9人組の女性アイドルグループ「GEMS COMPANY」(通称、ジェムカン)は7日、オンラインライブ「Endless Coda」を開催した。
ソロ/グループ内ユニット/全体と登壇する形態を変えつつ、3時間超(!)という長丁場で全35演目(!!)を披露。同時に東京・池袋HUMAXシネマズにてライブビューイングも実施しており、有料配信のコメント欄だけでなく、現地に集まった250名超えのファンを大いに沸かせていた。
本記事を読む方ならご存知だとは思うが、ジェムカンは11月27日に本ライブを最後に現体制での活動に区切りを打つという発表をした。ある意味ラストライブなわけだが、その舞台にふさわしい6年半の想いが詰まった内容だと感じた。まさに宝石のように輝いたまま、有終の美を飾ったわけだ。
過去に少しでもジェムカンに興味を持った方にアーカイブをぜひ見ていただきたく、彼女たちの足跡も少し振り返りつつ、その魅力をレポートしていこう(以下敬称略、 7000字ぐらいで長いです)。
突然「区切り」に変わった今回のライブ
誤解を恐れずにいれば、今回の「区切り」は多くの人にとって「寝耳に水」だったはず。
なにせ突然の告知から、わずか10日という駆け足でラストライブを迎えるわけだ。ジェムカンといえば毎年11〜1月の時期にリアルライブをやっており、11月の発表時は「今年は12月でオンライン開催なのか〜」と思っていたところ、いきなりの区切りが明らかになったわけだ。
「推し」を目に焼き付ける最後の機会がいきなり決まり、ファンなら是が非でもライブビューイング会場にいきたいところだが、遠方に住んでいたり、ほかの予定を入れていたりで、行きたくても行けなかったという方もいたはず。
筆者も寝耳に水……なんてレベルでは生ぬるく、絞ったホースを耳穴に当てられてゼロ距離で全力放水されたぐらい「えーー!!!!!」と驚き、正気なところまったく実感が湧いてこなかった。それからあれよあれよと日が経ち、前日6日にはメンバーによる最後のリレー配信が行われ、7日の本番を迎える。会場に入れば気持ちも変わるかと思ったものの、正直「本当にこれで区切りなの?」という思いの方が強かった。
本編が始まっても、本当に「いつもの」ジェムカンのライブだった。オープニングでは、9人全員を紹介した上でカウントダウンがスタート。タイトルロゴが開けると、9人がステージに立っていて、「ジェムカン行くぞー!」の掛け声とともに「ゴールデンスパイス」が始まる。のっけからのゴージャス&ダンサブルな盛り上げ曲にコメント欄&ライブビューイング会場のテンションが一気に上がっていく。
2曲目「しゃかりきマイライフ!」の頃にはすでに室内の温度と湿度が上がっており、それだけで集まったファンのここにかける熱意が伝わってきた。
その後は、「最後だから全部歌う!」の勢いでオリジナル曲を披露していく。なにせ9人分のソロ曲、9つのユニット曲、12の全体曲と6年半で積み重ねてきたとんでもない量の楽曲があるわけだ。カバー曲は一切なし、MCも全体を通してコールアンドレスポンス程度のものを3回だけ。ジェムカンのライブといえば、例年は複数公演に分けることが多かったが、今回は1公演の約3時間にすべてを詰め込んできた。
磨かれた原石、降り注ぐ数多の光
思い返せば、ステージで歌い、踊る彼女たちが本当に輝いていた。
VTuberやバーチャルタレントといえば動画や生配信が主戦場になることが多いものの、ジェムカンにとってはこのライブのステージが最も輝ける場だった。
彼女たちのステージを現場で目の当たりにしていると、歌声で歌詞をじっくり心に染み渡らせたり、かっこよさに酔いしれたり、電波ソングっぽさに翻弄されたりと、様々な感情をもらえる。
筆者としては、元気をもらえる全体曲が特に好きで、例えば、一緒にペンライトを振り上げて心を一つにできる9曲目の「CHANGENOWAVE!!!!」、何かを始めるワクワク感が伝わってくる22曲目「ときめきドリームライン」、心にバフがかかる24曲目「チアリータ♡チアガール」など、今回のライブでも「やっぱこれだよー!」と気持ちが大きくアガった。
