VketReal 2025 Summerレポート 猛暑の土日に大盛況、イベントは成功も現地やSNSでは行列や対応に不満の声も……?

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VketRealが行われたベルサール秋葉原

秋葉原にて、今回で5回目の開催となるVketRealが7月26日・27日の二日間にわたり行われた。

2023年夏、秋葉原で初開催されたVket発のリアルイベント「VketReal」は、2023年冬は原宿・渋谷、2024年夏は秋葉原・渋谷・大阪、2024年冬は池袋と、毎回異なるエリアや規模で開催され、今年度は有志主催の「VketReal in 札幌」まで誕生。そんな流れの中でも、初開催の地であるベルサール秋葉原に戻って来た。

今回の合計来場者数はまだ発表されていないが、開催期間中に関係者に聞いたところ、集まっているアンケート回答率が過去のペースを上回っているというので、過去最高の来場者数が予想される。

初開催となる2023年夏の秋葉原が4万人、続く2023年冬の原宿・渋谷、2024年夏の秋葉原・渋谷・大阪での開催はそれぞれ5万人が訪れ、前回の2024年冬の池袋ではVket初となる有料チケットの販売をしたこともあってか、来場者数1万人となっていた。

パラリアルクリエイターが出展する地下ゾーンへの行列

前回と同様に、今回もクリエイターによる個人出展「パラリアルクリエイターズ」を含む地下ゾーンは有料のチケット販売制となっていたが、入口へ向かうエレベーターに伸びる列は会場ビルを一周し、最高気温34度の中で2時間待ちという大行列。

多くの来場者が集まる注目のイベントだった一方で、入場時の混乱や、来場者の安全に対する不満の声も上がっている。

実際に1日目に参加していた中で会場の混乱や安全対策への疑問を感じた事から、2日目の開催中に関係者に対し、混乱の原因や安全対策について話を伺った。

「バーチャル⇆リアル 世界を開く“鍵”になれ!」というスローガンのもとで日本を代表するメタバース系リアルイベントへと成長するVketReal。列の混乱や炎天下の課題は残るが、それでも二日間で放たれたクリエイターと来場者の熱気は、“鍵”がさらに大きな扉をこじ開けようとしている手応えを確かに伝えていたように感じる。


外まであふれるメタバースの熱気あふれるフリーゾーン

外に開けたつくりのVketRealの会場

半分アウトサイドになっているような一階部分の作りを活かし、リアルとバーチャルをつなぐような参加型のブースや、企業ブースが並んでいた。

真夏にキンキンに冷えたオールフリーを配布

まず目に飛び込むのは、サントリーが用意した「オールフリー」。両日合わせて4000本スタンバイという気前の良さで、初日は暑さもあってか、13時過ぎに予定を超えて2300本がなくなってしまったという。

連日予定数を完売していた焼津市

焼津市のブースでは、ふるさと納税の返礼品にもなっている希少部位のツナ缶と、食べ比べセットを持ち込んだが、予定よりも早いペースで70缶と400セットが完売。普段は流通数が限られるプレミアムなツナ缶をわざわざ持ち込む本気度が、購買数にそのまま現れていた。

5フレーバーからなる緑茶のセット「V茶」

仲村製茶は5つのフレーバーからなるギフトセットとして、イベント限定の「V茶」を販売。サンプリングとして用意した3000杯は両日とも暑さが厳しいのもあり、順調に配れたという。トラステッド(紫)のぶどうやビジター(白)がバニラ等、VRChatのトラストランクの色から逆算したフレーバーや、VRChatの愛称「ぶいちゃ」から取られた「V茶」という「なぜ今まで無かったのか」とうなるネーミングも良く、用意した1000セットは完売に迫る売れ行きで、購買層の拡大を目指していた緑茶メーカーとしては満足げだ。

インテルのワールドと現地をつなぐ裸眼立体視ディスプレイ

自社製品の配布・販売ではなく、あくまで会社の取り組み認知拡大を目指していたのがインテル。オレンジ氏などのメタバース界隈で有名なクリエイターたちによって結成されたチームで制作したVket上のインテルブースと現地をリアルタイム接続し、裸眼立体視ディスプレイで3D的にVket上の様子を見るというのがメインコンテンツだった。PCメーカーではなく半導体やCPUの供給元──いわば裏方であることを逆手に取り、「クリエイターを支える黒子」としての存在感を見せつけていた。

V決闘でVR側とスイカ割りをする筆者(負けた…)
モフモフの手で購入したラムネを差し出してくれる

このほか、体験ものも負けていない。VRChatの人気ワールド「VRC BOXING」と連動したスイカ割りアトラクションは、会場側とVRChat側でパンチを打ち合う仕組みで、1対1でスイカを割る対決をする。「MOKURIの恥ずかしがり屋」はお店からモフモフの手だけが伸びて購入した商品を差し出してくるというもので、アイディアが面白いと感じた。

