5月10日(土)の仙台公演で開幕したバーチャルライバーグループ「にじさんじ」史上最大規模ライブツアー「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」もついに後半へと突入。
8月30日(土)に第5公演目となる神戸公演が神戸国際会館こくさいホールで開催された。出演者は、樋口楓さん、竜胆尊さん、レヴィ・エリファさん、シェリン・バーガンディさん、甲斐田晴さん、伊波ライさんの6人。約2時間全20曲のライブをレポートする。今回のレポートは、ニコニコ生放送での配信(タイムシフトは9月15日(月)まで公開)を元に制作。記事中の画像は、スクリーンショットを使用している。
3階席までの会場で、4階席に呼びかける名探偵
開演時間の約5分前、メンバー6人による影ナレが始まる。ライブに関する注意事項や禁止事項などの定番の内容だが、男性陣は力一杯読み上げたり、良い声を出したりして盛り上げて、開演前から、早くもメンバーたちのテンションの高さや雰囲気の良さが伝わってきた。
ツアー全公演の日程や出演者を紹介する恒例のオープニングの後、通常衣装姿の6人が登場して歌い始めたのは、夏をテーマにしたにじさんの全体曲「Summer and Peace!」。7月の横浜公演と同じスタートで、今後も夏のライブではこの曲を聴く機会が多そうだ、などと考えていると、Aメロで「夏はここから!」と叫びながら全員がにじさんじ共通衣装に変身。竜胆さん、レヴィさん、伊波さんは、今回が初お披露目だ。
Aメロ終わりでいきなり変身したことにも驚いたのが、それ以上に印象的だったのは、6人の歌声のバランス。歌唱力の高いメンバーが多い上、男女3人ずつというメンバー構成も良かったのか、1曲目から奇麗なハーモニーが響いていく。テンション高い夏曲「Summer and Peace!」という曲に対するイメージが少し変わるほど、奇麗な歌声だった。
「いよいよ始まりました! 『にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow! 神戸公演』―!」
にじさんじの黎明期から音楽方面で活躍し、現在はアニソンレーベルLantis所属のアニソンシンガーでもある元1期生の樋口さんの叫びから最初のMCがスタート。一人ずつ自己紹介をしながら、満員の観客とコール&レスポンスをしていく。最初の伊波さんは、「今日、新幹線で来た人?」「それ以外の人?」と質問し、会場の全員が大きな返事。
しかし、2人目のシェリンさんの時に事件は起こった。「犯人はこの中にいる!」など探偵らしい決めゼリフで盛り上げたシェリンさんが、甲斐田さんに「もう良いんですか? 声出し」と振られる形で、最後に「これはベタにいこう。4階席のみんな、イエーイ!」と叫んだ瞬間、3階席までしかない会場の観客は誰も反応せず。最大2112人収容できるホールに静寂が訪れたのだ。ホール規模のライブで、ここまで完璧に観客が誰も反応しないコールを観るのは初めて。シェリンさんの表情や動きからは、激しく動揺している様子が伝わってくる。3Dモデルとは思えないくらいで、まるでLive2Dの「にじさんじ3.0」の表情の変化を見ているようだった。
2曲目、樋口さん、竜胆さん、シェリンさん、伊波さんが「マーシャル・マキシマイザー」でも再び奇麗なハーモニーを披露した後、ソロのトップバッターを飾ったのは、オリジナル曲「雷命」を歌った甲斐田晴さん。「付いてこい、神戸!」と叫び、観客をさらに激しく煽ると、観客も呼応。会場の熱気のさらなる高まりは、配信を通しても伝わってくる。甲斐田さんの過去の配信での発言によると、「雷命」は「全体強化魔法」の曲で「今日だけは全部嫌なことも忘れて、馬鹿やろうぜ」という思いが込められている曲らしい。ソロのトップバッターとしては、まさに適材適所な選曲とパフォーマンスだった。
4曲目は、樋口さんとレヴィさんがメガホンマイクを片手に、EVO+の「【A】ddiction」をカバー。歌声の力強さや最大出力は、にじさんじの女性ライバーの中でもトップクラスであろう二人が、時に抑え目な声で妖艶に歌う姿は、少しレア。配信では、まるで悲鳴のような女性ファンの歓声が何度も聞こえてきたのも印象的だ。二人は、相談して、この公演のペンライトカラーを同じオレンジにしたらしく、客席は、奇麗なオレンジ色に染まっていた。
5曲目で、King Gnuの「Prayer X」をしっとりと歌い上げたレヴィさんと伊波さんは、MCになるとガラッと雰囲気が一変。有観客のライブへの出演が初めてだという二人は、終始、ハイテンションだ。二人とも、この日、初お披露目だったにじさんじ共通衣装を観客たちにアピール。客席からは「かっこいい!」「かわいい!」という声が聞こえてくる。
6曲目、豪奢な椅子の肘掛けに脚を乗せるように横向きに座って登場した竜胆さんは、アニメ「賭ケグルイ」のオープニング主題歌、Tiaの「Deal with the devil」をカバー。セクシーに登場した鬼の女王は、ふわふわ柔らかい尻尾と奇麗な手足を艶めかしく動かしながら、踊り歌っていく。紫ベースの照明も相まって、妖艶な空気が会場中を覆っているようだった。
曲のラスト、椅子に座った竜胆さんが投げキッスをすると、一旦、会場が暗転。明るくなると、椅子にはシェリンさんが座り、その後ろに竜胆さん。神戸公演メンバー随一のアダルトなペアは、アニメ「推しの子」第2期のオープニング主題歌「ファタール」を披露。シェリンさんの歌声は、存在感と響きの良さが抜群で、1曲前とはガラリと変わった竜胆さんの低音との相性も素晴らしい。
アニソンシンガーでろーんのソロ歌唱で熱狂!
