文化放送とLATEGRAは6日、バーチャル花火大会「東京タワー花火大会XR〜COSMIC FLOWER〜」をオンラインで開催した。冒頭の30分は無料パートとしてniconicoとYouTubeで、後半の1時間半は有料パートとしてniconicoで提供。さらに中国向けにbilibiliでも全パートで有料配信した。
AR花火の演出はLATEGRAが担当。配信には「アイドル部」からもこ田めめめさん、「ホロライブ」から星街すいせいさん(すいちゃん)、「Re:AcT」から花鋏キョウさんと、文化放送の番組と縁があるVTuber3人が出演し、東京タワーや東京の夜景をバックにARの花火を打ち上げて、ファンとともに鑑賞した。また、文化放送が映像・音響を手掛けたVTuberライブでは、生バンドをバックにして3人が無料パートで2曲、有料パートで10曲の全12曲を熱唱。参加者のコメントを大いに盛り上げていた。
東京タワーが花火大会の開催地というだけでも前代未聞なのに、そこにVTuberの生ライブまでくっつけてしまうという贅沢なイベントだったわけだが、現地はどんな雰囲気だったのか。AR・VTuberの両方が取材対象のPANORAなので、この新しい取り組みをレポートしていこう。
みんなで花火大会を見る楽しさを再現
東京タワー花火大会XRは、新しいライブエンターテインメントという観点で非常に興味深かった。
ご存知の通り今夏、人が多く集まる花火大会のほとんどは、新型コロナウィルスの感染拡大を防止するために開催中止となってしまった。そうした「花火ロス」を受けてか、例えば、長野の信濃毎日新聞社が諏訪湖の紙面に向けてスマホをかざして花火大会を再現する「実験ARおうち花火大会」を実施。VTuber業界でも、キズナアイさんと見る長岡花火や、東雲めぐさんナビゲートの「新潟まつりバーチャル花火」といった、技術をからめた「オルタ」な花火大会が開催されてきた。その先にあったのが、今回の東京タワー花火大会XRになる。
まずよかったのが、出演者に加えてのもう一人の主役とも言えるARの花火だ。あまりに合成が自然で、本当に東京タワーの周囲で花火が上がっているように錯覚してしまった。
特にカメラアングルの秀逸さが印象に残った。カメラは、東京タワーの近隣にあるザ・プリンス パークタワー東京から東京タワーを正面に映した映像と、東京タワーの250m位置にある特別展望台からの地上俯瞰、スタジオのバンドという3つのアングルを用意。ARの花火では、このうち東京タワー正面と地上俯瞰の2ヵ所を使っていた。
東京タワー正面の映像では、お祭りでよく見る櫓のように、タワーの左右にロープを張っていくつもの提灯をぶら下げていたのが目を引いた。現実で考えるとありえないほど巨大なサイズの提灯になるのだが、合成が自然でうまく夏祭り感を煽っていた。
その上で夜空に打ち上げられた大輪の花火を、出演者3人が手前に背を向けて座った状態で一緒に見られるという構図が秀逸だった。「デカのがくるか?」「おー!」「すごいすごい!」と喜ぶ彼女たちの会話を耳にしながら、視聴者が投稿した「美しい」「やばい」などのコメントも目にすることになり、まさにリアルの花火大会にみんなで来てはしゃいでる気分をうまく再現してくれていた。この花火と3人の会話だけでも、延々と見ていられる感覚だ。さらに俯瞰では、テレビの花火大会中継で見かけるヘリからのアングルになっていて、これもテンションを上げてくれた。
花火自体も種類豊富で印象に残っている。色とりどりなのはもちろん、土星の形や巨大サイズ、光のシャワーなど形も様々。さらにロケット花火や東京タワーの周りを旋回するホーミング(?)タイプなど、ARならではのものもあったりして、出演者や視聴者を常に驚かせていた。細かい話だが、花火の打ち上げ位置も空間の中で決まっていて、カメラが動いたり、別アングルに切り替えてもきちんと追従してリアリティーを高めていたのも「いい仕事」だった。
