講談社は25日、3人組VRアイドルグループ「Hop Step Sing !」(HSS)の初のオンラインVRライブ「ほぷサマ」を開催した。
今回は、PC向け独自アプリによるVR会場と、その会場を中継したniconico生放送の2種類の参加方法を用意。虹川仁衣菜さん(にじかわにいな、CV:指出毬亜さん)、椎柴識理さん(しいしばしきり、CV:鳥部万里子さん)、箕輪みかささん(みのわみかさ、CV:日岡なつみさん)の3人が銭湯内や神社に組まれた櫓のステージに登場し、約50分・全6曲を熱唱して集まった観客とコメントを賑わせていた。
ユニークだったのは、ラストで声優の3人がVR会場に姿を現し、キャラクターの3人の脇に並んで6人で歌ったこと。これには本当に驚きだった。本プロジェクトに関して2016年のデビュー初期から追ってきたPANORAでもVR会場を取材したので、写真たっぷりでレポートしていこう。
結論からいえば、ライブとしても楽しく、ニコ生では1000円というあり得ないぐらい安いチケット(しかも前半無料)で、今でもタイムシフトで見られるため、ぜひ見ておこうという話だ。
VRならではのキャラ体験を追ってきたHSS
まず初めての方に向けて、簡単にHSSの立ち位置を解説しておこう。
昨今、ネットを中心に活動するキャラクターというとVTuberが目立っている。しかし、誤解を恐れずに言うならHSSはVTuberではなく、「みならいディーバ」や「直感×アルゴリズム」のような「生アニメ」の文脈を受け継ぐコンテンツだ。声優も公開しており、以下のような世界観がある。
アイドルがより輝かしく、より身近な存在になった時代。カラオケを使ったオーディションシステムをきっかけに、カラオケボックスはアイドルデビューのための登竜門となり、各店舗は「ストアアイドル」と呼ばれるアイドル事務所的な機能を持つようになっていた。そんな虹川仁衣菜、椎柴識理、箕輪みかさの3人は、北品川のカラオケ店でアルバイトをしつつ、アイドル活動を行っている。
彼女たちがデビューした2016年8月は、まだキズナアイさんも登場してないVTuber「前夜」だ(キズナアイさんは2016年12月活動開始)。そしてOculus Rift、HTC VIVE、PlayStation VRという3種類のハイエンドVRゴーグルが発売を迎え、「VR元年」と呼ばれた年になる。
そんなVRムーブメントの幕開けに合わせて、彼女たちのデビュー曲「キセキ的Shining!」は、360度映像やVRミュージックビデオ(MV)でもリリース。以降、新曲すべてをVR MVで発売してきた。現在でも以下の5本をSteamで発売しており、HTC VIVEやValve Index、Link機能を使ったOculus Questなどで体験が可能だ。
・Hop Step Sing! Kisekiteki Shining! (HQ Edition)
・Hop Step Sing! kiss×kiss×kiss (HQ Edition)
・Hop Step Sing! Kimamani☆Summer vacation (HQ Edition)
・Hop Step Sing!「覗かないでNAKEDハート」
・Hop Step Sing!「アストラル・ピース」
体験したことがない方にとって、VRのMVやライブは何がいいのか分かりにくいところだろう。
例えば、キャラクターに近いという感覚を得られるのはVRならではの良さだ。PCやスマホの画面では、どんなにキャラクターが近づいても、自分が寄っても近いという感覚は得られないが、ゴーグルで別世界に入るVRなら体感可能。きちんと作られたコンテンツなら、キャラクターがプレイヤーに目線を合わせてくれるようになっている。これがとてもドキッとする。
ほかにも独自の空間の広さ、建物や演出などの高さを実感できたり、プレイヤーが手でアイテムを持って投げて干渉したりと、平面では得られない立体ならではの感覚を実現してくれるのが新しい。
HSSで言えば、筆者的には4作目の「覗かないでNAKEDハート」のVR MVがオススメだ。ユーザーは動く必要なく、空中に浮いた3人が近づいたり離れたりとダイナミックに空間を動き回るのを楽しく見ていられる。自分も含めた4人でタイミング合わせてボタンを叩くというインタラクションも楽しい。
ベースとなる3Dモデルの可愛さや、楽曲の良さもあり、今でもVRゴーグルの新モデルを買うたびに思い出したように体験したくなる良作だ(Quest 2でもやりました)。このVR MVの領域は、Quest向け「Kizuna AI – Touch the Beat!」のViewモードなど、VTuberがグイッと伸びてきた現在でもそう多くリリースされていない。「VRでキャラクターライブってどうよ?」を知るのにもってこいなので、ぜひ体験してほしい。
そんなVRでのキャラクター体験を研究してきたHSSの初のVRライブだからこそ期待が高まるわけだ。「cluster」や「VARK」といった既存のVRライブプラットフォームを使わず、独自アプリを配布するというのもユニークだろう。視聴できるのをあえて処理能力の高いPC VRだけに限定することで演出の幅を広げている。
ライブ会場は……えっ、銭湯!?
