実写の撮影手法でVRのPVをつくった 玉置Pが語る「サマーレッスン:アリソン・スノウ」への道(前編)
6月22日にPlayStation VR(PS VR)向けに配信がスタートする「サマーレッスン:アリソン・スノウ」。最初にデモ版が公開された2015年より約2年を経てようやく製品化されたわけだが、制作陣はどんなところに「VRならでは」のよさを見出して、どんな思いでアリソンちゃんを世に送り出そうとしているのか。
本作のプロデューサーであるバンダイナムコエンターテインメント CS事業部 玉置絢氏を直撃取材し、前中後編の3回にわけて掲載していく。前編では、まずPVについて熱く語ってもらった。
玉置氏。
実は濃厚なその歴史をおさらい!
サマーレッスンといえば、PS VRを語る上で欠かせないビックタイトルだ。まだPS VRが「Project Morpheus」と呼ばれていた時代から、「VRで女の子に会える」というデモのインパクトで新聞や海外ニュースに載るほどのインパクトを与え、多くの人の関心をVRに呼び込んだ。2014年末に開催した初めての一般体験会では、あの黒髪ロングな女子高生(のちにフルネームが「宮本ひかり」と判明する)に会ってみたいと、応募が殺到して静かな熱気にあふれていたのだ。
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その第二弾として2015年6月、米国で開催されるゲームの祭典「E3」向けに新たなデモが制作された。登場キャラは前回とは異なり、金髪美女である。シチュエーションは和風民家の軒先で、季節はもちろん作品名通り夏。このデモは日本で非常に話題になり、のちに東京ゲームショウ2015で公開されて、さらなるファンを増やしていく。
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そこからもう1年のブラッシュアップを経て、ようやく第1弾となる2016年10月に「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム(基本パック)」を発売。シチュエーションが変わる4つのダウンロードコンテンツ(DLC)も追加して、アジア進出もはたした。
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そしてようやく今回の「サマーレッスン:アリソン・スノウ」となる。昨今のVRムーブメントとともに歩んできたサマーレッスンが、新たな局面を迎えるわけだ。玉置Pを直撃して衝撃を受けたのが、なんとこの撮影ためにPS VRを三脚に据え付けた撮影システムを開発したとのこと。一体どういうことなのか!?
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夏が始まるから発売した
──先日から予約が始まった基本ゲームパックとデラックス版ですが、何が違いますか?
玉置 デラックス版は後日配信になる追加のコンテンツが4つ付属していて、事前に予約できるようになっています。基本ゲームパックは6月22日発売で、追加コンテンツの配信日は随時お知らせという形です。
──しかし、このタイミングでのいきなりの発売なのはなぜですか?
玉置 それは夏だからです。これから夏が始まるからです。
──なるほど! 前回の「サマーレッスン:宮本ひかり」はPS VRのローンチに合わせて10月の秋でしたが、考えてみれば「サマーレッスン」ですからね。
玉置 そのひかりちゃんのフィードバックを入れ込むこともあって、この夏のタイミングになっています。サマーレッスンは夏がタイトルに入っているので、パッと見、一年中の販売に向いていないように思えるという意味で不利にも見えますが、実はVRコンテンツだからこそ逆に有利で、冬なら夏にトリップしに行くために使えるし、夏なら時期も相まって臨場感がある。折角なので窓を開けてプレイしていただく方も出てきてほしいですね。今回のアリソンちゃんなら、舞台は縁側ですし。
──縁側でPS VRをつけている人を見かけたら、それはそれで衝撃ですね(笑)
玉置 青いLEDに虫が集まってこないように注意してください(笑)
このPV撮影のためにプログラムも改造
──今回、アリソンちゃんのPVを作成するにあたって考えたことは?