VRChatで体験できるVketが「バーチャル⇆リアル」を合言葉に、あえて街角で展示会イベントをする事で、その融合を感じさせるものが多くあるのが、フリーゾーンの展示だ。


VRChatユーザーのお目当てはやはり、パラクリエイター

エスカレーターを下りた先にあるのは、有料チケット販売の「パラクリエイターズ」を含む地下ゾーン。VRChat関連でクリエイティブ活動を行っているユーザーやグループによる即売会会場だ。もともとVketが、VRChatで使用するアバターを買うための即売会から始まったところから規模が大きくなっていったことを考えると、VketRealでもパラクリエイターのゾーンが盛り上がるのは当然と言える。

一見すると白い壁だが…
スイッチを押すと、鏡になる

いわゆる「壁サークル」的な存在感を放っていたのが、会場奥に並ぶ大型の展示物を持ち込んでいるサークル。特にQuickBrownによる等身大のミラースイッチは、実際にVRChatにあるように、ボタンのオンオフで鏡になったり壁になったりするというもので、VRChatで日頃触れているものが実際にあるという感覚が楽しかった。

フォトグラメトリ用のブース
VRChat側から射的をする様子

3Dスキャン同好会では人体の撮影が可能なブースを持ち込み、データは後日送付という形でその場でスキャンしていたり、居酒屋和みとVRホビーロボット集会のコラボ企画の射的では、時間帯によってはVRChat側でやっている射的が現実側に連動している様子を見る事ができるなど、大型機材が放つ存在感はよく目立っていた。

VRChatメイドカフェ「どりーむぷらねっと」

キャストイベント系サークルもにぎやかだ。サークルの売り子を実際のキャスト本人が務めるブースがあるかと思えば、逆にVRChat側からの映像を中継するサークルも見られた。

ブース前で盛り上がるサークル主と、「リアル改変」で訪れたユーザー

イベントの常連らしき来場者が挨拶をしたり、オフ会会場さながらの雰囲気で、1Fとは違った濃い空気感が漂う。フレンドやなじみの客がブースを訪れて盛り上がる瞬間があちこちに点在していた。

(この場で教えてもらったのだが、右の方がホットリミットのコスプレ衣装を着ているのは、「バメッサ」アバター用のホットリミット衣装があるから、正しい「リアル改変」なのだとか)

完売の札を掲げるサークル

嬉しい悲鳴というもので、早めに完売したり、そのまま撤収していき空席となっているブースもあった。筆者も購入しようと思っていた本が完売してしまっており、パラクリエイターゾーンの盛りあがり具合を強く感じることになった。


ベルサール秋葉原の外にも広がるVketRealの輪

2日目、夕方前の秋HUB
多くの客であふれる

今回、VketRealの会場はベルサール秋葉原のみだったが、HUB(全国の一部店舗)と、ドン・キホーテ秋葉原店でも会期に合わせてコラボ企画を行っていた。HUBでは限定ドリンクを用意し、筆者が秋葉原駅近くの通称秋HUBに向かった夕方にはあたり一面にVketを訪れていたと思しき人々であふれていた。

NEOココロとのトーク

さらにドン・キホーテ秋葉原店5階では、ロート製薬のVTuber根羽清ココロのポップアップを23日から27日まで実施。大阪・関西万博にも出展した、生成AIによってデジタルヒューマン化した「NEOココロ」とのトークができたり、くじびきキャンペーンを行っていた。


VketRealで起きた諸問題、どのような対策をしていたのか

ベルサール秋葉原をぐるりと回る大行列

多くの来場者で盛り上がるイベントとなったVketReal。終わってみれば重大な事故はなかったものの、有料チケットの事前購入者が大行列を前に入場を諦めたり、並んだとしても炎天下の中で日差しを避けられない……といった問題が、会期中からSNS上で飛び交った。実際に行った人であれば「何も気にならなかった」という事はないだろうというのが、率直な感想だ。

そこで今回の取材では関係者に対して2日目に、混雑や熱中症への対策などを伺った。今回で5回目の開催を迎えた中でなぜ、多くの来場者に不満が残る形になってしまったのだろうか。

特に不満が漏れてきたのは、クラウドファンディングで事前にチケットを手に入れた方からだろう。前売りでチケットを購入しているのに、いざ会場に来てみたら炎天下の中に大行列に並ばされるというので諦めてしまった、という話は何度か耳にした。全ての来場者から不満が出ないイベントはないとしても、ここまで後手に回ってしまった原因はあるのだろうか。開催にあたっての対策や考えをVket運営元のHIKKY代表・舟越氏に伺った。

チケットとグッズの購入用ブース(真ん中の黒いブース)

