいな感覚がは自分の中にあるんですけど、仰るとおり、確かにこの曲で歌っていることは、自分がアルバムの中でテーマにしていた「色彩」そのもの、同じ意味だなと思いました。

色めく世界どこまでも
増えていく色彩に
高鳴るほら子どものままに
大事な約束の彼方
柔らかな光を抱いて
真っすぐ歩いていけるように
指の隙間に願いをひとつ

(「かたちなきもの」歌詞より)

 
──「増えていく色彩」と書かれているように、さまざまな経験を経ていろんな考え方・感じ方ができるようになった上で、いまヰ世界情緒としてどういう歌を唄えるか? フィーリングを表現できるか? ということにトライした1枚だと、このアルバムを聞いて僕は感じました。リリースを終えてライブ直前となった今、アルバム「色彩」をどのような作品だと思っていますか?

ヰ世界情緒 こうしてお話しをしていて、自分がずっと思っていることとかを歌にしたり、無意識に思っていたことをテーマにしたアルバムだったんだなと思います。いまはセカンドアルバムを出してサードステップを踏もうとしているところで、色彩の感覚や自分の大切なものを軸にしながら、もう一歩、別の何かに進まなくちゃいけないというのも感じていて、「好き、だけじゃなくて、自分には何ができるんだろう?」というのを考えている感じなんです。

それがなかなか難しくて、壁にぶつかることもあるんですけど、自分のペースで向き合って行けたらいいなと思っています。


最後には「楽しかったな」と一言言ってもらえるようなライブにしたい。

──これまでの活動の中で、ソロ公演含めて何度もライブ公演・ステージをしていますが、ご自身が出演した思い出深いステージがあれば教えてほしいです。

ヰ世界情緒 やっぱりファーストワンマンライブですね。いま見ると緊張しているがゆえの拙さだったりだとか、色々と粗があるんですけど、初めて自分の歌、何より気持ちを聞いてもらえた感覚があって、自分の感情変化の転機になったライブだなと思います。

あと直近で開催されたV.W.Pでの2nd ONE-MAN LIVE「現象II-魔女拡成-」も記憶に鮮明に残ってます。代々木第一体育館という会場のスケール感に圧倒されたのもそうですけど、自分1人ではなく5人で作り上げたライブだったので、仲間がいるからこそ思える楽しさや達成感があったんです。なのでこの2つのステージは思い出深いですね。

 
──1月に開催された「神椿代々木決戦二〇二四」を皮切りにして、ライブツアーともいえる「KAMITSUBAKI WARS 2024」を中心にして多くのライブが開催されていますが、なにか感じたことがあれば教えていただきたいです。

ヰ世界情緒 いままでは自分ひとりでライブを行なうことが比較的多かったんですけど、今年1月の「現象II-魔女拡成-」に向けてV.W.Pみんなと話す機会が以前に比べて多くなって、たくさんの人と関わり合って一つのものを作っていく楽しさを、この期間中に真の意味で感じられたんです。

「自分はどういう風にこのグループを輝かせられるんだろう?」と考えたし、それ以上に「5人で居れる楽しさ」「5人で歌える楽しさ・かけがえなさ」とか、いままでそばにあったけど気付けなかったものに気づけたのが、この半年での大きな変化でした。

 
──かなり濃い半年間だったんだなと伺ってても感じます。情緒さんのなかで一体感を持てていたということなのでしょうか?

ヰ世界情緒 そうですね。いままではチームごとに活動している感覚だったんですが、いまはそこの垣根がすこし無くなってきたなと個人的には感じますね。それに4年も活動していると信じがたいことに後輩もできて、その中でどうやってKAMITSUBAKI STUDIOと一緒に前に進むのかと考えることもあり、この半年で変わってきたのかなと思います。

 
──そんななか、ご自身にとって今回のライブ「Anima III」にむけてどのような意気込み・狙いをもって臨んでいるでしょう?

ヰ世界情緒 自分にとってはデビューしてから4年半越しの現地ソロライブになるんですけど、「現地でライブがしたい!」というのはデビューする前からずっと言ってたことで、活動の初期の初期から話しをしていました。

いままで自分のソロライブはバーチャルな空間でやらせてもらっていて、現地でのソロライブはあこがれの舞台ではあったんですけど、その舞台を私だけじゃなく、いままで応援してくださってたファンの皆さんも心待ちにしてくれていたと思うんです。

まずは、そんな皆さんと一緒に真っ直ぐなライブを作りたいなという気持ちがあります。初めての現地ライブだからと奇をてらったようなことを狙うのではなく、まずは真摯に自分の曲と歌をファンの皆さんに届けたいなと思ってます。こんな歌が歌えたらいいなとかそういうのも込みで、最後には「楽しかったな」と一言言ってもらえるようなライブにしたいです。


「私」とヰ世界情緒がライブを通して重なっていくようになった

──ヰ世界情緒さんといえば、ファンタジーかつヨーロピアンなビジュアルをされているのが特徴的ですが、デビュー当時ご自身はどのように思っていて、今はどのように捉えていますか?