8曲目は、シェリンさんがソロでyamaの「春を告げる」をカバー。ポジティブなメロディと孤独に満ちた歌詞のミスマッチが癖になるヒット曲を、温かく優しい美声で歌い上げていく。会場の観客は、名探偵の歌声に静かに聴き入りながら、ワインレッドのペンライトをリズム良く振っていたようだが、ニコニコ生放送のコメントでは、幻の4階席の観客が熱狂していた。
甲斐田さんと伊波さんが、アニメ「銀魂゜」のオープニング主題歌、BLUE ENCOUNTの「DAY×DAY」でロックなパフォーマンスを見せて会場を熱くした後は、にじさんじが誇る歌姫の一人レヴィさんが、初めて有観客のライブでのソロ歌唱を披露。Adoの「Tot Musica」のカバーという難易度の高い選曲で、パワフルかつ伸びやかな第一声を響かせると、驚き混じりの歓声が会場から響く。圧倒的な歌唱力で会場を制圧していくようなステージは、間違いなくライブ中盤のクライマックスだった。
レヴィさんが黒い球体と共に消えた後、ステージに登場した竜胆さんと甲斐田さんは、MCを挟んで、11曲目「混沌ブギ」を披露。曲もダンスも可愛く楽しいボカロ曲で、ライブの雰囲気は一変した。
続いては、レヴィさんとシェリンさんも加えた4人で、アニメ「〈物語〉シリーズ オフ&モンスターシーズン」主題歌、YOASOBIの「UNDEAD」を披露。ライブ後半戦の始まりは、楽しく遊び心のある曲が続いた。
13曲目は、ここまでずっと、パフォーマンスでもMCでも常に素晴らしいムードメーカーぶりを発揮してきた伊波さんのソロステージ。どこか切なさも感じさせるボカロ曲「八月のレイニー」を一言一言、丁寧に歌い上げていく姿からは、前半とはまた違う魅力を感じた。
14曲目も続けてソロのステージ。樋口さんが満を持しての登場だ。歌うのは、メジャー5枚目のシングルで、現在放送中のアニメ「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます 第2期」オープニング主題歌「CALLING†」。樋口さんらしい凜として伸びやかな歌声を響かせていく中、サビに入る瞬間、魔法のような火花が樋口さんの体に集まり、螺旋型の炎になる。そして、ステージ全体が光った後、トレードマークの長いポニーテールは、お嬢様らしい前髪パッツンのお団子ヘアに変わっていた。Live2Dのお嬢様風衣装「ホワイトドレス」の時の髪型が3Dモデルにも実装されたのだ。大歓声の中、安定感抜群のパフォーマンスでライブ終盤へと繋いでいく。
15曲目で、REOLの「オオエドランヴ」をカバーした樋口さんとシェリンさんは、そのままMCへと突入。配信での過去の絡みから、「樋口さんに怯えるシェリンさん」という関係性が一種のお約束になっている二人。歌では声の相性もピッタリだったのに、会話になると、弾みそうで弾まない不思議な空気感が漂う。どこか不憫なシェリンさんと、この空気感も楽しんでいそうな樋口楓さんの対比に、つい笑ってしまった。最後は、神戸牛を食べたいという樋口さんのパシリとなって、シェリンさんはどこかへ走っていった。
一人残った樋口さんは、ラストスパートを宣言して観客を煽った後、ステージの中央で観客に背を向ける。すると、ラッツ&スターの「め組のひと」のイントロが流れる中、樋口さんの左に竜胆さん、右にはレヴィさんが背中を向けたまま。ステージ下からせり上がって登場。順番に振り向いた3人は、まるでパーティーグッズのような左右に尖った大きなサングラスを付けていた。ラッツ&スターのボーカル鈴木雅之さんが、常にサングラス姿ということにちなんだ演出なのだろう。明らかに笑いを狙いに行ったビジュアルで、高い歌唱力を披露していく3人。見た目はシュールだが、聴かせるパフォーマンスだった。
最後のMCで「姐さん、実は裏では~」と衝撃のリーク
女性陣と入れ替わりで登場した、シェリンさん、甲斐田さん、伊波さんは、強いメッセージ性を持ったこっちのけんとの「死ぬな!」をカバー。3人が順番に支え合っていくような奇麗なハモリと、個性を全開にしたソロパートで、ファンをさらに魅了していく。