玉置 2年前のE3デモPVでキャラクターや世界観の魅力についてご支持をいただけたので、製品版のPVでもそこを本格的にアピールしていこうと考えました。
ひかりちゃんのときのPVは「VRとはどういうものか」を説明するようなゲームっぽい内容だったんですが、今回はそこをガチでやろうと。いろいろ考えた結果、サマーレッスンの開発はキャラクターを本当の人間ととらえて、現実だとどう振る舞うかを考えるというメソッドでつくってきたので、じゃあ「PVも現実だったらどうか」と考えてつくればいいんじゃないかという結論に達しました。
普通のゲームでPVをつくるときは、アートデザイナーがゲーム内にカメラを設定して、どういう風なカメラアングルでどういう絵にするか決まっているものを録画しています。でもVRの体験は、ユーザーが自由に頭を動かしてカメラアングルを決めているわけです。つまり、PVで使うカメラアングルは、PVをつくる際に初めて決まる。
それならばということでPS VRを手で持って、まるでカメラを使うようにしてPVを撮影するという手法を「サマーレッスン」では採用してきました。そして今回はそれをさらに推し進めて、実写のディレクションができる本職の方々に手伝ってもらうところまで持ってきました。それにあわせて、プロのカメラマンさんや、映像マンさんから意見をもらって、カメラマンが使いやすいPV撮影システムまで組んでいます。VRのPVは、究極的に考えると実写の撮り方に近づいていくんです。
──その話は、ちょうどXVIの室橋さんが開発した、VRの中でカメラを持って映像を撮影する「映画ツクール」に似てますね。
玉置 考え方は近くて、バーチャルの中で映画を撮るという考えでいったときに、実写の業界の人から見るとどういう機能が足らないかというのを相当議論しました。そして実際にカメラマンの方からの要望を受け、PVのためだけにプログラムを改造して、レンズの被写界深度(ピントがあっている範囲)や露光(F値やシャッタースピード)といった設定が可能になっています。
──おお! すごい!
玉置 そうした設定自体はUnreal Engine 4に入っている機能を活用してるだけなのですが、すべてをPlayStation 4のコントローラーで操作できるようにしているのがポイントです。実際のカメラでピントリングを回したりして撮るように、手に持ったDUALSHOCK 4コントローラーのアナログスティックで無段階に被写界深度やレンズ距離、露光とかを調節できるようにしています。
このPVのために生まれた、PS VRと三脚が合体している謎の装置。
──カメラマンのアナログな感性で撮影できるという。
玉置 そうなんです。絵コンテもゲームのPVよりは実写を参考にしていて、一番研究したのが化粧品のCMです。
──なんと! ジャンルが全然違うじゃないですか。
玉置 でもサマーレッスンとの共通点が多いんですよ。
──それは女の子を可愛く見せるという点ですか?
玉置 そうなんです。化粧品のCMでは、映っている人の美しさや可愛さ、かっこよさという要素をいかに引き出すかが重要で、「この人のように私もなりたい」と思わせるのが目的になります。VRのサマーレッスンも「こういう人に私も会いたい」という目的なので割と近い。
ということで、色の表現や背景のぼかし方、人の切り取り方を参考にして撮影したわけですが、これが非常に大変でした(笑)。さっきの数十秒のために、朝から晩までかかってしまいましたからね。
──本当のCM撮影みたいですね。「アリソンさん現場入りましたー」みたいな。
玉置 カメラマンの方も実写を撮ってる方ですからね。ひかりちゃんのPVと見比べるとよくわかると思うんですが、ひかりちゃんのほうはゲーム画面の録画そのままなので、背後の遠い風景がレンズ効果でぼやけているような映像的演出は入っていないんです。でも実際のVRの体感を伝えようとしたら、実写と同じように撮るほうがいい。
──現実の視界でも、自分の意識が集中しているところ以外はぼやけているイメージですよね。
玉置 VRの中だとむしろそうなんです。当初は「VRはどういうものか」を伝えるにあたって、体験中にテレビに映し出されるソーシャルスクリーンに出力されている映像に近いものをPVにしていたんですが、そもそも立体的なVRの世界の体験を2次元の映像に落とし込むのは情報量が欠落しすぎて無理なんです。
だから逆に実際に体験したときのニュアンス、距離感の近さやキャラに対する意識の向き方、夏の空気が匂い立ってくる感じとか、あらゆるやり方を駆使してやろうとしたときに、結果的にそれって実写の手法だよねという結論だったんです。
ひかりちゃんのPVを見たあとで、アリソンちゃんのPVをみていただけるとわかると思うんですが、冒頭からもう庭の風景がボケてますよね。露光とかも気をつけているし、台車を使ったパン撮影もコントローラーで動かせるようにしています。レンズの画角もカットごとに設計していて、遠くの方がボケていたり、空の青が深く出るというのもフィルムの感覚を盛り込んでいます。
時折入るアリソンちゃんの顔や手のアップというのは、ゲーム業界のPVではあまり見ませんが、これは実写の方に入っていただいたことで出てきた発想です。最初からあえて目を見せないようにつくっていて、ラストシーンで目が出てくる。そうした映像の人たちの陰ながらの努力で、「サマーレッスン:アリソン・スノウ」の世界観がうまく再現できたと思います。
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
*中編はこちら
(TEXT by Minoru Hirota)
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