8月21日、人気アイドルVTuberグループ「ホロライブ」の2期生で、先日デビュー2周年を迎えた湊あくあさんが1stソロライブ「湊あくあ アニバーサリーライブ 2020 『あくあ色すーぱー☆どり~む♪』」をオンラインで開催。その模様は、日本のニコニコ動画と中国のbilibiliで同時配信され、「あくあクルー」(ファンネーム)を中心に多くのVTuberファンを熱狂させた。
サプライズ披露された初オリジナル曲を含む全16曲、約100分に及ぶバーチャルアイドルライブをレポートする。
開幕から緊張感を感じさせない歌とダンスを披露
開演時間の10分前、「みなさんどうも、こんあくあー。ホロライブ所属のバーチャルアイドルメイド湊あくあでーす」というおなじみの挨拶とともに、あくあさん自身による影ナレが流れると、待機していたファンも一斉に「こんあくあー」とコメント。リアルのライブとは異なり、自分以外のファンの姿を見ることはできないが、PCの画面からもその存在感と熱気は伝わってきた。
流れていたBGMが止まり画面が暗転。ライブのタイトルロゴが全面に映し出されると同時に1曲目「オツキミリサイタル」のイントロが流れ出し、あくあさんの1stソロライブがついに開幕した。まず1曲目の冒頭から引き付けられたのはカメラワークで、いつものマリンメイド衣装を着たあくあさんの姿を正面少し下から寄り気味のショットで捉えた後、一瞬カメラを斜めに引いてステージも見せてから、またあくあさんに寄っていく。冴え渡るカメラワークは、そのあとも全編通してライブをさらに盛り上げていた。
あくあさんも1曲目から、歌にダンスに可愛さ全開。キーもテンポも激しく変わるじんさんのボカロ曲を歌いながら、リズミカルにサイドステップを踏み、にっこり笑顔でジャンプ。サビではカメラを通して見守るファンに両手でエールを送ると、敬礼しながらウィンクで決めポーズを見せた。
2曲目は、去年のバレンタインデーに歌ってみた動画(カバー動画)を公開したYunomi & nicamoqの「インドア系ならトラックメイカー」。あくあさんにとっては初めての歌動画だったこともあり、思い入れの強いファンも多いのか、特徴的なイントロが流れた瞬間、「トラックメイカー!」と叫ぶようなコメントが大量に流れていく。筆者もあくあさんの「トラックメイカー」の歌動画は何度も観ているが、3Dモデルの姿で歌って踊る姿を観るのは初めて。間奏で、両手を後ろに広げて飛行機ごっこをする子供のようにステージを飛び回り合間合間に決めポーズをする姿には、可愛さメーターが早くも振り切ってしまった。
影ナレと同じく定番の挨拶から始まった最初のMCでは、「思ったよりもめっちゃ緊張していてヤバいかも」と心境を語ったものの、「みんな、盛り上がる準備できてるー?」とファンを煽る様子からは過度な緊張は感じられない。あくあさん自身も、初めてのソロライブを楽しんでいることがうかがえた。
超人気曲「ダダダダ天使」が4曲目という攻めたセトリ
「ロックでテンションが上がる曲、いっちゃおうかな」という曲振りから始まった3曲目は、人気アニメ「けいおん!」の挿入歌「ふわふわ時間」。ふわふわ天然キャラの平沢唯(CV:豊崎愛生)が歌う超人気アニソンは、あくあさんの柔らかかな歌声と相性抜群で、歌配信でも何度も歌ってきた十八番の曲。片足を上げながらリズムに乗る姿が可愛すぎるエアギターも披露し、予告通りにファンのテンションを上昇させた。
その高まったテンションは、続く4曲目、ナナヲアカリさんの「ダダダダ天使」でさらに上昇していく。歌詞の中で描かれる「ダメ天使」と、自称「大天使」なあくあさんとのキャラクター的親和性も高く、デビュー1周年記念に公開した歌動画の総再生数は現在505万回を突破。カバー曲ながら、アイドルVTuberとしてのあくあさんを象徴する曲だ。そのため、筆者もこの日のセットリストに入っていることはほぼ確信していたが、ライブ序盤での披露は想定外。クライマックスを担う曲の一つだと想像していただけに、この後に披露されていく曲への期待値がますます膨らんだ。
また、この曲では、バーチャルアイドルのオンラインライブだからこそ可能な演出やカメラワークも大きな見どころに。歌詞の文字は3DCGで描かれ、空中や床に表示。斜めアングルの多用や急接近、カット切り替えの連続などカメラワークはさらに自由度を増し、まるでMVを観ているようだった。
