次世代型ボカロP・BIGHEAD氏ロングインタビュー 世界を見据えた活動の秘密を徹底解剖!
今日は3月9日。そう、「ミクの日」です。Steamでは「初音ミクVR」もリリースされ、おそらく世界でもっとも有名なバーチャルシンガーである「初音ミク」という存在が、さまざまな場所や国々で再確認されていることでしょう。
xR界隈における「初音ミク」は、個人活動や公式を問わず、これまでにさまざまなコンテンツや試みを生み出しています。KDDIが協力する「ミク☆さんぽ」や、セガゲームスのPS VRソフト「初音ミク VRフューチャーライブ」、auうたパス「VROOM」、リコーの360度カメラ「RICOH THETA SC Type HATSUNE MIKU」、さらには個人による中で初音ミクが踊っているように見える自作PCや、GOROman氏の「Mikulus」などなどなど。
数え出したらきりがないぐらいたくさんの「初音ミク」関連xRコンテンツがあり、今やバーチャルシンガーとしてだけではなく「最新技術の象徴」としても広く認知されているようになっていると感じます。また、バーチャルYouTuberたちが「初音ミク」を先輩と呼ぶことも少なくありません。その影響力、おそるべし。
そんな中で、xRな「初音ミク」コンテンツでよく名前を見かけるボカロPがいることに皆さんはお気付きでしょうか。
ずばり、BIGHEAD氏です。
「SNOW MIKU」をはじめ、本当にいろいろなところで名前を見ます。リリースされたばかりの「初音ミクVR」にも彼の楽曲である「Sharing The World」が収録されています。トレーラー映像でも流れていますね。しかし、ニコニコ動画には作品をほとんどアップロードしていません。ある意味では、従来とは異なるアプローチで、次世代型の活動をしているボカロPと言えそうです。
それゆえに、BIGHEAD氏の素性を知る人は多くありません。むしろ海外のほうが有名?彼は一体何者なのでしょうか。
そんな謎だらけのBIGHEAD氏に、ボカロPとしての活動経験がある筆者(津久井箇人 a.k.a. そそそ)がインタビューを決行しました。記念すべき「ミクの日」に、次世代型ボカロP、BIGHEAD氏の活動をがっつりと掘り下げていきたいと思います!
報われない時期に出会った「初音ミク」
――今回、BIGHEADさんにインタビューさせて頂くにあたって、公式サイトやYouTubeチャンネルを見させてもらったのですが、けっこう“謎”で実態がつかみきれていません(笑)。
BIGHEAD あははは、本当にそうですよね。
――いろいろなことをして活躍されているクリエイターなのに、“札幌にいるんだな”ってことぐらいしかつかめませんでした(笑)。
BIGHEAD そうですよね。ネットのタイムラインが最近は速くて、(自分の活動が)アーカイブできないですよね。戻れないっていうか……。
――この機会にBIGHEADさんが何者なのかというのを、しっかり伝えられるインタビューにしたいなと!
BIGHEAD ありがたいです!
――まずは、BIGHEADさんの音楽の経歴を振り返りながらお話をうかがっていきたいと思います。VOCALOIDの音楽を作る以前は、音楽制作会社に所属したり、CMの音楽を手掛けたりしていたとのことですが、これは仕事として音楽に携わっていたということでしょうか?
BIGHEAD そうですね。札幌のバンドのレコーディングやアレンジをしたりっていうのがメインの仕事で、CM音楽はちょこちょこやってという感じだったんですよね。札幌の音楽制作会社からの話だったのですが、担当したバンドがインディーズからメジャーに行くようなこともあって。
(当時音楽制作に関わっていた)「A.F.R.O」ってバンドは、僕が音楽制作会社にいるときはインディーズでしたし、僕自身も無名だったのですが、「A.F.R.O」がメジャーデビューして「BIGHEAD」の認知度が上がった時に、2015年リリースのアルバム「7th」の収録曲に編曲で参加させてもらいました。
※A.F.R.O……札幌を拠点に活動する7人組音楽グループ。2012年にトイズファクトリーからメジャーデビューを果たした。
――最近でも、VOCALOIDに限らず、音楽制作の手伝いなどを並行してされている。
BIGHEAD やっと、というか、「A.F.R.O」に限らず札幌の人たちと全然仕事ができていなかったんですけど、「BIGHEAD」という名義が大きくなって、同じような場所に立って「仕事ができた」という感じでしょうか……。
――なるほど。「追いついた!」って感じですね。
BIGHEAD そうですそうです!編曲の仕事をさせてもらえて、うれしかったです。日の目を見なかった時期が音楽制作会社で仕事をしていた時期だとしたら、やっと報われたという感じだったので。
――ちょっと失礼な言い方になってしまうのですが、そんな「報われない時期」を過ごしていたときに、どうして「VOCALOIDの楽曲を」と思ったのでしょうか?
