株式会社ジョリーグッド(東京都中央区、代表取締役:上路健介、以下 ジョリーグッド)は、新型コロナウイルスの重症呼吸不全の治療に使用する人工心肺ECMO(Extracorporeal Membranous Oxygenation)※1の教育組織日本COVID-19対策ECMOnet(エクモネット)と共同で、ECMOトレーニングVR(以下 本ソリューション)を開発しました。
本ソリューションは、日本COVID-19対策ECMOnetで活動するECMOの専門医らが監修し、「実際の患者への処置」と「シミュレータによる模擬手術」を術者目線で体験学習できるVRコンテンツを制作しました。本ソリューションでは、緊迫する現場での医師や看護師の動きを360度VR化し、需要の高まるECMOについて、医師、看護師および臨床工学技士等に向けて提供し、ECMO治療の有効性、安全性の普及に貢献します。
※1:重症呼吸不全患者または重症心不全患者(時に心肺停止状態の蘇生手段として)に対して行われる生命維持法
■ECMOは数千台増産、ただし技術に習熟した専門医が不足
新型コロナウイルスの重症患者治療などに使用されるECMOは、現在増産態勢に入っていますが、医療現場ではECMOを専門的に扱うことのできる医師の数が圧倒的に足りていない現状があり、その背景には、ECMO特有の操作習得の難しさがあります。日本で使用できるECMO装置は約3〜4種類あるため、ECMOの従事者はそれぞれの機器の特徴やメリット・デメリットを理解し、習熟する事が求められます。1つの機器を使いこなすために、20例〜40例程度を経験することが必要となりますが、通常、日本では1つの病院で年2〜3症例しか経験ができないため、習熟するのに10年以上の長い期間が必要とされています。このような理由により、日本では機器の増産拡充に伴って、早期の習熟環境の構築が急務となっております。
■ECMOの習熟に何故VRなのか
ECMO使用時は、患者の周りに5〜6名のスタッフがそれぞれ別の動きをし、とても緊迫した状況の中チームワークで治療が行われます。また治療中は、重症呼吸不全の患者の治療の最中に人工肺のECMOに切り替えるため、患者の容態や回路の状態に対する一瞬の判断が人命を左右します。360度視野のVRは、従来の2Dでの視野の限られた講習とは違い、医師目線で治療現場全体の動きを把握することができるため、現場に近い形での研修が可能です。また本ソリューションは、専門医が指導するシミュレータ研修や実患者の治療をVRで繰り返し受講することで、ECMO治療の臨床経験値を高めることに寄与します。
▲ECMO。管から充填液で空気を排出するプライミング作業は数分で完了しなくてはならない。
<ECMO教育VR化のメリット>
- 貴重な症例を医師目線で何度も体験できるため、早期習熟が見込める
- 見学困難な治療現場をVRで臨床体験できる
- 手元だけではなく、スタッフそれぞれの動きを360度把握できる
- 機器の配置や治療中の測定情報も確認可能
【コンテンツ例】
▲実際のECMO治療現場を医師目線でVR体験。医療機器の測定データなども映像編集で見やすく表示。
▲シミュレータを使った模擬手術コンテンツではわかりやすく手順を解説。■⽇本COVID-19対策 ECMOnet(ECMOnet)は
新型コロナウイルス肺炎の重症呼吸不全の治療に使用するECMOを中心とした、重症患者管理の助言と実際の診療支援、および教育を行う対策チームです。ECMOnetが新型コロナウイルスのECMO管理に積極的に関与し、6月19日現在、本邦において新型コロナウイルス感染症によりECMOが必要となった患者さんの実に78%のECMO患者さんが、症状軽快によりECMOを離脱できています。
ECMOnetは、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本呼吸療法医学会の3学会が活動を後援する組織となっており、現在は、日本におけるECMO教育関連情報を集約し、発信しています。
■ECMOnet 代表 かわぐち心臓呼吸器病院 理事長 竹田晋浩 先生 コメント