最初のMCパートでは、「本当にたくさんの人に聴いてもらった曲です。絶対にライブで歌いたいと思っていて。念願のソロライブで歌うことができましたー」と「ダダダダ天使」への思いも明かしたあくあさん。今日のライブが2周年のアニバーサリーライブであることを改めて語ると、気持ちが高まったのか「2周年~」と叫びながらステージを駆け回り、さらにファンに向けて「ありがとうございます」と感謝の土下座を披露。ついさっきまで、歌とダンスでファンを魅了していたアイドルとは思えない行動だが、そんなギャップも魅力の一つ。さらに、この後のサプライズを予告し、「みんな、このまま待っててね。ステイ、ステイ!」と言いながらステージの下手に退場しようとするが、「あ、間違えた!」と言い残して上手へと消えた。
その後、画面には「しばらくお待ち下さい」という文字と、あくあさんの公式イラストレーター・がおうさんの描いたライブのメインビジュアルが表示。数十秒後、イラストと文字が消える。暗闇の中にさっきまでとは異なるステージの輪郭が見えて、明るくなると、そこがファンタジー感あふれるお城だと分かった。そして、中央上段の扉が開き、メインビジュアルで描かれた華やかなドレス姿のあくあさんが登場。まるでお姫様のようにおしとやかに、ゆっくりと手を振りながら階段を降りていく。
しかし、ステージ中央に辿り着くと、いつものハイテンションに戻って、ドレスをデザインしてくれた「がおうぱっぱ」への感謝を語り、「私のお城」の豪華さにも大興奮。「こんな豪華な衣装や豪華なステージを用意してもらったので、それに応えられるように、私も慣れないダンスや歌をたくさん練習してきました。今日はもっともっとアイドルらしいところを見せたいなと思っています」と宣言。
5曲目には、新人アイドルの思いを歌ったHoneyWorksの「私、アイドル宣言」を熱唱。歌声もダンスも明るく元気で、ポジティブオーラ全開なアイドルのステージを見せた。
声優アイドル曲のコーナーも神曲を連発
6曲目は、アニメ「冴えない彼女の育てかた」のオープニングテーマ「君色シグナル」。アニソンシンガー・春奈るなさんの代表曲の一つで、あくあさんの伸びやかな高音の魅力もいかんなく発揮される選曲だった。さらに、青春の甘酸っぱい片思いを描いた歌詞や、そのイメージにぴったりの可愛い振り、清楚なドレス姿などもあいまって、あくあさんからは、この日一番の「大天使」オーラを感じた。
7曲目は、1月に開催されたホロライブの全体ライブ「hololive 1st fes.『ノンストップ・ストーリー』」のソロコーナーでも披露し、超満員の豊洲PITを熱狂させた松浦亜弥の「桃色片想い」。「ノンストップ・ストーリー」でも、すでに完成度は高かったが、特にダンスに関しては、さらにレベルアップ。振りが大きくなることでさらにメリハリが増し、顔の向きなど、より細かな部分も意識していることが想像できるパフォーマンスだった。
また、豊洲のステージでは、事前予告も無いまま披露し完全に「初見殺し」の状況だったため、ほとんどのファンが対応できなかった間奏のオリジナルコール「あーくあくあ、あっくーあー!」にも再チャレンジ。今回は、あくあさんの声に合わせて大量のコメントが流れて大成功。あくあさんもファンも一緒にリベンジを果たした。
ダンスレッスンの大変さなどを語ったMCを挟み、8曲目からは、あくあさんが大好きという声優アーティストや声優アイドルの楽曲のパート。水瀬いのりさんの「アイマイモコ」では、ステージ上の何もない場所に「すき」という文字やハートを書くと、光の線になって見えるバーチャルなライブらしい演出も。
9曲目は、坂本真綾さんの名曲「プラチナ」。比較的スローテンポで歌い上げるような曲が2曲続いたが、安定したボーカルでファンを引き込んでいく。
MCでは2曲に込めた思いを、「この曲(『アイマイモコ』)は、『徒然チルドレン』というアニメの曲なんだけど。甘酸っぱい青春の1ページを刻むような気持ちで歌いました。まあ、青春とかよく分からないんですけどね。そして、坂本真綾さんの『プラチナ』は、(主題歌の)『カードキャプターさくら』のさくらちゃん(木之本桜)になりたいという気持ちで歌いました。まあ、なったことないので分からないんですけど」と説明。若干の闇も感じさせるコメントで、アイドルライブながら笑いを取りにいくところもエンタメ意識の高いあくあさんらしい。
10曲目と11曲目は、あくあさんの大好きなアニメ「変態王子と笑わない猫。」の主題歌コーナー。小倉唯さんが歌うエンディングテーマ「Baby Sweet Berry Love」と、田村ゆかりさんが歌うオープニングテーマ「Fantastic future」を披露すると、MCを挟まず、田村ゆかりさんのライブ定番曲で「世界一かわいいよ」のコールでも有名な「fancy baby doll」も熱唱。3曲連続、アップテンポの曲を振り付きで歌いきった。