さて「ほぷサマ」のVRライブだが、まずアプリをインストールして、5GB(!)近いファイルをダウンロードするところから始まった。アプリを起動し、表示名をつけて、「男性」「女性」の姿を選んで待ち、19時の開演1時間前となる18時にPC向けVRゴーグル「Valve Index」をつけて会場入りすると、そこにあったのは銭湯の入口だった。
「何を言っているのかわからねー」と思うが、銭湯の前に下半身にタオルを巻いたアバターで立たされており、続々と同じ姿のアバターがログインしてくる。
「この銭湯に入ればいいのかな?」と右手のコントローラーの親指にあるアナログスティックを倒して前進すると、番台があり、男女に分かれた入口があった。
左手のアナログスティックで向きを変更しつつ、男湯ののれんをくぐって脱衣所にGO。さらに進むと、スノコ?で組まれたステージがある風呂場が現れた(ちなみに中では男女つながっていた)。壁にはニコニコ生放送のコメントが流されており、この時点でバーチャル空間がかなり作り込まれていることが伝わってきた。
さらによく見ると自分の目の前には、左から石鹸、ペンライト、ひよこと並んでいる。「多分持って投げられるのかな?」と思い人差し指のトリガーを引いたが持つことができず、何度か試行錯誤して、中指側(Indexコントローラーでは中指〜小指を離して握る)ということが判明。
持って投げると、石鹸は泡、ひよこは星という軌跡を描いて飛んでいく。投げると「20」と表示された数字が「19」に減っており、投げられる数が限られていたが、それでも自分でステージを盛り上げられるのは楽しそうだ。
clusterやVRChatで行うVRライブと同様だが、出演者に近い最前列や全体が見られる最後列など、好きな位置に移動して体験できるのもVRならではの利点でとてもいい。
そんな風に待っていると、開始直前、風呂場にちなんだ説明も入った影ナレが流れ、スノコ舞台の中央から新衣装に身を包んだ3人が上がってきて、いよいよライブが始まった。
最初は、3人の始まりの曲である「キセキ的Shining!」。いつものMVのダンスとは異なり、スノコ舞台に用意された「花道」に3人で縦に並んでフォーメーションを見せてくれたのがとてもいい。銭湯絵がド派手なLEDに変わって煌めいている演出も気持ちをアゲてくれる。興奮した観客は、石鹸やひよこをステージに盛んに投げ込んでいた。
VRで体験していいなと感じたのは、名前を呼んだり、ステージからの呼びかけに応えたりといったガヤと、拍手が音で流れることだ。過去の事例で言えば、PS VR用の「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション」でいかにライブ感を出すかという研究の結果、モブとそのコールにありえないほど凝るという試みを行っていた。
技術的な話で言えば、数十人、数百人の音声をリアルタイムで同期させるというのは非常に難しく、参加ユーザーの声はガヤに使えない。その折衷案として入れたガヤだが、ライブ気分を非常に盛り上げてくれる。個人的には、もっとざわざわ感が入った多層のガヤでもいいかなと感じた。
最初のMCでは、「世界につながるミラクルシスターズ、私たちVRアイドル『Hop Step Sing!』、略して……」「H」「S」「S」とポーズを取って観客の笑いを誘っていた。
みかささんの「『ほぷサマ』と言ってる割にはすっかり秋になっちゃったからな」という厳しいツッコミに仁衣菜さんが「それは言わない……」となだめつつ、2曲目の「覗かないでNAKEDハート」に突入。ギターがうなる間奏では1人ずつ花道でスポットライトを浴びながらポーズを取ってくれたりと、「VRで見てよかった!」という演出が随所に感じられた。