花火の後半では、桜吹雪のあとに桜の木が現れたり、「デカ過ぎんだろ…」とすいちゃんが評した金魚が夜空を舞ったり、青と緑のオーロラが現れたりと、畳み掛けるようにARならではの演出を盛り込んで出演者と視聴者を驚かせていた。すいちゃんも「花火も見れて、桜も見れて、オーロラも見れる。やば」「うな重に焼き肉乗せてキャビアも乗せてみたいな感じ」と感動していた。なお、花火の音もリアルで、こちらは文化放送が担当したとのこと。
ある意味、現実の建物にプロジェクターで別の映像を合成する「プロジェクションマッピング」の進化版ともいうべき見せ方で、こうしたAR演出はコロナ禍関係なしに、観光スポットの記念イベントなどでどんどんやって欲しい取り組みだと感じた。
以上の花火は、すべて無料パートで披露しているので、ぜひチェックしておいてほしい。すいちゃんが「ここにコーラとフライドポテト欲しいですよね」と話していたように、これからタイムシフトを見る方は、焼きそばとビールなどの屋台メニューを用意し、部屋を暗くして大画面テレビで楽しむと完全に没入できるはずだ。
生バンドだから生まれたグルーヴ感
もうひとつ伝えておきたいのが、生歌・生バンドの演奏のよさだろう。無料/有料合わせて2時間の配信では、花火鑑賞以上に音楽ライブに時間を割いていた。視聴者は「次は何の曲を誰が歌うんだろう?」と期待して、曲名を紹介したり、歌い出したりすると「おおおお!」という歓声を上げていた。
実は文化放送では今年3〜6月、コロナ禍でなくなった野球中継「文化放送ライオンズナイター」の代わりに特番の「音楽で日本をアゲる!」シリーズを企画し、アーティストのライブを連日展開していた。その6月17日回で、めめめさん、すいちゃん、キョウさんの3人が無料で生歌を披露する「星街すいせい★もこ田めめめ★花鋏キョウのSTUDIO LIVE」を放送していた。
このときのバックバンドを務めたサカノウエヨースケ&スパイラルスパイダースが今回も演奏を担当。バンド構成は、一部の楽器をアコースティックからエレキに持ち替えて、アコースティックギターのほか、ツインギター、ベース、ドラム、グランドピアノとさらにパワーアップしていた。
演奏自体が素晴らしいのはもちろん、2回目ということもあってか現場全体で息を合わせて生まれるグルーヴも感じられた。筆者も体で自然にリズムを刻んでいて、素直に「やっぱ生バンドっていいよなぁ!」と身を震わせていた。
有料パートのソロ演目を見ていくと、すいちゃんは「星空っぽい感じで選んでみました」という理由で「マクロス フロンティア」の「ダイヤモンドクレバス」を熱唱。番組を引っ張っるやんちゃな感じのトークから、一気にスイッチが入った美声を響かせて、「聴き入る」「泣ける」「ただただ綺麗」「コメントできない」と視聴者を感動させていた。
もう1曲は、すいちゃん作詞、サカノウエヨースケさん作曲のラジオ番組「星街すいせいのMUSIC SPACE」テーマソングをチョイス。まだ曲名がついてないところに総ツッコミを受けつつも、冒頭でオリジナル振り付けを披露すると、コメント欄が「ダンス付きだぁぁぁ!」と湧き立つ。
キョウさんは2ndシングル「Daisy」と1stEP「Myosøtis」(ミオソティス)収録の「Behavior」をしっとりと歌い上げて、「いい」「よきよき」「素敵な声」と視聴者を聴き入らせて語彙力を失わせていた。
透明感ある歌声とお洒落な曲調は東京タワーの夜景とピッタリで、すいちゃんも「都会の夜にすごい会う曲だった」と絶賛。今回のバンドアレンジもめちゃくちゃよくて、原曲を知ってる人こそタイムシフトできいてほしいパフォーマンスだった。トークパートでは「Behavior」の意味を聞かれて「これどういう意味だっけ?」とIQが下がる一面(?)も見せていたのもお茶目だった。