MCでは、声優として活動しながら、アイドルのように歌って踊ることもできるアイドル声優への憧れを語り、「少しでも近づけたら良いなと思って、歌わせていただきました」とアイドル声優の楽曲のカバーを披露した理由を明かした。普段の配信時から声が可愛く、歌唱力も高いあくあさんだけに、どんな曲でも魅力的だが、この日の声優アイドルカバー曲の中でも特に筆者の印象に残ったのは、田村ゆかりさんの曲。意識的に寄せているのかは分からないが、声の印象だけでなく、耳に甘く残る独特な歌い方も原曲のイメージと重なった。
「ここでは終わらず、もっともっと高みへ」と3年目への宣言
続くスクショタイムでは、ティアラや、ゆらゆら揺れるドレスのスカート部分など、新衣装のお気に入りのポイントを紹介。「がおうぱっぱ」が付けてくれた腰の小さな羽も、「大天使あくあ」としては外せないポイントとのことだ。また、ファンの代わりに、無数のサイリウムが並ぶ客席を紹介した後、「次はオンラインライブではなく、オフラインライブを絶対にやろうね」とも語った。
さらに、「ここからエモムードなので、エモい感じで待機しといて」と予告した後、デビュー当時からの思いなどを振り返っていく。
「2年間、たくさんの困難だったり、楽しいことも嬉しいこともいっぱいあって。そういうたくさんの経験を積んで、学んで、成長してきました。例えば、コミュニケーションが苦手だったりしたけど、頑張って他の人と一緒に遊んでみたりとか。配信もどうやったらもっと面白くできるんだろうなって考えたりとか。ライブだって、運動めっちゃ苦手だけれど、『歌いたい! 踊りたい!』と思って、頑張って一歩を踏み出すことができた。あっと言う間の2年間だったなと思っています。こんな私だけれど、面白いとか、好きだとか言ってもらえるのが本当に嬉しくて励みになっています。このライブができたのは、私のことを支えてくれるホロライブのメンバーや運営さん、相談や悩みがあったら聞いてくれる家族や外部のライバーさんのおかげ。そして、いつも見てくれているみんなが私の夢を叶えてくれたって思っています。ここに立っていられるのはみんなのおかげだよ。本当にありがとう。もう感謝しきれないくらい。ありがとう! ありがとうね」
頭をペコリと下げながら、繰り返し感謝の思いを伝えた後は、このライブの先、3年目以降の目標も宣言。
「ここでは終わらず、もっともっと高みへ、みんなと一緒に行くっていうのが、私の目標です。楽しい思い出とか、悲しい思い出とかを分かち合って、いろんな人に応援してもらいたいと思っています。たくさん心配はかけると思うけど、私、頑張るから! だから、このライブとか、普段の配信とかで、ちょっとでも元気もらえたよって思ってくれる人が増えたら嬉しいなと思っています」
予告通りエモい雰囲気になった中、すでにライブは終盤戦に入っていることを告げたあくあさん。「最後までテンションぶち上げで行くから、ついてきてねー!」とファンを煽り披露した13曲目は、本日2曲目となる水瀬いのりさんの曲「Ready Steady Go!」。2周年の集大成となるライブのステージに立ち、3年目のさらなる躍進を目指す今のあくあさんの心境にもマッチした応援ソングで、MCのエモさに浸っていたファンのコメントも一気に再加速した。
左右に伸ばした両腕を交互にパタパタさせるサビの振りや、拳を天に突き上げるような間奏とアウトロの振りなど、可愛いさと力強さという相反する魅力を1曲の中で見せていく。運動は苦手で、普段は引きこもり気味の生活をしているはずのあくあさんだが、終盤になってもダンスのキレは衰えず、ライブに向けたレッスンのハードさが想像できた。
初オリジナル曲「あくあ色ぱれっと」を初披露
続く「Ubiquitous dB」は、アニメ「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」の挿入歌。AR(拡張現実)アイドルであるユナ(CV:神田沙也加)の持ち曲で、「ソードアート・オンライン」が大好きなあくあさんは、2019年の誕生日に歌ってみた動画も公開している。「ソードアート・オンライン」のファンでもある筆者は、VRとARの違いはあるが、ユナと同じ電子の歌姫であるあくあさんが「仮想も現実も真実だよ」と歌いかけるこの曲を初ライブで選曲したことにも心を動かされた。
14曲目を歌い終え、「実は、残り2曲となってしまいました」とファンに悲しい報告をするあくあさん。
