バーチャル空間で「アニサマ」が初開催!「ANISAMA V神 2024」ライブレポート

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2024年12月15日に、バルス主催のライブ「ANISAMA V神 2024」(以降、「V神」)がSPWNで配信された(アーカイブページ、1月16日4時まで視聴可能)。

2005年から毎年夏に開催され(新型コロナ禍の2020年のみ未開催)、世界最大のアニソンフェスとして知られる「Animelo Summer Live」、通称「アニサマ」の世界観で開催されたバーチャルライブで、19名のバーチャルアーティストと、全3組のリアルアーティストが出演。「Animelo Summer Live」の統括プロデューサーで総合演出を手がける齋藤Pの全面協力によるアニサマらしさと、数々のバーチャルライブを作り上げてきたバルスの技術が融合し、公式Xに書かれた「冬のアニサマ」というコピーに相応しいフェスだった。ここでは、全36曲の中から特にバーチャルライブとして特徴的かつ印象深かったパフォーマンスをレポートする。


存在感がリアル過ぎるバーチャル現地の観客

2024年の8月にさいたまスーパーアリーナで開催された「Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-」の会場をバーチャル空間で再現した「V神」の会場。配信が始まり、まだ誰もいないステージと、ペンライトを振る観客で満員状態の客席をカメラが映すと、まず目を引いたのは、CGで描かれた観客のリアルな動き。手に持った白く光るペンライトが、ある程度の統率は取れていながらも、機械的なほど正確には揃っていないという絶妙なタイミングで振られ、驚くほど生っぽいのだ。

すべての観客が某名探偵マンガの犯人のように全身真っ黒な姿のため、ルックス的にはリアルからほど遠い状態なのだが、フェス会場の観客としての存在感は、非常にリアル。SPWNのチャット欄には、「本当に人がいるみたいだ!」「現地ちゃうんか!」「一瞬、本物かと思った」など、リアル世界に現地会場のあるライブと勘違いしそうになった人のコメントも散見された。

CGで描かれたライブ映像における観客の表現に関しては、2024年5月にリリースされたアプリゲーム「学園アイドルマスター」のライブシーン(特に姫崎莉波の「clumsy trick」)にも驚かされた。このクオリティの観客席がバーチャルアーティストのライブでも観られたら面白いと思っていたのだが、群衆の表現に関しては「V神」の観客席も負けてないインパクト。何種類の観客とモーションを用意して、どのようなタイミングで組み合わせているのかが気になった。

開演前から大盛り上がりのバーチャル観客と配信の視聴者が見守る中、最初にステージに登場したのは、アニソンシンガーきただにひろしと、MonsterZ MATEのアンジョーNeo-Porteの渋谷ハルにじさんじの夢追翔の4人。開幕からリアルアーティストとバーチャルアーティストのコラボレーションで、歌うのはきただにの代表曲で『ONE PIECE』の主題歌「ウィーアー!」

きただにが歌う「ウィーアー!」を聴くと、バーチャル空間に再現された「アニサマ」会場の「アニサマ度」が、さらに高まった気がする。左から夢追、きただに、アンジョー、渋谷と並ぶ映像にも、リアルとバーチャルの隔たりを感じない。改めて、バルスのバーチャルライブの技術力も実感した。


パトラとでろーんは、観客の頭上で熱唱

2組目に登場したのは、高い歌唱力に定評のあるNeo-Porteの緋月ゆい(筆者は「原神」の実況も好き)。さいたまスーパーアリーナの広大な空間を感じさせるセンターステージに立ち、「PSYCHO-PASS サイコパス」の主題歌「名前のない怪物」のカバーと、自身の持ち曲、アニメ「婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む」の主題歌「イケナイエトランゼ」を披露した。「名前のない怪物」では、力強い低音と透明感も華もある高音にマッチした赤と青の光の演出が印象的。

軽やかなワルツ調の「イケナイエトランゼ」では、スクリーンにアニメの映像が流れる「アニサマ」の王道演出の中、色鮮やかな光が色を変えながら楽しげに動きまわる。ラスサビの前には、空中にショートケーキ、カップケーキ、ドーナッツなどの様々なお菓子が大量に出現し、ワルツのリズムに合わせて踊るように揺れ動く。バーチャルライブだからこその演出だが、観客の存在が生み出す会場の現地感と組み合わさることで、まるでリアル会場の空中でスイーツが踊っているような不思議な光景にも見える。

「イケナイエトランゼ」と同じように、バーチャルライブだからこその演出が不思議な現実感を伴っていたのが、11曲目、個人VTuberの周防パトラによる「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の挿入歌「Quiet Night C.E.73」のステージ。巨大なかにかま(パトラのマスコット)が観客の頭上に浮かんで移動しながら登場すると、その右手の掌にパトラが乗っていたのだ。これは、作中で「偽ラクス」ことミーア・キャンベルが、ピンク色のモビルスーツ(ザクウォーリア)の掌の上で「Quiet Night C.E.73」を歌ったシーンをヒントにした演出だろう。