それもこれも彼女たちが積み上げてきたステージングの技があってこそだ。
スポットライトを浴びる場に立って、観客の心をつかんで様々な感情を与える──。これが本当に難しく、上達のためにはひたすらライブに出るしかないのだが、一方でVTuberやバーチャルタレントは、ライブを開催するのに生身のタレントよりコストがかかりがちで、気軽に練習できないというジレンマがある。その点、ジェムカンは毎年、複数回公演でがっつりライブをやってきているわけで安定感が違う。
そうしたステージでの輝きの裏には、様々なプロの支えがあったというのも再確認できた。
まるで宝石が自らだけでは発光できず、外からの光があって初めてきらめけるように、彼女たちの才能を拡張するクリエイティブ陣営のエネルギーが強すぎるのだ。
例えば、彼女たちの体が本当に美しい。メタい話になるが、キャラクターのテイストを残しつつ、肉感的でもある3Dモデルがよく生み出せたものだと、改めて3時間驚きっぱなしだった。このバランスが絶妙で、前にも触れたが特に太ももの生々しさがすごい。イラスト的に強調するわけではなく、本当にいる(本当にいるのだが)アイドルを自然と感じさせる健全な魅力だ。
その体がまとう衣装がまた素晴らしくて、信じられないくらいのバリエーションがある。一般的にVTuberといえば「ライブで新衣装お披露目!」というのをよく聞くところ、ジェムカンは全体曲などのMVを公開するタイミング(!!!)などでお色直ししてきたぐらいに気合が入っている。
実際、今回は全体曲で8タイプ(ゴールデンスパイス、CHANGENOWAVE!!!!、夢を追い駆ける者たちへ、サヨナラノート、ときめきドリームライン、チアリータ♡チアガール、夏色DROPS、JAM GEM JUMP!!!)、ユニットで7タイプ(ERINGIBEAM.、びびっとぺんたぐらむ、Http:、MATULIP、fulfill、citross、ひならむ)、ソロで2タイプ(少女聖戦パラドクス、メロウ)と17タイプ(!!!!!)も衣装を投入してきている。全部で35曲なので、大体2曲に1回は着替えてるような目まぐるしさ……って信じられます?
しかも水着衣装などは個性に合わせて9人分まったく違うデザインになっていたりと芸が細かく、これに加えて私服や練習着、「灰ト祈リ」をはじめとする今回歌わなかった曲の衣装もあったりする。調べきれていないが、おそらくVTuber/バーチャルタレントで一番衣装が多いグループだろう。これもジェムカンが積み上げてきたもののひとつで、最後に大開放したわけだ。
そのモデルと衣装を最大限に引き出してくれるライティングも見逃せない。ジェムカンは初期のMVから光の当たり方にこだわっており、リアルライブでもリアル側の照明に連動して彼女たちの体にも同じ色が当たるといった演出を入れて「そこにいる」感を増してきた。今回もオンラインライブとはいえ、様々な光源から彼女たちに当たる光と影の具合、グラデーションの描き方が美しくて見とれてしまう。
VTuberやバーチャルタレントの3Dライブというと、筆者の主観ではモデルに当たった光と影の部分がパキっとわかれていることが多いと感じる。それはイラストを基準に3Dモデルをつくり、2Dアニメのような見え方(セルルック)に落とし込むからなのだが、ジェムカンの照明アプローチはかなりリアル寄りだ。
例えば、一文字マヤの複雑なゴージャスポニーテールに光が当たったときの反射の具合など、光と影、グラデーションが細かく描写されており、それが生々しい3Dモデルや細部までつくられた衣装と相まって独特のよさを引き出している。ネットコンテンツではなく、ゲームの文脈とクオリティーでつくられた映像という印象だ。この辺、制作を担当してきたILCAの腕の見せ所だろう。
長くなってきたので駆け足になってしまうが、もちろんMONACAの楽曲、ディアステージ発のダンスやフォーメーションという華も彼女たちに注ぐ光のひとつだ。さらに光源とも言える、クオリティーを担保するための出資を続けてきたスクウェア・エニックスの漢気にも粋を感じる。ライブのエンドロールにつづられた、クレジットの多さに改めて驚いてしまう。