「私もずっとライブしていたい。このドレスを着て、このお城で。でも、今日のライブで湊あくあは終わりじゃないから。まだまだパワーアップして戻ってくるから、悲しまないで欲しい。私は、湊あくあとして、アイドルとして頑張っていきたいし、みんなに感動を届けたい。もっと好きになって欲しい。そう思って活動してきました。今日のライブで、その気持ちがみんなに届いていたら嬉しいなと思っています。そして、これからももっともっと頑張っていきたいと思っています。次の曲はそんな思いを込めた曲です。ラスト2曲、まだまだ盛り上がってください」
15曲目の「ファンサ」は、5曲目に歌った「私、アイドル宣言」と同じ新人アイドルがファンへの素直な気持ちを歌ったHoneyWorksの曲。明るく安定して伸びやかな歌声や、手足を大きく使った可愛い振りから放たれるアイドルオーラは、ラストスパートになっても、さらに輝きを増していた。アイドルソングの定番としてVTuber界でも人気があるため、曲を知っているファンも多いのか、コメントも完璧なコールを返し、ライブをさらに盛り上げる。
そして、初めてのソロライブを締めくくったのは、初のオリジナル楽曲「あくあ色ぱれっと」。ここまで歌って来た曲の多くも「バーチャルアイドル湊あくあ」と親和性が高い曲ばかりの神選曲だったが、あくあさんのために作られたオリジナル曲の「湊あくあ成分」は、当然、最高濃度。歌詞の一つ一つがあくあさんを推してきたファンの涙腺を刺激する。その内容は、3年目に向けたあくあさんの所信表明にも感じられた。
初オリジナル曲の初披露を完璧に終えたあくあさんがステージを去ると、画面には、さっきまであくあさんが身につけていたティアラとシューズがそっと置かれている様子が映し出される。シンデレラの舞踏会のような一夜限りのステージは終わったが、それでも「アンコール」を求めるファンのコメントは配信終了まで絶えることがなかった。
ファンとの約束、「それじゃあ、またね」
昨年、ライブの企画が始動したときには、リアルライブとして開催予定だったあくあさんの1stソロライブ。しかし、新型コロナの感染拡大による社会情勢変化のため、オンラインライブへと変更。ライブ翌日の感想配信では、ライブに対する満足感を語ると同時に、ファンの生の歓声を聴きながら歌えなかったことに対しては、あくあさん自身も残念だったという率直な思いを明かしている。中国では、ライブビューイングも開催したのだが、日本ではそれもかなわず。筆者は自宅のPC前で一人、ライブを観ることになった。そのため、開演前までは、オンラインライブとなったことにマイナスの印象も抱いていたのだ。
しかし、この「湊あくあ アニバーサリーライブ 2020 『あくあ色すーぱー☆どり~む♪』」は、客席からの視界を考慮する必要のない自由なカメラ移動や切り替え、空中に浮かぶ3DCGのオブジェクトなど、オンラインライブだからこそのアドバンテージも存分に生かした映像演出で、バーチャルアイドルライブの新たな可能性を見せてくれた。その結果、「湊あくあ1stソロライブ」という一度しかない最高のステージを堪能したにもかかわらず、「湊あくあ1stオフラインソロライブ」という未体験の楽しみも未来に残した状況になったのだ。
この日のステージで最後に残したメッセージ「それじゃあ、またね」を信じて、声援をステージに直接届けることができる時を楽しみに、引き続きバーチャルアイドル湊あくあさんを追いかけていきたい。
ちなみに、このライブのタイムシフトは、2020年9月7日の23時59分まで視聴可能(ネットチケットの販売期間は 2020年9月6日23時59分まで)。もし、まだ観ていないVTuberファンやアイドルファンも、このレポートを読んで興味を持ったなら、ぜひ観て欲しい。たとえ、あくあさんの2年間の歩みをまったく知らない人でも、新時代のアイドルライブとして楽しむことができるはずだ。
●湊あくあ「あくあ色すーぱー☆どり~む♪」セットリスト
M1.オツキミリサイタル
M2.インドア系ならトラックメイカー
M3.ふわふわ時間
M4.ダダダダ天使
M5.私、アイドル宣言
M6.君色シグナル
M7.桃色片想い
M8.アイマイモコ
M9.プラチナ
M10.Baby Sweet Berry Love 11 Fantastic Future
M12.fancy baby doll
M13.Ready Steady Go!
M14.Ubiquitous dB
M15.ファンサ
M16.#あくあ色ぱれっと(オリジナル曲)
(TEXT by Daisuke Marumoto)
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