リアルのさいたまスーパーアリーナでも、かにかまのバルーンなどを飛ばすことは可能かもしれないが、その手にアーティストを乗せることは絶対に不可能。しかも、パトラは、手すりもなく狭いスペースで、両手を左右に広げたりしながら振り付きで歌っている。このシーンも「V神」独特の現地感によって、非現実的な光景にどこかリアルさを感じるインパクトの強い演出だった。

曲順は少し飛ぶが30曲目、にじさんじの樋口楓「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」の主題歌「キュンリアス」を歌いながら披露したフライングもバーチャル空間のライブでは観たことの無かった光景。ワイヤーで吊られたまま空を移動するときの樋口の挙動は非常にリアルで、カメラも一緒に動きながらその姿を追った映像も面白い。フライング中もでろーん(樋口の愛称)のパンチが効いた歌声の安定感は変わらず、メイキングの裏側も気になる演出だった。


バーチャル空間でも「こしたんたん!」

連続してバーチャルアーティストとリアルアーティストの豪華なコラボレーションとなったがライブ中盤の15曲目と16曲目。劇場版「名探偵コナン 100万ドルの五稜星」の主題歌「相思相愛」で美声を披露したホロライブの天音かなたがアニサマの舞台に立てた喜びと感謝を語り、次の曲に進もうとしていると、背後で何か固い物が床に落ちる音が響く。怪訝な様子のかなたとカメラが近付くと、それは2本の鹿の角。

すると、ステージの上手からアニメ「しかのこのこのここしたんたん」のキャストによるユニット「シカ部」潘めぐみ藤田咲田辺留依和泉風花の4人が登場。さらに、ホロライブの大神ミオ桃鈴ねね雪花ラミィも加わり、8人でTikTokでも大人気になった主題歌の「シカ色デイズ」を歌った。「しかのこのこのここしたんたん」の原作者おしおしおが、天音のママ(担当イラストレーター)でもあるという縁で実現したこのコラボ。ステージ上にリアルアーティストとバーチャルアーティストが8人並び、重なりすれ違ってもライブとして破綻はない。

パフォーマンス中、主人公の鹿乃子のこ役の藩が右の角を落としてしまい、切ないオーラを発しながら床に転がる自分の角をジッと見つめる。潘のXの投稿によるとアクシデントだったらしいが、まるで作中のワンシーンにもありそうな光景だった。その後、歌いながら左の角ももぎ取った行動にも、のこたんらしさを感じる。また、登場してすぐに潘が観客が持つペンライトをシカの角に変えた演出もバーチャルライブならではでありつつ、作品の世界観ともリンクした「V神」らしく楽しいギミックだった。

配信限定ライブには珍しい長めの休憩時間を挟んだ後の16曲目は、森口博子 feat.花譜による「機動戦士ガンダムF91」のテーマ曲「ETERNAL WIND~ほほえみは光る風の中~」。いったん照明が消えて真っ黒になった会場内に、地球らしき大きな天体が浮かび、星々が瞬き始めると、観客のペンライトは緑に変わり、広大な自然の大地のようにも見えてくる。そして、聴こえてくる2人の歌声。

次元も世代も超越した2人のボーカリストの歌声が重なり合って、ガンダムシリーズの中でも屈指の名曲の一つを情感たっぷりに歌い上げる。リアルライブの会場でも、その空間が宇宙のように見えた経験はあるが、大きな天体が浮かぶのは、もちろんバーチャルライブならではの光景。その前にリアルアーティストとバーチャルアーティストが並ぶ姿にも違和感がないのは、不思議な感覚だった。


19人のVアーティストによるフィナーレ

最後の36曲目では、出演した全バーチャルアーティストが勢揃いして、「Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-」のテーマ曲「Stargazer」を熱唱。リアルアーティストが一緒ではなかったことを一瞬、残念にも思ったのだが、所属などの垣根を越えた19人のバーチャルアーティストが奥行きのある2階建てのステージに並んで歌う光景だけでもインパクト十分。フィナーレのお祭り感もまさに「アニサマ」だった。

センターステージ横の固定カメラや、アリーナ最前列とステージの間に設置されたレールカメラなど、機能的には必要無いはずの撮影機材も設置されているなど、バーチャル空間での「アニサマ」の再現を徹底して作られたことが伝わってくる「V神」。

他のバーチャルライブフェスにはない独自のこだわりは、今後も大きな特色となっていくだろう。「ANISAMA V神 2024」というタイトルからも、毎年、恒例のフェスになりそうな気配は濃厚。本家のように20年続くコンテンツへと成長していく可能性もあるバーチャルフェスの記念すべき第1回。配信アーカイブの視聴期間も、ライブBlu-rayの販売期間も2025年1月16日(水)朝4時までのため、気になる人は、早めにチェックすることをオススメしたい。

(TEXT by Daisuke Marumoto



関連リンク
「ANISAMA V神 2024」配信ページ
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