そして一体感のあるライブを実現するには、ファンという光も欠かせない要素になる。筆者もVTuberのライブを多く見ているが、コロナ禍もあって慣れていないのか、単純に音楽に興味がなかった層が来ているのか、リアクションが薄かったり曲にそぐわなかったりと違和感を感じることも多い。その点、ジェムカンのファンは「面構えが違う」精鋭で、これも間違いなく積み上げてきた価値のひとつだろう。
まとめると、ジェムカンは暗中模索で始まったVTuberというジャンルにさまざまなプロが集まり、ここに想いを載せて6年半一緒にやってきたというプロジェクトと言えるだろう。
その集大成であるこの日、ファンのみならず、本人やスタッフも間違いなく胸がいっぱいになったはず。ライブビューイングの会場でも、プロデューサーである「さんでー」(高橋祐介)さんが目頭を押さえていたのが印象に残った。
13の輝きが思い出させた彼女たちの足跡
エンドロールにおける輝きの動きで、さりげなく歴史を振り返っているのもニクい演出だ。
冒頭、ジェムカンの文字が出たあとにEndless Codaのロゴが現れると、右上からメロンソーダグリーン、左上からオレンジの輝きが現れて、中央にふわっと集まってくる。これだけで、ジェムカン始まりのメンバーである珠根うた、星菜日向夏のデビューを表していることがわかってハッとした。
時は2018年4月。キズナアイ/電脳少女シロ/ミライアカリ/輝夜月の「VTuber四天王」ショックが起こり、「あれを自分もやってみたい」と憧れたフォロワーが年初から大量にデビューしていった中、とんでもないクオリティーの新人が現れたとVTuberファンの度肝を抜いたのがこの2人だった(当時のニュース)。
「一体誰がつくってるんだ!?」と話題になるも、情報が何もなく詳細は不明。さらに奈日抽ねね、有栖川レイカ……と見た目のテイストが似てる子がデビューしていき、少しずつ動画の中で出会っていくという流れが明らかになっていく。当時、「これは絶対同じところが手掛けてるだろう」という予測の元、ファンから「うーたま族」なる仮称も付けられていた。
この辺の経緯は、当時を綴ったうぇるあめさんのBlogに詳しいが、このまさに誰と誰が出会っていくという経緯を、エンドロールで13色の「推しカラー」の輝きが近づいては離れていくということで表現していた。当時の「一体何が起こるんですか!?」というワクワク感を思い出して、目を細めてしまった。
そして8月、ニコニコ生放送でスクェア・エニックスのエグゼクティブプロデューサーである齊藤陽介氏により、プロデュース元と「GEMS COMPANY」のグループ名が明らかになる(ニュース記事)。アーカイブで言えば3時間14分25秒あたり、12個の輝きがそろって円になったタイミングだ。
直後に8つの輝きがはけて、白と桃色、黄緑、メロンソーダグリーンの4色が残り、最初に白と桃色、次いで黄緑とメロンソーダグリーンが画面外に抜けていく。花菱撫子、桃丸ねくと、城乃柚希、珠根うたの4人の卒業を指している。
続けて画面左上から右にかけて輝きが次々と降ってくる。その数9つ。最後に右端に見えたライムグリーンは、最後に入ってきたメンバーの小瀬戸らむだ。
エンドロールが切れたのち、9つの輝きが円となり、外側に先ほど抜けた4つの輝きが鎮座して、中央に現れたのが「and you」の文字。
前述のようにジェムカンは、膨大な才能と共につむいできた物語にも関わらず、本編最後は過去のメンバーも含めた13人と「あなた」できちんと締めたわけだ。
この一貫したきれいさも、プロたちがつくってきたエンタメだと感じた。
一般的に、仕事でも趣味でも人が多く集まれば何かの不満が生じがちで、VTuberを含むネットタレントは炎上上等でネットに書き込み、それが耳目を集めるケースもあったりする。ジェムカンは基本的にそうした動きはなく、6年半という長い期間の最後まで水面下のバタ足を見せなかった。そもそも普通の社会人ですら3年で転職を考えるのに、より激務なアイドルで6年半だ。そして本編最後に、13人みんなで、ずっと見守ってきてくれたあなたのためにやってきましたという見え方で幕を下ろす。そこにプロのアイドル魂を感じるし、その選択をリスペクトしたい。