メンバーが樋口さん、レヴィさん、甲斐田さん、伊波さんに変わっての18曲目は、マキシマム ザ ホルモンの「恋のメガラバ」。Aメロ後の間奏でレヴィさんが「神戸公演、ラストの曲! みんな最後の力、振り絞っていけるかー!」と煽ると、4色のペンライトで光る客席からは、もちろんとばかりに大歓声が起きる。
4人の激しいシャウトと、心地良いハーモニーの対比も印象的で、1曲の中で4人の様々な魅力を堪能できるステージだ。途中、ステージ上で仰向けになって開脚運動を繰り返すという衝撃的なパフォーマンスも見せた樋口さんは、終盤の間奏で「みんなと過ごした夏、絶対、忘れへんから! みんなも最後まで一緒に声出して、思い出作っていってくださーい!」と、客席にもラストスパートを促す。
4人が手を振りながら退場すると、すぐに客席からのアンコールが始まる。その声に応えて、6人がステージへ再登場。「にじさんじ」7周年記念プロジェクト楽曲「Arc goes oN」を熱唱した。1曲目以来となる全員での歌唱だが、重なり合った時、この6人の歌声のバランスの良さを改めて実感する。
全員での最後のMCでは、さまざまな告知の後、恒例のARカメラによる記念撮影。最後に、一人一人、順番にライブの感想と感謝を語っていく。5人目のシェリンさんが「4階席ー!」と叫ぶと、客席からは大音量の歓声が起きて。無事にリベンジを達成。「マジで恥ずかしくて、いろいろと飛んだんだぜ」という告白でも客席を盛り上げた。最後の樋口さんは、神戸公演に向けての練習などを通して感じたメンバー一人一人の凄さや頑張りぶりを具体的なエピソードと共に紹介。その成果を見てきた直後だけに、より心に刺さる素晴らしいMCだ。
「今日、この舞台に立って改めて、このメンバーとやれて本当に良かったなって、私自身、思いました。このメンバーを支えてくれてるスタッフさん、そして、ファンの皆さん、コメントの皆さんも、本当に良い人ばっかりやなと思います。『ライバーはリスナーに似る』なんていう言葉がありますけど、本当に皆さんがいい人やから、みんなもすくすくと育ってるんじゃないかなと。お母さんながらに思ってます(笑)」
にじさんじと同じ長さの歴史を持つ元1期生らしい言葉で樋口さんが感想を締めくくると、竜胆さんが樋口さんへのレスとばかりに、樋口さんの魅力を語りだす。すると、最も後輩の伊波さんも「姐さん、実は裏では、めっちゃ謙虚なんですよ」と衝撃のリーク。他のメンバーが「伊波!」「おい、言うな言うな!」「営業妨害! ヤンキーで売ってるんだから」などと止める中、樋口さんも大笑い。6人の強い絆を改めて感じられたシーンだった。竜胆さんからの提案により、ステージ上で円陣を組んだ後の最後の曲は、もちろん、全員での「Virtual to LIVE」。繰り返しになるが、6人の中で、どんな組み合わせになった時も歌声のバランスが非常に心地良い。間奏では、樋口さんが絶叫。
「これから先、落ち込むことがあったとしても、今日のみんなの笑顔を思い出して、前を向く力に変えていきます! ありがとう!」
樋口さんの言葉に5人も続き「ありがとう」と叫ぶ。先の樋口さんのMCで、常にポジティブでムードメーカーだったことを紹介された伊波さんが「行こー」の叫びを担当するのもぴったりだ。竜胆さんとレヴィさんの煽りから会場全員で声を合わせて「ラララ」と歌った後、にじさんじの国歌も終了。最後は、練習でもリーダーシップを発揮していたという甲斐田さんが声をかけ、全員で「ありがとうございました」と叫びながら観客に一礼。神戸公演が終了した。
樋口さんもアンコールのMCで語っていたが、出演メンバーの発表当時、筆者も「不思議な組み合わせだな」と少し感じた神戸公演の6人。しかし、この6人だからこその魅力を数多く感じられる2時間強のステージだった。特に歌声のバランスの良さは必聴。もし、まだ未視聴のにじさんじファンがいれば、冒頭の無料パートだけでも視聴してみて欲しい。
(C)ANYCOLOR, Inc.
(TEXT by Daisuke Marumoto)
●関連リンク
・「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」公式サイト
・神戸公演配信ページ(ニコニコ生放送)
・にじさんじ(X)
・にじさんじ(YouTube)

