BIGHEAD 音楽制作会社に所属する前から(自分たちの)バンドをやってまして、ドラムと打ち込みを担当してたんですけど、そのときにソニー系のアーティスト育成を受け持つ会社から声をかけて頂いて、メジャーへの準備期間みたいな時期を過ごしていたんですよね。
そのバンドは、メジャーデビューに向けてプレゼンして、ダメだったので解散……ってわけじゃないんですけど「メジャーデビューできないならやっててどうなんだ」って感じになりまして。それで、ボーカルが実家に帰ってしまったんです。(バンド活動の継続が難しくなるほど)物理的に遠くに行ってしまって。
僕は、編曲とドラムぐらいしかできなかったので、ボーカルがいなくなることで何もできない状態になってしまったんです。「音楽家」なんだけど、何も完成品が作れないみたいな……。あ、僕、歌が下手なんです、めちゃくちゃ(笑)。
――あー、僕もなのでわかります(笑)。
BIGHEAD もうめちゃくちゃ下手なので、そういう状況のときに、ネットとかで見てたと思うんですよね、「初音ミク」。で、ボーカルをミクさんでやってもらうという感じだったと思うんですよね、最初は。
――自身が音楽活動する上で、ボーカルが必要になったときにいたのが「初音ミク」だった。
BIGHEAD そうですね。はい。
嫌いにならないように
――それから、2012年頃に「エレキP」という名義で(ボカロPとして)活動を開始されて、そのときに最初から「Daft Punk」のカバー作品に行きましたよね。それが僕の中で「バンド活動の延長」というものに直結していかないのですが、そのあたりは何か経緯はあるのでしょうか?
※Daft Punk……1994年にデビューしたフランスのエレクトロデュオユニット。日本国内では2000年発表のボーカル入りの楽曲「One more time」がCMソングに起用されて超有名に。
▲Daft Punk「One more time」オフィシャルオーディオ
BIGHEAD あ、バンドが「打ち込みの音」をメインとしたバンドだったので。MTRから2MIXでシンセとかを出して、僕がドラムを重ねて、あとはボーカルがいるっていう……ちょっとよくわからないことをしてまして(笑)。
※MTRから2MIXでシンセとかを出して……打ち込みのシンセサウンドをバンドサウンドと同時に鳴らす状態。
――それは面白いですね!
BIGHEAD はい(笑)。「m-flo」みたいなのを目指そうとやってた謎のバンドだったので、けっこうエレクトロ寄りではあったんですよね。その感じだったので、(シンセの)打ち込みがメインでした。
※m-flo……1999年にメジャーデビューしたMCのVERBALとDJの☆Takuによる音楽ユニット。活動当初は女性ボーカルのLISAを含めた3人組で「come again」などメガヒットナンバーをリリース。2002年のLISA脱退以降、ゲストボーカルを招くなど音楽プロデュース中心のユニットとして活動していたが、2017年にLISAがメンバー復帰を果たしている。
▲m-flo「come again」公式PV
――たしかに、その体制のバンドでボーカルがいなくなるのは厳しいですね……。
BIGHEAD そうなんですよ!何もできないし、一生懸命やっていたので、それ以外あんまりやる気にならないなっていうか。再度、ほかのメンバーを探してやるのもエネルギーがいることだったので。だから(バンドの継続が)できなかったです。
――打ち込みの経験を活かして、ボーカルに「初音ミク」を迎え入れて、改めて音楽を発表したのが「エレキP」の誕生という感じでしょうか?
BIGHEAD そうですね。ただ「Daft Punk」とかやる前は、人間の歌う日本の曲をカバーしてまして……。
――えっ?そうなんですか?
BIGHEAD はい。全然(公の場には)出してないんですけど。より人間っぽい歌唱を目指して作ってたときがあったんです。1週間かけて1曲とか、ボーカルをエディットしてて。できたものは確かに良かったんですけど、何か嫌いになってきちゃって。
――その気持ち、ちょっとわかるかもしれないです(笑)。
BIGHEAD はい(笑)。割に見合わないなぁっていうか……なんでしょうね。嫌いになるぐらいだったら、(エディットに時間をかける)これは辞めようと思って。
――ボカロのエディットで人間の領域まで達するって本当に大変ですよね。
BIGHEAD やった割に、なんかエラーとかも起こるじゃないですか(笑)。
――(笑)
BIGHEAD 手を加えれば加えるほど、発音が変になったり、声が細くなったりもするから、なんかイヤだなーって思って、その方向は辞めました。日本の曲で歌っぽくっていうのは辞めて……。
――だから思いっきりテクノ寄りというか……より打ち込みを活かしたサウンドになっていった。
BIGHEAD ……だった感じはしますね。ボコーダー寄りというか、シンセだったり。
※ボコーダー……人間の声をシンセサイザーの音にする。YMOの「テクノポリス」やPUFFYの「アジアの純真」、「スプラトゥーン」のサウンドトラックなどで聴けるロボットボイスがそれ。Perfumeなどはオートチューンと呼ばれるエフェクターなどを極端に使う手法なので仕組みは異なる。
――それが、表立ったエレキPの……のちのBIGHEADさんのスタートになっていくんですね。
BIGHEAD そうです。いろいろやってはいたんだけど、出したのはやっぱりそれ(Daft Punkのカバー作品)でしたね。
――最初に「初音ミク」をボーカルとして使用するといったときに、今のようにエレクトロサウンドを中心に曲を作って、大きく広がった活動になるイメージって、していたんでしょうか。
BIGHEAD まったくしてないっす(笑)。2013年に「Story Rider」を公開してからがとんでもない広がりなので、考えてなかったです(笑)。
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