アイドルは最後まで輝いてないとね
アンコールでも、ライブの構成を「湿っぽい」方向に振らなかったのも彼女たちらしかったのかもしれない。
例えば、最後に全員が出てきて長年の思いを手紙に託して読み上げたり、メンバー同士で抱き合って泣いたりと、いくらでも「御涙頂戴」なストーリーを立てられたはず。ファンにとっても自分の人生の一部になってくれた大切な存在なわけで、涙を求めていた方もいたはずだ。
しかし今回は、ラストの一文字マヤ・長谷みこと・水科葵によるMCも、ファンへの感謝ややり切ったことを伝える割とカラリとした内容で、アンコールラスト、最初の全体曲である「JAM GEM JUMP!!!」に全力をぶつけて終えていった。まるで「だって、アイドルは最後まで輝いてないとね」とでも伝えたかったようだ。
ジェムカンを追い続けてきた人なら、人生の「推し」として何十年先にも記憶に残るはず。VTuber/バーチャルタレントの歴史にも、時代を揺るがしたアイドルプロジェクトがあったことが刻まれていくだろう。その有終の美を、ぜひ自分の目で見届けてほしい。
●セットリスト
M1.ゴールデンスパイス/全員
M2.しゃかりきマイライフ!/ERINGIBEAM.
M3.プリンセス・フィロソフィー/ERINGIBEAM.
M4. Happy♪Lucky♪Sharing!!/小瀬戸らむ
M5.ジンセイJust do it!!!表明/星菜日向夏
M6.ぴよぴよシェフにおまかせあれ! /ひならむ
M7.FUN FUN JAPAN〜津々浦々四季折々〜/びびっとぺんたぐらむ
M8.ネットのかみさま/Http:
M9.CHANGENOWAVE!!!!/全員
M10.icy sweet/ひなねねらむ
M11.LUMINOUS BUTTERFLY/一文字マヤ
M12.RealityDrop/MATULIP
M13.DESIGNED LOVE/MATULIP
M14.Imperfect light/音羽雫
M15.形而境界のモノローグ/fulfill
M16.辞世的幻想曲/水科葵
M17.夢を追い駆ける者たちへ/全員
M18.深淵のInfinity-Scale/赤羽ユキノ
M19.少女聖戦パラドクス/長谷みこと
M20.メロウ/水科葵
M21.サヨナラノート/全員
M22.ときめきドリームライン/全員
M23.凛と舞いましはんなり小町/全員
M24.チアリータ♡チアガール/全員
M25.渚ブルーのSensation/全員
M26.夏色DROPS/全員
M27.ファビュラスTOKYO/有栖川レイカ
M28.夢見がちエクスプローラー/奈日抽ねね
M29.君影草/音羽雫・長谷みこと
M30.メッセージ/citross
M31.オンリー・マイ・フレンド/ひならむ
M32.約束ハニビー/全員
M33.JAM GEM JUMP!!!/全員
M34.Endless Coda/全員
*アンコール
M35.JAM GEM JUMP!!!/全員
(TEXT by Minoru Hirota)
●過去記事
・GEMS COMPANY、初ライブ「Magic Box」レポート 宝箱から飛び出した彼女たちの生々しさに感動
・GEMS COMPANY「Magic Socks」ライブレポート メンバーとファンの愛が埋めた、珠根うた不在の穴
・GEMS COMPANY、2ndライブ「プレシャスストーン」レポート 美しさあふれるライブの現場に自然と涙
・GEMS COMPANY、3rdライブ「CHANGENOWAVE!!!!」レポート 新体制で生まれるもの、受け継がれるもの
・GEMS COMPANY、4thライブ「ジェムカン学園祭っ!2022」千秋楽レポート すべてはライブの熱狂のために
・「GEMS COMPANY」珠根うた・星菜日向夏インタビュー スクエニ発バーチャルアイドルの素顔とは?
●関連リンク
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