「2009年の新型インフルエンザのパンデミックを経験し、その時の日本のECMOの成績の悪さ(ECMOによる救命率36%)に愕然としたことを、今でも鮮明に覚えています。そこから約10年、私は質の高い呼吸ECMOの普及とその教育に一心に取り組んできました。しかし、ECMOの教育は困難を極めます。それは、実際の呼吸ECMO症例は、通常の病院では2〜3例/年という数しかできないからです。よってECMOプロジェクトでは、人形を使ったシミュレーション教育を提供し、実際の症例に近い形で教育を行えるよう様々と努力してきました。その結果が、今の新型コロナウイルス感染症に対するECMOの成績につながっています。
今回、ECMOnetでVRを教育に導入し、その教育をいっそう充実したものに
してゆければと思います。」
<プロフィール>
元、日本医科大学付属病院外科系集中治療室・教授。日本におけるECMO治療の第一人者であり、日本呼吸療法医学会副理事長および厚生労働省重症循環不全および呼吸不全に対するECMO治療研究班の代表を務める。日本COVID-19対策ECMOnetの発起人として組織の立ち上げに尽力
■ECMOnet VR制作プロジェクト リーダー
済生会宇都宮病院 救命救急センター長 小倉崇以 先生 コメント
「私がECMOを学んだ英国のケンブリッジ大学ECMOセンターでは年間に80〜100例の呼吸ECMO症例があり、その症例豊富なECMOセンターで修練を積んだECMOの専門家が教育の機会を提供しています。一方、日本では呼吸ECMO症例のセンター化は行われておらず、医師ひとりが経験できる呼吸ECMO症例には限りがあります。日本では呼吸ECMOを扱える医師は少なく、今、ECMOnetが第2波に備え、教育のために奔走していますが、コロナ禍では人が密に集まるシミュレーション教育は充分に提供できません。
VR教育は、人が集まることなくe-learningとして自宅で学習でき、かつ実際の臨場感そのものを体験できます。コロナ禍で、これほど教育効果を期待できるものはないと思います。今後ECMOnetは、このVR教育教材をフル活用し、質の高い呼吸ECMO管理の普及をスピード感をもって進めてゆきたいと思います。」
<プロフィール>
2015年から2016年にかけて英国ケンブリッジ大学でECMOを修学。帰国後、日本でECMOセンターを立ち上げ、36歳の若さで救命救急センター長に就任(日本最年少)。救命救急センターとECMOセンターの双方を同時運営し、日本のECMOを先駆的にリードする。
▲撮影に協力いただいたECMOnetの医師メンバー ジョリーグッドは今後も、進化の早い医療業界で、さまざま治療における名医やベテランプロクターの手技を、当事者目線で高精度360°VR化し、技術の習得・習熟を加速する「医療教育VR」を開発・提供していきます。習得や習熟が難しい医療機器や、症例数の少ない臨床現場など、医療安全、医療教育についての課題をお持ちの医療従事者の方々は、お気軽にご相談ください。(https://jollygood.co.jp/contact-us-2)
また、自院の手術室の治療をいつでも簡単に高精度360度VR映像として撮影し、ライブ配信やデータ蓄積をしたい病院関係者の方は、下記「オペクラウドVR」をご参照ください。
■オペクラウドVRとは(https://jollygood.co.jp/opecloud)
オペクラウドVRは、熟練医師の手技を始め、第一助手やベテラン看護師、メディカルエンジニアなど治療現場にいる専門スタッフの視野を、常設された高精度な360度カメラでライブ配信し、同時にデータ蓄積管理を行う統合システムソリューションです。オペクラウドVRは、ベテラン医師の技を手術室に入ることなく複数の若手医師や医学生らにどこからでも体験させることが可能です。今後は、プロクタリング(※2)を必要とする機器の反復学習ツールとしての活用も行っていきます。
※2:医療機関が初めて先進医療機器などを導入する際、製造元や学会が指定した、十分に留置経験を積んだ監督医師(プロクター)が機器ごとに定められた数の症例に立ち会い、手技の監督を行い評価すること。
■株式会社ジョリーグッドについて(https://jollygood.co.jp/)
ジョリーグッドは、高精度な“プロフェッショナルVRソリューション”と、VR空間のユーザー行動を解析するAI エンジンなどを開発するテクノロジーカンパニーです。先端テクノロジーをギークやマニアだけでなく「地域の生活者や企業が活用できるテクノロジープラットフォーム」にデザインして、数多くの企業や自治体に提供しています。