続けて、3曲目は「kiss×kiss×kiss」。アップテンポな2曲とは打って変わっての聴かせるバラードで、VRの観客もじっくりと耳を傾けていた。歌が終わってから、石鹸やひよこが激しくステージに投げられていたのが印象的だった。
続いてのMCでは、コミカライズを担当している明日部結衣さんによる新衣装を紹介しつつ、なぜ銭湯でライブなのかという理由が明かされた。
みかさ 大体、どうして銭湯でライブなんだよー。
仁衣菜 お風呂で歌うのってすっごく楽しくない? みんなもやるよね? だから大きなお風呂ならもっと楽しいのかなと思って。
識理 それにここは仁衣菜の家族から昔から通っていた銭湯なんだよね。
みかさ ええ……ってことは、ここって北品川なのか。今衝撃の事実が晒されたけど。
仁衣菜 私たちのことをもっと知ってもらうために、やっぱり最初のライブは地元でやりたいなーって。
みかさ いやいやいや、それで地元の銭湯っておかしいだろ!
識理 せっかく私たちの地元まできてもらったんだから、もっと他の場所も見てもらいたいものね。私たちの北品川で一番オススメの場所をみなさんをお連れしましょう。
そんな案内があり、3人の「お風呂がブクブク、ひらけーゴマ!」の掛け声とともに秘密の通路をオープン。その後、今まで登れなかったステージに上がれるようになり、集まった観客は次々と階段を上がって行った。あまりの大移動っぷりに、ニコ生では「Fall Guysか」というツッコミのコメントも飛んでいた。
実写の声優3人をバーチャル世界に召喚
駆け上がった先は、櫓が中央に建てられた神社だった。周囲には屋台が並んでおり、奥には提灯の巨大な壁が2つ立っている。振り返れば、足下の階段と北品川のビルも見えて、ここでもバーチャルの世界がよく作りこまれていることがわかる。アバター衣装はねじり鉢巻になり、アイテムも左手側はロケット花火、右手側は黄金の投げ銭に変わっていた。
しばらく待っていると、3人がノースリーブの浴衣で登場。みかささんの「お祭りということで衣装を着替えてきたぞー」という言葉に、仁衣菜さんが「お祭りといえば浴衣だよねー」と返し、さらにみかささんが「夏っぽい曲を歌っちゃおう」と提案して、4曲目「気ままに☆サマーバケーション」のイントロが流れ出す。
櫓上のぬいぐるみバンドが演奏しつつ、その前のステージを所狭しと駆け回る3人。間奏では両手に巨大ペンライトを出現させて、振り回しながら自分たちの名前をコールしてもらう一幕もあった。サビでは提灯の壁がLEDとなって輝き、さらにラストではステージ袖から火花が立つなど、演出面でも豪華だった。
5曲目は、仁衣菜さんのソロ曲「アストラル・ピース」。実は識理さんとみかささんがVR MVの一部に出ていたということをMCで明かしたうえで、3人版を熱唱する。
さらに「次の曲が最後になります」と触れたうえで、識理さんが「ここでみなさんにサプライズです。なんと今日はスペシャルなゲストの方がいらっしゃってるんです」と宣言。仁衣菜さんの「私たちともご縁のある声優さんが遊びに来てくれたんです」という呼び込みとともに、指出毬亜(さしでまりあ)さん、鳥部万里子(とりべまりこ)さん、日岡なつみさんが、それぞれ声を担当するキャラの脇に現れた。
まさかの本人(?)登場に、ニコ生のコメント欄も「!?」「すげぇ」「同じ声の人が2人いる」と全員が驚いていた。その流れから、「このライブだけでしか見られない、私たち6人で歌う『キセキ的Shining!』です」とラストの「キセキ的Shining!」を歌い出す。キャラ声と微妙に違う歌い方をしていたのも興味深かった。