そもそも今回、クラウドファンディングでチケットを前売りしたことの大前提として、当然ながら来場者数の把握という目的があった。しかしここで運営側にとって想定外だったのが、当日券利用者の人数。舟越氏は「前回までの来場者数や前売りチケット数などから来場者数を想定していたが、予想を大幅に超えてしまった」と語る。チケットの販売数をキャパシティーに合わせて制御するなど、対策方法もあったように思えるが、前売りで購入した方がいつ来場するのかがわからない以上、現場で都度調整するのは難しい面もあったかもしれない。

そもそもベルサール秋葉原以上のキャパシティーを持つ会場を利用するという選択肢もあるが、「もちろん視野にあります。現状ではキャパが足りていないのも事実だし、すでに東京ビッグサイトでやってもおかしくない規模になってきているが、現状ではコストや運営の課題などがあり、検討中です」とのこと。

次に考えられるのは複数会場での開催や時間制チケットの導入で、それらについても伺うと、「パートナー企業さんが多くいるので、混雑中に待機でき、さらにそこで買い物できたりする場所を作っていくようなやり方を考えている途中です。複数会場を借りてのイベント運営は運用コスト面もありますが、イベントとしての一体感がなくなることに繋がるので、Vketとしては別のやり方で進めたい。時間制チケットについては、もちろん案は出ていました」と語ってくれた。

会場周辺はタイミングによってはかなり混雑していた

また、実際に列整理や熱中症対策などの会場運営全般を担当していた方にもお話を伺った。「1階は半分野外になるので、スポットクーラーを前回の2倍用意し、会場が熱くならないように配置しました」とのこと。

気になるパラクリゾーンに向かう行列に関しては「正直なところ、想定よりもかなり並んだので、後手を踏んでしまう場面があった。フロア内ではなるべくポジティブな形でスムーズな体験をしていただくようアナウンスで促し、列に並ぶお客様に対しては定期的にスタッフが巡回しお声がけしました」と語ってくれた。お話を伺ったのは2日目の昼過ぎだったが、実際に救護室を利用した参加者は数名いたものの皆自力で会場に戻り、搬送が必要になるケースはなかったという。

話を聞くと、全ての混乱は想定している来場者に対して会場のキャパシティーが足りな過ぎるという点に行きつく。その想定が正しいものであったかは議論の余地があると思うが、2日目は行列の形成や会場内の混雑は若干の改善が見られたとはいえ、今後も来場者が増える事を考えると同じ規模での開催は限界だろう。しかしながら、Vketが目指すイベントの在り方として、キャパシティーが足りないから大きい会場を借りれば解決するというものでもないというのは推察できる。

実際に出展していた企業に話を伺うと「自社の商品をこんなにたくさんの人が持ってくれるのがうれしい」と語るなど、VketRealが都市部での開催にこだわるのはまさに、メタバース上で遊ぶ一人ひとりのユーザーが集まって盛り上がる場に、テレビやインターネットに続く次なる広告の場として期待する企業が出展するという、Vketがそのまま現実に飛び出してきたような機会をつくりたいのだという狙いが見えてくる。

今回、舟越氏に話を伺って感じたのは、VketやVketRealを開催していく中で、批判の声もありながらメタバースとリアルの架け橋としてのイベント開催に対して情熱を持ち続けている事だ。「何よりも文化自体が発展している事が大事。僕一人では無理なので、みんなで一緒に頑張っていきたい」と、多くの人に参加してもらう事の意義を語っていた。

当然、SNSで出てくるような疑問は開催にあたって考えられているし、大規模イベントの経験者が運営に入って対策も講じているという。5回目となると周りの目は厳しくなるのも当然だが、想定を上回る来場者が訪れるほどの注目を集めているという事でもあるので、メタバースの住人が楽しめるイベントであり、尚且つ参加している企業のアピールの場となるイベント。その二つの軸を持ったイベント運営がとにかく難しいことは伝わった。

とはいえ、もちろん参加する一般来場者の安全が保てない状況は見過ごせないので、そこはメディアとして、よく見ていかないといけない部分だと感じている次第だ。


おわりに

アバター自撮りの写真をチェキにする「チェキウォール」2日目の終了間際

今回、5回目の開催というのもあり、どうしても厳しい内容になってしまったが、混乱が起きるほど来場者数が多いのは、VRChatやメタバースを取り巻く環境が盛りあがり続けており、その中でVketが担ってきた役割はあまりにも大きいという事でもある。

隅から隅まで書き込まれたメッセージボード
2日目「枠の外にも書いてOK」とかかれるほどの書き込み量

しかし、その中心にいるのはあくまでひとりひとりのユーザー、「メタバースの住人たち」なのである。

パラクリゾーンに貼られたVRChatコミュニティやユーザーによる張り紙コーナー

ユーザー同士のつながりや、クリエイターを中心としたコミュニティが盛り上がっているからこそ、そこに価値を見出す企業も出てきている。VRやメタバースについて伝えるメディア側の人間として、また長年コミュニティを楽しんでいるひとりのユーザーとして、そのあり方を大切にする運営であって欲しいと願う。


(TEXT by ササニシキ

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