めめめさんは、有料パートの冒頭で、同じ.LIVE所属の先輩、電脳少女シロさんの「46」(シロ)をいきなり披露した。このまさかの組み合わせには、「まじかよ!」「かっけえ!」「おほほいおほほい!」と視聴者もコメントで大喜び。「やりおるマトン」なかっこいい歌声に「はい!はい!はい!はい!」と合いの手が入り、ライブらしい一体感が出ていた。
もう一曲は、自身のオリジナルソング2曲目となる「FuwaMoko→LIFE!」。ピコピコな8bitサウンドもきちんと再現し、こちらも「生バンド本当最高」と大いに盛り上がっていた。
さらに無料パート2曲目でキョウさんが歌った「COSMIC FLOWER」と有料パートのユニゾンでは、背景を東京タワーに切り替えて、AR花火を打ち上げていたのが豪華だった。
一部はタイミングをきちんと合わせていて、例えばキョウさんが「それでは聞いてください、COSMIC FLOWER」と紹介すると、ちょうど花火の大輪が夜空に咲いて「おおおおおおお」と視聴者のテンションをブチ上げていた。
音楽ライブでも、場を盛り上げるためにレーザービームや銀テープ発射の演出を入れるが、リアルの花火となると大規模フェスのトリで使われるレベルの貴重さだ。それがARとはいえ、大盤振る舞いでバンバン打たれているわけで、これで盛り上がらないわけがない。コロナ禍を逆手にとった逆転ホームランともいうべき伝説のライブに仕上がっていたので、ぜひ3人のファンはタイムシフトで見ておこう。
まとめると、生歌・生音・生ARと、随所に映像と音のプロのこだわりが感じられた花火大会だった。
ライブの音源もカラオケで行く選択肢もあったわけだし、ほんの少ししか映らないカメラワークのために花火に位置調整を入れるというのも費用対効果があまりよくない話だ。そうした細かい違和感をきちんとつぶしていき、できるだけ最高の状態で参加者に楽しんでほしいというライブにかけるプライドが感じられる仕事だった
もうひとつ、ARの花火は、VRChatで花火大会をやっているnoribenさんが手掛けたというのも伝えておきたい。LATEGRAはニコニコ超会議の超歌舞伎などの制作を手掛けてきた企業で、UGC文化と触れ合ってきた経緯でnoribenさんに協力依頼。バーチャル空間で上げていた作品の素晴らしさが認められて、リアル空間である東京タワーの周囲で打ち上げられるというのはかなりのサクセスストーリーだろう。
さまざまな「職人」たちが想いを込め、歩みを合わせて実現した新しいライブエンターテインメントの「東京タワー花火大会XR〜COSMIC FLOWER〜」。来年もまた見られることを願って、未見の方はチェックしておこう。
●セットリスト
・無料パート
M1.SUPER CUTIE SUPER GIRL/ミラクル☆キラッツ(3人)
M2.COSMIC FLOWER(花鋏キョウ)*
・有料パート
M3.46/電脳少女シロ(もこ田めめめ)
M4.ダイアモンドクレバス/May’n(星街すいせい)
M5.Daisy(花鋏キョウ)*
M6.インスタントヘブン feat.Eve/ナナヲアカリ(もこ田めめめ、星街すいせい)
M7.ただ君に晴れ/ヨルシカ(もこ田めめめ、花鋏キョウ)
M8.FuwaMoko→LIFE!(もこ田めめめ)*
M9.Mスペテーマソング(星街すいせい)*
M10.Behavior(花鋏キョウ)*
M11.HANABI/いきものがかり(星街すいせい、花鋏キョウ)
M12.Marmaid festa vol.1/μ’s(3人)
*はオリジナル
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・東京タワー花火大会XR〜COSMIC FLOWER〜(YouTube)
・東京タワー花火大会XR〜COSMIC FLOWER〜(niconico)
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