ヰ世界情緒 昔は「すごく可愛いなぁ」「この姿で歌を唄えて嬉しいな」と思っていました。ただデビューした当初は、ヰ世界情緒と「私」を切り離してみていたので、自分自身としてではなく「なにか作品を作っている」かのような、そういう風に向き合っていたところはありました。このファンタジックな見た目も、キャラクターとして見たときに”属性”みたいなことになるじゃないですか?

 
──確かにそうだと思います。

ヰ世界情緒 本当の「私」はそうじゃないけど、キャラクターとして自分自身を表象されているような感じを受けることがあって、そことの折り合いの付け方は一時期難しく感じたし、じつはいまでもバランスを取るのに悩むこともあります。

でも「ファンタジックでミステリアスな女の子」みたいなところから、配信などで話をしている等身大の「私」まで、全部ひっくるめてヰ世界情緒なんだと私の中でもファンの皆さんの中でも形作られていったときに、改めてこの体で歌を唄えて嬉しいなという気持ちが生まれました。

活動の途中から「私」と情緒がライブを通して重なっていくようになって、カテゴライズされない”何か”にファンの皆と一緒になって生み出せている。紆余曲折がありましたが、すごく幸せなことだなと思っています。

 
──すこし前に開催されていた春猿火さんのワンマンライブを見させてもらったとき、春猿火と”自分自身”のギャップにすごく悩んでいたというお話しをMCでしていたのをみていて、同じような悩みや感覚を持っているのかな?と思ってこのご質問をさせてもらったのですが、情緒さんとしてはどうなのでしょう?

ヰ世界情緒 それは大いにあって、他の方ともお話しをしていても、バーチャルでの活動はやってみないとわからないことがとても多いなと感じています。自分の中では「名前のない気持ちだな」と思って処理しちゃうことも多いです。

バーチャルの活動って、知らない人からすればキャラクターかもしれないけど、自分たちからすれば体の一部だから殴られたら痛いし、褒められたら嬉しい。そこの間にズレが生まれちゃうとすごく苦しくなっちゃうし、それは共感を得にくい感覚なのかなというのは、自分含めて思うことですね。

そういう側面もありつつ、そこの辻褄を合わせたり、より自分自身とキャラクターとが近づくことができているのはすごく幸せなことなのかなとも思います。

 
──”ヰ世界情緒”という言葉・イメージ・存在がこれまでは外側にあったのが、今はどんどん自分自身の内側に、むしろ心のなかに宿るようになったようなニュアンスかと思いました。

ヰ世界情緒 そうですね。なにかを発言するときはいちど立ち止まって、「む!これは……」とフィルターを通すような感じではいたんですけど、いまはもう「無」に近いです。ほとんどそういったことを意識しなくはなっていて、仰るように外側に向けていた意識が内側に向いているような気がします。


──なるほどです。またすこし違った質問なのですが、「VTuber」「バーチャルシンガー」といった存在・ポジションが徐々に認知され、受け入れられている状況となりつつあるなか、ご自身はここまでの活動を通してどのように捉えてますか?

ヰ世界情緒 「VTuber」や「バーチャルシンガー」といった領域はとても可能性にあふれた存在だなと思います。最初にお話したように、私は幼少期から創作がすごく近くにあったので、自分のいきたい場所ややりたいことに対して……もっというと絵を通してそこに近づけてたと思うんですけど、自分の体を拡張することで、よりなりたい存在になれたり、行きたい場所に行けるようになった。個人的にはこの時代に生まれてよかったなと思っていることのひとつです。

これからもバーチャルの分野はいま以上に大きく、自由に、変幻自在なものになっていくと思うし、そんな未来が訪れれば良いなと思ってます。

 
──もしかすれば、「バーチャルシンガー」「VTuber」という在り方がなければ、自分が歌手になるということもなかった?

ヰ世界情緒 創作を通して享受していたことや、やりたかったことに近づける手段・方法が、もう一つ増えたという感覚に近いです。歌手やそういったところはいったん横に置いておいて、「バーチャル」という媒体・世界そのものに近づける手段を、この時代だからこそもらえたという感じで、それが自分にとっては非常に重要で、大きいなと感じています。できれば無くなってほしくないなと思いますし、居られる限りはその輝きを近くで見ていたいなと思っています。

 
──最後に。「音楽」や「歌」というのは、今自分のなかでどういう存在・立ち位置にありますか?

ヰ世界情緒 「音楽」や「歌」は自分にとって、世界に色を付けたりするものだと思ってます。でもどうなんでしょう、世界なのか心なのか……何が引っ掛かって自分は創作をしているのか、そこはいまはボンヤリとしていますね。

自分はいま、音楽を一切聞かずに、創作を一切せずに生きていってくださいと言われたら、「自分が生きている」という絵が全然見えないんですよね。音楽や創作といったものが無いと、自分の身の回りにあるものを享受できない部分が自分にはあって。

悲しいことや嬉しいこと、起きた出来事を全部わかちあって託し合ってきたものが自分にとっての音楽であり、創作なんです。バーチャルな姿と一緒で、限りなく自分にちかい、一心同体なものが「音楽」なのかなと思います。


(TEXT by 草野虹

*本連載一覧はこちら → Pop Up Virtual Music


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