実写とキャラを交えての6人フォーメーションはかなり斬新で、「これはすごい」「エモしかない」「何が起きてるんだ」とニコ生のコメント欄も騒然。バーチャル会場でも、ヒートアップした観客が舞台にロケット花火や投げ銭を投げ込んでいた。サビやラストでは夜空に花火が上がり、一夜限りのスペシャルコラボに華を添える。
技術的には、声優の3人は正面の映像を撮影して、VR空間でどの位置に立っても正面から見えるように回転させていた。ボリューメトリックキャプチャーではないため、ステージ横から見ると、キャラは横だが、声優は正面という状態になるのだが、照明のあたり方が馴染んでいたりと意外と気にならなかった。コロンブスの卵的なうまいやり方だなと素直に感じた。
歌い終えると声優の3人は床に消えていき、最後にキャラの3人が今日の挨拶をする(ややこしい)。
仁衣菜 歌ってるとあっという間で、すごくすっごく楽しかったです、ずっとやれたらいいなと思っていたけど、こうして実現して、みんなで準備して練習して、そういうこと全部が楽しかったです。みなさんの応援も嬉しかったです。今日はありがとうございました。
みかさ 人前で3人がライブをするのは今回が初めてだったけど楽しかったー。すっごくちやほやしてくれて最高の気分だったぞ。やっぱ目の前にお客さんがいてくれるって最高だな。VR様様だ。これからもミカミカたちの活動を応援してくれよな。そしてミカミカのことをもっとチヤホヤしてくれよな。
識理 さっきみかさも触れていたけど、今回はVRライブということで、それぞれの人たちが距離を飛び越えて北品川に集まってきてくれたじゃない。それでライブができたことが本当にスゴいことだなと思いました。私たちがVRをやり出したときから、目指していた一つの目標というか、ライブでこうして実現したなというのが本当に達成感があって……(みかささんが「識理カタイ、カタイー」とツッコミ)。まとめると、今回、初めてお客さんをお呼びできて、こんなに応援してくれた人がいたんだなと改めて実感できてすごく嬉しかったです。
ラストは「それでは本日はここまで。虹川仁衣菜、椎柴識理、箕輪みかさ。せーの、『Hop Step Sing!』でしたー!」と声を合わせ、手を振って櫓の下に消えて行った。
VRライブとしては、かなりリッチな体験ができて満足度が高かった今回の「ほぷサマ」。一方で、移動がテレポート方式ではなく、直線移動であったため、VR酔いしやすい体質で、ベストショットを撮るために会場を駆け回っていた筆者は若干グロッキーな感じになってしまった。移動時に周辺視野を狭めたり、酔いやすい人は移動速度を遅くするように選べるなど、この辺は対策があるといいと感じた。
とはいえ、50分という短時間にかなりの要素を詰め込んだ内容なので、今回初めて知った方もぜひHSSの過去曲をチェックしつつ、ぜひニコ生でも見てほしい。もし次回があるなら率直に楽しみと言えるVRライブだった。
●セットリスト
M1.キセキ的Shining!
M2.覗かないでNAKEDハート
M3.kiss×kiss×kiss
M4.気ままに☆サマーバケーション
M5.アストラル・ピース
M6.キセキ的Shining!
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・Hop Step Sing ! VRライブ ほぷサマ2020(ニコニコ生放送)
・Hop Step Sing ! VRライブ ほぷサマ2020(公式サイト)
・Hop Step Sing !(公式サイト)
・Hop Step Sing !(Twitter)